たいせつなものは







 胃がちりちりして眠れない夜だった。
 青島が、そっと腕を伸ばし、室井の眉間をさすった。
「…ん?」
「しわ」
「…よってたか?」
「ばっちり」
 青島の柔らかい笑みは、室井の凝り固まったものをそっとほぐしてくれる。
「いたいの、いたいの…とーんで、けー…」
 まるで呪文のような響きに、そっと目を閉じた。
「…いたいの、とんでった…」
「そう?よかった…」
 青島が、室井の胸に頭を乗せた。
 いつからか、そこが青島の定位置だった。
「…あのね、室井さん」
「なんだ?」
 肩を抱き込んで、青島を胸いっぱいに感じる。
「にじ、出るでしょう?」
「? ああ…」
 なにが言いたいのかわからない。…そういうものの言い方を、ときとして青島はした。
 肩を揺らして先を促すと、青島は室井の頬をそっと撫でた。
「虹が出るのは…雨が降るから、なんですよ?」
「…そうか」
「そ」
 それだけ言うと、室井の胸に頬を擦り寄せ…青島は、満足したように吐息を漏らした。
 …あとは、あなたが感じて。
 そう言っているようで…胸がじわりと、熱くなった。
 冷たい雨を耐えて、重い雨雲を突き抜けて。そこに見える、虹を信じて。
 …きっときみを、いつまでも抱きしめ続ける。
 薄いカーテンの向こうに見える、三日月に…そう、誓った夜だった。






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