今も、遠い未来も
動き出した“ホーク”は、容赦がなかった。
“ホーク”は、スーツのポケットに手を入れたまま、唇の端から血を流し、ぐったりとした男の腹を蹴り上げた。
「ちょ、ちょっと!」
場慣れしているはずの優司でさえ、止めずにはいられなかった。
「うるせえ、お前は黙ってろ」
有無を言わせぬ響きが、優司の腕を止める。
ビルの隙間でうずくまる男は、崇龍会と取引を決めた横浜の組織からの伝令だった。
「こ、んなこと…して…」
まだ威勢のいいことを言う余裕があったのか。腫れ上がった顔を醜く歪め、男は“ホーク”に毒づいた。
「横浜も、東京も…全部、敵に回すぞ…!」
「余計なことごちゃごちゃぬかしてんじゃねえ」
ごつ、と嫌な音がして、男はまた腹を押さえてうずくまった。
「さっさと吐きな。てめぇらの裏にいるのは誰だ。…ここで言っといたほうがよかったって、あとで絶対思うぜ」
胸ぐらを掴んで引き上げて、“ホーク”は低く問う。
「てめぇんとこがさばけるようなヤクじゃねえだろ?。言え、ウラはどこだ!」
「ご、ふ…っ」
「“ホーク”!」
たまらず優司は男と“ホーク”の間に割って入った。
「もうしゃべれない!ここまでやることはないだろう!」
男を背中にかばった優司をに、“ホーク”は言った。
「一気にやれって言ったのは、お前だぜ、優司」
「“ホーク”…?」
唇の端に見慣れない笑みを浮かべた“ホーク”に、一瞬目を奪われた隙に、優司は突き飛ばされた。
優司が無様に道路に這い蹲る間に、“ホーク”は容赦ない攻撃を男に加え…数分後、男は“ホーク”の求めた情報を漏らした。
その瞬間、“ホーク”は冷めた嗤いを漏らした。歯を折った男を見下ろすサングラスで隠された表情の下に、憐憫の情が浮かんでいることがないことだけは、
わかった。
「あいつはこっちで預かる」
「…ああ…」
憮然として答える優司に、“ホーク”はスーツについた埃を払いながら、怪訝そうな顔を向けた。
「なにが不満だ?…“東京”に義理立てしてるのか?」
「違うよ」
“東京”に立てる義理などない。
「あんたのやり方が、気に入らないだけだ」
「さっきも言っただろう。一気にやれって言ったのはお前だ」
鼻で笑いながらポケットに手を入れる。
「そうじゃない。あいつにも人権があるって言ってるんだ」
「人権!」
おもしろそうに、“ホーク”は笑った。
「やくざに似合うセリフじゃねえな」
そして優司に背を向けた。
「覚えとけよ。そんなもんホントにあるなら、世の中平和で俺たちゃ失業だ」
「“ホーク”!」
追いすがる優司の胸ぐらを、“ホーク”が乱暴に掴んだ。
「てめえもさっさと腹くくれ!俺たちの仕事はなんだ!?…綺麗事だけじゃ片ぁつかねぇんだよ!」
なにも言い返すことができない優司を睨み付け…“ホーク”は優司を突き飛ばした。
「今夜は俺の部屋には来るな。…行くとこあるんだろ?四課のトップに可愛がってもらうんだな」
「…“ホーク”…!」
“ホーク”は背中を向け…振り返ることなく、雑踏に消えた。
俺たちの仕事はなんだ…?
「わかんねぇよ、そんなの…」
お前は駒だ。
そういわれて、ここに来た。
駒には、駒の意志があるんじゃあ?
それには“東京”は答えずに、肩を叩かれた。生きてかえりたいだろう?
視線の先の男は、虫の息。
…もうじき、“ホーク”からの連絡を受けた男たちが引き取りにくる。その前に、姿を消さなくては。
雑踏に紛れながら、ぽつりと言った。
「あいたいよ…」
思い浮かべた男は、柔らかい笑みを浮かべていた。
