帰れない場所










 封じ込めた思いがいくつもある。
 ひなたのにおいのするリビング。
 さめかけたコーヒー。
 ときおり耳をくすぐる愛の言葉。
 五感のすべては、柔らかく、優しく暖かく…それはいつでも自分を包んでくれた。
 はやくそこに帰りたい。
 なのに…手を伸ばすとそれは、逃げ水のように遠ざかっていく。あの笑みと一緒に…。
 もうみんな遠くに…手の届かないところに行ってしまった。
 こんなことになるなんて、思ってなかった。
 悔やんでも、もう遅い。
 もう、帰れない…。
 涙が頬を伝って、枕を濡らす。
 …見る者はいないとわかっていても、そっとぬぐって身体を起こす。
 それが、毎朝の儀式だった。







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