ただ、忘れないだけ
「ねえ室井さん。俺、すみれさんに言っちゃった」
「…なにを?」
うとうとしながら、青島の言葉を聞いていた。彼の声は、心地良い。
「室井さんとつきあってるって」
室井はぱかっと目を開けて、しばらくしてから言った。
「…なんて言ってた?」
寝返りを打ち、青島を抱き込む。
「へへー。驚きました?」
「いっきに目が覚めたぞ」
憮然とする室井に、かすめるようなキスをする。
「これをネタに、なにか奢ってもらおうって、言ってました」
「このやろう」
室井が恩田すみれを心の底から恐れていることを知っていながら、なんてことを。
室井が青島の鼻をつまむと、青島は身をよじって逃げようとした。
「こら、なんでそんなことした。吐け」
「やぁだよぉ!」
くすくす笑って寝返りを打ちながら、ベッドの端に逃げていく。
「待て、こら」
「わ、危ない、わわっ!」
もつれ合って、二人ともベッドから落ちてしまった。
「イテ…もー、室井さんのばかっ」
「なんだと?ばかはお前だ、俺がどれだけたかられると思ってるんだ」
「だーって。すみれさんが室井さんのこと好きになっちゃったらやだなぁって」
「…やっぱり、お前はばかだ」
シーツでくるみこんで、青島を抱きしめる。
「あれだけいつも俺がやりこめられてるの見てて、どうしてそういうこと考えるんだ」
「だぁって…」
かわいい嫉妬が、どうしようもなく愛おしい。
「…なに食わせてやるか」
「高いモノ」
「…頭が痛いな…」
「一緒に考えましょ?」
「だれのせいだと」
「俺?」
「お前だろ」
「二人の問題でしょ?」
「ばらしたお前が悪い。お前が半額出せ」
「けち」
「うるさい、もう黙れ」
「…黙らせてよ…」
絡み合うキスの合間に。誘い合う瞳の合間に。
満たされるものは…きっとずっと、永遠にあるものだと…。
あのころは、疑いもしなかった…。
