星が見えない







 九嶋の機嫌はよかった。
 うるさく周囲をかぎ回っていた刑事が消え、その刑事を差し向けていた黒幕…おそらく四課か薬対も、しばらくおとなしくなるだろう。
 仕事がしやすくなった、よくやった、と優司の肩を叩き、優司はサングラスの下で笑顔をつくってみせた。こっちの仕事もしやすくなったよ、と胸の裡で思いながら。
 これで、新参者の優司への信頼は篤くなった。まずは第一歩。堅く踏みしめたことを感じる。
 注がれた最高級の酒を、酔わない程度に口に含むと、九嶋が意味ありげな視線を送ってきた。
「…なんです?」
 九嶋の前では絶やさないことにしている薄っぺらい笑みを向けると、九嶋はにやりと笑った。
「もう一つ、頼みたいことがある」
「あんな派手なことさせといて、まだ俺をこき使うんですか?」
 刑事一人殺すのに、ビルひとつ。
 そこまでしたのは優司だったが、そうしてでも片づけろと言ったのは、九嶋だった。
「…村井、わかるか」
「…村井さん?」
 記憶の糸をたぐれば、いくつかの顔が浮かんでくる。…おそらく。
「あの、ちょいヤバげな…?」
 こいつではないか、とあたりをつけていた男だった。
「村井に貼り付け。…あいつは、なにを考えてるかわからん」
「…貼り付くって?」
 上目で九嶋を見遣る。九嶋は答えず…なにかを含んだ笑みだけが返ってきた。
「…そゆこと?」
「できるんだろ?」
 伸ばされた手を邪険に払って、優司はさてね、と答えた。
 すでに頭の中にあるのは、村井にどうやって近づこうかと、それだけだった。嫌な名前だと、頭の片隅で思った。





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