月は欠け…






 触れることのなかった身体が、胸に飛び込んできた。そのまま突き飛ばされ、地面に背を打ち付ける。一瞬息が詰まって眼を閉じた。硝煙の臭いにはっと眼を 開けると、優司が室井を見つめていた。いつもかけていたサングラスは、衝撃で飛んでいた。
「怪我は!?」
 優司は室井の身体に手を伸ばした。必死の形相で、室井の身体に異常がないかを確かめようとする。
「大丈夫ですか!?」
 叫ぶ優司に答えず、室井は腕を伸ばした。先ほどまで、自分を突き動かしていた狂気はどこかに消え去って…無駄だと知りつつ願い続けた夢が現実になったこ とを確かめようとしていた。
 スキンシップが好きだった。柔らかな髪をかき混ぜれば、頬を擦り寄せてきた。いつでも抱きしめてきたあの暖かな感触は…
「あお、しま…」
 その名を口にした瞬間、確信した。
「青島、だな?」
 いつも思っていた。似ている。背格好、雰囲気、輪郭…でも、この瞳は。胸に抱きしめたこの身体の感触は…
「込み入った話は、後にしませんか…」
 押し殺した声はたしかに、いつも聞く、斜に構えた“優司”の声ではなかった。夢の中でなら、今でも聞いている、青島の声…。
「今、アオシマ、って言ったか…?」
 怒気をはらんだ声が、降ってきた。
 身体をねじって見上げると、銃を構えた九嶋が三人の前に立ちはだかっていた。
「アオシマ。…優司、てめえがやった刑事の名前じゃないのか?」
 優司が顔を顰めた。
 九嶋の拳銃が、ゆっくりと優司の頭に向けられる。
「俺も焼きが回ったな。てめえみたいな雑魚にしてやられるとは」
 優司は九島から視線をはずさずに、ゆっくりと身体を起こした。
「あんたを騙すのはなかなかやっかいでしたよ」
 立ち上がりながら、熱い感触がしたのは肩だったのかと今更ながら気がついた。左腕の感覚が、なくなりかけている。
「青島…!」
 ぽとりと落ちた血痕を見て、室井が息を呑む。
「村井。てめえもだ。よくもはめてくれたな」
 今度は村井に銃口を向ける。
「差し向けたのは四課か。薬対か。…どっちでもかまわねえ、お前らは全員殺す」
 指がトリガーにかけられた。
 村井がくっ、と喉の奥で嗤った。
「やってみろよ。一発撃てばお前は終わりだ。すぐに警察が駆けつける。日本のおまわりさんは優秀なんだぜ、試してみるか?」
 挑発するような声音に、優司が叫んだ。
「“ホーク”!」
「この稼業始めたときからいつ死んだっていいって思ってきた。銀星会さえつぶせばあとは未練なんかないね。ほら撃ちな」
 村井が両手を広げる。
「ちゃんと心臓ねらえよ?」
 からかうような口調に、九嶋が顔を歪め…トリガーを引いた。
「“ホーク”!」
 銃声に、優司の叫び声が重なった。








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