シーズン企画
サイト10周年記念作品
恋
歌 4

7.Side-細川
細川は刑事部長の部屋を出ると直ぐ階段に向かい、辺りに人がいないことを確認してケータイを取り出した。
すぐに聞き慣れた声が飛び込んできた。
『仕事が早いな、細川くん』
『ええ、例の件です。東大派閥に属し、新城さんの傘下に籍を置き、公安から情報を得られ、あの捜査に参加していた人物。ある程度絞り込めました』
『該当者が出たんだな?』
『今室井さんのパソコンにもデータを送りました。出先のようですし、名前だけでも、ケータイの方に取り急ぎお送りしましょうか』
『頼む。それで、君の目星は』
『問題はそこでした。派閥絡みなら青島さんに直接関係ない・・でも実際被害者は青島さんであることを考えると、やはり接点は室井さん、ということになりま
す』
『あの時の捜査はどう見ても減点案件だった。私が本庁側に恨みを買う理由が思い当たらない』
『そうなんです。目論見が外れて作戦が成功しても、どちらに転んでも本庁に損はなかった』
『元々本庁は私の厄介払いを狙っていたわけだからな』
『あの事件で表向き英雄となった人間にそう簡単に手は出せなくなった筈です』
『捜査員ではないということか』
『いえ。それも変な話です。襲撃のタイミングを考えるとあの事件が発端とみていいでしょう。そうなると、もう一つ思い当たるのが、新城さんです』
『新城と青島がどう繋がる?』
『あの捜査、見様によっては、室井さんが新城さんを管理官から追いやった風にも見えませんか?』
成程確かに放火未遂事件までは確かに主導権は確実に新城にあった。
副総監誘拐事件で捜査の行き詰まりを懸念した上層部が、新城のキャリアへの傷を怖れ、室井に代役を打診。
だがそれは、一部の人間しか知らないことだ。
よく知らない人間が見たら、結果的に手柄と点数を室井が横取りしたように見えた可能性は高い。或いは新城が貰う筈だった旨い汁のおこぼれに預かっただけの
男――
副総監救出という稀代を目前で奪われた不運。
その原因を作った最大のキーパーソンが青島だと考えている可能性を、細川は指摘している。
『中々面白い推理だ』
『その点を考慮して絞ると、室井さんへの反感ではなく、逆に、新城さんへの忠誠心や派閥への依存度が高い人間ということになります』
『動機も見えてきたな。このことを新城は』
『連絡はこれからですが、メールは既に送ってあります。目には触れたかと』
そこまで細川が告げた時、電話口の向こう側が少しだけ勢いを失った。
淡々と応じていた室井の事務的な口調が、躊躇う。
『あと、この件は青島の耳には入れないでくれ』
『どうしてです?』
『まだ確証がない段階で本庁内のトラブルを洩らしたくない』
『それは、そうですね。ただ調査過程で、湾岸署への接点も考慮したので、どこかで聞き漏れている可能性は高いです。青島さんって一課に知り合いとかいませ
んよね?』
『いない――と思うが、微妙だな。あいつは陽気で人懐こいから誰とでも名刺交換をしてしまう』
『はは・・そのお名刺って、私は貰っていないんですよね』
『直接の交流がまだだからじゃないか?』
『ああ、まあ、そうですね』
今回の件でお目通りできますかね?と、細川が与太話に乗ると、電話口の男にしては珍しく口が過ぎたというような苦笑が聞き取れた。
この男でもこんな人間味があったのかと、細川に思わせるだけの柔らかい苦笑に、細川は狼狽する。
厳格な粛正を資するキャリアにあるまじき姿だが、巧みに使い分ける硬軟に、清濁あわせ呑む片鱗を見た。
『つまり、そのくらいの距離感・接点が目安だ』
『了解しました。参考にします』
『恐らく、新城は渡されていない』
『ですよね』
電話を切った後、細川は切れた画面を見ながら、室井はこういう男だっただろうかと考えた。
違う。
細川の視点でも、パッとせず、無派閥に喘ぎ、点数稼ぎに躍起になっていた中堅の鈍才キャリアだった。
鋼鉄の仮面が外れたり、ましてや人の心までざわつかせることなどありえなかった。
変わったのは室井だ。
それはいつからだろうと考えた。
***
細川との電話を切った室井は少し画面を眺めた後、もうひとつ、コールした。
『警視庁の室井です。青島を』
『あらお久しぶりね、そちらは北海道かしら?』
『・・東京だ』
『帰ってたの』
『帰っちゃ駄目なのか』
『そろそろ蟹でも贈っていただこうかと思ってたのに。メロンも捨てがたいかな』
『タラバガニの旬は概ね冬だ』
『じゃあやっぱりメロンか~』
『そのうちそちらにも顔を出す。いいから青島を』
『楽しみにしてるわ。手土産は出世でもいいわよ』
『・・・』
『ご所望の青島くんなら朝出てったきり、戻ってこないの。課長もカンカン』
『聞き込みかジドリか』
『そういった厄介事、今担当してなかったと思うんだけどね・・また何か抱えてんのかな?』
馴染んだ軽口に耳を貸しながら、室井は厳しい顔で正面を見据えた。
室井が対面したのが昨日。
細川から連絡を貰ったのが今日。
タイミングが良すぎやしないか?
『青島のケータイを教えてくれ』
『まだ交換してなかったの?』
『私のは教えてある』
『ああ、つまり片思い』
『いいから番号を。こちらで位置情報を調べさせる。もしかしたら本当に“厄介事”になるぞ』
そこまで言ったら電話口の向こうのおしゃべりはピタリと停止した。
それなりに署の中でも逼迫していた事態なのだろう。青島はそんな素振りは見せなかったが。
やがて推し量るような声が聞こえた。
『あの怪我のことね?』
室井の沈黙は肯定だ。
息を呑む音だけが耳に届いた。
悪戯に不安にさせる必要はなく、今動ける者の出動準備だけを要請し、折り返し電話する旨を早口に伝えるだけに留めた。
***
一方的に言うだけ言って切った通話で聞き出した、その番号が応答することはなかった。
そのまま室井の焦る指は更に次のコール先を表示をする。
『新城!先を越された!』
『ハヤシにか!』
『違う!青島にだ!』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
切迫した事態にそぐわない、与えられた長い沈黙に、室井もまた言いたいことは同じである。
『・・仕方ないだろう。跳ねっ返りなんだから。想定しておくべきだった』
『所轄に出し抜かれるなんて、頭が痛い』
『とにかく青島の行動力と勘の良さを軽く見ていたこちらの落ち度だ』
『ハヤシが接触してきたということですか?』
『或いは自分から仕掛けたか、だ。マークされているとは言っていたし、囮捜査くらいやってのける男だ』
『違法ですが!?』
『実は昨日、原因がこちらにあるかもしれないことを伝えてしまった』
『なにをやってるんですか貴方がたは・・!』
『牽制のつもりだったんだ』
『焚き付けたの間違いでしょう』
『反省は後でする。ここで言い争っている暇はない、青島のケータイ情報を送る。現在地を特定してほしい』
『職権乱用も甚だしいですね』
『身内の不祥事だ』
不機嫌な空白の後から、そう簡単に組織を動かせるなんて思わないでくださいよとの苦言が聞こえてくる。
だが、新城の声もまた腹を括ったようだった。
『階級を上がる度、護ることが難しくなるな。・・お互いに』
『あの椅子に座ったら、友人1人すら、この手で助けることができない』
『・・ああ』
それも、覚悟の上だ。お互いに。
だから、助けられるチャンスがあるのならば、動ける今のうちに。
『――いいでしょう、直ぐに手配します』
通話を切った後、そのままケータイを額に押し当て、室井もまた祈るように目を閉じたのは一瞬だった。
直ぐに走り出し、本庁へと向かう。
これが杞憂であってほしい。だが、青島の性格を考えれば、悪い予感しかしない。
だとしたら、最早一刻の猶予もない。
おまえを連れて行くなど、誰であっても許すものか。
青島、俺を置いていったら許さない。
何があっても連れ戻す。
鞄を握る室井の手は小刻みに震えていた。
あいつを失うと思うだけで、自分はこんなにも脆い。
失いかけた血の海と黄色い室内。あの惨劇は未だそこだ。全ては自分のせいなのに。
8.Side-新城
ノックと同時に扉を開けるなり、室井は新城と細川の間に立つ若手刑事に詰め寄った。
「ハヤシ!お前!!青島をどうした!」
「ししし知りませんッッ!」
「嘘を吐くな!」
「だから本当に知らないんです!担当の情報屋にちょっと拡散してくれって頼んだだけで・・!その後のことは知らない!本当になにも!!」
「そこまでして知らないで済むか!」
「ほほ、ほ、本当にここまでするとは思っていなかったんだ!」
いきなり胸倉を掴み上げることはしなかったが、咬み付かんばかりの室井の剣幕に、ハヤシは腰を抜かすように膝を震わせ、顔を青ざめさせた。
この特別執務室に新城直々に呼び出されただけでも、ハヤシにとっては地獄なのに、上級キャリアに囲まれ睨まれ怒鳴られ
先程から追及の手は止む気配がない。
何が起こっているのかも理解できていないくらいの所に、もう一人キャリアが加わった。
思っていた以上の室井の荒れ様に、最早口を動かすことも敵わず、ハヤシは降参のポーズをして、目を硬く閉じた。
新城が、一旦室井から会話を引き取り、再びハヤシに問う。
「その情報を握っている者を正直に答えろ」
「も、もう分からないんです。俺らの中じゃ新城さんって派閥の中でもずば抜けてて憧れで・・!去年の騒動で腹立ててる奴は俺以外にもいっぱいいたから」
「そのキャリアは情報戦に生きているということを自覚した上での行動なんだろうな」
「い、いやその・・!最初は酒の席のちょっとした愚痴だったんですよ・・!」
「そんな言い訳が通用するか!」
情報屋と警察は昵懇で、暗黙の了解となっている。
そこに手持ちカードを流すことがどういうことを意味するか、ハヤシに分からぬ筈はなかった。
「貴様、私も同時に潰せると画策したんじゃないだろうな?!」
新城にも睨まれ、ハヤシがヒイイと竦み上がる。
そんなつもりは毛頭ない。
新城に気に入られようとした、いっそ覚えてもらうことを期待するくらいの、軽い気持ちだったハヤシにとって、これは最悪の状況だった。
知らない間に事が随分と大きくなっている。
「あの馬鹿を巻き込めばこうなることくらい、想像しておけ、この虚け者がッ」
新城の“あの馬鹿”呼ばわりは、これまでの新城の態度からは乖離している愛着を含むもので
その変化に室井の視線が一度だけ新城を捉える。
青島に関わった者は、大概の物事が大袈裟になっていくことを学んでいく。
新城もまた直接対立することでそれを実感してきたが、それだけではないことを室井に悟らせるには充分だった。・・ようだ。
「も、も、申し訳ありませんッッ」
「申し訳ないで済むかッ」
ハヤシが泣きに入るが、同情する者はここにはいない。
そこにノックが響き、益本が足早に入室してきた。
「新城さん!言われた番号、問い合わせ結果出ました!やはり現在地は確認できないようです」
「電源を落とされたか」
「つまり拉致られたってことですかね?」
「だとすると、探しようがなくなる」
新城と益本の会話に、室井が無言で片腕を伸ばし、今度こそハヤシの胸倉を掴んだ。
ギリギリギリと、シャツの首元が千切れる音が室井の力強さを証明していく。
「正直に話せ。本当に居場所に心当たりはないのか」
ドスの利いた、怒りを極限で辛うじて溜め込む低い声に、ブルブルとハヤシが首を横に振る。
「ならば、居場所を知っていそうな人物は他に誰がいる」
「あ、あの飲み会にいたのは、他に数十名いて、絞り切れないですよ・・!」
「君の心当たりを聞いている!」
「わ、私の同郷の後輩たちの耳に入っていたら、もしかしたら・・!」
「後輩?」
「アイツらはいつも新城さんにベッタリだから」
「ほんっと、くだらん馴れ合い文化だな、恐れ入る」
室井にしては乱暴な言葉を吐き、ハヤシからその手を投げるように振り解いた。
足元を縺れさせ、ハヤシが咽せ込みながら、締め上がったネクタイに手をかけ、息を荒げる。
その横で、益本がハヤシを見下ろした。
益本にしてみれば、一緒に一課で働くハヤシの交友関係には見分が深い。
「同郷って、いつものお前の取り巻き連中だろ?あいつら。グループ行動じゃねぇの?単独でそんなことする?」
「あ、ああ、そうだ。だから俺を差し置いて動くとは思えないんだけど、でも」
「はぁん、カンタンに仲間売っちゃうわけね?」
「そ、そうはいうけど、あいつらだって出世が絡めば!」
「埒が明かねぇなぁ」
面倒持ち込みやがってと、益本まで機嫌の悪さを隠しもしないでいる態度に、新城も細川も同感だ。
上級官僚に媚び諂ってくる後輩は後を絶たず、新城とて実の所、そこを分かっていないわけではない。
新入りだった頃の新城も周りも皆似たような行動をとっていたし、あの秋の事件では上層部に汚点が付かぬよう護って貰った立場だ。
そもそも官僚派閥はそうやって強固なシステムと規律に護られてきた。
新城が室井を見る。
「情報筋が関わっているとなると、キャリアサイドに逆リークされた可能性も出てきましたね。本庁内に不穏な動きがあれば勢力図の逆転を目論める」
「そうなると容疑者の見当がつかなくなるぞ」
「・・容疑者って・・」
「充分容疑者だ」
フンと鼻を鳴らす室井の目はもう据わっている。
青島が関わるとだいぶネジが飛ぶ室井に、新城は呆れたままジト目を流し、腕を組んだ。
益本がその新城の耳に囁けば、新城も頷き返す。
「局長の耳に入る前に止めないと」
「我々の傘下にそこまでの虚けがいるとは思いたくないがな」
結局、情報屋が手を出したのか、本庁キャリアが手を下したのか、判然としなかった。
このままでは探しようがなく、電話も途絶えた状況で青島が連絡を寄越すはずもなく、動けない。
青島が接触した可能性を疑っているのは、今ここにいる面子のみ。
この5人で、上層部の耳に入る前に決着を付けるべきだ。
「益本、お前は信用できる人間を集められるか」
「この状況じゃ無理ですよ」
「だろうな・・」
今回の根底には、秋の事件への誤解と偏見がある。
新城を慕うあまり、室井を陥れたくなった。
ほんの少し、痛めつけてやりたくなった。
そんなことはよくあることで、今更騒ぐことではなかった。
刑事になんてなりたがる奴は官僚にしろノンキャリにしろ、血の気の多い連中ばかりだ。
だからこそ、その程度の小競り合いや嫌がらせを治めきれぬ官僚は必要がない。
ただ、そのターゲットに所轄を巻き込んだことが、新城にとって看過できない。
勢力争いなど、点数で示せばいい。
そしてもう一つ。
室井の存在だ。
あの秋の日、幾つもの痛みに泣く青島を抱き締めた感触が、新城の手の平でざわりと音を立てる。
あの涙のひとつの原因である、この先輩。
つまらぬ男だと思っていたが、しぶといじゃないか。
青島ただ一人のためにここまで食らいつき腐心する姿を、新城は今まで見たことがない。
ワーカホリックで、得にならないものは早々に切り捨てる冷血漢だった男が、随分と泥臭い試合をするようになった。
室井をここまで耽溺させたのは、あのやんちゃな年下の男なのだ。
なんだろう?どこか単調だった新城の人生航路が、変わっていく予感がする。
僅かな震動が新城の思考を閉ざした。
室井がケータイを取り出し、画面を見て眉間を寄せる。
「・・誰だ?」
ぼんやりと呟くまま、室井が応答した。
『室井です』
『コンニチワ』
寂れた空き地、フェンスの向こう、澱んだ大気の向こう側の歪んだ闇が室井の脳裏に亀裂を射走らせる。
室井が走らせた一瞥に、瞬時新城の顔も険しくなった。
室内が緊迫する中、室井がスピーカーホンにして手元を見せる。
『先日お会いしましたね』
『・・まず名乗ってもらえますか』
『今、貴方がたが束になっても届かない、そこで一番欲しい情報を持っている者、とでも言っておきましょうか』
この部屋が盗聴されていないか室井が視線を寄越したので、新城も小さく首を横に振った。
『ご用件を』
『一応エリートと呼ばれる貴方だ。察しは付いているのでしょう?』
『この番号は誰に』
『本当にそんなことが聞きたいのですか?貴方の探し物を見つけたのに』
『何故我々が欲しいものを知っている』
『・・・』
組織内の情勢が筒抜けである空恐ろしさは、既にこの部屋の空気を一変させていた。
今回の件は外部の者に漏れている可能性をハヤシが当初から指摘している。
だからこそ、誘導に乗るべきではないし、恫喝するつもりなら、正しい情報かどうかを見極める能力の差が、勝敗を分けるだろう。
室井が黙れば、向こうも黙る。
こちらの出方を探っている様子から油断のならない男だと新城は判断した。
今の時点では腹の探り合いは向こうに分がある。
『私はこう見えて気が短い』
『そうだろうか?こうして電話をかけてくるぐらいだ、言いたくて仕方ないのだろう?』
『土産もないのに?』
『何がご所望だ』
『その探し物、というのはどうです?』
室井の顔が般若のように強張り付いたのを新城は見逃さない。
どうやら室井の知り合いらしいが、付き合いはまだ浅い。数回会話した程度か。
青島を介して何かあったか。
『何故その情報を私に』
『貴方は質問の多い人だ』
『・・・』
『そして、聞いていたとおりつまらない人だ』
『この番号は誰に聞いた』
『和久さんですよ』
『・・本当だろうな?』
『本気にするかどうかは貴方次第ですが、本人に聞いてみたらいい。和久さんには並々ならぬ恩義がありまして、私は彼を貶めるようなことは、しない』
『・・・』
その常套句に、新城は心底苛立ちを覚えたが、目の前の室井は薄っすらと口端を持ち上げた。
なんだ?
新城が戸惑いすら覚えるそれは、微笑にも取れる。
『伝言も言付かっていますが聞きますか?』
『勿体ぶらないでいい』
『今度こそ間に合って見せろと。正直、私も同じ言葉で貴方を罵りたいくらいだ』
『情報はどうやって手に入れた?』
『私を誰だと思っているんです?聞いたんでしょう?貴方の想い人から』
『・・・』
電話口の指摘は、誰もが黙りこくる室内では、皆の耳に届けられた。
その意味深な言葉に新城も、また細川も益本もハヤシも室井の顔を窺うが、室井は大きな反応を見せなかった。
『土産は他のものにすることが条件だ』
その場にいたものが、室井のその言葉に凍り付く。
この取引に、室井は乗るつもりだ。
しかし、この情報がミスリードであったなら?
こうして派閥内を疑心暗鬼にさせ、それに乗じて新城を、或いは室井を葬り去ろうとしたのなら?
つまり、警察官が容疑者にいる以上、迂闊な手は出せない。
誰を信用して良いのか、誰が洩らしたのか。
その中で自分で見極める目を養わなければならず、そしてこの男は青島を見つけた。
そうか、だからもう室井は迷わないのだ。
あんなノンキャリに何があるんだ?
だがあの秋に目の当たりにした共鳴が、新城のその疑問を帳消しにしてしまう。
『やはりエリートというのは聞き出す分際で随分と上から物をいう人種だ。関わるのは御免だ』
『本当にそれだけか』
室井の切り返しに、電話口の向こうは微かに笑ったようだった。
『先日の青島さんを見て良からぬ殺意が湧いたのは、何も貴方だけではない』
『君の耳に入らないものはないということか』
『貴方は法の中で動いているのかもしれないが、地下にもそれなりのルールというものがある。それを乱した者は、ここにはいられない』
人知れず葬ってしまいそうな言葉の圧に、室井の眉間が険しく寄っていた。
だが、確証を得たような漆黒は力が漲っている。
今は室井に賭けるしかない。
ここからは情報戦ではなく、時間との勝負だ。
『場所はどこだ』

最近私の中で益本さんがブームなので登場させました。記憶喪失話のズッ友ポジションが自分でツボッています。