どんな未来みつめたら、あなたの瞳に届くの?
東京スヰート
「管理官、資料です」
「こっちのファイルに」
「益本が戻りました」
「すぐに報告に来るよう伝えてください」
「所轄が、指示を待っていますが」
「…待機するよう、伝えてください」
視線を感じる。
顔を上げる。
…きみが、見つめている。
「あー…なんか、待機みたい、ですねぇ…」
「やっぱねー」
「わかってたんなら、来ることないじゃないですか…」
「いや、万が一ってこともあるかなーと」
「ありませんよ、そんなの。さ、戻りましょう先輩。報告書、溜まってるんですから」
「…室井さんならなあ、って思ったんだけどなあ…」
「え?なんか、言いました?」
「べーつにっ」
視線を感じる。
顔を上げる。
…あなたが、見つめている。
絡まる視線も、ほんの少しだけ浮かぶ笑みも。
二人を繋ぐものは、いつも僅かなもので。
…でも、その不確かなものが、世界を遠ざけてゆく。
まるで、ここにたった二人しかいないような、静かな世界に、連れていく。
でも。
これは、だれにも知られちゃいけない。
絡む視線の、その先にいる相手にも。
自分にさえも。
…だれにも。
意識の奥の奥に閉じこめて、眠りから覚めるその一瞬にだけ、解き放つ。
目覚めたとき思い出すのは、いつもたった一人だけ。
…そんな、幸せでいい。
そんな、恋でいい。
そう思っていたのは、階段の下で別れたころだった。
きらびやかなネオンに縁取られた緑のコートが、曖昧に溶けていく。
腕を伸ばしたのは、きっと本能だった。
このまま黙っていたら、きっと失う。なにか、たいせつなものを。
だから。
腕をつかんで、引き寄せて。
突然の事に見開く瞳を見つめたまま、口づけた。
初めて触れた唇は、乾いていた。
歯を割って忍ばせた舌は、拒絶されることなく吸い込まれ、微かな煙草の薫りを伝えた。
瞳が閉じて、無骨な手が私の髪に触れ、引き寄せた。
舌が絡み合い、貪るように、奪い合うように。
いつしか、強く強く抱きしめ合って、ひとつになりたいと願う心が、独りよがりなんかじゃないと確信を抱いた。
…甘やかな余韻を残して、唇を離し…青島が、はっとしたように身体を離した。
その瞳に浮かんだ表情が、なんだったのかも確かめる間も与えずに、青島は背を向けて走り去った。
どうして、とつぶやく声が、冬の乾いた風にかき消されていった。
