しあわせになりたい 5








「で、結局結婚はどうなったんだ?」
「・・・帰ってきてからです」
 グラスを傾けながら、意地悪く問う室井と視線を合わせないようにしながら、新城はむすっとして答えた。
「へえ、夏美ちゃん、待っててあげるんだ」
 恋人と同様に、今夜は徹底的に新城をからかうことに決めている青島は、幸せ一杯、といった体で新城の隣に座る夏美に尋ねる。
「はい。賢ちゃんが帰ってくるの、楽しみにしてるんです」
「賢ちゃん・・・」
「賢ちゃん・・・」
「・・・・賢ちゃんって言うな」
 室井と青島から、針だらけの視線を浴びた新城は、さらに不機嫌そうに夏美をたしなめる。
 しかし、うっすらと顔が赤らんでいるから、ちっとも説得力がない。夏美は嬉しそうに、ごめんなさい、と舌を出し、室井と青島はやってられない、とばかり に互いのグラスにワインをつぎ足す。
「・・・これで新城さんが、夏美ちゃんのこと、なっちゃんとか呼んでたら俺、何するかわかりませんよ」
「安心しろ、止めないから」
「ありがとうございます」
 かちんとグラスを合わせる二人に、夏美はうらやましそうに言う。
「仲よくっていいなあ・・・」
「夏美・・・」
 がっくりと肩を落とす新城を見て、室井と青島は吹き出してしまいそうになったのだった。
「・・・明日でしたよね、出発。夏美ちゃん、見送り行くんでしょ?俺たち行けないからさ、別れるときの新城さんの顔、教えてよね。笑い話にするから」
「あ、私行かないんです。今日ここでお別れ」
 ぱくり、と料理を口に入れて、夏美はさらりと言う。
「え!?見送り行かないの!?」
「だって、明日お仕事ですもん」
「・・・当分、会えなくなるんだぞ。ちょっとやそっとの休暇じゃ帰ってこれないんだから、行った方がいいんじゃないのか」
 室井まで、心配そうに言う。
 しかし夏美は、すっきりとした笑顔で答えた。
「私、決めたんです。お仕事ちゃんとしようって。まず、自分がちゃんとしないと。賢ちゃ・・・じゃない、新城さんに似合う女性になってないと、お嫁さんに なんてなれませんから」
「・・・だってさ、新城さん。いいの?」
 青島が新城を伺うと、新城は苦笑を漏らしている。
「いいんだ、夏美がそう言うなら。それにどうせすぐに会える。たった2年だ」
「・・・また当てられちゃったね、室井さん」
「そのようだな」
 そしてまた二人、顔を見合わせて、かちんとグラスを合わせたのだった。



 月日は流れる。
 新城がNYから帰ってくる日が近づいている。
 向こうでも「無駄なことはしない」信念を貫き通して、新城は2年の予定のNY研修をを1年半で切り上げた。
 夏美は相変わらず湾岸署で交通課の婦警をしている。
 最近やっと新人が入って、夏美もいっぱしの先輩婦警である。
 新城とは、あれきり会ってはいなかった。
 正月にも、夏休みにもまったく日本に帰ってこない恋人と、何度か電話越しにケンカもしたが、少しでも早く日本に帰るためだと泣く泣く納得して、明日、新 城が帰ってくる日を迎える。
 毎日のように、手紙を書いた。
 週に一度の電話は、かけるのは順番に、と暗黙の約束ができていた。
 でももう、手紙も電話も、待つ必要はない。
 明日には彼に会えるのだから。
 パトロールから帰って、湾岸署の入り口をくぐると、ちょうど青島がばたばたとかけだしてくるのに出くわした。
「青島さん、事件ですか?」
「あ、夏美ちゃん。そーなんだよ、おかげで今日のデートはパア。因果な商売だよねー」
 そう苦笑しながらも、瞳は生き生きと輝いている。
 室井さんも、苦労するよね、などと思いながら青島と別れ、交通課に向かって歩き出した、その時。
「夏美ちゃん!」
 青島があわてたように自分の名を呼ぶのに、振り返ると。
「ただいま」
 夢に何度も見た人が、大きなトランクを片手に立っていた。
「うそ・・・・」
 後ろで青島がにやにやと笑っている。
「空港から直接みたいだよー」
 そう言ってから、和久にどやされたのか、あわてて駆けだしていく。
 そんな光景は、夏美に眼には写っていなかった。
「帰ってくるの、明日だって・・・」
「太平洋ぐらい、すぐに越えてみせる」
 不敵に笑う笑顔が、懐かしい。
「お帰りなさい・・・!」
 周囲の警官たちが目を丸くするのも気にせずに、夏美は新城に飛びついた。






 と、いうわけで、プロ ポーズ編。
・・・とかいいつつ、肝心のプロポーズをしていない、照れ屋な賢ちゃんです。
これ、「改めてプルポーズ編」につづく。
もとネタは、槇村さとるの「半熟革命」より、タロさんのプロポーズ。


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