雨夜の月 -a
la carte
―scene1―
「で?お前らそのまま出来ちゃったのか?」
一倉が揚げたての海老の天ぷらに塩を振りながら視線を投げる。
「三文記事みたいな言い方をするな」
「なら、まだか」
「痛くもない腹は探られたくない」
「どういう言い方をしようと事実は同じだろ。なら、俺にもまだチャンスはあるって解釈で良いんだな」
「・・・・・」
品格漂う割烹で、ひそひそ話を続ける二人の視線が険しく重なった。
都内の割烹料理屋で、三人が三様の表情でテーブルを囲んでいた。
黒塗りを基調とした、厳かな品格を漂わせる和装店内は、和紙で造られたペンダントライトが柔らかい赤香の照明を浮かびあがらせている。
人々の喧騒よりも、静かなピアノ・クラシックが耳を愉しませた。
入り口も奥まった日本座敷を思わせる格調高いセミクロ-ズドタイプで、石畳を越えれば小ぶりながら日本庭園も併設されている。
その庭園は、店内からでも傍観出来た。
事件収束から数日。
一倉が予約し、室井と青島をこの二階の完全個室に招待した。
一倉御用達のあの馴染みの店でも良かったのだが、そこは室井に却下された。
「お前が仲を取り持てと言うから青島を連れてきてやったんだぞ。そういう下世話な話をするなら帰らせる」
「だからここは俺の奢りでって言ってるだろ」
「・・・この程度でチャラになると思うな」
「言ってくれるね。お前にそう言う権利あるのか?」
「・・・・」
「相変わらず詰めが甘いな。なら、俺が・・・・」
「ある!権利も資格ももうある!だから金輪際手を出すなっ」
「ほ~お、言う様になったなぁ」
一倉が酒を舐めながら、面白そうに表情を崩す室井を眺める。
結果的に口を滑らしたようにも聞こえる自分の発言に、室井も眉間の皺を深め、酒を手に取った。
刑事たるもの、少々のことでは易々と本音をチラつかせないのが、常套だ。
その意味では徹底した実学主義の室井など、典型的な堅物だったのに、この有り様である。
呆れかえる一方で、だが、必要な所で戦えない官僚など、素質の無い雑魚だ。
その意味でもまた、室井の寝た子を起こす起爆剤は、青島なのだと改めて嚥下する。
それまで黙してやり取りを聞いているだけの青島に視線を投げる。
日本酒かビールかを目線で問い、遠慮する青島のビールグラスを注ぐ。
青島がペコリと頭を下げた。
「お前、良く落ちたなぁ」
「あ~・・・・・」
青島も一倉のお猪口に日本酒を注ぎ返す。
二人の仕掛けたギャンブルが、今度はどう影響していくかはさておき
一倉にとっては、室井を護ることが最大目標であった青島が、どうしてこの賭けをする気になったかの方が、興味深かった。
反応の鈍い青島に、一倉は一瞬表情を曇らせ、その後、得心したように頷く。
「・・・ああ、あの件を気にしているのか」
「はぁ・・・まぁ・・・」
「まあ、事の倫理は置いておくとして、それは気にするな」
「すいません・・・」
「何故謝る。そんなことより、まさかお前が落とされるとは思わなかった」
「・・・・・」
一倉の中では、落とされたことについてはもう決定事項なのだろうか。
どう答えれば良いのか言葉に詰まり、青島は口を噤んでチロリと一倉を上目遣いで観察する。
青島の中では、あの冷たい雨の夜、一倉に熱く口唇を重ねられたことも、それほど遠い過去ではない。
あのキスにどういう意味があったかなど、今更カマトトぶるつもりはなかった。
そして、あのキスが、室井への恋情を凍らせた。
一倉が彼なりに室井を大事に想っていることも、同じ室井を想う人間として、青島にはなんとなく伝わる。
男の礼儀として、そのことに触れないのが優しさだろう。
だからこそ、どういう態度を取れば良いのか分からない。
代わりに室井が口を挟む。
「どういう意味だ」
「分かるだろ。コイツは今でもお前のためなら嬉々として身を引いて情を天秤に掛けられる男だ」
「――・・・」
一倉が戯言半分に、溜息と共に言葉を重く吐き出せば、室井も押し黙る。
確かにその不安は常にあるので、言い返す言葉もない。
一倉がもう一度青島を見た。
さっきから、箸を置き、食も進んでいない青島は、所在なく二人のやり取りを見ていたようだ。
簡単に視線が合う。
「ああ、青島、別に俺はお前を責めている訳じゃない」
「でも・・・・」
「室井のことは室井が決めるさ。見ての通り、俺たちは今も仲良しこよしだ」
その砕けた口ぶりに、ようやく合わせて青島の頬も持ち上がる。
それを見て、一倉は身を乗り出した。
「何が決定打だ?俺はそっちの方が興味あるね」
「別に・・・・そうゆうんじゃないです」
「あの日、室井が呼び戻したんだろ。何かあったって思うさ」
「一緒に帰っただけですよ」
「何処に」
「・ぇ・・・・」
しまった、と思った時には、一倉の瞳は悪戯っぽく強められていた。
「そうか、室井の家か。或いは近場のホテルか」
「・・・っ!」
「そこで何があった。何を言われたんだ?」
言葉を捜して、青島が口籠る。
「教えろよ。後生だろ」
「なんもないですよっ」
「刑事を誤魔化すには十年早いぞ」
「知りません・・・っ」
「俺にも野上にも落ちなかった男が」
「・・・ッ」
――多分、今ので完全に顔が赤まった。
青島は手の甲で口元を隠し、横を向く。
「そんなの、どうでも良いだろ・・・っ」
室井の前で、一倉のキスの濃密さを彷彿とさせるような発言は控えて欲しかった。
しかし本人は全く聞く気はないようだ。
横暴という意味では、室井の強引さと近いものがあると青島は学ぶ。
「一倉、いい加減にしないか」
「良くねぇよ。振られるならちゃんと理由を知りたいと思うのは筋だろ」
「お前はただ、俺たちを揄いたいだけだろうが」
横から室井も呆れた声で助け船を出すが、一倉のニヤニヤした笑いは絶えない。
「心外だ。で、どうなんだよ青島」
「だから・・・っ、男が男の部屋に行っただけで、どうしてそう邪推出来るんですかっ」
「そんな体裁で俺を欺けると思うなよ」
「・・・・・」
「で、どうされたんだ」
「どうもも何も・・・」
「お前の頑固さなら、突っぱねたんだろ」
「そりゃあ・・・」
二度目の失言だと気付いて、青島はハッと口元を手で覆った。
時は既に遅く、一倉は確信を得た瞳を覗かせる。
「あの時の室井の形相で、何もないって言う方が不自然だろ。・・・・で?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・だから・・・その・・・・、ものすごっく引いてくれなくて・・・・」
「どんな迫り方したんだお前」
「・・・・・」
室井の方へ一倉が半眼を向ければ、室井は罰が悪そうに、視線を明後日の方角へ向ける。
「とにかくすっごいしつこくて・・・強引で、聞いてもくれなくて・・・・気が付けば・・・その、」
「押し負けたのか、お前が」
「そんなとこ、です・・・」
はぁぁ~、と一倉が呆れた溜息と共に、軽侮の視線を室井に向ける。
「それでよく俺を止める気になるな、室井」
「・・・・・」
室井は何も返さず、黙々とつみれ汁を啜った。
鯛の兜 煮付けに箸を入れながら、一倉が会話を続ける。
「で?告白でもされたのか?それともキスまでされたか?」
それはセクハラだと思ったものの、一つ疑問が湧いて、青島も顔を赤らめながらも一倉に視線を戻す。
「一倉さん・・・室井さんの気持ち、知ってた、んですか?」
「ん?ああ、まあな」
「いつから・・・・」
「最初っからさ。こう見えて、室井は分かり易いぞ」
「――」
だとするなら、どんな気持ちで俺たちを見ていたのか。
あの日の強引なキスの意味も少し変わってくる。
「一倉・・っ、いい加減にしないか、セクハラだぞ」
「いいじゃねぇか。男同士なんだし」
「青島に失礼だろう。俺にも失礼だ」
「ほぅ、そういうお前は何をした?まさか勢い余って押し倒したとか言うなよ?」
青島は言葉を失い、ただ、一倉をじっと見る。
ふざけた振りををし、本音も隠し、変わらぬ態度で接する、その成熟した姿勢は
全てを割り切った訳でもなく、消した訳でも、ないのだろう。
その視線に気付いた一倉が、室井との他愛ない陰険漫才を止め、青島を見る。
「なら、俺がもっと迫っていたら結果は変わってたか」
「ぇ・・・・」
「一倉・・・っ」
一倉の顔面におしぼりが飛んだ。
-scene2-
「適当にその辺で寛いでいてくれ」
「あ、俺も何か・・・」
「いいんだ。グラスを用意するだけだ」
そう言って室井がキッチンへと消える。
その背中をなんとはなしに、見送った。
三度目の訪問とはいえ、恋仲になってからの逢瀬は、やはり緊張する。
青島のケータイにメールが入ったのは、一倉と呑んで十日程経った、あの嵐のような夜から三週間も経った頃だった。
室井から食事の誘いがかかる。
高価ではないが、それなりの店をセッティングされていて、職場の同僚にこういう気遣いはしないよなぁと思うと
やはり室井に恋人扱いされているのだということが伺えた。
嫌ではない。嫌ではないのだが・・・・・・照れる。非常に照れ臭い。
何は変わらなくとも、やはり何かが変わっているのだ。
店を出て、そこで、家呑みに誘われた。
コートを脱いで、キョロキョロと部屋を見渡す。
初めて入った時と何ら変わりのない装飾に、何となく和むが、落ち付かなくて、所在なく窓際に立った。
カーテンの隙間から何とはなしに外を見ていると、程なく室井がキッチンから戻ってくる気配がし
背後に立たれた。
と思った矢先、後ろから強く抱き締められる。
握り締めていたカーテンが波打った。
あれから、室井は特に青島に乱暴なことはしなかった。
あの夜見せた、灼けつくような情動や獣染みた熱を、まるで無かったかのように消失させ
優しく、大事に接してくる。
それは、青島の良く知っている、室井そのものだった。
この三週間ほぼ連絡のない淡泊さや
一度だけ二人で軽く食事をしたが、その時も触れようとすらしてこなかった紳士ぶりは
二人の間に馴染みの感覚を呼び戻し、穏やかな温度を再燃させている。
その平穏さが、青島を安心させ、未知なる関係へ踏み出した決断の罪咎を微かに薄れさせてもいた。
「あ、の・・・?室井さん・・・?」
なのに、急に抱き留められて、急激に心拍数が上がる。
未だ慣れない腕の強さはぎこちなく、それだけで青島の息を苦しくさせた。
肩越しに振り返れば、欠片も笑っていない瞳に射抜かれ、思わず顔を背ける。
「何故逃げる」
「ぇ・・・・・ぁ、呑みましょうか」
グラスを注ごうと腕から抜け出すと、手を掴まれた。
ドキッとして身体が固まる。
軽く引き寄せられ、室井が首を傾け顔を寄せてきた。
嫌ではない。嫌ではないのだが、まだ室井が自分に触れるという事実に慣れない。
どうしようかと瞳を揺らし、ふいに顔を伏せて身体を堅くしたが
そんな青島のまごつきなど物ともせずに、室井は浚うように青島の口唇に自分の口唇を重ねた。
三週間ぶりの口付けは、簡単にあの夜の熱を再現し、眩暈を起こさせていく。
思わずキツく目を瞑った。
室井が角度を変え、強く口唇を押し付けてくる。
痺れるような熱が口唇から伝わり、肩を引き寄せられる。
熱い舌で口唇を解かれ、脅えて奥へ逃げていた舌を手慣れた仕草で引き摺りだされていく。
「・・・・っ・・・ぁ・・」
何でこんな急に・・・・っ。
反射的に後ろへ摺り下がった身体を、そのまま壁に押さえ付けられ、室井の口唇を受け止めさせられる。
ドンという壁に当たる音と共に、蹴飛ばしたごみ箱が倒れる音が遥か遠くに聞こえた。
やっぱり信じられない。
人生経験の中で、キスもセックスもどれも常に自分に主導権があり、欲情もエクスタシーも意思下だった。
制圧する嗜虐に興奮すらあった。
なのに、後手に回ったとはいえ、ここまで、与えられる情動に、自らの中から湧き上がる熱に至るまで、翻弄され引き摺りだされるなんて。
何より、あの室井が自分に触れているなんて。
敏感な舌の縁を何度も辿られ、簡単に、ガクリと膝から崩れ落ちる。
もたついた脚がたたらを踏んだ。
既に知られた喜悦の記憶を
刺激され、身体にピリピリとした電気が走る。
あ、と思う間もなく、室井に腰を抱かれ
ズルズルと壁に背中を這わせながら沈み込むと
壁に挟み込まれるように圧し掛かられ、床に沈められる。
「・・・んっ・・・・んぅ・・・っ」
脚の間に割り込まれ、されるがままに濡れた音を立てて口内を掻き回されれば、頬が朱に染め上がっていく。
羞恥に耐えかね、手を室井の胸に翳し、少しの距離を取ろうと押し返した。
しかし簡単にその手の動きも封じられる。
「・・・うぅん・・っ・・・・・ゃ・・、・ま・・ッ・・」
口唇を外そうと左右に顔を振っても、後頭部を壁に押さえ付けられ、吐息ごと奪う様に口唇を塞がれる。
急激に呼び起こされた情熱に、肌がそそけ立っていった。
室井の繊細な指先が纏わりつくように、性的な淫戯を剥き出しにし
た艶かしい動きで、青島の指を一本一本な
ぞっていく。
その指先になにやら冷たいものが当たった。
何だろうと思う間もなく、途端にこれまでにない強さで舌を吸われ、その手を骨が軋む程キツく絡み合わされる。
「・・・・ッ・・・・く・・・ぅ・・・・っ」
角度を変え、強引に奥深くまでを奪われる。
反り返る程に上向かされて、濡れた粘膜が口内の柔肉を何度も擦り上げ、舌を絡まされる。
緩く強く、痛みを伴う程に淫猥に舌を翻弄され、あの夜と同じように、室井の思う通りに、呻き声を上げさせられていく。
されるがままの途切れ途切れの声は、込み上げてくる深い愉悦を伝え
青島の意識は嵐のように奪われていった。
散々貪った後、ようやく、室井が少しだけ口唇を離す。
脱力し、熱を孕んだ息が薄く開いたままの濡れた口唇にかかる。
「これを外すな・・・」
「・・・?」
何のことだろうと、荒い息を繰り返しながらぼんやり呆けて漆黒の眼を見つめ上げると
室井が、その滲んだ視界に、掴んでいた青島の指先を翳した。
左手の薬指に、冷たく光るリングが埋め込まれている。
「・・・・!」
驚いて我に帰り、瞬きして目を見開いて室井をもう一度見ると、やはり欠片も笑っていない瞳が青島を捕えた。
「二度と外すんじゃない」
「な・・・・・っ、これ!どうしたんですかこれ・・・っ」
青島の指にぴったりと嵌ったそれは、月白色に輝き、室内灯をクロスに反射する。
「もっと早く渡したかったんだが、サイズを合わせるためにこんなに時間が掛かってしまった」
「俺のサイズ・・・?何で知って・・・」
「あの日、部屋の隅に放り投げたヤツから割り出した」
全く不本意だ、と言わんばかりの苦みを潰した顔で室井が低く呟き、青島の額にキスを落とす。
「こ・・・こんなの貰えません・・・!第一仕事中に付けられませんよ・・・っ」
「アイツのリングは付けていただろう」
「そ・・っ、それは、それも仕事だったからで・・・」
まるで、焼きもちを見せ付けるかのように、青島の耳へ口唇を滑らせ、室井が柔らかく歯を立てる。
「・・・ッ・・・ゃ・・・・待ってくださ・・・」
横を向いたせいで、緩められたシャツの隙間から首元が少しだけ覗く。
室井はネクタイに指を掛け、襟を押し広げると
そこに吸い寄せられるように視線を落とし、鎖骨から首筋に柔らかく吸い付いていく。
「・・ッ・・・ぁ・・・」
壁に挟まれた青島の身体が、喜悦に揺れた。
耳元を這い回る濡れた感触を引き剥がそうとすると、その手を捕られ、リングの上に口付けを落としてくる。
「・・・ま、さかこれ、プラチナとか言う・・?」
「ああ」
「!!尚更貰えないっての・・・っ、あんた何考えて・・・っ」
苦情を漏らす口唇を、噛み付くように塞がれる。
「んぅ・・・ッ、・・・ぅぅん・・・・ッ」
眉を寄せてその情淫に耐えた。
蕩ける感覚に、解かされ、崩れ落ちていく。意思すら制圧される欲を、あからさまに植え付けられる。
室井が下唇に柔らかく歯を立ててから、そっと口唇を解放した。
濡れた息の掛かる距離で、威圧的に告げる。
「指輪は男の覚悟だ」
「・・・・っ」
威厳を乗せた言葉に言葉を奪われ、息を呑み、自分を拘束する男をじっと見つめ返す。
室井もまた、真摯な瞳を向け、青島の瞳を捕えた。
「好きだ」
その、掠れた、飾りもない言葉に、眩暈の様な酩酊感が与えられ、青島の背筋が震える。
握られた指先も、微かに震えているのが分かった。
「・・・ぁ・・・・」
「この手を離すな」
「室井さ・・・・」
「いいな」
胸の奥が熱く、腫れあがった感情に息が止まる。
「返事は」
「・・・なんてーか、もぅ、色々反則です・・・。ぶっ飛びすぎだ・・・」
真っ赤に染まった頬を隠すように、俯き横を向く。
唐茶色の髪が流れて、目元の赤らみを隠した。
「そうか。で、返事は」
「――。・・・指輪。あんたも嵌めるっていうんなら、付けてやってもいい」
-scene3-
「久しぶりだね、なかなか来てくれないから待ちくたびれちゃったよ」
「俺の顔なんか見たくないんじゃなかったの」
「そんなの売り言葉だろ」
「ちぇー、調子良い奴」
「・・・・元気そうだな」
「アンタもね。似合ってるよ、ソコ」
「心配したんだぜ」
「・・・・・うん、知ってる」
「俺がここを出られる日が来たら、今度は海外旅行でも行こうぜ」
「イタリアとフランスか」
「・・・・やっぱり思った通りの逸材だ。それに良い男だ」
「褒め言葉?」
「勿論。・・・好きだよ」
「良く言う」
「愛のリップサービスは男のマナーだぜ」
「はいはい」
「俺はお前が好きだってずっと言ってるだろ」
「男同士で何言ってんの」
「信じてないの?」
「信じられなくなるようなことするからだろ」
「俺、嘘は吐かないぜ」
「信じさせてみたら?」
「出たら覚悟しておけよ」
「覚えてたらね」
「なあ、俊作ってのも本名なんだな」
「そうだけど?俺だって嘘は吐かない。言わないことがあるだけだ」
「今も?」
「お互い様だろ」
「俊作って可愛いね」
「・・・・・どうも」
「そう言えば・・・・・俺のあげたピアス、もうしてないな。スーツも・・・着てるの見るの、好きだったのに」
「やっぱり俺で遊んでたのか」
「純粋な教育だろ。・・・・・・・・・ところで――さっきから後ろで睨んでいるのがもの凄い形相なんだけど」
「・・・・・」
「・・・・・・・・ああ、まあ、気にしないで」
「するだろ普通に」
「俺一人じゃ駄目だって・・・・付いてきちゃった」
「・・・・背後霊?」
「どちらかと言うと、魔除けの方・・・?」
「その左手のリング、俺があげたヤツじゃないみたいだけど――」
「私が渡したものだ」
「・・・・・へぇ、そういうこと」
「室井さん、俺と勝負する気なんだ」
「――出来レースだ。やめておいた方が良い」
「・・・はーん、先手を打たれた訳だ。上等じゃないか」
final happy end

20150412