シー ズン企画
毎年恒例クリスマスストーリー2024です
時間軸はOD3翌年の師走。政治描写はテキトウ。鳥飼さんと密約を結ぶ青島くん。それを知らない室井さん。
三者の思いが交錯したクリスマスに起きる奪還物語









カナリアが飛んだ海 前編
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1.Side-M
2011年師走。
街中が色鮮やかに飾られ、クリスマスソングが耳を奏でる頃、クイーンズスクエアのカフェで向き合う男二人にもカラフルなオーナメントが脇を飾る。
赤・緑・銀色にデコレーションされたもみの木が貫禄ある存在感を示していた。
着飾った客も多い店内はおよそカップルが占めているような昼下がり。
上質素材のスーツに身を包み、折り目正しく着座する室井の瞳には、フルーツサンデーに目を輝かせる青島が映っている。

「私は何をさせられているんだ」
「なにって、張り込みです」
「・・・」

まあ、淡い期待を抱いていたわけではないが、事務的な回答に室井の眉間は深い。

「あ。経費で落ちますので珈琲、飲んでくださいね」
「君はパフェなのにか」
「食べたかったなら・・」

苺を口に運び、クリームを舐めとる朱い舌から思わず室井は目を反らした。

「対象者の特徴は」
「ああ、えーっと、」

胸ポケットから取り出した手帳を徐に読み上げだした声は、数年前と変わらない舌足らずだ。
氏名、年齢、職業、身長などの情報をとりあえず耳に入れる。
官房審議官となった人間に、こんなところでパフェなんぞ食っている時間はないが、律義に座っている間だけはと
室井は任務を半分請け負った。
辺りを見渡すまでもなく、カップルの華やかな声とリズミカルなクリスマスソングが浮足立つ師走の都会を象徴している。
差し込む晩秋の陽射しも今日は淡く柔らかかった。
テラス席で楽し気にパフェを堪能する男に倣い、室井はようやく珈琲に口を付けた。

「右手奥の女も刑事か?」
「そうです。そっちの」

各所轄に関わる立場になくなったため、こうして現場で会うのはほとんどなくなった。
それは室井の本願でもあり、成果でもある一方で、ほんの少しの寂寥感は、やはりあった。
しかし模範的な交流だけをしていたわけではない。
いつからか、時折飲食を共にし、酒も酌み交わしていた。
色んなことを、話せた。
繋がっていると思っていたし、通じているとも思っていた。
その微かな、だが仄暗い後ろ暗さをお互い口にすることはなかったが、理由もなく会うことを答えとし
その目に灯るものに同じ色を探した。

しかしそれは四年前、室井が広島に異動となった時を境に、状況が変わる。
会えない時間が会えないことを日常化する中で、室井は現実を知った。それでもただ、時を待ち続けた。
そして再びの東京。
この街には彼がいる。
久しく言葉を交わさなかった男との不思議な距離感に、室井の心もまた不思議と引き戻される。
不思議――もうそんな曖昧な言葉で誤魔化せるほど、この胸の高まりは陳腐ではないことは、とうに気付いてはいるが。

「一課の応援か」
「そんなとこ」
「本庁には何でいた?」
「あ、それは別件」

移動前の階段で、送りましょうかと言われ、久しぶりの衝動に勝てずお願いしたら、その帰り際、定時連絡が青島のスマホに入り、そのまま連行された。
この派手なカフェにだ。
グッドタイミングですねと、青島は言った。
恐らく最初から室井を同席させるつもりだったのだ。

「謀ったろう?」
「まさか」

とぼける青島にわざと沈黙で返すと、青島はやんわりと笑った。
室井の好きな、親しみを込めた、長年の時間を思わせる顔だ。

「勘は鋭くなかったのに。チョット変わりました?」

過去を巻き戻す発言は室井には辛辣だ。
君ぐらい見抜けると、室井の片眉が上がる。

「本店に行った時までは貴方をターゲットになんて考えてませんでしたよ。階段で会って、あ、これイケるかもって」
「部下はいるだろう」
「今日はみんな別件に引っ張られてて、俺、一人なんですよ。さすがに浮くでしょ、この店じゃ」
「男二人でも充分浮いている」
「一人よりマシ」

寂しがりやな一面はどこか記憶の青島にしっくりと来る。
人懐こくて、新人の頃から老刑事に可愛がられていた。
その老刑事も、数年前、他界した。葬儀で隠れて泣きじゃくっていたと、噂に聞いた。
それからの月日も浅い。
群れて行動していても、どこか欠けた穴を抱えているのかもしれない。
室井が今こうして欠けた穴の大きさに気付かされるくらいには。

「たばこ。吸ってもいいですか?」
「このテラスが禁煙でなければ」
「それは確認しました」

ニヤリと笑う、企みの笑顔。
ちゃっかりしている影に無邪気さが混じり、冬の風が頬を撫ぜる瞬間に感謝する。
久しぶりだなとか、元気だったかなどと言わない彼に、どこかホッとしてた。
大した時間じゃないと思い込みたい弱さを見透かされてしまう。

「私にも一本くれ」
「え!また出世諦めたんですか!」
「またとはなんだ!諦めてもいない!」

一本をポンっとはじき出し、青島が室井に向けてくる。
抜き取ればすぐにジッポに火が点き、二人で頬を寄せた。
微かに薫る海の匂い。彼の匂いだ。
懐かしさを感じたくなくて、室井は胸に沁み込む数多のものを、奥まで吸い込んでから、紫煙と共にゆっくりと吐き出していく。

長めの前髪の奥から青島が上目遣いに室井を探ってくる。
交わしただけで、言葉はなかった。
もしかしたら青島は忙しない日常を見透かして、室井に休憩をくれたのかもしれない。
あの頃のような多くの会話などなかった。向き合って同じ時間を過ごしただけの休息だ。

「ここは経費で落とすと言ったな」
「後で本店に請求が行くかと」
「今度メシを食おう。奢ってやる」

ははと青島が噴き出して、屈託なく笑った。
顎の下に両手を組んで、室井を物珍しそうに見回してくる。

「室井さんって、」

だが、言いかけた青島の口を、男の手が塞ぐのと青島の背後に人影が立つのは、同時だった。
突如白い陽射しが遮られ、テーブルが鼠色になる。

「室井警視監、こんなところでおさぼりは駄目ですよ」
「鳥飼・・?」

どうして彼がここにと思うのと、鳥飼が青島に腕を回す距離の近さ――親密さに、室井の目は見開かれた。
鳥飼の腕は青島の肩に回され、抱きすくめるように青島を立ち上がらせる。

「行きましょうか、青島さん」
「え?あ、でも」
「本日の張り込みは終了です。定時連絡も忘れるほど大事なお話し中ですか?」

慌てて青島がテーブルに置いたスマホを見て、あ、と小さく声を上げる。
その青島の腕を引き、半ば強引に立たせ、鳥飼は会計カードを手に取った。

「では、室井さん」

待ってと小さく抵抗する青島が、引き摺られるように室井の前から連れ去られていく。
長い足がぶつかり蹴飛ばされた椅子がギギと警告音のように鳴った。
じゃ、またと青島が振り返り室井に片手を上げる動作すら鳥飼は赦さないように見受けられた。
唖然としたまま室井は何一つ言葉を挟むことが出来ない。
会計すらさせてもらえなかった。
ただ一つ、錆びた脳が理解しているのは、青島との“休息”はもう終わったということだ。
終わらせられたのだ。
鳥飼によって。

「あ、青島!」
「は、はいっ?」
「送迎、ありがとう。また、連絡する」

びっくりしたような青島の顔が、すまなそうに歪み、やや遅れ、はにかんで片手を上げた。
その背後に無表情の鳥飼の顔がぼやけて見えた。
まだほぼ吸っていない煙草が手元から紫煙を頼りなげに揺らして上がっていった。






2.Side-T
青島を押し込んだ黒塗りの光る車は、大きな音を立てて扉が閉まった。
鳥飼が反対側から乗り込めば、音もなく発進する。

「接触は禁じていた筈ですが」
「グーゼンですよ」
「どうですかね」
「信じないの?」

隣に座る男を見れば、視線すら合わせてこない。
鳥飼はシートに深く沈み込む青島の、冬の風に乱れた髪を指先でそっと梳かした。

「階段とこで会っただけだ。ソッチの応援依頼もそんとき」
「良く出来たシナリオだ」

はあっと盛大な溜息を落として見せる男に感じるのは、否応ない香しさで、鳥飼の目がスッと眇められた。
指先一つ、それで鳥飼の意図を汲み取り、忠実に従う青島は、調教する度、物覚えの良い柔軟性を見せてくる。
感度の良い男は好きだ。

「じゃ、今度は首輪でも付けておけば」
「貴方がそうされたいのであれば」

町屋忠正次長から室井と青島を探れと鳥飼に命が下ったのは、まだ夏の盛りの頃だった。
確かに新湾岸署占拠事件の時、初めて青島という刑事を見て、むしろ鳥飼の興味を掻き立てられた。
だがその時点で、室井警察庁長官官房審議官と不埒な交流があったようには見えなかった。
そんなもの、公安にでもやらせておけば良いと、内心思ったが
もう一度青島と接触できる実に都合の良い口実が上からお墨付きで降りてきたのだ。利用しない手はない。

「抜け駆けされた気分でしたので」
「オトコの嫉妬ってヤだね~」

この危険な会話を聞いているのは、運転席の男、一人。
勿論彼はこの会話を聞いたところで、ウェットに富んだリスキーな議論をしているようにしか、感じ取っていない筈だ。
本庁に生息する大多数はそうだ。
だが、町屋は違う。

「頭の良い貴方なら、そこで相手を選ぶ計算くらい、出来たでしょう?」
「・・何を言わせたいの」
「意外と隙が多いのか、或いは、僕を試しているのですか?」

途端、青島の手が伸びてきて、鳥飼のネクタイを縄を引く様に引き上げた。
ガクンと崩れた額に額がぶつかるほどの距離、青島の顔が少し傾けられる。

「見張るなら、徹底的にやってくださいね、補佐官」

形だけでもと、盗聴、尾行、周辺調査などと行っていくうちに、町屋の妄想は確証となり、愕然とした。
その狙いの先に池神がいることも容易に想像できた。
予想外に知ってしまった中枢の闇に、反吐が出るよりも、好カードを得たと鳥飼はほくそ笑む。
上は、鳥飼にこの秘密を知られても構わないくらいには、信用を得ているということでもあった。
成程、公安にすら先を越されたくないわけである。
池神の趣味は知る人ぞ知るところだが、狙いが室井であれ青島であれ、おめおめと蜜を吸わせるには、まだ早い。
まずはそのカードで青島を堕とすことは、鳥飼にとってそう難しいことではなかった。

「俺、車だったんですけどね」
「後で回収させます。キーを」

尻ポケットを探り、青島が片手で鍵を投げてくる。
それを空中で受け取った鳥飼は、子供みたいな反応をする青島に、つい口端を滲ませた。

「ただ、青島さんだって、僕のこと、結構好きでしょ?」
「どうしてそう思うんです?」
「庇ったり、心配したり、してくれたじゃないですか。そういう経験はあまりないので」
「・・・」
「ほら、そういうとこですよ。同情し、共感し、琴線に触れてくる。そうやって室井さんも落ちたんでしょうね」
「あのひとを侮辱する発言はしないでもらえますか」
「どれだけ神聖視しているんだか」

ただ鳥飼には一つだけ分からないことがあった。
室井はそこまでして庇う男なのか?そこまで信じてい良い男なのか?そこまでの価値を持つ素質があるのか?
警察に裏切られ、警察に見捨てられた鳥飼にとって、それは胡散臭いものでしかない。

「ではお仕置きが必要ですね」

それが何を意味するところなのか、もう分かり過ぎるほど分かっていることだ。
鳥飼が行き先を変更しているのを横目で見て、青島は窓の外に視線を投げた。
そんな風に素っ気なくしたところで、この後、鳥飼の背中に縋ってくる。自らの意思で。

部屋に入ってすぐ、シャワーも浴びさせずに鳥飼は青島の身体を引き寄せた。

「焦り過ぎでしょ」
「たったお茶一杯程度で、と思っているわけですか?」

背後からシャツを引き出し、片手でスラックスのベルトを外していく。

「君だって、こんなことしていいんかよ?」
「今更でしょう?」
「今更だから言ってんの。大丈夫なんですか」

一体、この男は幾つの優しさを抱え込むつもりなのだろう。
腹ただしさと情欲は似通っていると鳥飼は思う。

「・・ッ、ッ、こ、こんな、年も離れたオッサン、面白くも、ない、でしょ・・っ」
「とんでもない。興味が尽きないですよ。すみずみまで」

やがて聞こえてきたすすり泣くような声が警告音のようだと鳥飼は片隅で思った。








3.Side-M
くすんだ階段にカツーンと澄み渡る音色は心の襞を震わせた。
それが誰の差し金かを探る間など、空虚な硝子の瞳が作り出す絵空事の如く、無意味なものだ。

「先日はどうも」
「――何故君はあの場所に。今はもう湾岸署の件に関わっていない」
「調べたのですか?わざわざ」

穏やかに、感情一つ妥協しない鳥飼の言葉は実に官僚的だ。
余程の訓練を積んできた一部の選ばれた人間だけが放つ資質に、室井は馴染んだ堅牢の臭いを感じた。
年下だからこそ、畏まったら葬られる。
この年代の人間は皆、出世か脱落かの瀬戸際だ。

室井は階段の上に居座る男を真黒い双眼でジロリと見上げた。
正直、この構図も何かの暗示に見え、室井は息を潜める。
ここで擦れ違っているのも、偶然か?

「プライベートで交流があるということでいいのか?」
「何でも聞けば済むというものではありません」
「目の前で掻っ攫われた。理由くらい聞いたっていいだろう」

穏やかに、まるでここ数日の冷えた木漏れ日のように、鳥飼は、カツンと音を立て、ひとつ、階段を下った。

「そんなムキになることですか?彼の提案を飲む代わりに、交換条件として契約を結んでいましてね」
「契約?」
「だから彼は今僕のものです」
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味です」

薄氷の気配すら纏う男の長い足は、彼の四肢の端正やを気品もまた惜しげなく発揮させ、およそ敵を作らない。
優雅な動作に潜む徹底に、どこか鋭角的なモダニズムを感じさせる。
冬の凍えた北風が足元を吹き抜ける隙間風に、室井の歯の根を硬く閉じさせた。
凍った表面の危うさを光に隠し、従順な中に潜む毒素に、恐らく誰もが気付かぬうちに黙殺されていく。
室井もまた、少ない言動を制圧されていた。

「契約とは」

そんなことまで聞きたいのか。
鳥飼の冷たい目は、そう室井を憫笑していた。
紺地の上質な布で仕立てられたスーツと義眼が持つ緘黙な気配。
どれもが対照的でありながら、どこか青島の趣きを持つ男だ。
光と影、双子のような危うい因子同士は、圧覚次第で暴発する。
不吉な妄想が室井の脳裏を過ぎった時、薄ら哂う鳥飼が形の良い口角を開いた。

「室井さん、貴方も組織にいるなら階級というものを自覚した方がよろしいのでは」

この時点での鳥飼の階級は警視。
警視監である室井の方が格上だ。
つまり鳥飼が示唆しているのは暗躍するバックを仄めかしている。
片手に持っていたファイルが手汗でぬめっていた。
妙に静まり返った堅牢は残酷なほど清冽だった。
本能的に警戒する緊張感が、この凍えた空気を異常なまでに張り詰めさせている。
まさか下世話な感情まで読んだわけではないだろうが、鳥飼は親切にも、もう一つ階段を降り、眼鏡を人差し指で持ち上げた。

「マイノリティに偏見をお持ちなら、これ以上は踏み込まない方がいい」
「常に平等であれと務めている」
「東北大も、ここではマイノリティでしょう?」

室井は思わず歯ぎしりをした。
どんなに片肘を張っても、強がりにしかならないこと、そして、通俗的な揶揄に無様に反応してしまうほど
自分は心の鍛錬が未熟であり、その時点で負けていることを、曝け出される。
少なくとも今、目の前の男にすらだ。
だが、そんな室井を認めてくれた男が、一人だけ居た。

「同意の上か?」
「これ以上は折角の彼の厚意が無駄になりますよ」
「青島は何を代償にした。いや、何を犠牲にさせて君は」

くつくつと鳥飼が嗤う。
だがその目が。

「まるで僕が青島さんに無理強いしたみたいな言い方だ」
「彼は手段に取引を選ばない。何をした」
「よく分かっているという口ぶりですが、上に報告したら貴方の方が――」
「そういうつもりでは聞いてはいない」
「ではどういうおつもりで?」

畳みかけるように囁く鳥飼の言葉は、文字通り追及だった。
怒りのような矛先すら感じられる。
何故だ?
彼にここまで敵意を向けられるほど、鳥飼と交流した覚えは室井にはない。
あからさまに憎まれるほど、鳥飼にとって不遇な役職にもいない。

訝し気な顔に変わった室井に、鳥飼は薄らと笑みを続け、またひとつ、階段を降りた。
同じ段となった背丈は鳥飼の方がはるかに高く、室井は横目で見上げるままに睨みつける。
鳥飼の動作には音がない。靴音だけが実態を仄めかす様子は、まるで硝子越しに映像を見ているようだった。

「・・いつからだ・・」
「一年も前の話ですよ」

室井は堅く瞼を閉じ、絞り出すような声で感情を抑え込んだ。
東京から離れた時間に水を差されたのであるならまだしも、同時期の再会後、間合いを詰められた。
室井が身固めをするために強く出れないことを、熟知している。
鳥飼は冷たい微笑を貼り付かせたまま、優雅に腰を曲げ、室井の耳に口唇を寄せた。
清涼剤の清潔さが、更に室井を責め立ててくる。

「彼は実に容易く即断しました 頭の良い男はこの世界に好ましい
 命を下すのも素早い決断が求められることも、能力です 去年の占拠事件の時、君が調整できる問題ではないと貴方は仰いましたが、その言葉――
 そのままお返ししますよ」

ぐうッと室井の喉仏が上下した。
今の室井に、確かに鳥飼の主張に反論できる材料は何もなかった。
室井は自分を嘲弄する男を、何の怒りかも分からず、不本意な流れであったが、強情に瞼を持ち上げた。

鳥飼がチラつかせる所有権はまるで児戯のようだった。
でも、俺たちの痛みも覚悟も、何も知らないくせに。
掴みたかった温もりを隠してまで求めた情熱を知らないくせに。
真っすぐで純潔な彼の目に見えているものが何も見えていないくせに!
彼を手に入れる意味すらも分かっていないくせに!!

「彼、可愛い声で鳴くんですよ。知らないでしょう?」
「貴様ッ!」

挑発と分かっても室井にしては乱暴な言葉で挑んだが、もう鳥飼はあっさりと長い足を進め、通り過ぎていた。
室井の清廉な背中は意地でも振り返らない。

「もう貴方のものじゃない。手を出さなかった貴方のご判断の結果です。ハジメテを知るのは、貴方じゃない。僕だ」

カツンと冷たく澄み渡る靴音が、また終焉に無情に鳴り響く。
室井は上段の曇りガラスをただ一心に凝視した。

「貴方はただ、擦り切れた約束にいつまでも縋っていればいい」

鳥飼の冷静な言葉は、幾重にも刃となって室井の胸を突き刺していた。








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BGMはpromise 広瀬香美
今回はもうどうにでもなれ~って三人のイメージで。情熱的にね!

読者さまから鳥飼さんと室青の三角関係話というリクエストを頂きまして!ありがとうございます!
NTRは最初にらぶらぶして、途中で奪われるから萌えるの?最初から盗られてたらだめ?

カナリアは何らかの危険が迫っていることを知らせる前兆を指す鳥。黄金のカナリヤは幸せの象徴