も しも青島くんが室井さんを好きじゃなかったら?の続編です。
登場人物はふたりだけ。時間軸はあのデートから一カ月後。OD2後設定ですがこの設定あまり活かしてない。小悪魔青島くんと、口説きたい室井さんのお話です。







どろっぷ行進曲 DOUBLE!前編





1.
「指紋ゲソ痕が残っている可能性が高い案件だ。絶対に見逃すな」

野太い返事が残響し、捜査一課刑事たちが一斉に飛び出していく。
張り切って目をギラつかせる若手捜査員たち、クマのある目許を擦りながら指示を出す中堅組、彼らの熱気に室内は男臭が勇ましく取り巻いた。
変わらぬ特捜の風景に青島は頬杖をついて苦笑し、目で追ってみる。
若さあふれる意気込みには、懐かしささえある。
あの時、初めて室井さんに会ったんだ。

今、前方を見れば、高級そうなスーツを着た管理官は初めて見る顔で、バタバタと去る背中を睨みつける頭部は撫で上げられた七三だ。
つまり東大派閥の有望新人ってわけね。
後ろで控える中年オヤジ、やってらんないってカオしてる。
殺伐とした殺害現場に颯爽と現れた室井も、埃一つないスーツで、どこか異物が紛れ込んだような奇妙さがあったっけ。

口ばかりの年下キャリアに、どこか見た影を重ね、青島はどこも同じだなと両腕を頭の後ろで組んだ。

ここも相変わらずというか、成長がないというか。
以前だったら青島とて、取られただの横やりだの捜査権渡せだのと噛み付きもしたが、半歩下がって成り行きを見守っているのは
ここが本店だからだ。
現場区域である湾岸署を筆頭に、近隣地区で同時多発した殺人事件の広域捜査が行われる段取りを、本店で重ねていた。
他所轄捜査員も一堂に会し捜査会議を行っているのは無論建前で、捜査権を与えられているのは一課刑事。
昨日までの支店の事件が、今は本店の案件だ。

ただ、指揮系統が上に移っても、青島にとってはあまり意味がなかった。
俺たち所轄は本店に使われているようで、俺らが本店が道を外さないように気を使うんだ。俯瞰した視点って大事じゃん?
ま、俺の方が成長したってことかな。

そんなことをぼうっと考えていたら、スーツの奥でケータイが震動した。
テーブルの下で画面に視線を走らせ、青島はにんまりと微笑む。
キャリアにも顔が聞くようになった青島には、通り過ぎ様にそれぞれ青島の肩に労いの手を乗せ、会議室から退席していき
青島も片手を上げつつ、所轄の処遇なんて今更ヨと返す。軽口を叩き合うのも、一つの挨拶だ。
扉は開け放たれ、やがて、部屋の掃除が始まった。

青島はもう一度画面を見る。

一行だけの簡素ながら非日常的な文章が、短く綴られていた。
室井さんだなぁと妙に納得した青島は、どう返そうか少しシュミレートを始めた。
捜査会議に出席してくるキャリア連中とどう付き合うかなんてことより、青島にとってはむしろこっちの方が難問である。

素っ気ない文章だとしても、室井から連絡がきたということに意味がある。
恋愛テクニックとして青島が誇っているのは『決して自分からは連絡しない』だ。
相手を落とす最初の手数だと思っている。
最初のメールは室井が焦れるまで待つつもりだった。案の定、一カ月と待たず受信ランプが点滅した。

さて、これをどう料理するか。
尤も青島は室井を本気で落としたいわけではない。
ちょっと遊んでやってもバチは当たらない、くらいの相手だ。

距離を詰める必要はないけど、関係を切る必要もない相手。
こないだの仕返しくらいはしたい相手。
少しぐらい、室井の誠意に応えるくらい、させてほしい相手。
男のポリシーとして、下手なアクションをするわけにはいかなかった。
室井相手だからこそ、軽く見られたくはない。

<お疲れ様です。最近完徹でちょっときついです。また誘ってください>

まずは一度断る。
嘘も言っていない。文章のテンションは多少低め。室井より文字数削るのも大事なポイントだ。
ケータイを尻ポケットに仕舞おうとして、また着信音が鳴ったので青島はびっくりした。

<来週また連絡する。           無茶はするな>

早っえぇな!仕事中じゃないのかよ!ついでに、この先は週一連絡か!

このメールには返事をしない。
じぃっと見治めてケータイを閉じれば、日光がやけに眩しかった。
悠然と微笑み、陽に透ける青島の顔を、両脇のすみれと袴田が不思議そうに首を傾げてくる。
青島は交互に見て、締まりのない笑みを返した。
煙草と体臭と階級でむさくるしい捜査一課も、全然気にならない顔である。

「待機って聞かされて、ネジ飛んじゃった顔?」
「寝不足の方だと思います」
「これでいざって時、あてずっぽうでも何か嗅ぎつけちゃうんだから、不思議だよねぇ」

すみれが肩を竦めれば、袴田も両手を広げた。

「あっ、じゃあちょっと挨拶してくるから。そこにいてよ」

袴田がいそいそと腰を上げ、帰り際の本店キャリアを追いかけていく。
今日は人員が足りなくて、課長自ら監視参戦している。が、お守りをさせられているのはコッチの方である。

「行っちゃった。迷子にならなきゃいいけど」

あの波乱のデートから、一カ月が過ぎようとしていた。
白昼夢みたいな時間はくすぐったい苦味を残して、今も青島の記憶に残っている。
恋人になったわけではない。友人とも違う、奇妙な室井との関係性は、今も答えが出せていない。
けど、あんなキスをされて、平静でいられるわけがない。いるつもりもない。
不完全で不合理な、未知の関係が、そこにある。

「青島くん、何見てたの?」
「ああ、定時連絡」
「なんの?」

青島は答えようとして、はたと気付いた。
そうだ、もう一つ問題がここにあった。
下から上目遣いで何と答えようかと考えていると、その顔反則と言ってすみれにおでこを押し退けられた。
細くひんやりとした手に、華奢な脆さを感じ取る。

すみれは室井を好きかもしれない。
でも別に、俺だってそういうつもりで会うんじゃないし。でもキスされたんだから、そういうつもりになる?会うべきじゃないのか?
どういうつもりで会うのかの、答えを決めておくのが誠実なのだろうか。それは誰に対して誠実なんだ?
ただバレたくはない気がする。

「ちょっと、ね。仕事じゃないよ」
「そう。片付けも終わっちゃったみたいだよ。帰ろうよ。課長、あたしたちのこと完全に忘れてるわよ」
「俺、寄るとこあっから。先帰ってて」
「ふぅん?ロマンの続き?」

すみれが見透かしたような目で青島を覗き込んだ。

「ちっげーよ。すみれさんこそ浚われないようにね、波に」
「そういう時は白馬の王子様が助けてくれるのよ」
「海に?!」
「そっか、人魚姫は喋れないんだったわね」
「自分のこと姫って言っちゃうわけね」

ツッコミ入れるところがどこかズレているすみれの手がそっと青島の肩に乗って、さらりと音がしそうな髪が落ちてくる。
至近距離でじっと見つめ合って、じゃあね、と囁いたすみれは、そのまま背を向けた。
白いブラウスが透けるその背中を見送る。

「ずっるいなぁ、すみれさんってば。言われて困るの、自分のくせに」

多分、俺が受け入れるかどうかなんて、あの男には関係がない。
同じように、すみれにも関係がないのだ。
すみれが本音をぶつけるのに、俺の意思も許可も必要ないんだ。
それは、少しだけ寂しい気がした。
決断していくということは、周りすらも変えていく。

長いスペースを開けて最後に添えられた五文字に、何となく室井の感情を感じ取った。
ヘンに突っぱねて、おちょくっても、どうにもあの男の前では乗り越えられない壁があるのを、青島の本能が警告している。
経験値というか大人スキルの差がどうやっても届かない。
結局、振り回しているようで、俺の方が室井さんの手の平で転がされているのかもしんない。
だったら、悔しいけど、抗わせてもらいますよ。
それだけの時間が、俺たちの間には出来た。

「なぁんでこんなに見栄張っちゃうんでしょうねぇ?」

もし、あの時俺が完全に断っていたら、室井さんはこの恋を、どうしただろう。
きっと、誰の手も取らずに一人でいることを選んでしまう。
ロマンチストではないあの男にとって、恋愛とはその程度のことなのだ。

――本当は、俺じゃなくてもいいんでしょう?

勝手に俺たちの関係変えたくせに、悪びれないのがムカつくんだよ。

気付けば会議室には誰もいなくなっていた。
ガタンと音を上げ、青島も立ち上がる。コートを羽織り、ショルダーバッグを担ぎながらぴょんぴょんと出口に向かい
電気も消して、部屋を出ると、そこに今、正に脳裏を占めていた男がいて、青島は目を丸くした。

「――・・」
「メールを貰った後、今日の湾岸署の担当業務を調べたら、ここに特捜が立っていることを知った」

ゆっくりと室井が壁から背を離し、組んでいた腕を解く。
青島に近づきながら事務的に綴る声に、自然と青島の声も低くなった。

「探ったの」
「顔を見に来た、と言ったら?」
「・・・」

やっぱり一か月前、白昼夢を見たわけではなく、室井の挑戦は終わっていないようだ。
焦れるほどの速さで室井が青島の前まで来て、真黒い瞳で青島を真っ直ぐに見た。

「管内の連続殺人か」
「ええ、広域捜査になりました」
「確かに眠れてなさそうだ」

それまで睨みつけるように室井を見ていた青島の顔が、ふにゃりと崩れる。

「・・分かります?ジドリで三日寝てないっす」
「身体は休めろ」
「ソレ、俺じゃなくて、俺たちを道具扱いしてる上に行ってもらえます?」

室井が片眉を上げ、さもありなんという顔をして見せ、次の瞬間、二人の顔は同時に崩れた。
吹き出す息は穏やかに揃い、近寄り難い威厳を持つ室井の僅か目を細める表情に、青島は両手をポケットに突っ込む。

「で?俺のゴマスリに待ち伏せしてたわけじゃないんでしょ?」

室井の漆黒が、親しみを込めた色に変わる。
やっぱりこのひとが、どこかで俺に気を許していると感じるのはこんな時だ。
真黒い闇に唯一捕り込まれる、その一瞬に例えようのない高揚感を得る。

「話が早いな。分かっていてそう言っているんだろう?君は。だから無防備だと言うんだ」
「尊敬してもいいんですよ」
「付け込まれる」
「誰に」
「・・私にだ」

別に室井だって、青島のメールを訝しんで裏取りに来たわけではないだろうし、探られることが嫌だったわけでもない。
室井の持つ関心の高さが少しだけ、息を詰まらせるだけだ。

「また一日、欲しい」
「それは、デートの続き?」
「ああ」
「この間フルコース付き合ったけど?」
「あれで満足できたのか?」
「!」

不完全燃焼で、いい子ぶって、そんなの違うと思ったデートだった。
堅苦しいのはナシで、サシで、今度は偽りなしで、ぶつかりあおうと決めた。

「もっと・・と、君も思ったんじゃないか?」

意外な切り返しに、室井の大胆さが透ける。
二人で仕事以外の時間を共有するのは、思いの外楽しくて、想像以上に息もあっていることを知って
相性を確かめた一日でもあった。
どこまで共鳴し合うのか、底が見えぬ限界に恐怖と共に、密かに期待を乗せる関係を垣間見た。
そんなの、知りたくもなかったけど。

「俺に何したかわかってんの?」

その言葉にも、室井は飄々と片眉を上げただけだった。
悪びれない態度は、どこか室井の官僚としての経験を想像させ、ちょっとやそっとじゃ引き下がらない男のしぶとさにも通じる。
ふしだらなキスで変えられた関係は、恨みすら持った青島の瞳を深まらせた。

「もう手放す選択肢はなくなってしまった。もし君が他の誰かの・・女でも男でも、付き合おうとしたら全力で阻止してしまいそうだ」
「サイテーですね」
「君こそ、俺に穢されたその身体で、他の人間のところへ行くのか?」
「け・・っ、けがっっ、んな・・っっ、ひっ、人聞きの悪いこと言わないでくださいよっ」
「事実だろう。ツバつけたもん勝ちだ」

だから、こういうとこ。
このひと、けっこう図々しいよな。
声を潜め、慌てて周囲に目を走らせたけど、勿論誰もいないことを承知の上での発言に決まっている。

青島は恨めし気な目で室井を睨みつけた。
どんな思いでこっちがあんたの恋の話を聞いていると思ってるんだ。
簡単に割り切れるわけがない。
このひとを慕って、人生賭けた、青臭い時間がまだ、消化しきれずに原型をとどめている。
そしてきっと、そんな幼い感情も見透かされている。

「なんだよ、俺にケンカ売りに来たのかよ」
「そうだ」
「!」
「こんな口喧嘩でも私にとっては新鮮で楽しいものなんだ」

“そうだ”だって・・。肯定しちゃったよこのひと。
すまなそうな気配は微塵もないが、どこか青島に対して剥き出しの感情を見せる室井の姿は、出会った頃見ていた背中にはない。

沈丁花の香を乗せる春風が足元を吹き抜けた。
いつの間にか季節も変わっている。
変わっていくのか嫌なのか、始まっていくのが嫌なのか。

「呆れたか?」
「しょうもなくても、室井さんだし」

それでもこのひとに見惚れた自分の直感を疑う気はなかった。
室井が微かに笑ったようだった。

「プランは」
「少し遠出しないか?」
「遠出?できるの?」
「申請書のいらない範囲でだ」
「緊急配備かかったら?」
「対処できる」

誠実であるべきは、分からないこの関係を放置することじゃない筈だ。

「いいでしょう、乗ります」
「管内で未解決の事件現場巡りとか、どうだ?」
「・・・・・・・・・・・・とりあえず、あんたがモテなさそうってことは分かりました」

まったく、ロマンの欠片もないお誘いである。
だけど。

「何を言う。君用に厳選したプランだ。本当に、興味ないか?」
「・・・」
「勿論、また命令を無視して圏外脱出もやぶさかではない」
「・・あんたにそんなことさせられませんよ・・」

だけど、めっちゃ面白そうって思っちゃってる自分がいる。
気取ったデートも一興だったけど、こんなプランは俺たちにしか出来ない。
きっと、室井となら熱く推理をぶつけ合うのだ。
意見が合わなかったり、正面衝突しちゃったり、きっとそれでも、わくわくする。
未知で躍動した時間は俺たちの間にしかない。
もしかしたら、室井もそうなのかもしれない。

・・あ、いけね。前回それで騙されたんだった。

慌てて顔を作り直し、上目遣いで室井をちろりと見た。
満更でない顔を見抜かれたのか、室井が小さく口端を片方持ち上げていた。
悔しくて、青島は目を反らす。
このひとのこういうとこ、苦手だ。
室井がスッと青島の真横まで移動した。
前後逆を向いたふたりは視線も合わせぬまま、お互いの背を任せる。

「朝七時に家まで迎えに行く」
「俺んち、知ってんの?」
「警察官は常に私生活まで監督下にあることは知っているだろう?無論、君達もだ」
「でもウチの署長はぬるくて、そのへん割とルーズに」
「キャリアになれば上から命じられて、暮らしぶりを抜き打ちチェックしに来るぞ」
「オンナ連れ込めないじゃん」
「連れ込む時は、それなりに対策を練るから安心しろ」

なんのだよ。

「詳しいことは、事件解決が達成した暁にメールする」

そこまで言って、室井が意地悪そうに青島に黒目を向けた。
ほぼ同じ高さの目線から挑まれ、青島がうっと竦む。

「早くデートしたかったら、全力で捜査してこい」
「!!」

言うだけ言って去っていく室井の背中に、青島は苦情を叫ぶことも憚られて、地団太を踏んだ。
むっかつくー!俺に捜査させてくんないのはあんたらキャリアでしょーがー!
じゃなかった、俺に会いたいのはあんたの方でしょうがー!









2.
事件解決の一報が流れたかどうかのタイミングで、室井からメールが入った。
このスピード感と隙の無さは流石キャリア官僚である。
一体室井がどこで湾岸署情報を得るのか悟らせぬまま
そしてまた、青島はクローゼットの前で唸ることになる。

「やっべぇ、最近サボって服買ってないからなぁ。春先って何着りゃいいのか、いっちゃん悩む季節じゃんかぁ」

厚手のジャケットと革ジャンを両手に、クローゼットの中に片足を突っ込む。
週末の天候は快晴の予報だが、春は三寒四温だ。

「大体、動けるカッコしろったって、男なんだから、ヒールもスカートも履かねーっつの」

室井からのメールでは当日は移動が多くなるため、動きやすい格好であることと、寒さ対策をしてこいとの指示があった。
デートプランからしても、確かに防寒は必須だ。
でも季節はもう春だ。

「ってか、デートで死体遺棄とか。見て楽しむ女いんのかね?ありゃ当分童貞だな」

無駄口を叩きながら青島は、うひひと舌なめずりをする。
顰め面を思い出して、だがそこまで必死に青島に食らいつく姿は、悪くない。

「しょうがない、もうちょい遊んでやりますか」

流石にマフラーやニットはもう時期外れだ。
厚手のジャケットも季節感がない。青島は左手に持っていたツイードジャケットを遠くに放り投げた。
となると、ニット帽もだめだな。キャスケット、持ってたっけ。
あとはアウターで調節するとして、革ジャンかGジャンか、トレンチか。
やっぱりいつものコートって絶品なんだよな~な青島は、クローゼットを漁る手を一旦止める。
モッズコートはラクだけど、気抜け過ぎだし、仕事かよって感じだし。だからといって気合い入れすぎるのもな。

確か前回もそんなことで悩んで悩みまくった記憶が蘇り、青島は苦い顔をした。
スーツを着て、いかにも上司のお供ですという体裁も、逆に失礼だと思って、確か清楚系の大人コーデにしたんだった。

「現場巡るんなら、いつものやつ(七つ道具)も潜ませておかないと。白手袋、予備あったかな・・」

迎えに行くと言っているからには、徒歩じゃない。つまり、そこそこ、管内ギリギリまで遠出もしそうである。
郊外は風が冷たいかもしれない。

「それより、まず中に何着込むかだな」

アウター選びは諦めて、今度はハンガーを漁った。
前回がシンプルコーデに、Pコートとニット帽を被ることでカジュアルダウンさせたのだから
今度は違うテイストでいきたい。
二度目のデートは、意外性とあざとさが鉄則だ。

「無地でまとめて無難に落ち着くのはやだなぁ」

全体のカラーをイメージして、白シャツで引き締めるか。ゴールドのボタンがポイントになってるけど・・白は汚れそうだなぁ。
シャツで遊び心を出すのは好きだが、清潔感を考えても、柄物は避けておいた方が良さそうだ。
あと、あのひと、子供扱いしてきそーだし。

「大人め・・大人め・・」

あんまり庶民風情出してもね。こっちが合わせてやりましょ。子供っぽさを出すと、室井は本気で青島をガキ扱いすんだから。

青島がむぅと唸って腕を組む。
顎を上げて目を瞑った。

室井の隣に並んだ自分をイメージして、そこまで違和感のないコンビを作り上げるには。
今回は遠出だ。スーツとまではいわないけど、ひょっとしたら休日のオジサンコーデでくるかもしれない。
だとしたら真逆で年下路線。
舐められるのが嫌で大人ぶった前回とのギャップという意味でも悪くない。

「清楚系?ああ、あのひとのモロ、ターゲットって感じ。それはヤだ。じゃあ、知的ムード路線か・・伊達メガネかけちゃう?」

相手を少しくらいドキッとさせるには、軽く肌見せもテクの一つだ。・・って、俺、前回それで襲われたんだった。

圧し掛かるように室井に口付けられた、あの星空が浮かび、青島はあわあわと首を振って想像を止めた。
光さえも飲み込む漆黒に金縛りになって、きっと抗う隙はあったんだろうけど、見下ろされるままに奪われた。
圧倒的な肉感と、男の気配と、思った以上の屈強さに、流された。

「くっそぉぉ~・・室井さんめぇ」

何となく口唇を拳でごしごしと拭いて、青島は唸った。
今度は俺が襲ってやる。あああ!ちがう!別に交際を深めたいわけじゃなくってっっ。
すみれの顔も同時に浮かび、何となくの罪悪感を覚えて、その場にしゃがみ込む。

「なにやってんだ俺」

しばし膝を付いた態勢で固まり、むくっと顔を上げた。

「そうだ、靴か。靴は黒のワーキングブーツにするから、パンツも黒にしたら、絶対あのひとと双子コーデになっちゃう」

それは流石に恥ずかしいぞ。
室井とのデートは黒は避けるべきだな。覚えておこう。

「だからデートじゃないって!・・あれ?デートになるのか?もう?」

分からなくなってきた。
またひとつ、クローゼットから取り出した服を後ろに放り投げる。
既に青島の背後は服が散乱しており、それが二度目のデートの服を選んで浮かれる少女と同じであることに、真剣な青島は気付いてもいない。

「あぁぁもぉぉ、どうすりゃいいんだよぉ~・・・・」

必死で服を漁る青島は、初デートの時も同じセリフを吐いていたことを思い出す。
最初で最後の思い出作りになるんだと思った。
変わってしまうことが哀しくて、それを自分が答えを下すことがつらくて、必死で、俺。

「あああ、このストライプのシャツにすっか・・?したら、下はジーパン?少しラフすぎ?室井さんがジーパン?ジーパン履くかぁ?」

出来ればこの先も一緒に。その小さな願いを閉じ込めて、未来を選んだ。
でも、今、こうして続いている。

「ブルーねぇ・・、いかにも清潔感を意識しましたっていう手抜きっぽさがヤなんだよなぁ」

クリーム色のシャツは、ジジクサイ。真赤なネクタイとか俺は好きなんだけど、署で不評なんだよね。なんで?

「やっぱ定番色でまとめるのがベターか。トラッドな感じにして」

春の白コーデはちょっとあざとすぎだよな。
落ち着いた印象を与えつつ、ボトムは前回同様細身でいくか。あのひと、足の短さとかコンプレっぽいし。
俺の美脚を見せ付けてやろう。

室井の私服を見たのは、あの日がハジメテだった。
大人の男性ならではの知的なムードを醸し、かつ頼りになる落ち着いた雰囲気漂う着こなしで、割と、その、かっこよかった。
スリムのジーパンなんか履いてても、さっぱりして意外と似合うのかも。

「や、一般目線ね!同じ男としてのライバル的なっていうか――!・・って、俺、誰に何の言い訳してんだろ」

きょろきょろと挙動不審に早口で慌てふためく姿が鏡に映り、自分でハッとする。
少し火照った顔を隠したくて、手の平で目元を覆った。

ボディラインに沿うスリーピースのスリムながら屈強な躯体を晒し、青島に覆い被さってきた、あの肉感が生々しい。
折り目正しくすっと一礼するその無駄のない動作まで、室井愛用の整髪料が強く感じた。
何を思い出しちゃってるわけ、俺は。

「ああああ!グレーね!いいね!おとなだね!」

この熱が知りたい。この衝動が何なのか確かめたい。

「ああ、もうこれでいこう、これで決まり!みんな悩殺だっ」

そうしてその日がやってくるのだ。
今度はこれが最後とならないようにと願える、それだけで、どこかホッとしている自分がいる。
どこか悔しさを残して、また室井と向き合う。
決戦は明日だ。











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