ショートショート~あ の日のキスを10題
10000HIT記念にキスキスキス!「あの日のキスを」/「禁忌の恋に落ちた」から一つずつ組み合わせて5つの小話を。前作5000HITに合わせ 5題 連作。 
時間軸はOD3直前。別れた二人の物語です。
終了ジャンルでFINAL後に立ちあげたサイトでしたのに10000越えになりました。感謝を込めて。五作完成。2018/2/6~2018/2/13





01. 思い出のキス(しあわせの代償は)
line
「所轄のクソガキな、係長になったと聞いた」

酒の席で突如振られた話題に室井は盃を口許で止めた。
スッと、瞬きもせずに切れ長の眼差しを手前で同じく酒を舐める男に向ける。
その温度もさざ波一つ悟らせない脱俗ぶりに、手前の男・一倉はにやりと満足げな笑みを残して盃を煽り、新たに酒瓶を手に取った。

ここは東京。地方にはない独特の喧騒と鬧熱が昼夜なく牽引する交差点が首都に復古したことを認識させる。
経済の中心となる華やかな街の一角にある料亭居酒屋で、室井は一倉と久しぶりの酒を嗜んでいた。
一倉が指揮を執る事件が解決したところだった。
祝いがてら労えよとの誘いが口実であることは分かっている。

「俺の忠実な部下が仕入れてきたネタだ」
「何故君の部下が所轄の情報を」
「本庁キャリアには下々の振舞を監視する義務もあるからな」
「そんな見え透いた理由で納得すると思われているのか」

溜息の強さで室井が小さく嘯けば、手元で透明の液体がキラキラと揺れた。

ここ数年、こうして二人きりで過ごす時間が増えた。
広島に赴任している間も、暇を見つけては一倉は通い詰め、そして二人で酒を交わした。
とは言え、まるで禁忌のようにお互い触れてこなかった話題だ。
何故今唐突に差し向けられたのか。その真意が読み取れず、室井の静謐な漆黒が闇を宿したまま一倉をまっすぐに視界に収める。
警戒とも威嚇とも判然としないその眼差しに、軽く苦笑を潰すと、一倉は自分の杯も透明の液体で漲らせた。

「相変わらずアイツのことになると手厳しいままなんだな」
「俺を試したのか?」
「まさか」

六年前のあの日。
空港へと向かう室井をただ一人追いかけてきた男は、一倉だった。そこでいきなり室井を抱き締めた。
警察学校時代からの付き合いで、新宿北署の事件に発した権力抗争に事実上室井を袖にした男が
何の冗談だか最後に室井に残された。
好きだったと、ずうずうしいほど身勝手に翻意した告白に、怒りが湧くより、ただ、疲れたと室井は思った。
大事すぎて手を出せなかったんだと、一倉は語った。
その言葉は嫌というほど室井にも覚えがあるもので、その言葉に室井は陥落した。
結局、自分はこんなにも弱い。
唯一つの手綱がなければ、宛てもなく時空を彷徨う。

「勘繰らせたなら謝るよ。ただな、墓場まで持ち込む筈だった秘密を抱えることが、辛くなった。歳かね」
「刑事ならそんな都合の良い遁辞も覚悟の上だったんじゃないのか」
「お前との仲に利権を持ち込みたくなくなったんだよ」

その利権と派閥とやらに誰よりも中毒となっていた男が悪びれもせず痴れ事を言う。
呆れて室井は横を向き酒を舐めるに留める。
ただ、東京に返り咲いたとはいえ、ほぼ室井は経歴に傷のついたキャリアだ。
まして一倉と顰蹙すべき関係を始めた頃は更に状況は絶望的だった。
一倉の言っている意味が少し的外れのようで室井は小さく首を傾げる。

「本気で惚れている。前よりずっとな。だから、後ろめたいことがある」
「・・・・」
「歳を重ねると自分の限界と終末が見えるってホントだな。割り切った顔をして収めてきたことも、それを支える盛りは越えた」
「泣き言を言うには早いだろう」
「どうだかね。歳には勝てんよ。・・・いや、歳のせいにしておきたいのか」
「・・・・」
「惚れた奴を檻の中に閉じ込めておきたいなんて思う野郎はいねぇだろ。誰だって自分より幸せってやつを与えてやりたいさ。お前にも憶えがあんだ ろ・・・?」

視線を合わせずに一倉は静かに吐露した。
室井は苦くなった酒を、伏目がちのまま湧き上がるかつての悪辣な記憶と伴う郷愁を同時に飲み干していく。

――あれも六年前だった。
まだ新宿北署に派遣要請が出る前、誰より愛おしく、誰より大切にしていた相手を突然失った。
ただ一度、熱い躰だけ与え、そのまま翻された。
追いかけたかった。縋ったっていい。傍に居てくれとみっともなく懇願してしまいそうだった。でも苛酷な運命は室井を更に奇襲をかける。
能力を誤算した部下と、夢見がちな自らの指揮の失敗により、辞表を出さざるを得ない状況に追い込まれ、結果的にこの東京を離れることになった。
物理的な距離も、心理的な距離も、室井をただ痛めつけ、守勢に回らせた。
あれは、俺が裏切ったことになるんだろうか――

“・・・っ、ろぃさん・・っ”
“おとなしく”
“ん・・っ、くるし・・ってば・・っ”
“離せないな・・”
“ふぅ・・っ、ぅ、・・はは、・・ん・・ぁ・・・”
“まだ足りない・・・”

全然足りない。
甘いキスは今も室井の深いところで突如熱風のように舞い上がる。そして室井の息を殺させる。
あれから肉熱も感触も忘れるくらい他の人間とキスをしたが、まるで魂に刻み付けられていたかのように
その痕跡は室井の中で時を経ても抗議し、消えはしない。
ここ数年、なるべく考えないように、忘れるように意識して努めてきたのに、このざまだ。

“ねっ、てっぺんまで行けよな!”
“簡単に言うな”
“やるんだろ!俺、付いて行きますから!どこまでも・・!”
“・・・ガキ”
“えぇー?俺、一生捧げる覚悟しちゃいましたよー?”
“君を護れなくなるかもしれないのにか”
“そんときは・・・派手に行きましょう”
“いいだろう”

冗談に嘘を隠し、漫ろ言に本音を潜めて、寝物語で夢を語った。
一瞬で消えた幻は、夢の残骸そのものだ。
結局、自分には知略も器もなかったということだ。官僚としても男としても。

渦巻く凶悪な甘さは眩暈すら呼び起こし、室井は自ら思考を閉ざし、一倉が注いでくれた酒を最後まで一気に喉へ押し流した。

「で?この話の狙いはなんだ。今なら聞いてやる」
「・・ふっ、その動揺が俺を不安にさせるんだがな」
「無駄口はいい。さっさと話せ」

腐るな。諦めるな。
広島の六年間、頓挫しても音を上げることはそれこそ最悪の裏切りであると分かっていたから、静かに強かに時を待った。
そんな室井の傍で一倉は何度か室井の心魂を心配していた。
遠くからは新城が便りをくれた。
時折、沖田が土産を添えた。
独りじゃない。それは皮肉にも、独りで粋がっていたかつての自分を戒め、戦おうとしていた自分を慰めた。


「六年前の話だ」

一倉の心持ち低い声が鼓膜を振動させた。
符合する時間軸に、室井の身体に僅か緊張が走る。

「お前の様子に一抹の不安を感じた俺は所轄に直接出向いた。そこで始末に負えねぇことをしでかした」
「なに、を、した・・?」
「滑稽話さ。あの若造に、直接制裁を加えに行ったんだよ」
「!」
「そしてあの日、俺たちもまた、今生の約束を取り付けた――」

“てめぇ・・!室井に何をした・・!”
“なんでアンタにそれッ”
“御託はいいッ、分かっているのか!室井はキャリアなんだぞ・・!”
“そんなの分かってますよっ”
“分かってねぇよお前は!その胸に仕舞ってあるもんがマジならさっさと去れ!てめぇの欲望押し付けてんじゃねぇよ!”
“アンタだってわかってないじゃん!アンタたちの存在ってなんなんだよ!俺たちは・・っ”
“俺たち?ノンキャリの分際で一括りに語ってんじゃねぇぞ・・!下衆がッ、虫唾が走る”
“室井さんには理解者が必要なんだよ・・!分かるだろ!”
“室井を潰す気か・・!何の責任も取れないクソガキに何が分かるッ”
“じゃあ何であんたは何もしないんだよ・・!”
“傍に居てイイコイイコ甘やかすだけが愛情だなんて思うなよ。欲しがるだけの小僧の理屈が大人の世界にいつまでも通用するか!”
“ッ、・・ッ”
“男だろ、惚れたモン護れねぇで恋愛ごっこしたいなら他当たれよ”

あの日の湾岸署の屋上はとても冷たい潮風が吹いていた。


「いつの話だ・・?」

僅か低くなった室井の声色に、一倉は不意に戻る喧騒と暖房に口端を少しだけ持ち上げる。

「お前が新宿北に行く直前だ」
「――!」

ならばそれは、あの夜の前なのか。
室井の気難しそうな白い指先が更に白く力が入る。
雨にずぶぬれとなった夜の影が、甘い夜を残して消えた。

「怒るか?蔑むか?」
「何故それを今になって言う気になった」
「お前を信じている・・・ってのと、やっぱ、良心の呵責かなぁ・・・」
「勝手だな」
「おうよ、男は勝手な生き物だよ」

全くそうだ。
室井もまた、一倉を責めることはせず、瞼を静かに伏せた。
だとしても、室井が見限られたという事実には変わりない。

にじり寄った一倉が顔を寄せ、了解を得たとばかりに室井に顔を寄せてきた。

「・・おい、」
「いいじゃねぇか、誰も見てねぇよ」
「場所を弁えろ。外での軽はずみな行動は慎め」

静かに窘め、室井の腕が一倉の胸を押し返す。
一倉の指先が名残惜しむかのように室井のシャツの際をそっと弄んだ。

堅気のまま、潔癖で頑固な男は、外で気安く触れることに強い嫌悪感を持っている。
まだ抵抗を見せる室井の眼差しが、一度凛と光った。
男同士というアンモラルさに恥入っているのかと一倉は思ったが、そこの所はあっさりと腹を据えていて
むしろそれ以上の自律的な戒律があるらしかった。
室井にはそういう度胸と言うか、王者の器が時々感じ取れる。

そんな男があの夜、一倉の懇願に折れた。
何故口説き落とせたのか。それは敢えて気付きたくない真理に埋もれている。

理性を引き千切れない室井の性分を良く見知り、臍を曲げられると慰めるのに苦労することも知っている一倉は
肩を竦め引き下がった。
障子を薄く開けた向こうの色とりどりに色付く夜の街を漫然と顔を向ける。

「アイツ、頑張ってんだな。あの頃はお遊び半分でお前を振り回すお茶らけた男だと思っていたが・・案外根っこは純真なのかもな」

それは、一倉から見るとどこか室井を彷彿とさせる。

「もし会ったら、そこんとこは謝んなきゃな」
「嘘だって時に愛情になるだろう」
「それが相手のためと思っているうちはな・・・逢いに行くか?」
「・・・いや」

甘い熱だけ残して消えた男に今更どんな顔をすれば良いというのか。室井は囚われるのはもう御免だった。
あんな風に根こそぎ奪われ、なのにその全てが水のように零れ落ちる果てしない絶望感とあの恍惚を、もう一度味わうには歳を取り過ぎている。
でも、逢ったら絶対気持ちが揺らぐ。
そこからもう六年も歳月を経てしまった時間は、果てしなかった。

室井は嘲笑に似た笑みを滲ませ、不意に湧き上がる不穏な感情を悟られぬよう、一倉に返杯を問いかけた。
それを、一倉も黙って委ねる。

キャリアは互いに心理を悟らせない術を持っている。
無口で高潔な印象の室井は、その感情をあからさまに見せることはほとんどない。
それはこの話の着地を見せない一倉もだった。
こうして冷たく長い時間を、酒とこの男と、共に生き永らえてきた六年だった。

「あの時のこと、今も後悔してるのか?」
「思い出話をするようになったら男は終わりだって言っていなかったか」
「一度聞いてみたかった。でも聞けなかったんだよ」

女々しいやつだと罵りだしそうな室井の表情は、長年付き合ってきたからこそ見抜ける、一倉だけの特権だ。
例え誰に心揺れようとも、誰に執心しようとも、繋がって、変わらないものはお互い確かに積み重ねられている。
間違ったことはしていない。室井の意思はここにあると一倉には思えていた。
これ以上、どうしようもない。

「後悔させるつもりか?」
「いや・・まぁ、な」

独りで生きていく。時々それが無性に不安にさせられる。この先の果て無い時間を堪え切れるのか。
清く正しく綺麗に生きるには、この世界は冷たすぎる。

「お前こそ、良心の呵責とは結局なんだ?」
「・・だからよ、俺の忠告で身を引ける程度の遊びかと思ってたんだが、もしかしたら今もアイツ、お前を待ってんじゃねぇか?」
「―・・・」
「結婚もしてないらしいぞ」
「だったらなんだ」
「そしたら俺、腹、刺されないかな」

戯言に戯言で返しながら、室井は眩暈を起こすほどの追憶に堪え切れない瞼を落として誤魔化す。

そうだ。そういう熱い男だった。あの海の匂いがする彼は。
諦めが悪くて、時に狡賢くも狡猾にもなれて、だけどどこか子供っぽくて危うい。
真っすぐで、鮮烈で、室井には目も眩むほどのイイ男だった。
そんな甘い誘惑に溺れてしまった代償は、あまりに大きい。

「一度は本気で惚れた男だろ」
「・・・そう、思っていたのか?」
「過去に拘る年齢ではなくなったからな。本気、いいじゃねぇか」

一瞬の邂逅で掻っ攫われた末に待っていたのは、背徳と罪と、それから何だろう。
強欲で恥知らずな情欲は行き処を失って室井の裡で爛れていく。
一倉が青島に何をしたのだとしても、室井が見捨てられたのは事実だった。どうして室井を信じてくれなかったのか。どうして室井を頼ってくれなかったのか。
どうして室井を。
そこまでの男にはなれなかった。最初から、高根の花だった。
それを六年越しに問い質したところで、今更、合理的な結論など得られるものではないだろう。
きっともう、忘れている。

「行ってやれよ。そこまで一途にされると俺の寝覚めが悪ぃ。遠くで頑張っているのは少なくとも事実で、恐らくはお前のためだ。そこは認めてやってもいいと 思 うけどな」
「余計なお世話だろう。彼には彼の人生がある。俺のやるべきことも残してくれた。それでいい」
「素っ気ないもんだな」

一倉の手が室井の顎にそっと添えられる。
軽く上向かせれば、睨むようにその眉間が寄せられた。

一倉としては賭けだった。
我が物となって久しいこの美麗な男が何を考えているのか、ベッドの中でも悟らせない。
執拗に責め、焦らし喘がせても、美しく昂るのは身体だけで。
恥部を露わにさせ辱めても、快楽に堕ちて潤んだ黒目がじっと一倉を映すだけで。

それでも室井が、好きでもない男に黙って長年身体を赦すほど器用でないことは一倉自身よく知っていたし
警察学校時代から築いてきた友愛なるものも直向きに向けてくれていることが、辛くも一倉を信じさせた。
ただ、だとするなら室井の心は今どこにあるのだろう。

「六年たっても遠くでそんな純愛貫くお前らに、ちょっと妬けるね」

ほんの少しの興味だった。
今の室井と青島を逢わせて、どうなるのか。何が起きるのか。何か起きるのか。










02. 約束のキス(夢ならばここで終わらせて)
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「あれぇ?」
「どしたの?」
「鍵がない・・・」
「家の?」
「そう」
「さっき落とした時じゃない?」
「あ~・・、きっとそうだ」

やっべ、と青島は額に片手を充てて空を仰いだ。
先程まですみれと二人本店に呼び出され、用事を済ませたところだった。その帰り際、エントランスロビーで派手に中身をぶちまけた。
慌てて鞄を取り上げたら逆さに持ってしまったようで、中身が派手な音を立ててあちこちまで散在し、本店の連中に嫌味を言われてきたばかりである。

「あっちゃぁ・・・」
「んもぉ、何やってんのよ」
「すみれさんが急かすからじゃない?」
「急かしたのは本店」
「拾ってくれても良かったよね」
「だらしないからよ」
「だってさ、緊張するわけよ」
「確認しなかったの?」
「ずっと入れっぱなしで大凡しか把握してないんだよ」

仕方ないわね、とすみれが肩を竦ませる。
長いストレートの黒髪は今どき珍しい天然だ。

「合鍵はあるんだよね?」
「あるけど・・・しまったな~・・・」
「ゴミと間違えられないといいね」
「ちょっと!」
「ま、本店なんだから悪用されることはないんじゃない?」
「それはそうだけど・・・まずいことが・・・」
「なにがよ?」

不思議そうに小首を傾げるすみれに、青島は苦みを乗せた目尻を少しだけ歪ませるに留めた。
言って、理解される類じゃない。
あの鍵には、歪な過去がこびりついている。


“ねぇ、キスちょーだい”
“たまにはおまえからしてくれてもいいんだが”
“好きって言ってくれたら”
“言わせたいのか・・・?”
“俺が聞きたいの”
“男は不言実行の方が良い”
“ずっちーの!・・て、ぁ、しまっ・・、・・んんっ”
“・・・”
“んぁ、・・はは・・ん、も・・っ、待っ・・・、無理・・ッ、も、・・・っ”
“・・いいから・・・”

腰から崩れそうに呼ばれる、ちょっと低めの声。
甘く激しいキスは想像以上に蕩けそうで、必死に追いかけるしかできなかった。
火遊びなんかしない室井の舌技は、つまりは実践のみの本格派で、手数熟してきたつもりであった青島の小手先も背徳も、それこそ自尊心から奪い取り
抱きたいと、その目が告げていた。
お互いの瞳の奥に隠すものに気付きながら、それでも純愛を貫いていた。
甘いキスに酔って、熱い指先に震えて、一つに繋がることを求められる爛れた心が現実を蝕んでいたことにも気づかずに。

“てめぇ・・!室井に何をした・・!”

冷や水を掛けられたように浴びせられた罵倒は今尚鼓膜の奥で繰り返し啼いている。
心を殴られたようだった。
何も言い返せなかったのが悔しかった。
惹かれ合った煌めきまで穢された気がして。
でも、穢したのは一倉じゃない。自分の方だと分かっていた。
言い返せないのは罵られたことを自分が認めている証拠でもあった。

“むろいさん。俺ね、あんたと居るこの時間が一番すき”
“どした?”
“塞いでよ・・”
“珍しいな”
“・・・のーこーなのがいい。何も、分からなくなる、くらいに・・・”
“ったくおまえは・・・ッ”

衣擦れの音。口唇に触れる熱と途切れる吐息。それ以外は何もない白い部屋。

“・・、・・っん・・ふ、ぅ、・・、もっと・・・”
“ここまでだ”
“・・・ヤだ・・・、こんなもん、かよ・・?”
“・・・ギリギリのくせに・・”
“むろいさん・・・”
“駄目だ止まれなくなる”
“・・・だめ・・?”
“いいのか・・・?”

夢ならば夢だけここで終わらせてやる。
終わらせることが愛情だというのなら。
“憶えててね・・・あんたに全部あげるから・・・夢も、未来も、恋も”
道連れにする既成事実はある種の反抗であり、内に潜む狂気だったかもしれない。
室井に憶えていてほしくて、自分に全部を刻み付けておきたくて、その他に、彼に与えられるものなど本当に何もないことを思い知った夜だった。


「・・くん、青島くんってばっ」
「――ああ?ごめん、何?」
「何じゃないわよ。本店に連絡入れてみたらって」
「そうだね・・・考えとくよ」
「あぁあ~、なんかヤらしいこと考えてた顔だぁ」
「ヤラシイって何だよ」
「あたし、そういうの分かっちゃうのよね」
「なんで?」
「女の子だからかしらね?」
「なんだそれ?」

ふふ、と笑ってすみれが後ろ手に手を組み青島の周りをくるりと回る。

「好きよ、青島くん」
「えぇ・・っ、ちょッ」
「あ~、信じちゃった」
「嘘なの?」
「そこは当てなさいよ自分で。だから置いてかれるのよ」
「イタイとこ突くなよ・・っ」

言いながら、すみれの瞳の奥に隠されているものに青島は本当は気付いてはいけない気がしている。
知って、どうなるものでもないものなど、この世に五万とあるもんだ。

「ねぇ」
「ん?」
「帰ってきたみたいよ?」
「・・・・・・・・へえ」
「さっき本店で聞こえちゃった」
「・・・・」
「今度は優しい世界だといいね」
「・・・そうね」

適当に話を切り上げ、その場を後にする。
この六年ずるずると縋ってきたものを失ったというのなら、それは潮時なのかもしれない。
物理的距離は心理的距離を相似する。
心に刻み付けられた傷を忘れたくなかったのに、忘れることも願ったあの夜の矛盾は渦を巻き、まるで知らない自分を引き摺り出した。
それでも烈しさと確かさで青島の足を竦ませたあの頃は、もう遠い。
苦しみを選ぶしかないのだ。
そんなこと、分かっていた。嫌になるほど。
たった一度だ。たった一度、与えられた熱を抱いて、追憶は今も狂おしく俺を急き立てる。

男に貫かれ、脚を広げて切なく喘ぎながら、そんな風にしかあの清廉な男を慰める方法を知らなかった。
もっと違うものを抱いていた筈だった。
その時の答えは今もまだ出せていない。

***

湾岸署の屋上へと出ると、泣きたいほどの青空が浜風を運んできた。
湿っぽい大気の中で、青島は馴染みの煙草を取り出し、火を点ける。
この街は、青島にとって始まりだ。
失くしたものも得たものも、みんなこの街から始まった。

「さっみぃですねぇ・・・」

ふわっと吐き出す紫煙は青に吸い込まれ、雲なのか陽光なのか、青島の淡い細髪を揺らし、眩しさだけが残光する。
かけがえのないものを凝縮したようなあの鍵は、そんな青島にとって護符のようなものだった。
今も胸に残るこの靖国神社の御守りのように。
自宅の鍵。ロッカーの鍵。そして、もうひとつ。


“官舎の人間だから、すまない、渡せない。・・・というか、無いんだ”
“んなのいらないですよぅ。あんたのいない部屋に行ったってつまんない。あ、でもウチのいる?”
“俺にそんな可愛いことしたら毎晩のように押し掛けるぞ”
“過重労働者のあんたにそれが出来んならやってみれば”
“・・・”
“あ、じゃあさぁ、代わりにあれちょーだい”
“アレ?”
“へっへー”
“あんなのがいいのか?どこにでもあるもんだろう”
“だからバレないでしょ?だめ?”

室井が徐に立ち上がり、青島の指差すスーツのジャケットから第二ボタンを引き千切った。

“やる”
“・・大事にします”
“じゃあおまえの、俺にくれるのか?”
“駄目ですよ。あんたは俺の証拠を残さない方が良い”
“・・・・・・・・・・・狡くないか?”
“あ~やったぁ。卒業シーズンの女の子の気持ちが今理解できるよ~・・・ん、ここにつけとこ”
“昭和の風習だろ既に”
“負け惜しみ?”
“!・・、おまえこそ、もみくちゃにされたクチか”
“そこが男の成績ってね”
“チッ、無駄にモテやがって”
“妬いたの?もぉぉ~・・・//////”

「ああぁぁあ~・・・・俺って女々しくないかぁぁ~・・・?」

自分の記憶に膝から崩れ、ぎゅっと固く目を瞑る。
失くして困るものじゃない。自分にも、室井にも。

自分から逃げ出した。
室井は追いかけてはくれなかった。

柔らかくて優しい記憶は、その温度の分、心の襞を搔き乱し、まるで鈍器のように重くずしりと圧し掛かる。
それは油断した不意を突き、心の柔部をザクザクと切り刻んでくるのだ。
結局、自分はこんなにも弱い。
唯一つの手綱がなければ、宛てもなく時空を彷徨う。

「やれること、やってんだからもぉいいじゃん俺~」

過去に縋ることは、臆病なんだろうか。
遠く離れても、約束は繋がっている。きっと、最後のキスの意味も伝わっている。
俺たちだってそんな柔じゃなかった。運命に負けたからって、人に負けたわけじゃない。俺たちの勝負はまだついてない。
昇進試験を受けたのは、頑張っている証を示したかったからだ。
そして、今度逢えることがあったなら、その時は――――今度こそ、置いていかれないように。

最後まで吸い終わった煙草を乱雑に灰皿で揉み消した。

「うっしッ」

ファイティングポーズをして青島はモスグリーンのコートを翻す。
まずは一歩。ちゃんと前を歩けている。だからいつか遠く笑い話にする。
感傷すら許さないかのように、ブブブとスマホが胸で震動した。

「はぁい!あおしまっ」










03. 不器用なキス(きみのいない未来だけ)
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「しっつれいしまぁ~・・・す」

音もなく障子がスライドし、そこからひょこんと現れた男に室井は目を剥いた。
向こうも絶句して言葉を失い立ち尽くしている。
愛くるしい瞳はそのままに、記憶の中にしかいない筈の焦がれた心像がそこに大人しく降臨していた。
六年も歳月が積み上がっている筈なのに、その面影はあの頃のままで
光の悪戯か、何度も咀嚼した柔らかい髪は深い飴色に弧を描き、目元までかかる奥から艶めく瞳は相変わらずの珠玉だ。

情けないほど身体が動かせない。
正面から認識し合った視線は外すことを恐れるかのように、探ることさえ忘れ、室井と青島はただそこで見交わした。


「・・・どうして・・・ここに」

遠くで女将が客を迎える威勢の良い声で我に戻り、ようやく先に室井が絞り出したような枯れた声で問いかけると
青島もハッとして視線を彷徨わせた。

「・・ぁ、っと、その、俺・・・・一倉さん、に呼び出されて・・・・」
「!」

その名を聞いた途端、室井はミスに気付き、眉間に皺を寄せた険しい顔で、鋭い指先がポケットにスッと吸い込まれる。
アドレス帳の一番上にある名前をリズミカルにタッチする。
予測していたのかもしれない。コールは電波の届かないところにいるというアナウンスを機械的に繰り返すだけだった。

「・・・・」
「俺も繋がらないや・・・」
「逃げやがって」
「ぇ?」

流れる動作で通話を閉じると、室井は肩で大きく息を吸いながらスマホを胸ポケットへと戻した。

「あの・・・ぅ、一倉さん、は、なんて・・・?」

座ったまま、室井はじっと青島を見据えるように見上げる。

過去にケジメをつけろ、か。
恐らく一倉の言いたいことはそういうことだ。
淫らな関係をダラダラと義務的に続けてきたが、室井の胸の内に残る僅かな躊躇いにはきっと気付かれていた。
こんな乱暴なやり方しか出来なかったのは、それだけ一倉もまた過去に囚われていたのかもしれない。
そうさせたのは室井だ。
確かにこのまま曖昧な関係を空々しく続けていっても何の生産性もないんだろう。

室井は意志を秘めた漆黒の瞳を深め、所在なく困った様子の青島に口を開いた。

「座ったらどうだ」
「あ~・・でも、」
「私も一倉に呼び出された。二人で飲めという算段だと思う」
「えぇ・・・?」

仕事中に何かトラブルがあったのか、青島の額際には大きな絆創膏が張られていた。
視線を部屋の中へと当てもなく浮浪させながら、鞄を持つその手に力を込めたのが室井の視界に入る。
逃げられてしまうだろうか。また。

「――座れ」
「んん~と・・・でも・・」
「飯は食ったのか」
「や、まだです、けど」
「勘定も恐らく一倉持ちだ。好きなだけ喰らいつくせ」
「・・はは」

呆れたように情けない顔をした青島はようやく少しだけ頬を綻ばせて俯いた。
座っている態勢のせいで、その甘い口許が一文字に引き結ばれているのが髪の間から見受けられる。

「昇進したと聞いた。祝わせてくれてもいいだろう」
「べっつに、そんな大層なもんじゃないですよ。あんたに比べたら」

憎まれ口を叩きながら、それでも青島は柱に背を押し付けるとその入り口にずるずると腰を下ろした。
ぺたんと座り込み、胡坐を掻いた格好となってその両足首をコートから僅かに覗く丸い指先で掴む。

「いいんですか」

俺で。
そう問いかける言葉少なの口ぶりは、そう言えばこうして瞳を交わし合うのはあの夜以来だったことを想起させた。
熱く滑る身体を重ね、一つとなって、そのまま挨拶もせずに霞のように消えていった、たった一度だけ与えられた倒錯の夜。
闇に縁どられる妖艶な幻影が、情けなく歪んだままの脳裏で何度もリフレインしていた。
歳月を経て今、灯りの元で向き合うことを赦されている。

睨むような強い眼差しからそっと逃げ、室井はテーブルに並べられた食材を一瞥し、向かいの席の盃に酒を注いだ。

「ここは鯖の煮付けが旨い。今は丁度旬で脂も乗っている」
「・・・・」
「独りで平らげろとでも言うのか」
「――そーゆー強引なとこ、変わってませんね」

諦めたように青島がくしゃくしゃと髪を掻き回し、ひとつ悪態を吐くと、四つん這いの不作法なまま近づいてきて
室井の手前の席に座った。
酒瓶を奪い取り、無造作に差し出される。
注いでくれると分かるその仕草にそぐわない、むくれた顔は、室井は良く知っていた。
少し照れてて、困ってて、でも嫌がってない。

黙って盃を差し出せば、そこに青島がトクトクと心地好い音を立てながら湯気の立つ液体で満たしてくれた。
黙ったまま同時に酒を舐め、盃を置くタイミングも同時となる。

「うっまそー。いっつもこんなん喰ってんの」
「たまにだ。精が付くものをと――」

言いかけ、何だか性欲を仄めかしているようで思わず言葉が止まる。
一度抱いた相手の前で言うのは、何かを警戒されそうで、相応しくなかったかもしれない。
途切れたせいで微妙な空気になる。

「~・・・っと、俺、昼抜きだったんで、うまいれす」
「一倉とは連絡を?」
「番号知ってるくらいですよ」
「そうか」

上辺の会話は、空々しく二人の間に鎮座する。

「・・その怪我は」
「殴られました」
「・・・・」
「逮捕んときは気を付けろって和久さんに散々言われたのになぁ。俺、まだまだっず。・・ん、これいい味」
「係長になれただろ」
「他に人手がないんでね」
「・・・君らしい言い訳だ」

ぱくぱくと大口を開けて勢いよく食べていく姿は見ていてとても心地が良い。
じっと見つめる漆黒の眼差しに気付きもせず、青島の前から勢いよく食物が飲み込まれた。

「俺わね、あんたみたいに身の程超えた目標なんか言えませんから」
「・・・・」

身の程知らずと罵りながら、それでも夢ではなく目標と表現する。
青島の本音は分かり辛いが、分かり易い。
言葉を敢えて挟まず、瞼を落としてゆっくりと酒を流し込めば、案の定青島の方がしなくてもいい言い訳を始めてくる。

「帰ってきてたんですね、こっちに」
「・・・・・ああ」
「あんたもしぶといね」
「君ほどじゃない」

瞼を落としていても、目の前で青島が微かに笑ったのが感じ取れた。
きっと新宿で何があったのか、全て知っているのだろう。
室井の過去も、失態も、もしかしたら今一倉とどうなっているのかも。

不器用な愛し方しかできなかった。
君のいない未来だけが残されて、失ったものの大きさに呼応するものが、心の芯を駆け抜ける。

「まあ、二度同じ失敗はしない」
「そうこなくちゃね」
「見限ったか」
「直球で来ますね」
「・・・・逃げても、仕方ないだろう」

朗らかな笑みを見せられ、室井は胸の奥からきゅうっと締め付けられた。
具体的なことを何か言うわけじゃない。夢見がちな子供の大望を実現不可能と分かっていて口にするような、そんな他愛ないやり取りだ。
それでも青島に言われると何かがストンと室井の中に落ちる。
他の誰でも届かない奥底にするりと何かが入ってくる。

「君こそ・・・今どうなんだ」
「コッチは相変わらずですよ。みんな室井さんのこと心配してましたよ。あの頃と変わりない――・・」

あの頃とはどの頃なのか。
付き合っていた頃を匂わす言葉に気付いた青島が、箸を宙で止めたままぎくしゃくと固まった。
明らかにしまったという顔をしている。
会話が途切れたせいでまた微妙な空気になった。

「真下くんが署長になると聞いている。体制も変わるだろう、これから」
「うっそ、マジ?」

敢えて鈍感を装ってやり、話題を少しだけスライドしてやった。
ほっとしたような、何とも言えない顔になる青島に、気を遣わせていることだけは見て取れた。
全く、何か、色々、やり辛い。

「すみれさんが怒りそうだな~・・・、黙っとこ。あ、これなんだ?」
「喰ってみろ。覚えておいて損はない味だ」
「モノ食う時まで官僚は大変ですね」
「君もそろそろそういうことも意識しておいた方が良い」
「事件で?」
「まあな・・でもそれは滋味に富んでいて、意外と衝撃的な味だぞ」
「へぇ」

好奇心に満ちた少年のような瞳で青島が皿に装飾された包みを箸で弄ぶ。
こんな風に、いつまでも傍で何気ない日々を重ねながら生きていけると思っていた。
彼の隣にいるのは自分だと思い込んでいた。

穢れ、澱み、他の男に身を委ねた男に、今更素直になれなんて馬鹿げている。
でも、やっぱり。俺は。

「官僚って食事にも気を使ってんですか?」
「肉体改造でもしたいのか」
「ふぅん、今度レシピ教えてくださいよ。室井さんの味って知りたい」
「・・・」
「・・ぁ、ああ、変な意味じゃなく!」
「あ、ああ」

慌てて顔の前で手を振る青島の頬が少し桃色に染まる美しさに目を奪われながら、室井もまた横を向く。
包みを開けるのに四苦八苦し始める青島を察し、室井が指先を延ばした。

「ここから開けるんだ」
「うっわ、零れる・・、ん!うっまっ!」
「だろ」

一倉なら気を揉んでくれるだろう。新城なら心裂いてくれるだろう。
だけど違う。
同じ場所に足を置いている安心感。同じ方向性を見ている充足感。心の奥底から搔き乱すように湧き上がる衝動は
悔しさとか醜さとか、室井を綺麗に象る箱を手加減なしで破壊し、漁火のような激情を灯す。
周りが思うほど自分は潔癖ではないし、優秀ではない。その丈違いの鎧を脱がされ、裸で勝負を挑まれる。
好きとはどういう感情だったのか、封印していた何かが解けたように思い出してしまった。
嗚呼、なんて心は残酷で無慈悲なのだろう。

「・・・あの、さ」

少し緊張した声色に、室井は息苦しさに喘ぐように閉じていた瞼を上げ、真正面で逆に俯いてしまった青島をまっすぐに見た。
つむじがふわふわとエアコンに揺れている。
あの口唇に触れた。あの声がすきだと告げた。
ワイシャツの下には肌理の細かい艶肌が汗で滑り、病弱な色白ではない、よく熟れた旨そうな色をして薫っていた。

「怒ってます・・・?」

あの夜のことを言っているのだとすぐに分かった。
嘘は吐いた相手がそう思っているうちは愛情だと一倉は言った。
青島の吐いた嘘はどこまでが真実でどこからが虚構なのだろう。

でも嘘は、きっと室井のことをたくさんたくさん考えて言ってくれた言葉なんだと思う。

「いや」
「もう、六年だもんね・・・」

その言葉で、青島の中では終わっているのだということを室井は確信した。
同時に今になって気付く。
一倉にはきっと見透かされていた。
では、青島ともこうなることまで予測していたんだろうか。
官僚である以上、心理を悟られるようなミスは失格だ。
室井は思い知らされた現実に、いかに自分が夢の中で留まり続けていたかを肌で知る。

でも、過去は終わっても未来を始めることは可能だろうか。
そんな諦めの悪い強欲で凶暴な欲望を身の裡に飼う自分に、自分で呆れてくる。

「そやってじっと見るの、癖?だよね?」
「・・そんなに、見てたか」
「ん・・・、照れくさいです。なんか・・その、」

拳で口唇を押さえ、前髪の奥の青島の目尻がわずかに染まる。
困らせていることが分かり、室井は食事を続けるふりをして心の中に強固な一線を引いた。
青島はもう昔を准ることは嫌なんだろう。
過去は失われた。でも未来まで失いたくはない。人はそうなって、ようやく足掻いて踠いて明日を生きていく。

「青島」
「はい?」
「東京に帰ってきた。ここからだ。いよいよ最終決戦が始まる」
「!」

恋は二人を裂いたとしても、あの約束は室井の中に残り、室井のものだ。
今度は負けない。それだけの力も付けてきたつもりだ。
その努力だけは、無駄じゃなかった。

そんな室井の決意も未練も敏く嗅ぎ取った青島の瞳も、挑発的なきらめきを宿す。

「ふぅん?黙ってて付いてきてもらおうなんて甘いんですよ」
「どうすれば?」
「欲しいものは自力で奪えばいいんじゃないですかね?」
「・・・・」

全く始末に負えない。どんな手を使ってでも、君を絡めとりたい。夢中にさせたい。

「その言葉、どちらの意味かは聞かないでおく。二度目はない」
「同じ言葉、返しときます」

俺の下心を君は知らない。
ぽりぽりと頭を掻いて右に左にと視線を彷徨わせていた末に、青島がくしゃりと笑って頷いた。

「んじゃ、連絡先、交換しときます?」











04.強引なキス(いつか罪に呑ま れても)
line
「・・・待て、話がある」

何かを秘めたような漆黒の瞳はまるで闇の中から現れたように濡れる。
室井が一倉の部屋を訪れるのは珍しくない。
扉を閉ざすのも焦れるように一倉は室井を掻き抱き口唇を寄せた。が。

「もうお前とは寝ない。勝手なのは分かっている」
「こうして此処へ来た、その意味分かってんのか」
「だから」
「青島とよりを戻したのか」

嫌味のように飛び出た言葉に苛つき、室井の顔横に派手な音を立てて拳を押し当てると、一倉は苦々しく舌打ちした。
だが、室井もまた眉間に哀愁を漂わせ、瞼を落とす。

「一倉、お前、何故俺と青島を逢わせた?」
「それは――」

確かに、何も言わずに手段に出たのは卑怯だったかもしれない。
でも、これが自分のものだと確かめたかったから。
男の余裕を見せて、青島に、かつての恋人に見せびらかせたかったからかもしれない。
大人になれば誰でも時の苛酷さに気付く。長い月日が人の心を蝕む無常と姦佞の、その陰険さに誰も抗えない。
六年の歳月はむしろチャンスだと一倉には思えた。
なのに、思い通りのシナリオを辿ったのに、室井の答えだけが違う。

「未来を見ろ、いい加減に」
「お前こそ、俺に過去を清算させたかったんじゃないのか?」
「お前がやってんのは過去に戻ってるだけだ・・!」

室井の顔が歪に歪み、彼もまた何かを怺えていることを匂わせる。
絞り出すように殺したその声が僅かに震えているのは、この零夜のせいにしておきたい。

「それでも、もう、お前とは寝れない」

青島としか、寝たくないってことか。

「でも、勝手だが、お前には傍に居てほしい。これからも」
「なんだそれ?そんでお前らがイチャイチャしてんのを見せつけられるわけか」

室井の瞳が狂おしそうな色を湛え、一倉をただ静かに見上げた。

「もう・・・青島の中では終わっていた」
「・・・嘘だろ?」
「・・・・」

答えがない、それが答えなのだと分かる。
俄かには信じ難かった。
何となく青島なら一途な恋が似合う気がしていた。子供染みて、夢見がちな、甘酸っぱい青春のような。
でもそれなら。

「なら何で俺と寝ない?」
「一倉、聞いてくれ。俺は前へ進む。容易に他人に悟られる無駄を残したくない。勝手だが、一倉もまたこの秘密を墓場まで閉ざしてくれることを願う」
「お前――」

全てを清算したいって言っているのか。
深夜の訪問は足元から一倉の身体を冷やし、冷気が肺まで入り込む。
吐く息がほんの少しだけ、白く霞んだ。
未練のように。
上がれ、という誘い文句さえ、今は躊躇わせる。それだけの固辞が室井の全身から感じ取れた。

「俺に脅す切り札を渡すということになるというのは、理解しているか?」
「その時は・・・、容赦なく受けて立とう」
「!」

切れ長の眼差しが凛と潜む。
底知れぬ悪魔に魅入られたように、一倉の足がその場で竦んだ。

決意を秘めた室井の顔はここ久しく拝めなかったもので、一倉では引き出せなかった顔だ。
室井は戦う気だ。
どうしてだ?なにがあった?―-あったも何も、室井と青島を逢わせただけだ。
室井にこの顔をさせられるのはアイツだけなのか。
室井もそれを知っているから青島を欲しがるのか。
自分には出来なかった、成し得なかった、その露骨な室井の変化に、知れず一倉の背筋に悪寒が走る。

「青島にも口留めしてセックスすんのかよ?」
「一倉、もう終わったんだ俺たちも」
「そんな嘘を信じるとでも?」
「断ち切れというのなら喉を切り裂くさ」
「・・・、それも、青島のためか」
「広義では。青島が全霊で託してくれた未来だ。応えてこそ恩返しになる」

こんな凛々しく高貴なオーラは正に王者の貫禄であり、それが、青島に一度会っただけで春を待っていた花のように咲き誇る。
たった一度でか!
信じがたい光景に一倉は額に手を翳しながら緩く顔を振った。

馬鹿みたいな話だ。
何故室井を掻き立て護り支える相手が自分じゃないんだろう。俺に何が足りないって言うんだろう。

一倉の中で何かが壊れる。

力任せに室井の二の腕を掴み、壁に投げつけるとその両手首を拘束して頭上に縫い付けた。
本能のままに噛みつくようにその口唇を寄せれば、獣みたいな荒い息が自分の頬にかかり、獣欲を煽った。
至近距離で撃ち抜きそうな眼力で室井を嘲弄する。
切迫する息遣いがやけに大きく鼓膜を擽った。
見開く目に何の熱も浮かんでいないのはいつものことだが、蔑みすら浮かんでいないことに逆に虚しくなり
一倉は口唇が触れるすれすれの距離で、優越感を持って嬲った。

「抵抗、しないのかよ・・・?」
「・・・」
「怒らないのかよッ?」
「――俺も昔そうやって青島を手に入れた。逃げられたけどな」

思わず一倉の手から力が抜ける。
室井のしっとりとした雄の目が、同じ痛みを乗せて見上げていた。

“・・ッ、な、な・・っ”
“厭か”
“なんで・・・”
“これが俺の気持ちだ”
“ぇ、待って、待ってください、えっと・・・”
“待たせるだけの余裕はもうない、君には”
“ぇ、うそ、・・ゃだ、・・ん、・・・んぅ・・ッ”
“君が欲しい・・・”
“はな、せ・・って!ゃだよむろいさん・・っ”

両手を抑えて、床に組み敷いて、何度も何度もキスをした。青島が好きだよと泣き出すまで。


「・・ッハ、不器用だな」
「恋など上手くできた試しがない」

どうしようもない理不尽な状況に、一倉の顔が歪んだ。
室井はその徒労に終わる男の傲慢に、最後まで抵抗を見せなかった。
優等生で模範生であった室井は、その気になれば一倉など簡単に牽制出来る癖にだ。
背の高さや体格などものともしない敏腕は、正にトップに立つ資質をあの頃から示唆していた。
敵わない。能力的にもキャリアとしても、そして男としても。

ゆっくりと一倉は身体を離した。

「・・・いいのか」
「・・・言ったろ。俺も人の子なんだよ。嘘を付いたままお前を手に入れたことにずっと負い目を感じてた」
「それでわざわざ同じ嘘を付いてこんな手の凝った舞台を作り上げたのか」
「逢わせて自慢したかったのかもな」
「俺はもういいって言った筈だ」

二人の仲を裂いたことを悔やむつもりはない。恋とは端から奪い合う、そういうゲームだ。

「情けないね、俺はお前を信じきれなかった。・・行けよ」
「俺は俺の意思でお前の傍に居たいと言っている。俺にとってこの六年は嘘じゃなかった」
「俺なぁ、室井。お前がどういう愛し方をする男か、結局掴めなかった。こんなに長く過ごしてきたのにだ。アイツは・・・それを知っている のか・・?」
「・・・一倉」
「魔が差したかな、それともお前らの馬鹿さ加減に当てられたかな」

無理矢理奪うことは人の人生を捻じ曲げ足止めさせる。
室井の両手から手を離し、一倉は室井を押し付けた反対側の壁に凭れかかった。
線対称の影が深閑な大気に邂逅する。

「・・・なあ、なんでお前、俺に抱かれた?」
「・・・・お前が必死だったから、かな」
「そんな風にアイツにも流されんのか?この先も」

それはまるで恫喝なのに哀願のように掠れ、一倉の口端が中年の哀愁に滲む。
そんな一倉に同情するでもなく寄り添うでもなく、室井は毅然とした意志の瞳をひとつ、ぐりっと向けた。

「一倉」

室井の瞳が爛々と焔を宿す。
こんな顔も、久しく見ていない。

「ありがとう」
「!」

なんて酷い台詞なんだろう。そして、なんて誠実な言葉なんだろう。

「ったく。男ってぇのは・・・みんな馬鹿に出来てんのかね・・・」

今夜は大酒でも呑みたい気分だ。
寒い夜に相応しく、女でも抱いたっていい。
自己満足の忠誠など必要ない。本気じゃないと知っていた。それでも愛していたかったんだ。

悴んできた指先をポケットに詰め、乱雑に投げ出した足を組んで目の前に直立する男を今までとは違う目を持って見た。
暗闇の中で重ね合う視線は、皮肉にも今までで一番近いものに思えた。

「一生童貞か」
「君には世話になった。何より救われた。だから感謝もしているし、きっと、好きだった。今もだ」
「奪いに行かねぇのか」
「――いや」
「なんだよ。そこはまだ腰抜けか。そんなだから愛想尽かされる」
「今更どのツラ下げて行けばいい」
「・・・行けよ、そこは。アイツ待ってたんだろ」
「どうかな」
「だったらお前は今も俺のものってことにするぞ?」

室井が闇の向こうでニヒルに笑みを象った。

「それでいいと言っている。だが埃の出るようなことはもう出来ない」
「アイツと――逢ってんの?」
「二、三度、酒を飲んだ。仕事上がりの一杯だ」
「二度と逢うなとは言わない。でも仕事の酒以外では逢わないって約束するなら、その条件、呑んでやってもいい」
「承知した」
「了解」

一倉はおどけて両手を挙げて降参した。
自分で逢わせた癖に身勝手な注文だった。でもそれで室井が納得し、ここに残るならそれでいい。
いつかこの罪に呑まれても、勝負に勝てたのだから、上々だろう。


だが程なくして、そんな付焼刃の淡い純愛など、あの二人の世界の前では塵ほどにもならないことを一倉は思い知らされる。












05.もう一度キスを(止まらない運命に)
line
「すっっげ雪・・!」
「まさかここまでとは予定外だったな」
「電車動いてっかなぁ・・・」
「それ以前に自宅まで辿り着けないかもしれないぞ」
「・・・・すいません、こんな日ならもっと配慮するべきでした」
「予報では雨だったろう?君のせいじゃない」

渋谷駅のバス停は既に物凄い行列で、順番待ちしている人間と駅から溢れた人で騒然としていた。
頭上からは大粒の綿雪が矢つぎばやに打ち付ける。

「どうしよう、室井さんに風邪でも引かせたら俺、大目玉・・・」
「何を言っている、こっちは室内業務だ。君の方が大変だ」
「でも」

突風が雪を巻き上げ青島がひゃあと肩を竦めた。

渋谷の隠れ家と言われる人気バーで長居してしまった間に、外は大雪となっていた。
駅前のバス停に並ぶが動きそうにない。
室井の黒いコートが白い雪でどんどん覆われていく。

「タクシーもつかまりそうにないですね」
「ああ、無理だろうな、首都高も止まっているらしい」

室井が迎えの車を呼ぼうとしていたスマホを諦めて閉じた。
足は指先から凍え、二人の蝙蝠傘を持つ手も白くなっていた。もうかれこれ一時間である。

「どうしましょ」
「・・・」
「ごめんなさい、もっとこっち寄って俺を風よけにして?」

しきりに青島が謝罪を繰り返すが、吐く息が白く混じるだけで周りの人垣と一緒に白く埋もれていく。
青島のモッズコートは防水性とはいえ、布製で室井のカシミアコートより水分を吸い込み色が変わり始めていた。
凍えるのも時間の問題だ。
置き去りにされた周囲の観衆も、諦めてどこぞへ消えていく群れも出始めた。

「どこか、避難できるとことかあったかな。店とか営業してんですかね」
「選択肢はないな、行くぞ」

列から離れ、徐に室井がスタスタと歩き出した。
突然の行動にきょとんとした青島が慌てて動こうとして隣の人と傘がぶつかる。ごめんねと片手を立てて青島も後を追った。

「ど、ど、どこ・・。ぅわっ、滑った・・何処、行くんですか?」
「あそこだ」

そう言って室井が顎をしゃくった場所に青島は絶句した。
派手なネオンを光らせる路地裏は、ラブホテルが立ち並んでいた。

「不味いですよさすがにっ!もっと他に漫喫とか・・!」
「そういう安価な場所は既に埋まっている可能性が高い。この雪だ。いずれどこも満室になるぞ。東京で遭難したいか」

立ち竦む青島を、室井は黙って瞳で誘導した。


****


目の前で室井が華麗にコートを肩から降ろす。
ぽたぽたと流れ落ちる雪の溶けた水滴が、まるで妖しい輪郭を伴って室井の身体をなぞり下りる。
不味いなぁと思いながら青島は視線を向けられずに変に柄の良い絨毯に落とした。
どうしてこんなことになったんだっけ?

参ったなぁと濡れて額に張り付く髪を拳で拭うと、ネクタイに指を掛けている室井がじっと青島を見ていることに気付いた。
金縛りにあったようにこっちの指先が固まる。

「先に風呂へ行くといい。君の方が濡れている」
「まさか官僚サマを後回しにするわけにいかないでしょ。・・俺、連絡とかありますから」
「・・・分かった」

言葉少なに室井はシャワールームへ消えると、青島は電池が切れたようにそのままベッドへ崩れてしまった。
遠くでシャワーが流れる音がする。
それをベッドで待つ自分。・・・なんだこの状況。

窓はないが入室時、外は既に猛吹雪だった。東京は雪に脆弱だ。今晩中の復旧は絶望的だろう。
逃げ出すことを奪われた監獄のような場所で、心細さだけが胸の奥をチリチリと焼く。
どうしてこんな風になっちゃうんだろう。いつも。いつだって。

久しぶりに室井と偶然再会して、浮かれていた罰が当たったのかもしれない。
憧れていた男は数年経っても色褪せず、腐ることもなく成熟した大人の男に変貌していた。
青島よりずっと上。歳も器量も男としても。逆立ちしたって敵わない領域だ。
直向きで真っすぐに前を向く、あの強かな意志が、どうしようもなく青島を虜にする。
たった一度だけ、与えた躰があの日の熱を憶えている。
青島には頂点を狙うとか、大それたことは思いもつかない。
でもそれを二十代の頃から目指し、重責が双肩に圧し掛かっても言行一致する男に、ただただ敬服す る。


「んもぉぉ、どうすんの俺ぇ・・・」

シャワールームの開く音がする。
事態は既に臨界点を越えていた。
恐る恐る顔を上げればそこにはバスタオルを腰に巻いただけの室井が立っていた。

美しく鍛えられた均整ある身体。
久しぶりに見てもあの頃のまま、整った肉厚だ。
指先で触れることすらおこがましいような、だけど、たぶん、触れたら未知の悦楽を教えてくれそうな、艶冶な背徳が青島を責め立てる。
やっべ~ナマのむろいさん・・・すっっげー破壊力。
喰っちまいそう。
でもそれよりも、他者に容易に踏み込ませない高貴さが青島を強かに圧倒する。
食事を共にしている距離では気付けなかった六年分の成熟が、青島を身分違いに怯ませた。

手が出ない。声も出ない。
目も合わせられなくて、青島は困った口を引き結び、高貴な視線を避けた。
初夜を恥じらう女より性質が悪い。

「暖房・・・、強めておきましたから」
「ありがとう。・・早く身体を暖めて来るといい」
「・・・行ってきます・・・」

口唇を噛んだ。
わざと室井の横を視線を合わさず素通りする。
石鹸の残り香がカッと青島の頬を熱らせた。


***


ベッドの端と端に座ったまま、背中合わせに灼け切るような距離を保つ。

「・・・蒸すな」
「蒸しますね」
「ちょっと温度が高すぎるんじゃないか」
「なんか飲んだらどうですか」
「・・・、先に身体を休めるといい」
「ベッドは室井さんが使ってください」
「床は冷える」
「俺は慣れてんで。どこでも」
「そんなの俺が許すと思うか」
「許すもくそもないでしょ、相変わらず高圧的ですね」
「こんな場所まで階級を持ち出すな」
「それはあんたの方でしょ」
「俺のどこが」

罵りあって振り向けば、毛布を被った青島も振り仰ぐ。
むぅと睨み合えば、どちらも頑固で主張を譲らないことだけは一致していた。
青島が参ったという顔をして、毛布を引き上げる。

「まっずいなぁ・・・ぜってー怒られる・・・」
「誰にだ」
「んんん、コッチの話」

ぼそぼそとくぐもった声で呟き、青島はまた毛布を頭に被って反対側を向いた。
室井も毛布を肩から掛け直し、姿勢を戻して腕を組む。
そんな室井を伺うように、青島はちらっと横目で盗み見た。続けて、やっぱり苦みを潰した顔がやるせなく間延びする。
何か話さなきゃ駄目かな。
けど、今更何を話しゃ~いいんだよ。

「室井さんさぁ・・・トップに立つって決めたのいつですか?」
「なんだ藪から棒に」
「聞いたことなかったなって」

ヒーターの設定温度を上げているため、変なガウンと毛布だけでも寒さは感じなかった。
そもそもここは裸で色々成す場所だ。

返事はない。
困り果て、部屋を見渡せば、それらしいグッズを売る金庫があり、ベッドにも変なスイッチがズラリと並んでいる。
きっとテレビをつけたらAVが流れ出す。
こういう場所に入ったことはあるし、一応成人した大人なので、それらが何を意味し、どういう効果を齎すかは必然的に知っている。
室井もそれを分かっているのか、身動き一つない。

少し視線を上向かせれば、壁には照明が等間隔に妖しく壁を梔子色に灯していて、ここぞとばかりに部屋をムーディに仕上げていた。
あからさまな配色・装飾に、いっそ溜息さえ出る。
あっちもこっちも、目のやりどころがない。

壁際に、並べて掛けた室井の黒いコートとモスグリーンのモッズコートが、雪の解けた滴を光らせ、床に染みを作っていた。
肩を並べ、何だか仲良く並んでいて、かつての並んで戦っていた自分たちを想慕させた。
その思惑は、今の自分たちとのギャップに白々しさを突き刺してくる。

「・・・・忘れた。でも、明確に頂点を極めなければと思えたのは、お前と逢ってからだ」

突然返事が返ってきて、今の間は室井が考えていた時間だと知る。

「え、なんで」
「謀られたんだろ」
「俺、責任重大」
「感謝はしている」

柔らかく穏やかな室井の声色は、こんな淫靡な部屋で、そんな誇大妄想を語っているのに、理路整然としていて惜しげない。
こんなオトコだったっけ?
青島は毛布の隅を指先で弄びながら、胸が詰まるのを必死に抑えた。

「じゃ、止めちゃえって思ったことは?あっちの人生の方があっまいな~とか」
「君がいるこの人生は悪くない。元より自分で選んだ道だ」

頭から被る毛布をぎゅうっと引き絞る。
そんな風に言ってもらえる資格はない。自分は逃げたのだ。独りで。
掛け違えた未来は戻らない。

「俺が、あんたの運命を狂わせちゃったね」
「なんだ。らしくないな」
「俺らしいって・・?俺にはいつだって選択肢はないんですよ」
「・・・・」

また室井からの返事はなくなった。
それが虚しく、同一線上で戦うことを決めた同志の成れの果ての姿に、憐みを残す時代の儚さが、青島に気怠く圧し掛かった。
聴覚を奪うほどの痛いまでの静寂が、どうしようもなく溢れる悲しみや寂しさを刺激し呼び覚ます。
大切にしたい気持ちだけが独り歩きして、ただひたすらにこのひとしか見えなくなった過去は
熱い想いの正体さえ朧に返し、何を問い質したかったかさえも覆い尽くしていた。

けど、ひとつだけ確かななことがあった。
背中に感じるこのひとの気配と、今も途切れぬ自分の中の想い。
喪失の予感に恐怖し怯えた弱音を繕うかのように、青島は深々と溜息で間を繋いだ。

「俺の夢はね、あんたが警視総監になって、今まで馬鹿にしてきた奴らざまぁみろって笑って、んで、風通しのいい組織に・・・あんたと俺がいるこ と」
「こっちも責任重大だ」
「そうですよ?傍で、支えて・・・、励ますんじゃなくて・・・ぶつかることで思いもしなかったイイモンが生み出されてくの、知った」
「・・・」
「隣に立つって物理的な距離じゃないんですよね。中枢と末端で役目を担うって、すっげーぞくぞくした」
「・・・そんな綺麗なモンじゃない」
「キレイだよ、あんたわね。変わらなきゃだめだったのは俺です」

どこまでも駆け抜けてしまいそうな青島を、巧みに制圧するのは、いつだって室井のこういう素の部分だった。

「――君の目は、私とは違うところを見ているんだろうな」
「あんたが汚れたっていうんなら、俺が全部引っくり返せるよ・・!」

今なら言える言葉が、タガが外れる予兆を連れてくる。

「そーゆーの、みんな、あんたが教えてくれた。あんたが、いつも真ん中にいた。俺っ、あんたの未来に懸けたい、この先もずっと」
「買い被りだ」
「そんなんじゃない。そんな風には言わないで!室井さん、俺たち、ちゃんと繋がってるって思っててい?それだけは、まだ、赦される?」
「・・・待て」
「ずっと、あんたに相応しい男になりたくて!俺、あんたに頼りにされる男になりたくて、あんたに――」
「青島!」

それを感じ取る室井が先に防御線を張る。
それが最大限の拒絶に見える青島が奥歯を噛む。

「あんたに認めてもらわなきゃ意味がない、意味がなかった、俺ね・・!」
「充分認めている。青島、」

危ういところで踏みとどまり、それでも必死に絞り出す言葉に、室井が唸るような声で醒めた言葉を残した。
それが青島を泣き出す寸前のような表情に変える。
やけに冷静さを装って挟まれた言葉は、冷たく今の青島との距離を伝えていた。
近いのに、とっても向こう側だ。こんなに遠くなっちゃったのは、誰のせいだろう?俺のせいだ。

少しでも近づきたくて、ぐるりと振り返って、振り返らない背中に青島は指先を延ばす。
刹那、その動きを先に感じ取った室井が身を翻し、留めた。

「室井さんっ、聞いて、俺っ」
「駄目だ青島」
「今言わなきゃ、きっともう言えない、もう言わない、だから!」
「言わない方が良い」

室井はもう、関わりたくないのだとは分かった。こっちは過去なのだ。
だからそれを、“未来”に変えたいだけなのに。届かない。

「・・・俺、めいわく?まだだめ・・・?どこまでやったらいい・・?どうすればあんたの目に叶うひとになれる?」
「ちがうんだ。この先、俺はおまえすらも利用するかもしれない」
「俺、言いましたよ、あんたに賭ける。あんたになら騙されてもいい」
「青島、」
「みんな、忘れちゃった・・・?」

忘れるか。
沸き立つ震撼が、室井の空耳を青島に錯覚させる。
合わせ、物理的な圧迫感さえ生じていそうな室井の眼光が、雄弁に語り、青島を残酷に貫いていた。
震える声と涙目の青島を、室井が冷酷な気配で制している。
これ以上は。
言うな。

「・・・いいんだ・・・利用してよ・・もっと、めちゃくちゃになるほど、あんたに、合わせられる日を、待ってたのに・・」
「それ以上言うと、おまえを側に置けなくなる」

威圧的に諫める室井の黒々とした瞳に、青島の指先がヒクリと宙で止まった。
グッと堪えさせられたものが、青島の喉奥を鳴らす。
室井もまた、何かを堪え、空気が止まった。
室井の剣呑な声が物語るものが、拒絶だけでなく哀感を乗せている。

もうどうやったって、自分たちは触れ合えないのだ。身体も心も。

その事実が、青島から顔色を失わせた。
取り乱さないその態度に、室井の悲憤を見た気がした。
届いてはいけないのだ。ぶり返しては駄目なのだと、理解した青島の顔が痛みに歪む。

「・・・ごめん」
「いい。俺のエゴに付き合わせて申し訳ない」
「いいえ」

青島の溜息に釣られたように、室井も大きく詰めていた息を吐いた。
一気に衝動が冷めた部屋は、しんと静まり返った。

室井の視線は青島の視線をただ甘受する。
痛いほどのそれは、抗うことも奪い、青島もまた身動き一つ取れずに、室井を見つめていた。その頭から毛布が肩にはらりとずれ落ちる。
くしゃくしゃとなったうねる髪が妙に青島を幼く見せるまま、青島が魂が抜けるように呟いた。

「おれじゃ、だめなのかなぁ・・・・」

いっそ優しさよりも儚さを伴う戦ぎで、青島が啼く。
馬鹿野郎と怒鳴りそうな奮起が一瞬の暴発を室井の全身から奮起させ、その気圧は部屋を確かに震わせた。

室井が奥歯を咬んで、瞼を落とし、天井に顎を反らした。

長い長い沈黙があった。だがそれは実際の時間にしてみれば、一瞬だったかもしれなかった。

室井が殊更そっとベッドに乗り上げる。
ギシリ・・・とベッドが卑猥な音を上げる。

外は恐らくこれ以上なく猛吹雪となって荒れているのだろう。
風景は見えずとも、今それと似た、もしくはそれ以上の烈しい激情が室井の全身を支配していた。
一点、何らかの投石が落ちれば爆するような、じりじりと何かが焼け切れていくような、そんな狂気にも近い灼熱が
熱を孕む大気を支配する。

体重でギシッと沈むベッドに両膝を乗せ、室井が一歩、青島へと近づいた。
スローモーションのように、映るままのそれを青島は息を殺して見つめる。
やがて、片膝を立て、貴族的に室井が青島の前で鎮座した。
体温や息遣いが感じられる距離まで来ても、二人の視線は交差したままだった。

そこから室井の指先が宙に浮き、引き寄せられるようにゆっくりと青島の濡れたままの髪に伸ばされた。
戸惑う瞳が危うさを残していて、青島が室井を見上げる。
くしゃりと握り潰す様に指先に絡め、頭の形を確かめるように一度、撫ぜられる。

「・・っ」

青島の途切れた息が微かに部屋に落ちた。
もう、触れていいとは思っていなかった。触れて良い相手ではなくなった。
見つめ合ったままの視線だけが熱く、強烈で、同じ色に染まり、何より鮮烈だった。

「もいちど・・・、触れたかったよ・・・・」

届けるつもりもない小さな掠れた声が青島の口を震わせ俯かせた。
先程力なくベッドに落ちた青島の手に視線を落とし、室井がそっと自分の指先を交差する。

「だから、逢いたくなかったんだが」

びくっと一瞬震えた青島の指先を、今度は室井が男の力で抗い止めた。
しっかりと長い指で掴むと、室井が凄味を利かせた顔でゆっくり手前に強く引き寄せる。

やけに幻想的だった空間が、その瞬間、急速にその渾身の力で現実味を帯びた。
息を奪うほどの距離に室井の真意が、推し量れない青島の瞳に宿る揺らめきを作り、だが、飲み込まれた。

「あの夜、逃げた理由を聞きたい」
「ご、ごめん、なさい・・・」
「謝らせたいわけではない。あの時の浮ついた覚悟ではこの先何も始められないと言っている。答えろ青島」

拗ねたように、怖がる心を前髪に隠して青島が今更な事実を指摘した。

「・・・でも・・・でもだって、あんたにはもう一倉さんが・・・・いるじゃん」

自分は一度だけでいい。
この先の、微かな未来を繋いでくれるだけでいい。

怖じ気づいた心を他所に、つい流されて横恋慕みたいなことをし誘惑したような形になっていた青島は、急に我に返った。
自分が言いたかったのは恋の話ではなく、夢とか人生まで奪わないでという哀願だった。
どこで間違えた?
これじゃ、あの時隠していたものまで暴かれる。
顔を横に背け、慌てて手を引こうとするが、それもまた室井に強く引き戻された。

「・・ぁ・・っ」
「言ったはずだ。二度目はないと」
「!」

室井の高貴で高圧的な口ぶりに、青島は心から竦み上がる。
動けない。指先一つ。
こんな室井は久しぶりに見た。
困ったように眉根を寄せたり頬を強張らせたりするだけだった男は今、狙った獲物を捕獲するような瞳を手に入れている。

室井の中では終わったことだと思っていた。
嘘なのか、これもまた夢なのか。これは現実?
本当に、まだ、室井は。
始まらせてはいけないものが、青島の目の前に落ちてくる。

「一倉とのことは、何を聞いた?何を吹き込まれた」
「・・・」
「そうやって。君は何でも独りで解決しようとする。成程。あの夜もか」

ベッドに片膝を付いた男は青島の隙を巧みに攻め、その鍛え抜かれた筋肉と、天性の高邁さでしっとりと青島を追い込んだ。
意識を抑えつけられ、視線も奪われ、青島が息さえ忘れて室井を仰ぎ見る。
酸素がだんだん薄くなった気がして、青島の意識が熱で朦朧としてくる。部屋の温度上げたの誰だよ。

「俺、あんたの恋を潰したりしない。俺だって、あんたの幸せ願っちゃダメですか」
「忘れられるのか」
「ぇ・・?」

逆に問い返され、戸惑いと僅かな怯えを浮かべつつ、断定してくる室井の真意が分からず小首を傾げる青島から視線を外さず
室井はガウンの中に用意していたものを手探りで取り出すと、掌に乗せ、青島の目の前でそっと開いた。
青島の瞳が驚愕に揺れる。


“――報告は以上です。それと、室井さん、付かぬことをお伺いしますが湾岸署の青島さんとは連絡取られてますか?”
“・・・いや?”
“そうですか・・・いえ、なら無駄口でした”
“それが?”
“実は先日、一課が彼を此処へお呼びした際、お忘れになったもので、恐らく青島さんの私物だろうってことなんですけど。お願いして宜しいですか”

まさかと思った。
それは鍵が二つ付いたキーチェーンだった。
そこには携帯ストラップに使われるようなヘンプ編みが結び付けられ、先端に古びたボタンが一つ括られる。
どちらも見たことがある。そしてこの朽ち方からして、本当にこのキーを落とすまではずっと使われていた手掛かりを室井に掴ませるに充分だった。
それが暗示するものも。

まだ持っていてくれたのか。
青島の中でも忘れられていなかった。終わらせてなんかいなかった。室井のためにまだ優しい嘘を護っている。
室井はそれをきつくきつく握り締めた。
誰より幸せであってほしい。自由に咲かせたい一方で、縛り付け閉じ込めたくなる。
だから、今度はちゃんと愛したい。君がしてくれたように優しい嘘で護りたい。

そう思っていたのに、台無しだ。


「これ・・・」

おずおずと指先を延ばした青島の掌に鍵を落とす。

「逃げた理由を聞きたい。どうして俺を頼らなかった」
「・・・・」
「青島」

焦れたように室井が名を掠れて呼べば、情けないほど眉尻の下がった青島は、まだ手の平を覗き込んだまま動かない。

「うそぉ・・・ほんとに・・・?どうして、まじ・・・?」
「・・・」
「も、失くしたと思ってたぁ・・・」

その涙声だが喜色を持つ声に室井が言葉を失い、唖然と見下ろした。
動かずにいると、青島が降参したようにその前髪に狂おしそうな目尻を隠す。

「これを、またあんたから受け取るなんて・・・」

きゅっと、青島が掌を固く握り締める。
鍵を包んだ拳を大事そうに胸元に抱き締めた。
もうだめだ。
抑えていた何かが決壊して、怺るだけの勇気も威力もない。

「どうしよ、・・よかった、うれしいよぅ、むろいさん・・っ」
「・・君は」
「ああ、くっそ・・っ」
「・・・・」
「おれ、がね・・・、どこまで関わっていいか・・わかんなかったんだよ・・・あんたは、雲の上のひと、だから・・・」
「君が指し出すなら腐った林檎だって食べていい」
「そゆとこが、怖かった。何にも返せない自分が悔しくて・・・情けなくて、俺」

青島の前で片膝を付いたまま、室井は毅然とその取り留めない言い訳を聞いていた。
追い詰めたのは室井なのかもしれない。頼らせなかったのは室井の方かもしれない。
だけどきっと、この先の未来を生きるのは君じゃなきゃ駄目なんだ。
室井のことをたくさん考えて吐いてくれた嘘なのに、それでは寂しい。虚しい。切ない。
知らず、室井の握る拳に力が籠もる。

「い、一倉さんが俺のものにしたって言いに来て・・・、それでもいいって思ってたけど、その方が幸せになれんのかなとか思ってみたけど、割り切れないよ」
「何を言われた」
「あんたを捨てろって言ってきた・・・この間もだ」
「この間?」
「わざわざ釘刺しに来た。もう、刺すものなんてないのにさ・・・。けど、俺、また何も言い返せなかった・・・!」

悔しそうに青島が拳を口に当て、吐き捨てる。
横を向くその面影に照明が陰影を象り、艶めいた瞳は濡れたようにさえ見受けられ、青島を護り切れなかった室井を六年越しに貫いた。
自分たちは何に負けたのだろう。
こんな他愛ない挑発か。それとも無自覚に募る世間の誹謗中傷か。
六年掛けたって勝てないものもある。

“残念だったな、室井は俺を選んだ。お前の負けだ”
“いつそんな勝負してたんですか”
“分かってるだろうが、二度と手を出すんじゃねぇぞ”
“足引っ張るようなことなんかしませんよっ”
“ほう、ちょっとは丸くなったじゃねぇか”

「どして・・・、こうなっちゃったかなぁ・・・どしたら俺、あんたのいちばんになれた・・・?」

青島の指先がもどかしそうに室井の濡れて垂れ下がった黒髪に触れる。
震え、ままならないままに、恐々と愛を語り、掴み、絡め、その頬を指先で辿った。
その憂える口唇を、室井がそっと指で制止した。

くしゃりと泣きそうなほどに青島の顔が歪んで、嗚咽を堪える口許が引き結ばれる。
叶うものなら、ずっと貴方に会いたかった。そして赦されるのであれば、もう一度、愛していると言いたかった。

「君の気持ちを、知っていて無駄に出来る男には、やはりなれそうにない」

溜息を落とす室井の懺悔が、青島の背筋を震わせる。
涙が青島の目尻から光を描いてポタリと落ち、ゆっくりと青島が首を横に振った。

「ででででも一倉さんとシたんでしょ・・・」
「・・・・」

濡れた室井の瞳が哀し気に過去を灯らせ、現代の青島を映しこむ。
ただ、それでも、ひとつだけ、願えるのであれば。

「・・ついて、行っても、い・・?」

まんまるな栗色の瞳に、またふわっと泉が湧き上がる。
照明に光るそれを妙に綺麗だと思いながら、零れかけたそれを室井は指で掬い、自分の口唇に押し当てた。
気障なその仕草に、六年の間に室井が男に成熟したことを青島に知らしめる。

カッと頬に熱を籠もらせた青島が顔を作れなくなって華麗に揺らいだ瞳が濡れるままに、青島は膝を崩した。
そんな仕草に目を眇め、室井は小さな笑みに沸き立つ激情を抑え込む。
その面持ちが、またより歳を経た男の性を青島に知らしめる。

言葉で誘うことはせず、意思だけを込め、室井が震える指先で室井の髪を擽る青島の小さな指先をしかと握り返せば
青島はただ魅入ることした出来なかった。
時が止まったように見つめ合う面差しに、浮かぶ焔は強かで貪欲で、それは既に愛しさを越えているもので
六年の歳月は、確実にそこに存在し、朴訥な男を成熟した大人の男に変えていた。
幼すぎて、古拙すぎたために失うしかなかった小さな恋が、六年の歳月を経て今ここに再び芽吹きだす。

室井の深い眼差しに誘われるように、青島が形の良い顎を持ち上げる。
ゆっくりと、掬い取るように下から室井の口唇にその口を押し当てられた。
柔らかく触れ、それは淡雪のようにそっと放された。

「いまでも、あなたが、好きです」

口唇から伝染する六年分の切ない恋が、弾けて飛んで、舞い落ちる。
取りこぼしたものに、囚われて逃げられなかった気持ちが溢れてくる。

降参したのは室井の方だった。
室井は壊れ物を扱うように、青島の頬を震える両手で頬を掴んだ。

青島にかかるといつもこれだ。散々計画立てて男になると決めたって、あっさり根こそぎしてやられる。
魅せられ、惹き付けられ、そしてまた溺れさせられる。
この感情もまた、醜いものなんだろうか。
煌びやかに心の舞い落ち、こんなにも狂おしくさせる。そうしてどうしようもなく、選ばせたのはおまえなのだと感情が傲慢に非難する。
だけど今度は間違えたくない。

懐かしい感覚は、ここにある確かな事実を見せ付ける。
今度は消えないように。
今度こそ大切に育てられるように。
どうか。どうか。
祈りにも禊ぎにも似たその願いは深い藍の大気の中で、押さえ付ける指先よりも上擦る声よりも、激しく走り出したがっている。

離れた時間は無駄ではなかった。
離れていたことで、お互いが必要な力を付けたのだ。
きっと、離れることで得られたものは、無意味じゃない。

「・・・一倉さんと寝ないで・・・もぉ・・・行かないでください」

額に額を押し付け合って、同じ罪を共有する。
絡み合う視線は紛れもなくいつかのものとおんなじで。

室井がゆっくりと顔を傾け青島の耳に顔を近づけた。
何をされるか理解した青島が濡れた瞳で続きを望む。

「おまえが好きだ」


さあ、あの日のキスをもう一度。









happy end 

index
         
室井さんからのちゅーがないと締まりが悪いという方のためにその後がウラ部屋にあります
  
10000HIT記念品。いつも来てくださっているみなさまへ。感謝とお礼を込めて。
ちょっと趣向を変えて回想で話を進めてみたんですが、読みづらかったらごめんなさい。
変なガウンというのはホテルに備え付けてあるアレで、変な、というのは青島くんの主観です。

室井さんと一倉さんは最後までしてなくて、一倉さんが手と口で味わって慰めている だけという設定でした。室井さんはマグロ。それでも浮気だわとか、ヤってるのと変わんない、とか思われたら、そこはすまん。
一倉さん好きの方にもすまん。一応一倉さんも好きだからこそ最後まで致せなかったという裏設定。

一週間お付き合いくださった方々、ありがとうございました!