ショートショート~あ
の日のキスを おまけ
どうでもいいおまけ(室井さんからのちゅーがないと締まりが悪いという方のためのその後)

6.
「ほしい」
「・・ぁ・・」
情熱的な目で乞われ、青島は今更ながら、ここがどこかを思い出した。
変なグッズとか変なボタンとか、いっぱいある――
「今度こそ貰うぞ」
「・・ぁ、い、いきなり、・・・この展開・・・でも、その」
今一つ煮え切らない青島の返事をもう待つ気はない室井の口唇が青島の耳からうなじへするりと辿り下り
はだけたガウンの襟際を一つ強く吸い上げられる。
ひゃあと竦み上がった青島の隙を突き、室井は真上から口唇を塞いだ。
反動で仰け反るように上向かされ、バランスを崩す。
奪い取られ、柔らかく塞がれた温もりに、胸の奥がチリチリと痛んで、目の前がくらりとして、青島は思わず眉を歪ませる。
それが合図となって、室井に腰から強く引き寄せられた。
「ん・・っ、・・・んぅ、・・ッ」
六年越しのキスは兇悪的で狂騒的だ。
切なくて、狂おしくて、電気が走るみたいな悩殺的な嵐に一気に落とされる。
当初から生硬な技ではなかった男は、更に官能的で淫靡な動きを習得していた。
卓越した動きに追いつかず、応える動きすら読まれて初心だと辱められる。
凶暴で余裕がない癖に、妙に焦らす動きで、隅々まで玩弄され、思わず声が漏れた。
「ふ・・ぅ・・、は・・、ん・・・ぅ」
口唇を丹念に嬲られ、歯列も確かめられれば、腰の力が抜けていく。
絶え間なく舐られ弄ばれる戯弄は、以前にはなかった卑猥で淫靡な技巧だ。
――くっそぅ、いちくらさん、なにおしえたんだよ・・っ
狂躁に喘がされる羞恥に思わず力めば、見透かしたようにそこに舌を注ぎ込まれた。
「んっ・・ん、んぅ・・・っ、ふ・・っ、」
息苦しさに視界が滲むが、呼吸を削ぐものが奥まで埋め込まれていて無理だ。
緩く強く不規則なリズムを付けながらセックスを想起させるように室井が舌を出し入れする。
卑猥な音を立てているのは絶対わざとだ。
口唇は強く塞がれたまま、甘い刺激に知れず喉音を促され、それが青島の羞恥を加速させた。
喉に力を込めて堪えても、それすら見透かされて、タイミングをずらして、色の付いた吐息を上げさせられる。
前はこんな技巧、なかった。
前はこんなヤラシイキスは、しなかった。
「は・・あ・・ん、んぅ」
徐々に頬が染まるのも自分で分かり、青島は悔しさ紛れに室井のガウンを引く。
一方的に欲しがられるのが悔しくて、室井の後頭部に手を掛け自分に押し付けることで強請ってみれば、それが室井をより劣情させた。
少し呻いたように室井の喉奥が蠢いたのも束の間、途端、烈しい舌戯に巻き込まれていく。
これまで抑えていただけだ。
そんな室井の熱情が伝わってくる。
堪え切れず、室井の背に縋った。
室井は青島の後頭部も囲い、手を緩めない。
痛みすら紙一重の、貪るような雄の支配だ。
はらりと毛布がマントのように舞って青島の背後に舞い落ちる。
口腔いっぱいに思いの丈を注ぎ込まれ、息も、時も止まった。
「くふ・・ぅッ、ぅう・・・ンッ、ん・・」
ぴちゃりと粘性の水音が鼓膜を擽り、舌の隅々まで舐め回され、吸い上げられ、酸素が足りなくなり、青島の目尻が赤らんだ。
あまりに兇悪で蠱惑的なキスは、終わりを見せなかった。
室井の想いが注ぎ込まれる。
離れていた時間の分だけ、注ぎ込まれる。
淫らに掻き回すだけとなった指先で、青島は必死に室井の後ろ髪を引っ張って、少し顎を引いて酸素を要求するが
だがその手も取られ、抗いを拒まれる。
顎を引けば直ぐに追いかけられ、無視される。
反論さえ呑み込んで口唇を吸い上げられたまま、室井の清洒な指が青島の顎に絡み
強く上向かされると、固定され、動きを封じられた。
「ん、ふぅ・・・ぅ、ゃ、・・・ンッ、くぅ・・っ」
知らず、変な声が漏れて、身を捩る。
その反動で、ガウンが捲り上がった。
あの高貴な男が自分に口付け、あの高雅な指が自分を掴み、あの清潔な身体が自分を抱く。
甘ったるい鼻にかかった媚びる声を思うままに上げさせられ、はだけた肌に汗が滴った。
なんて激しく狂おしいキスなのか。
まだ、キスだけなのに。
キスの烈しさに熱さに青島の髪が後ろに靡く。
とても追いつける技巧じゃない。じりじりと甘い疼きを呼び起こされ、そのたびに下腹部がずくりと疼き、腰が震える。
室井の膝を挟んで開かされた内股が震え、淫らな姿に変貌させられていく。
うっそだろ。
強く引き寄せられたせいでガウンが両肩からはだけ、青島の形の良い鎖骨と肩が露わとなって宵闇に浮かんだ。
そこから露わとなる端正なラインと艶めく肌は鮮やかに熟れ、骨格を魅せるままに引き締まった筋肉が刺激に戦慄する。
強い力で固定された顎に室井の指が食い込み、それが唯一室井の余裕のなさを示していた。
「・・はっ、ぁっ、むろ・・ぃっ、さぁ、んぅ・・ッ」
ぐっと室井が体重を寄せ、挑むように口付けてくる。
膝がガクガクと力を失い、交じる唾液が飢えを表し、物欲しそうに溢れて光の筋を辿る。
「ん、ん・・ぅ、」
暑い。熱い。部屋の温度高すぎだろ。誰だよ上げたの。
「・・・んぅ・・・ぁ・・・っ」
それは僅かだが嬌声の媚を乗せていた。
青島の濡れた髪が艶冶に揺らぎ、熱りだした肌が健康的で美しい色に染め上げられ、色の付いた別物に変えられていく。
キスだけで、こんなに乱れていく自分が信じられない。
離れたくないと、その全身が告げていた。
ねっとりと絡ませられた舌は熱く、灼けるようにしつこい。
そして、密着した熱い躯体と、久方に知る匂い、力強さ。
喉奥まで挿し込まれる分厚い肉に、青島の酸素も徐々に欠乏し、ついに力が抜け
意識が乱れた隙に膝頭を開かされていた青島は、腰ごと密着させられた不安定な態勢により、室井にすがるしかなくなる。
両手を室井の首筋に絡め、青島はキスに溺れ、落とされ、媚肉の全てを犯されていく。
反り返るように仰け反った背筋に室井が指先を這わせ、その動きに肌がそそけたち、青島はただ淫靡に震えた。
「あっ、ん・・、んぅ、」
口を塞がれながら、顎を捕らえられ、空いた手で巧みに肌を嬲り、背筋を辿り、胸元を探る指先が
男の煽り方と、男を悦ばせる技巧を知っている。
くっそ、一倉さん、何を教えた・・!
めちゃくちゃ、かっこいい。そして――
潤んだ瞳に映る男の姿に、恍惚となり、キスを強請った。
合わさる口唇の熱は、もう二度と知ることはないと諦めていた。思い出だけに生きるには苦しすぎて忘れようと捨ててきた。
六年前捨てた筈の熱が口唇から注がれる。
もう二度と戻らない覚悟を決めて捧げた痛みと傷と、一人去った雨の朝。
まるで映像のように青島の脳裏に蘇る陰影だけの記憶は、冷えた身体に打ち付ける雨は止まず、室井の官舎は濃緑の霧に霞んでいた。
それを底から吸い上げるように室井が強い力で刻み付けていく。
憤怒にも似た情動はそのまま室井の本音なのだろう。
不意に湧き上がる哀愁と孤独に、胸と目頭が熱くなり、青島は振り切るように室井に回した腕に力を込めた。
それに応じるかのように、室井がしっかりと抱き留めてくれる。
口腔を弄る熱い肉が過去も理性も羞恥も吹き飛ばしていく。
六年越しのキスが渇いて飢えた心に染み込んだ。
***
かくりと青島の膝が完全に折れたところで、室井の腕が見計らったように緩やかに体重をかけられ、ようやくキスから解放された。
ふわりとスプリングの効いたベッドに仰向かされる。
重力も失った、荒い息の奥から見上げれば、滲んだ視界にあれほど卑猥なキスをしたくせに憎らしいほど冷静な男が端正な瞳を熱らせていた。
室井の手が愛おしそうに額にうねる青島の髪を擽り、頬を撫ぜ、強烈な刺激に目尻に浮かんだ滴を舌で舐めとり、零れた唾液をそっと拭った。
男の仕草に青島は視線を横に逸らす。
「て、てかげん・・・しろよ・・」
「手緩いことはもうしてやれない。また逃げられるからな」
そういう室井の声は低く掠れていて、雄の色香を持ち、青島の心にずしりと響いた。
吸い過ぎたせいで朱く腫れあがった青島の口唇の唾液を、親指で拭い取られ
指先だけで青島の肌を辿り、それだけで青島を震わせる。大人の男になっていた室井に、青島の瞳が甘く揺れた。
「逃げませんよもう」
「盗られるかもしれない」
「いないよ」
「こんなに可愛かったかなという気分だ」
「・・くち、うまく、なりましたね・・」
甘ったれたような言葉に、室井は優しく言葉を降らせ、惜しまぬ情火に映える漆黒を向けていた。
ヘンなグッズが色々あるこの部屋に相応しい顔つきに、年上の男が抱く欲望の際限を知る。
そっと手を伸ばし、室井の崩れた髪をくしゃくしゃと混ぜた。
甘えるというより、愛おしむ仕草に室井が目を眇め、その手を取り上げ、指先にキスを落とす。
気障なことも出来るようになったんだ。
「室井さんじゃないみたいだ」
投げ出した足に悩ましく室井の足が絡められる。
圧し掛かられた久方ぶりの体重も匂いも、くらくらして。
「ずっと忘れられなかった・・・俺には君しか見えない」
「っ」
口元に拳を当てた青島が照れたように横を向き、苦情を乗せる。
「くっそ、ゼッタイ、怒られるやつ・・やべぇ」
誰に、とはもう室井も聞かない。
青島の手を取り上げ、そこに口唇を押し当てた。
「俺の方が幸せにしてやれる。してやれることもある。今度は取り返しに行く。何度でも」
「・・ぁ・・、・・っ、その、」
「もどってこい」
「・・っ、いつそんな、口説き文句、覚えたんですか・・」
「知りたいか?」
「ッ」
怖いくらい室井の真っすぐな気持ちが伝わってくる。
室井が両肘を青島の顔横に付き、覆い被さった。
「・・・期待、してます」
恋を今、一から始めていく。
***
一倉がこのことを知る運命の残酷さは、もう少し、後だ。
今はこの幸せに浸る傲慢さに、酔い痴れて、溺れていく。
happy happy end

このあと部屋にある妖しいグッズで室井さんに散々おしおきされると良いです。
もう逃げないと言った青島くんが心理的に束縛されているので、それを利用して愉しんでるかんじだけど、青島くんはされるがままに。
でも最後は青島くんには敵わず、理性を飛ばす室井さん。
青島くんは室井さんを煽る天才。ってか天使。
オソマツサマデシタ。