ネオンが華やかな街を駅に向かって歩きながら、新城はごほん、と咳払いをした。
夏美が、どうかしたのか、と顔を向ける。
…なるべくそっと、夏美が不快に思わないように細心の注意を払って、夏美に取られていた腕を引いた。
「その…さっきは、呆れたんじゃないか?」
「え?」
夏美は目を丸くしている。
先ほどの会食の間中、自分でもなにを言っているのかわからないくらい緊張して、ずいぶん馬鹿なことを口走ってしまった気がする。
青島にも、あれはなんだと叱りとばされた。
しかし、夏美はわかっていなかったようだ。
小首を傾げて、本当にわからない、といったように言う。
「なにか、へんなことしましたっけ?」
「…食事中、私は、その、ちゃんと話ができなかったし」
ああ!と夏美は手を叩いた。
「そんなこと!私、とっても楽しかったですよ?」
そしてにっこり笑う。
「新城さんのこと、たくさん知れて、嬉しかったです」
…大きな誤解をされている気がする。
これは、正直に話した方がいいかもしれない。
いつもあんな風に、訳の分からないことを言っている男だと思われたくなかった。
「…緊張していたんだ」
「…え?」
「その…」
「緊張?…どうして?」
いたって無邪気に聞いてくる。
…どうしたものだろうか。
一瞬悩んだが、夏美の笑顔に勝てなかった。
新城は潔く白旗を揚げた。
「…君が、いたからだ」
「私が?」
「…少し、話してもいいか」
夏美はなにも答えなかった。
新城は、大きく息を吸って話し始めた。
「…私は、これまで上に行くことだけ目指してやってきた。事件を迅速に解決して、それが出世につながると考えてきた。…でも、室井と青島が現れた。彼ら は、それがちがうと否定した。それが嫌でたまらなかった。私はどんどん意固地になっていったと思う。一度は、彼らの言ってることが甘いんだとわからせるた めに、彼らの信頼を引き裂くようなこともやった」
知っているだろう、と夏美を見る。
夏美は真剣な顔で新城の話を聞いていた。
放火殺人未遂事件。
室井と青島の間に横たわる、決して忘れることのできない事件だろう。
あの事件をきっかけに、室井と青島は一時決別していた。…その間、夏美は青島の顔をまともに見ることができなかった。雪乃から、新城のさしがねだ、と聞 いてはいたのだが…。
「最近、なんであんなことをしてしまったのか、わかったんだ」
「新城さん…?」
新城は、自嘲ともとれる笑みを浮かべていた。
「…私は、彼らがうらやましかったんだ。私も、最初から出世のことだけ考えてこの世界に入ったのではなかった。なにか、理想があった。…でも、いつのまに かそれを忘れてしまっていた。だから、理想を忘れないでいる彼らを見て、悔しかったんだ…」
「新城さん…」
「君に出会って思い出した。私にも、夢があったんだと」
新城は、夏美に向かって笑顔を見せた。
一瞬、顔が赤くなるのを感じた。
新城が、笑った…!?
初めて見た、かもしれない…。
しかし新城は、そんな夏美の様子に気づかずに話し続ける。
「君には驚かされてばかりだった。管理官がなにかも知らないし」
「あっ、それは!」
「いや、いいんだ、気にしてない。大したことじゃないんだ。ただ…君の無鉄砲な、あ、そうじゃなくて、その、ああ、なんといったらいいのかな、そうだ、信 念、というのか、目の前に被疑者がいて、それをミニパト一台でどうにかしようとしていた、それに胸を突かれた。女性の身でも、目の前の犯罪を見過ごすわけ にはいかないんだ。我々の仕事というのは、そういうものだった。悪を根絶する、仕事なんだ。私が幼い頃にやりたかったのは、そういう仕事だったんだと、思 い出した。…そう言いたかったんだ、悪く取らないでくれ…」
どうしよう。
夏美は思った。
この人が、こんなに人間的な人だったなんて、思わなかった。
緊張しちゃったり、言葉を上手く選べなくて焦っちゃったりする姿を見たら、とてもいつも湾岸署で目にするしかめっ面の官僚と同一人物とは思えない。
かわいい、なんて、口にしたら怒られそうな印象がどんどん胸の中で膨らんでくる…。
「うふふ」
つい笑ってしまった夏美を見て、新城がショックを覚えたようだ。
「…笑われるとは、心外だ…」
「あ!ごめんなさい、そうじゃないんです!」
あわてて手を振って否定する。
「嬉しくなっちゃったんです」
「嬉しく…?」
「ハイ。新城さんのこと、たくさん知れて、嬉しくなっちゃいました。…今日は、あの二人のデートのだしになるんだって思ってたから、得しちゃったなって」
新城の足がぴたりと止まる。
「あの二人のデート…?」
「え…あっ!」
夏美は口を押さえた。
蒼白になって立ち止まる新城。
これは、もしかして…
「もしかして、その、二人は…?」
「新城さん、知らな、かった…?」
「………………」
「あ、の、室井さんと青島さんは…恋人同士、なんです、けど…」
「………………」
「やっちゃった…」
「………………」
「…お~い、新城さ~ん…」
「………………」
「帰ってきて~…」
「………………」
その後夏美は、新城が正気に返るまで、相当な苦労をしたようである。
ちょいと管理官!脈ありっぽいっすよ!(笑)
ま、これで今後青島くんは、このことをネタに強請られて、
食事のセッティングをし続けるわけですね。
ゴチソウサマ~!
題名は、内田有紀ちゃんの「楽園」から。
♪Sunshine of my heart 忘れられないあの(初)夏の日♪
っつーことで(笑)