柔らかい朝の日差しが顔を撫でた気がして、青島はうっすらと瞳をあけた。
傍らのぬくもりが、自分の腰に腕を回して抱きしめているのに気がついて、なにやらほんのりと胸のあたりが暖まるのを感じる。
ゆうべ、はじめて彼に抱かれた。
記憶は曖昧で、最初は耐えきれないと思った痛みや、自分のものとは思えない高い声が真っ先に思い出されて顔が赤くなる。でも・・・それだけではなかった ことも、覚えている。彼の手が自分の手を握ったときの熱。普段は決して聞けない、甘い睦言。すべてを奪い尽くすような、キス・・・。
だから今、こんなに満たされたような気分でいられるのだろう。
彼を愛している。彼に愛されている。その、確かな証を与えあった、初めての夜。
一度あけた瞳を再び閉じて、青島は恋人の胸に鼻を埋めた、そのとき。
まだ眠っているとばかり思っていた恋人が、ふいに声をかけてきた。
「こら、二度寝するな。もう起きろ」
まったく、情緒の欠片もない恋人である。
「もう少し、寝かせてよ、室井さん・・・」
しかし室井はにべもない。
頬を寄せてきた青島から身体を離して、さっさとベッドを降りる。
「だめだ。お前、今日は非番じゃないんだろう。早く支度して署に行け。朝飯作ってやるから」
そう言うと、パジャマの上を羽織って青島を振り返る。
「・・・シャワー、浴びるだろ」
たしかに、シャワーを浴びたい。
ゆうべの跡が身体中に残っていて、このままで仕事にいけるはずがない。
でも。
「室井さんは?」
渋々起きあがりながら、青島はたずねた。
「もう浴びた。ゆうべ、お前が寝てしまってから。・・・さあ、早くしろ。うちからだと、いつもより時間がかかるんだから」
「・・・はあ~い・・・」
ふう、と息をついて、くしゃくしゃの頭をかき回しながら答える。室井はもう青島を振り返りもせずに寝室を出ていってしまった。
・・・なんだか室井さん、冷たくないか?
釣った魚に餌はやらないってやつなのかな。だったらちょっと、問題だ・・・。
などと思いながら、ふと違和感に気づいて自分の手に目をやる。
そこにあったのは・・・。
青島は大きく目を見開いて、ベッドから飛び降りた。
室井が閉ざした扉を、音を立ててあけ、室井の姿を探す。
「室井さん!」
「・・・なんだ」
キッチンから室井が顔をのぞかせる。
「室井さん、これ!」
青島が左手を室井に差し出す。
その薬指に光るものを認めて、室井は苦笑した。
「やっと気づいたか」
「だって!」
青島の薬指には、銀色に光る指輪がはめられていた。
「室井さん・・・」
「なんだ、気に入らなかったのか?」
室井の名しか言わない青島に、室井は眉をひそめる。
「そうじゃなくて、これ・・・」
「・・・いらないか?」
「いらなくありません!」
室井のセリフに、青島はあわてて左手を右手で隠して胸に寄せる。
「そうじゃなくて、なんで・・・」
「なんでって・・・言わなきゃ、だめか?」
困った顔をする室井に、青島は神妙に頷く。
仕方ないな、とでも言いたげに、室井はキッチンを出て、青島の前に立った。
「それは、母から預かっていたものだ。家を継がない代わりに、母が寄越した。母は祖母からもらったと言っていた。・・・結婚指輪だ。よくわからんが、いい ものだそうだ。いずれ、生涯の伴侶と思ったひとに渡せと言われていた。だからお前にやる。・・・だめか」
室井の口調は、淡々としたものだった。
だまって聞いているだけの青島に、急に室井は不安になったようだ。
「青島・・・?」
顔をのぞき込んでくる室井の問いには答えずに、青島は黙って室井に抱きついた。
「どうした」
青島は気づいていた。
室井が耳を赤くしながら、話していたことに。
照れ隠しで、青島に冷たくしたって、素っ気ないほどの口調で話したって、だめだ。
「生涯の伴侶」と室井は言った。
甘い言葉など、ベッドの中でしか言えない室井にしては、最大限のプロポーズ。
「室井さん、俺ね。今、すっげ、幸せです」
「・・・そうか」
「はい」
室井は、肩に埋めた青島の顔をそっと起こして、その瞳に浮かんだ涙を指で拭った。
「・・・お前、昨日からよく泣くな」
「泣かせてるのは室井さんでしょ」
やはり情緒の欠片もない室井の言葉も、今は耳に甘く聞こえる。
頬に置かれた室井の手が、そっと青島を引き寄せるのに気づいて、青島は目を伏せた。
室井の髪に差し込まれた左手の指輪が、朝の光を反射して、きらりと煌めいた。
これまた砂を吐きそうな・・・
いいの、スキだから(笑)