夜中にふと目覚め、傍らのぬくもりを探る。
抱き寄せて、額に口づけて、その存在を確かめてからもういちど眠りの淵に沈み込もうと思ったのに、恋人は床にはいなかった。
片手をついて身を起こし、部屋を見渡すと、わずかにあいた扉から微かな光が寝室に差し込んでいた。
なぜか不安に駆られて、部屋を出ると、青く沈み込んだ居間に、青島が座り込んでいた。
「…なにをしている」
低く問うと、青島が、もう、と顔だけ振り返った。
「寝室でたばこ吸うなっていったの、室井さんでしょ」
片手でたばこをもみ消した青島に近づいて、背中から抱きしめた。
「…なに」
いつにない室井の所業に、青島が苦笑しているのを感じる。
我ながら、説明しがたい感情だとわかっている。でも、抱きしめずにはいられなかった。
「だまって、いなくなるな」
「なにいってんの」
ゆっくりと身体を動かして、青島は室井の胸に鼻を埋めた。
「俺はここにいるでしょ」
どうしようもない不安と、おぼろげな確信。
いつか青島は、自分の前からいなくなる。
鮮やかに、記憶だけ残して。その存在すべてを、室井の前から消してしまう。
なんの確証も、予兆もないのに、じわりと広がるこの不安が、いつも室井を苦しめる。予言者になど、なるつもりはないのに。
「…青島、約束しろ」
しなやかな背に回した腕に力を込めて、室井はつぶやいた。
「なに」
「むこう50年間、俺の半径100m以内から離れるな」
くすりと笑って、青島は室井の肩に頭を預ける。
「80のよぼよぼになったら、俺はお払い箱…?」
「安心しろ、その前に俺は死んでる」
真剣な表情をくずさない室井に、青島は優しい笑顔を浮かべながら室井の前髪を掻き上げた。
「…俺を残してくの?」
「残されるのは、ごめんだ…」
言ってから、皮肉げに口元をゆがめる。
なんというエゴイスト。
こんなくだらない約束で、また自分はこの男をつなぎ止めようとしている。
それでも青島は、にこりと笑って、室井の頬をかすめるように口づけた。
「了解、室井さん。むこう50年間、半径100m以内だね?」
かなえられるはずのない約束をさせる自分も。
果たすつもりのない約束をする青島も。
ふたりともとんでもない大うそつきだ。…でも、それでも。
月明かりの下、抱き合って。互いの存在を確かめ合う、その瞬間だけ。
この不安が消えていく。
いつか、この男は自分の前から消えていなくなる、そう決意を固めている。
そうしたら、自分に引き留めるすべはない。
けれど、今は…。
猫のように、気持ちよさげに目を閉じる。その髪に、口づける。抱く腕の力をいっそう強める。
この愛おしい存在が、決して離れないように…。
ざは~~~っと砂を吐きそうな・・・ばったり。