登場人物はふたりだけ。恋人時代。室井さんの過去に探りを入れる青島くんのお話。ヤってはいませんが軽くR指定です。
A面とストーリーに繋がりはありません。
駆け引き~B面
1.
「室井さんと呑むなら気をつけろ。潰されるぞ」
青島のリアクションに満足気な視線を残した新城は、鼻笑いでトドメを差して去っていった。
***
「――ってね、言われたんですよ」
「・・・・」
「その時の俺の気持ち分かります?なーんか悔しいってーか、なーんか負けたってーか」
「・・・おまえが一番だろう・・・」
「だからっ!ねっ!今日は勝負の日にしようと思います!とことん付き合ってもらいましょーかっ」
フォローを入れてみたところで室井の台詞はあっさりとスルーされ、目の前のグラスに注がれた日本酒がたっぷんと揺れた。
それをじっと見るしかできず室井は心中の長い溜息を絨毯に落とす。
いっそ室井に不満があるのかと勘繰るほど、青島の斜め上の勢いは真剣で、筋違いの挑戦を突きつけられている。
急に家呑みがしたいなんていうから、あわよくば甘い夜をなんて室井が期待したのも当然であったが、それは持ち越しとなりそうな雲行きだ。
最初からどうも青島のテンションは違う方向へと向いている。
「大体何でそんな話になったんだ・・」
「え?あれ?なんでだったっけ・・・?」
「そもそも本庁へ何しに来た」
室井の目の前で青島の眉が片方歪み、小首を傾げた不思議そうな顔が天井を向く。
「んん!そうそう!今ウチで扱ってる事件の容疑者の指紋がね、本庁がむかーし担当した事件関係者と合致してるって聞いて、その話を探りに」
「どうして新城を」
「丁度見掛けたんで」
他に知ってる一課刑事なんていないしぃ~とぼやいてはいるが、青島の顔は満更でもなく、室井の横目が無言で不満に染まる。
大体一課に気安く顔を見せて馴染みとなっていくのもどうかと思うし、折角本庁に来ても室井に挨拶一つ寄越さないっていうのもどうなんだ。
今夜の一件はどうも何もかもが青島の中で完結しているらしい。
青島の口から、室井以外の他の男の話が出ることもだ。
「細川さんとか益本さんも居ましたよ~。丁度みんな帰ってきたところだったみたいで」
「成果はあったのか」
「・・・教えてくれるわけないじゃん本店が」
だったら何故探りに行った。
口唇を尖らせ顔を上げた室井などそっちのけで、優美な輪郭の喉仏を波打たせ、青島がグラスを煽る。
少し濡れた口唇が赤く電灯に光って男の目を誘った。
「で、室井さんの酒豪ぶりの話になって・・」
「だから何故酒・・」
「俺が今日呑むんだ~って言ったから」
「・・・」
「そしたら益本さんがさ、妙に突っかかってくるんですよ。下世話なおばちゃんかっての」
「・・・」
「新城さんも分かっててフォローくれないしぃ」
もぉぉ~と青島が当時のことを思い出したのか、ぷっくりと頬を膨らませて頬杖を突いた。
拍子で襟元が撚れて秘肌が晒される。
「ありゃ細川さんも苦労してますね。ウワキもできなさそう」
別に新城と細川がデキているだなんて話を青島はしているわけではない。
仮にデキていても、それを青島が知れる立場にない。
ただ、振り回されて息苦しそうという日常を皮肉っただけなのだろうが、関係の束縛に自由はないとも聞こえ、室井は思わず煽っていたグラスを止めた。
「上があーんな難易度高い人間だとさ、細川さん攻略ブックくらい書けそう。・・・ぁ、その意味では俺もか」
誰のことを指しているのか、少し親近感を抱いたらしい青島の顔がハタと止まり、そして妖艶に微笑む。
青島は、舞台を整えれば酒の飲み方を華麗にも綺麗にも出来る男だ。
先程から営業マンらしくペース配分を崩さないところは見事であり、室井も一目置いている個所だが
流石に量が増えてきたことで、むしろ見る側の、室井の目のやりどころを奪った。
紅潮した肌が映え、加えて、無自覚にネクタイなんかを緩めるから気が気じゃない。
「今度ねぇ、自分とも呑めってやけに熱心に誘われちゃいましたよ。所轄なんて相手にもしてくれないくせにさ」
室井を細波立たせると知っていて、青島はそう口にする。
それはちらっと向けた視線が物語っていた。
「そう、思うのか?」
室井自身は酒には強く、未だ頬一つ赤らんではいない。
むしろ青島の会話の方が気になって今日は酒の味すらよく分からない。
どうせだからと青島と買い込んだ酒は、そこそこの銘品だった気がしたが。
「じゃ、行ってい?」
「・・・だめだ」
やーっぱりね~と、あっさり諦め、青島はまたグラスをくるくると回しだす。
「意地ワルイのは本店のルールなの?益本さん、ぜーったい疑ってるって」
「・・・・それで」
「そう簡単にカード見せるわけないでしょ、俺が」
「賢明な判断だ」
「でもさ、細川さんからもずっと何か探られてるような気がして、同僚のあんたにはゴメンだけど、やっぱちょっといい気はしなくって」
「・・・」
「あの目がね~。新城さんのナンバー2ってのも納得ですよ。コンビってのはああやって――」
無言のまま、室井が青島の口を塞ぐことで無駄話が半端に止まった。
首を延ばし、軽くちゅっと振れるだけに留め、室井はもったいぶるようにゆっくりと口を解放してやる。
上気した瞳が室井を見つめ上げている。
「他の男の話はもういい」
「・・・なに」
「おまえも。頼るのは俺だけにしておけ」
「!」
何か言おうとして、そのまま固まった青島の手からグラスを取り上げると、室井はテーブルにそれを戻し、その手はそのまま遠慮もなく青島のシャツの中を弄り始める。
一瞬強張った躰は温かく、無垢な瞳が室井を覗き込んだ。
「酒、飲みたかったんですけどね・・・」
室井は大笑いするようなことはないし、いつも目尻を少しだけ滲ませる変化だが、それでも今、室井が悪戯心が湧いていることが青島にも伝わる。
こつんとおでこを付けて青島が愛おし気に室井の頬を撫ぜた。
「酒、ほんとに強いんだね・・」
質問には答えず、室井は青島の顎を指で固定した。
至近距離で見つめ合えば、アルコールを含んだ甘い吐息は、室井を酩酊感に溺れさせる。
思う以上に青島は酔っていたらしかった。
赤らんだ頬が色香に染まり、ふぅと甘ったるい息を落とせばそれは熱っぽく、そんな嬌態に神聖さを感じるのは妙かもしれないが
室井には愛おしさが溢れた。
そんな風にタガを外したことのない室井は、青島に自由を感じて、何かを忘れてきたような気持ちを掻き立てられる。
さして抵抗らしきものも見せず吐息で笑う青島の胸元のボタンを一つ歯で外し、室井はゆっくりと体重をかけて青島の背をソファに押し付けた。
「細川はああ見えて新城の腹心だ。むしろ喜んで籠の鳥になる」
「探られてるよ、俺たち」
「放っておけ・・」
「室井さんもさ、実は浮気したことある?」
ソファと室井に挟まれて、室井に腕も捕られた青島が他愛ない恋人ゲームを装って室井を試そうと仕掛けてくる。
危機管理というのは、人としての総合力が問われる局面だ。
一体何を探られてきたのだか。
「・・ん・・・、」
匂い立つような肌に室井が幾つも吸い付くと、青島は力なく震えた。
膝頭で脚を割り、室井はそこに片膝を付く。
ソファの背に後頭部を預けた青島が顎を反らして、濡れた瞳を揺らした。
「あるんだ・・・」
「妬くのか?」
「つまり・・オトコとキスしたことあんだ・・・?」
「・・・」
警察学校時代、確かに戯れの一つとして、口付けを交わしたことはある。
性に興味津々の猛者が集まる場所だったからこそだ。
不安そうでいて、勝ち気な、壊れそうな瞳に、青島の情愛が透けていて、酷い焦燥を覚えた。
何でコイツは俺なんかを好きだというのだろう。もっと簡単に、もっと多くの相手がいるだろうに。
「・・・それはおまえとこうなってからか?それとも過去の清算を?」
ゆっくりと顔を傾け、室井は濡れた口唇に触れる直前で止めた。
息を詰めた青島の火照った肌も、煙草の混じる匂いも、壮絶に美しい。
薄っすらと室井が声のない笑みを見せると、青島の瞳には室井だけが映り込む。
不安定に揺らぐ眼差しに魅入られ、室井の目も雄の色を帯びた。
室井が首を傾ければ青島が睫毛を震わせ、閉じられたことを確認し、室井はその口唇を重ね合わせた。
ソファの背に押し付けられた青島の背が、徐々に激しくなるキスに崩れていく。
室井に上から押さえ付けられ、上がった息ごと飲み込まれ、酒ではなく赤らんだ青島の目尻は薄っすらと光を放った。
甘い唾液も甘い舌も、今夜はアルコールの分だけ熱を増している。
「・・ん、・・ふ、・・、・・っ」
鎮まり返った部屋には、二人分の息遣いと濡れた音が響き、舌を何度も絡ませ、吸い上げた。
やがて、室井の勢いに押され、態勢を保てなくなった二人の身体はズルズルと重力に伴い、床まで沈んだ。
組み敷く形となって、室井がその両腕を固定する。
丁寧に作り上げられた室井の筋肉質の身体とは真逆に、青島の躰は天然で、美麗な腰が妖艶に揺らめく。
少し外れた口唇をもう一度だけ甘噛みし、室井は見下ろした媚態を覗き込んだ。
「・・・安心しろ・・・もうおまえとしか、できない・・・」
上気した息の奥で、深く貪るように舌を注ぎ込めば、青島の吐息が熱を孕んでいく。
酒ではなく、室井によって潰された青島の躰は、もう男の手を求めて疼き始めていた。
好きで好きで、どうしようもなく好きで、狂ったように求めて、ほぼ強引に口説き落とした、そんな蒼い過去など
室井の人生にはこれまでなかった。
他愛のない同性のキスなど、それこそ、こんな激情を飼い馴らす苦労も貧欲も知った今となっては、何の意味もなくす。
肉が与えてくる確かな手応えと狂喜は、大人になった今だからこそ分かる。
拗ねたような、甘えたような、幽かな青島の吐息が室井の耳を擽り、熱を持つ指が室井の無駄のない背中をそっと辿った。
ゾクリとした肌を覚えつつ、室井は自分でネクタイを引き抜くと、青島の吸い付くような肌を確かめ、胸の尖りに両手を伸ばす。
ぷくりと膨れ上がった先端を両手でこね回すように嬲られ、青島は室井の下で口を開けて喘いだ。
「善いか?」
断続的に息を途切れさせ、背を浮かせる青島の耳元に囁き掛ける。
「う・・・ん・・ッ、イイ・・・・・ッ」
青島が震えながらも微かに答えてくる。
汗でしっとりと湿ってきた肌に合わせ、薫る芳香に、室井にも酔いが回った気がした。
室井によってスーツは乱され、その脚も閉じることを阻まれた青島の嬌態は、室井が導いたものであり、室井だけしか見ることを赦されない。
ようやく自分のモノへと変貌した恋人に、室井の瞳は満ち足りた雄の焔を浮かべた。
全てに触れたい。全てを奪いたい。
他所の男によそ見なんかさせないほど、熱に支配し、堕としたい。
今夜は好きなだけ焦らして愉しませて貰おう。
Happy end

本庁サイドで室青。こういう踊るの雰囲気が昔から好きで。
キスして10題のうちのひとつでした(初出:そんなことよりキスをして)
20200726