登
場人物はふたりだけ。事後。当サイトでは珍しく、室井さんにメロメロにさせられた青島くん。室井さんは最初っから青島くんにベタ惚れ。青島くん視点。
B面とストーリーに繋がりはありません。
ノックアウト~A面 青島俊作の誤算
1.
ベランダに出てぼんやりと夜風に当たっていた青島は、不意に窓が開けられたことに驚き、灰を落とした。
このまま去るつもりであった計画が、この躊躇いのせいで台無しだ。
「何をしている・・・?」
「んー・・・」
低く問われ、背中を向けたままひらひらとシガレットを掲げて見せるが返事は無く
恐らくそれが真意ではないことを室井も察しているのだろう。
振り向かない青島に、室井が背中を預けるようにもたれかかった。
珍しく室井にしては距離を失った仕草でも、青島は目線を向けなかった。
シャツを羽織っただけの身体は、冬の凍てつく風に晒され、思う以上に冷めていたことを、室井の体温が伝えてくる。
「風邪を引くぞ」
そういう室井もシャツにニットをを羽織っただけで、素足に当たる肌がまだ寝起きの温もりの残る体温を伝えた。
「あんた、眠りなよ・・・、明日も早いんだろ」
「おまえがベッドに戻るならな」
「・・・・」
電気も点けない深夜の部屋は光がなく、ベランダに零れる残光もない。
星もない都会の空に、月だけが浮かんでいた。
その月灯りの玲瓏な松葉色に縁どられ、眠らない都会の夜景は、まるで終わらない悪夢を描いているようだ。
紺碧に浮かぶ青島の乱れた髪が、ビル風に揺られ、そよぐ。
背中合わせのまま、二人は動こうとはしなかった。
今夜を最後にするつもりだった。
室井に抱かれてしまったこの夜が、都合の良い口実になる。
こうして逢うことも、肌を重ねることも、最初で最後だ。
男に、室井に抱かれるという行為は、そのくらいの決意を容易にさせるくらい、何もかもを蝕み朽ちさせる、圧倒的な体験だった。
「処女の女じゃないんですから。躯奪った後に隣に寝てないくらいで騒がないでくださいよ」
「後悔。・・してるんだろ」
「・・・・」
断定する室井に、返事は出来なかった。
見上げれば、まだ明けぬ空には半分欠けた不完全な月が窓辺に深々と射し込んでいる。
憎まれ口が夜に溶け、だがそこに僅かに潜む何かを嗅ぎ取ってしまう共鳴が、今夜だけは疎ましい。
そんな風に室井に思わせるつもりはなかったんだけど。
ふと目が覚めたら青島の姿がないので、探しにきたのだろう。
頭が固く利己的な室井が、誤魔化されてくれる算段は無い。
沈黙が重く、青島は諦めたように肩から息を吐いた。
「俺。そんなに人間、出来てないんですよ」
後悔。・・・なんてしてるに決まってるじゃんか。
このひとに、胸の深部を暴かれた時から。
初めて重ねられた口唇は、灼けるように熱かった。
酒で少し緩んだ気持ちの隙間を縫うように、グラス越しに室井に口唇を奪われ、ただ一度、厭かと問われた。
いつもは闇色をした深閑な瞳が、何かの決意を秘め、鋭い焔を宿していたのを、ただ、綺麗だと見上げていた。
「俺が欲しがった。俺が受け止めさせたんだ。だからおまえが気に病むことはない」
「んな、勝手なリクツ、通るわけないでしょ」
室井がようやく身を起こし、月光にやけに白く浮かぶ手が名残惜し気に伸びてくる。咥えていた煙草を掠め取られた。
室井の指先が口唇に触れ、なんだかたったそれだけのことなのに、ドキリとして泣きたくなる。
どうすっかなぁ・・・なんて。
幾ら考えたって答えなんか出っこない。
ヤっちゃったもんはヤっちゃったのだ。
行為の間、室井の口は、愛情を告げる常套句はなく、ましてや何の許可を問われているのかも、定かではなかった。
でも、多分、身体は正確に意味を察していた。
〝委ねてしまって良いのか〟それが一瞬の隙を生んだ。
逡巡をどう解釈されたのか。
次の瞬間にはその一分の隙も無い逞しい胸板に掻き抱かれ、息も吐けないキスが落ちてきて、そのまま床に組み敷かれていた。
その先は、まるで嵐の中に放り出されたようで、狂暴な情動に攫われ、これで良かったのかどうかすら、考える余裕は与えては貰えなかった。
はしたなく男の前で裂けるほど脚を開き、その終点に雄を埋め込まれ、肌を弄られながら激しく揺さぶられる視界は霞み
享楽と痛恨の間で身を裂く痛みに震えた。蕩けさせられた躰は息すら出来なかった。
背後から青島のフェイスラインにそろりと親指を流し、室井が青島の顎を掴む。
クイっと上向かせられ、青島は僅かに抵抗する。
ついさっきまでこの綺麗な指先が青島の全身を暴き、這いまわり、好き勝手に嬲られたことを思い出し
朱を叩いたような顔を見られたくなくて、んだよ、と吐き捨て、青島は顔を背けた。
「俺を、捨てるか?」
「ッ」
ズルイ。
先にそれを見抜かれたら、まるでこっちが護られたみたいじゃんか。
「おまえ、消えるつもりだろう?」
それはほぼ断定だった。
青島は応えず、黙ったまま後ろから縋るように自分を引き寄せる男の腕に、返事の変わりに力を抜いて背中をを預けた。
子供の様に欲しがる室井の腕が、なんだか普段の毅然とした室井とのギャップで、青島の顔を歪ませる。
まるで二人して逸れた迷子みたいだ。
「室井さん・・・俺・・・」
「躯も心も与えて、これで始末を付けたつもりか」
破るように脱がされた自分の撚れた胸元をくしゃりと握り、青島は顔を上げた。
至近距離で、これまでとはもう変わってしまった視線が、この夜初めて二人を繋ぐ。
「あんただって分かってんでしょ」
こんな馬鹿げた恋愛ごっこは、意味がないってことぐらい。
本気でトップを狙うライバルたちが集う中で、現を抜かす余裕なんか、あるわけがなかった。
軽く後ろ髪に五指を差し入れられると、グイっと引き寄せられた。
室井の質感と自分とは違う体温。
行為の後、シャワーでも浴びたのだろうか。少しソープの混じる室井の匂いが現実を刻む。
冬の冷たい風が背後でカーテンを音もなく揺らしていて、心許ない青島の感情を逆撫でした。
「ほんとに覚悟、出来てました?」
「・・・」
こんなこと、室井にぶつけたって何にも変わらない。
こんなのは甘えであると分かってても、堰を切った感情が止められない。
勝手に恋に変えて勝手に躯を奪っていった男に、腹も立つし、共振もする。
なんで、こんなこと。
拒めなかった。突き放せなかった。ほんの少しの惰情が、こっちの中にあったことも、確かなのだ。
「俺はっ、出来てなかったです・・っ、でも・・!」
「・・・」
「あんたの未来って、何だ?何のためにあんた、いっぱい犠牲にして・・・ここまで頑張っ てきたんじゃん・・・」
何だかとてつもなく悔しくなって、哀しくなって、青島は自分に回る室井の腕を乱暴に振り切って立ち上がった。
やっぱり、躯を与えるべきじゃなかった。
一番大事なひとだったのに。
無責任な幼稚さを受け容れきれず、無鉄砲な衝動に負けた自分が悔しい。
俺たちは、そんな簡単な気持ちで未来を宣誓したわけじゃなかった。少なくともあの時は。
俺たちは、こんな未来しか選べなかったんだろうか。
「青島・・ッ」
込み上げる熱いものが頬を伝い、青島はそれを乱暴に甲で拭う。
帰るのだと慌てた室井の制止も無視し、椅子に掛かっていたコートを取って、バッグを抱え、扉の方へ一歩踏み出し――
刹那。
「・ァ・ッ・・」
小さく悲鳴を上げ、青島がバランスを崩した。カクンと膝が折れ、とっさに室井が後ろから脇に手を差し込み、受け止める。
「ッと!」
「・・・くそ・・・ッ」
室井の腕に縋りながら、青島はなんとか踏みとどまり、荒い息を吐いた。
うっそだろ?
初めての行為の名残か、腰から下に上手く力が入らない。
羞恥と虚無が胸中を渦巻き、思わず悪態が口を出る。
自由が効かない躯に、自由を失った未来が重なり、何もかもが虚しく悲観的に思えた。
反面、カラダはもう室井のものとなってしまったようで、カッと赤くなる。
頭上で室井が、やっぱりな、と言いたげな呆れた溜息を漏らしたのが降ってくる。
正面を向かされると、片手でグッと腰から引き寄せられた。
「・・ぁ・・ちょ・・っ」
「ったく。見くびられたものだ。こンのはねっ返りが」
室井にしては乱暴な独り言を落とし、これまで大人しく静観していた室井が荒業に出る。
青島の腰から抱きあげ、肩に担いだ。
抱き込まれる厚い胸板と、筋肉質の男の腕に、青島はに気恥ずかしさが湧き、室井の腕の中で身動ぐが、力の抜けた下半身では抜け出せない。
「あ・・っ、なっ、何すんだよっ、放せっ、降ろせっ」
「もう一度腰砕けにされたくなかったら少しは大人しくしていてくれ」
「そんな脅し、俺が聞くとでも思ってんのかよっ!」
悔しいというか、情けないというか。
それを誤魔化すため、青島が逆さ吊りの状態で、室井の背中をぽかぽか叩く。
暴れる青島を意にも介さず、簀巻きでも運ぶように肩に担いだまま、室井はしっかりとした足取りで、足で襖をパンと開けると、そのままベッドへと連れ込ん
だ。
放り投げられ、バウンドする躯を押さえ込み、青島の両手首をシーツに縫い付ける。
「んッ、・・も・・・、放せよ・・!」
威嚇するように下から睨み付けるが、室井はそんな青島の反応まで愉しんでいる瞳で見降ろした。
その余裕が気に喰わない。
「さっきまでは俺の腕の中であんなに可愛い声あげてたくせにな」
室井の漆黒の瞳が闇に艶めき、昨夜の――おそらくつい数時間前の――自分の痴態を卑猥に指摘され、青島の頬にパッと朱が射した。
「ヤらしーこと言うなよ!」
「ヤらしいこと、したんだろ」
「~ッッ、男に欲情したくせに!」
「惚れた奴に盛って何が悪い」
ぼんっと、火が出たように青島が赤面した。
今それ言う?
「なら、警視総監になってからおまえを抱けというのか。・・・干からびちまう」
簡単に手懐けられない野生的な活きの良さが、瑞々しい美しさを持ち、雄を魅了する。
室井がそっと青島の下半身に腰を擦りつけ、淫猥な動きをする。
少し硬くなったソコが太腿に当たり、雄の本性を曝され、それを向けられたのが自分なのかと思うと、青島は汗顔の思いで横を向いた。
「溜まってんならご自分でヌいてください」
「性欲処理を心配されるほど物知らずではない。が」
スッと室井が顔を寄せ、耳元で囁いた。
「ヌくなら、おまえで」
即座、執拗に声を上げさせられた熟れた記憶が断片的に青島を苛む。
あられもない部分を雄々しく貫く楔は鍛え抜かれた肉体に相応しく、太く逞しかった。
硬く怒張した淫棒は、青島を串刺し、単調に律動するだけではなかった卑猥な動きが、大人の男のベッドタイムを教え、青島を底の底まで奪い、爛れていった。
何度も擦り上げられ、熱く腫れあがった秘花が、まだ濡れてじんじんと疼いている。
「なんで、俺に抱かれた?」
指先で室井が青島の顎を捕える。
重い吐息をひとつ落とすと、親指で青島の下唇をぷにっと押した。
だから。
一々そういう仕草が気障に決まる男だ。
室井は無意識なのだろうが、身に付いた高貴なキャリアはベッドの上でも同じらしい。
そっぽを向いたままでいると、圧し掛かったまま室井はひとつ、息を吐いた。
「おまえ、俺がおまえ一人を抱え込んだくらいで潰れるような男だと思っていたのか」
「コトはもう、んな簡単な話じゃないんですよ・・・・」
不貞腐れて横を向いた青島に、室井が舌を出して首筋から鎖骨を嬲った。
「ゃ・・・っ、やだっての・・・っ」
軽く身動ぐが、上品に鍛えられた筋肉は隙がなく、両脚から抑え込まれ、効果は無い。
だから、こういうところがカッコイイんだって・・・っ、もぉぉッ。
抑えつけられていた手首を頭上に纏められ、室井がシャツを羽織っただけの青島の躯に、そっとボディラインを確かめるように撫でおろしてくる。
指先の色香に、それだけでぞわりと湧き上がるものが怖く、縋るように青島が室井を見上げた。
たった一晩で繰り返し教え込まれた身体が、室井に反応している。
青島の瞳の中に小さな怯えを見つけ、室井は微かに苦笑を見せた。
「カラダに聞くってサイテーじゃないですか」
「こんな時、俺ばっかりが好きなんだなと思い知らされるな・・・」
「室井さんの愛が重すぎんですよ」
「愛、にしてくれるのか?」
この想いを。
耳元に妖しい声色で吹き込まれ、青島は全身がゾクリとした。
分かっているようで分かっていない男に腹も立つ。
両手を頭上に留められたまま、柔らかく口唇を塞がれた。
手慣れた仕草で口腔を開かされ、崩れ落ち、壊されていくような浮遊感に、青島は首を頑是なく振って、ささやかな抵抗を訴える。
「ゃ・・・っ、ん、おねが・・・っ」
「その間、おまえを誰にも捕られないという保証は?」
「・・ぁ・・・ッ、ん、は・・ぁ・・・っ」
自由の効かないこのもどかしさが、情事の間、室井に快楽まで支配されていた壊されるような強烈な感覚を蘇らせた。
肉の最奥まで突き上げられたあの衝撃は、当分消えそうにない。
こんな鮮烈な想いを刻まれ、悦楽を憶えさせられた躰で、この先を、どうしろというのだろう。
このひとのいない世界で。
「こんなことしても、もう怒られないんだな・・」
「最初からそこを怒ったわけじゃない」
拗ねたように白状すれば、室井は双眼を深めた。
フッと笑う嘲笑的な吐息交じりの反応は、ニヒルというよりは虚無的で、どこか寂しげだった。
自分しか見えてない室井の瞳。そんなの、最初っからだったじゃん。
知ってた。ずっと。
好きな男に貪られる躰が、悦び、濡れて蕩ける。
こんなにおれ、すき、になって。
「欲しいって言え」
「・・・ヤですよ」
「意地っ張りだな」
「どっちが」
こんなに言い争ってもすれ違っても、このひとには『別れる』という選択肢はないのだ。
甘い告白を吐息に乗せ、自分を翻弄する男の濡れた呼吸を肌で感じ取れば、室井の瞳に自分が映っていた。
男らしい淫靡な笑みが揺れる。
だから、そんな嬉しそうな顔しないでほしい。
なんだか馬鹿らしくなってきて、青島はやりきれない嘆息に口唇を咬んだ。
どうもさっきから会話が噛み合っていない気がする。
下らない矜持と引き換えに、大変なことをしでかしたのに、まるで高校生の恋愛のような駄々に変える室井の応酬に、青島の眉が顰められた。
「どうしてバレたんですか?俺の計画」
「逃げ出すことか?抱いている相手が何を考えているかも分からない思春期の若造と一緒にするな」
あんたが子供みたいに駄々こねてんだよッ。さっきからッッ。
呆れて言葉も飛ぶ。
口で負けたのなんて、初めてだ。
「君はきっと、俺のために身を引くだろうと思ったから。そろそろケリを付けたかった。いっそ言わせてしまおうと思った」
じんわりと胸が軋み、なんか涙腺がおかしい。
馬鹿だな、と囁くような声が、耳元に聞こえた。
「バレバレか・・・」
「詰めが甘い」
成熟した男の包容力を見せる室井に、聡明な力強さを見て、またひとつ、青島は心細くなった。
いっぱいにさせられて、失うことまで怖くなる。
泣き笑いに変わって、青島が声を震わせる。
「どうしましょ?ヤっちゃいましたね・・」
「もうそれはそれでいい」
「今どんな感じ?」
「キモチ良かった」
「セックスの感想聞いたんじゃないんですよ」
クスッとくぐもった室井の微苦笑が、室井にしては珍しい冗談だったことを示し、そんな素を垣間見れて嬉しがる自分もいる。
昨夜の爛れた記憶は断片的で、でもその中で眉を顰めた男っぽい室井の顔や、感じている目許、達った時の声。
巧みに俺を嬲りながら、俺ごと受け止めてる感じが成熟した大人で、何もかもが敵わなくて、そんな男の色を薫らせる姿を断片的に憶えている。
抱かれて、もっと好きになっちゃったから、怖いのだ。
逃がさないようにシーツに縫い付けながらも、尚も青島の首筋に顔を埋め、動こうとしない室井は
何もかも赤裸々に晒しているかのように見えて、まだ何かを隠していた。
剥き出しの感情のその奥に、青島が手を触れることを赦してくれない何かは、室井がひっそりと抱えてきた、激しい欲望そのものなのだろう。
それが、室井の愛情だと分かった時、摂理に反した行為の代償であるかのように、青島の心が破裂した。
腕を持ち上げ、青島も室井にぎゅっとしがみつく。
も、だめ。傍に居たい。抱かれたい。このひとに貪られたい。だいすき。だいすきだ俺。
もう、室井じゃなきゃ、ヤだ。俺、室井さんがいい。
初めて感じるその原始的な衝動は、今まで感じたなによりも鮮烈で、室井によって引き出されたものだ。
室井に顔を覗き込まれ、その顔がくしゃりと崩れる。
なにその顔。
よっぽど自分が酷い顔をしているのだと分かった。
でも、あんただって相当ヒドイ顔だけど。
ゆっくりと頬を撫ぜられ、顎を持ち上げられ、室井の口唇が近づく。
それを甘えたなまま見つめていたら、焦点がぼやけるほどの寸前で、止められた。
「・・・・」
じっと見下ろす瞳に、心が破裂する。
「俺んこと、捨てる?」
「考えておこう。その代わり、おまえが俺だけのモノになるという条件だ」
欲に塗れて、狂った台詞に、いっそ奇妙な安堵感を覚える。
今夜のことは、青島は情動に負けたと思ったけれど、もしかしたら室井は違うのかもしれない。
室井にとって室井たらしめる物。
「ああもぉぉっ!分かった!わっかりましたよ!俺の負け・・っ」
青島はばふんと両手を上げて、身体の力を抜いた。泣き笑いだった顔が、本泣きになる。
どう抗っても、結局自分たちは離れられないのだ。
果てまで付き合わせるつもりだ。
「その代わり!中途半端に欲しがってんなよ・・っ、奪うならん根こそぎ奪え・・!そしたら――」
青島の両手が室井の胸倉を引き寄せる。
「地獄の果てでも相手してやるよ」
とびっきりの婀娜めいた声で、青島は室井を悩殺した。
涙が一雫、零れ落ち、濡れた紅い口唇の豊潤な艶笑が耽美な絵となる。
室井が深く口付ける。
室井の切なげに途切れる息が、青島に眩暈を起こした。
震えるほどに惚れ込まされた男に触れられることが、こんなにも多幸感にくらくらする。
「いつか。・・一緒に変わっていきたいです。一緒に戦って、一緒に歳取って、白髪になるのだって楽しみです。一緒に最近老けたなって言いたいです」
「おまえは・・・・本当に俺を煽るのが上手い」
音もなく青島の耳元に口唇を寄せ、しっとりとした低い声を落とされ、不覚にも青島は裡から感じた。
室井の眉間の皺がなくなっている。
あ、ちょっと復活してきてる。
「すきって、言って、ください」
室井さん、と囁いて、顎を反らして青島から室井に口付ける。
甘い誘いに室井は目を眇めた。
「言ってよ・・・」
室井の手の平で転がされているうちに、張り巡らされた罠に囚われて、この狡猾な男が逃がしてくれるわけないのだから。
嘘だっていい。
欲しがるだけ、この身体を貪ればいい。
約束の他に秘密と罪を共有していることを、決して忘れさせないために。
「俺のヴァージン奪ったんですから」
室井が口端を少しだけ持ち上げて見せ、それから徐にサイドボードへと手を伸ばした。
そこから何かを取り出し、それを冷たくなった青島の手に握らせて、拳でこつん、と頭を叩いた。
冷たくなった手の平より冷たいその硬質の感触に、それが何かを知る。
また、ベタなアイテムだなと思いながら、青島は首元に顔を埋めてくる室井の後頭部を掻き混ぜた。
切ないほど細いその糸が、小さな恋の粒を繋いでいく。その粒子がいつかダイアモンドになど変わることはないと知りながら。
埋もれていた情火。消しきれなかった灯。
命儚く、時は無常だ。
越えていくんだ。そう思うと、ただ切なかった。ただ、ひたすらに愛してくる室井が、ただ愛しかった。
Happy end

初夜話。最後に室井さんが青島くんに渡したのは室井さんちの合鍵です。えっちしたら青島くんは動揺するけど、室井さんは飄々としてそう。でも内心はウハウハだろう。
僕の世界3題のうちのひとつでした(初出:世界さえ欺いて闇に溶ける)
20160423