登場人物はほぼふたりだけ。どしゃぶりの雨の中、青島くんをおいかける室井さん。ふたつの結末。
A面とストーリーに繋がりはありません。
純愛~B面
本庁中央通路の角に差し掛かった時、聞き覚えのある声に青島の足が止まった。
雨の中、無事送迎の任務を解かれ、庁内を探検していて――正確には迷子になっている間に、青島はそこに遭遇した。
現在、夏の全国交通安全週間に備え、思想の普及・浸透を図り、運動の基本テーマを決めるための全体会議が本庁で行われている。
その一環で、青島も珍しく本庁へ訪れていた。
各署長が一同に会す廊下の南側は人がごった返し、ざわめきが遠くまで響いていたが
ここ北側は不気味なほど静まり返っていた。
節電のために消灯、緊急防犯灯システムの赤、怪談でもされたら信じてしまうくらい、足音も憚るほどだ。
どこか緑色の大気が煙る、この長い廊下の向こう側に、室井がいる。
会ってはいけないひとでも、会って不味いひとでもないが、随分と会っていないひとだ。
「・・・、要は青島なんだろ」
自分の名が話題に上っていて、いよいよ青島は退散するタイミングを逃した。
「終わったことだ」
「お前のポーカーフェイスを俺が見破れないとでも思っているのか」
「お前の分かり易い挑発に乗ってくれると思われている方が不思議だ」
「付き合い悪いねぇ」
俺には恨みないだろ、と続くせせら笑いは一つで、どうやら廊下の向こう側は二人だけのようだった。
休憩所でもあるのか、立ち話でもしているのか、一向に去る気配はない。
困ったように視線を上げれば、非常誘導灯もそちらを指していて、行くしかなさそうだった。
「余りに頑なだと上にも勘繰られるぜ」
「探られて痛い腹などお互い様だろう」
「つまり青島とは手を切ったのか」
「変な言い方をするな。友人ですらなかった」
「友人・・に、なりたかったのか?」
「・・・、」
室井の声は所々聞こえない。
でも何か青島の心に大きな石が投げ込まれるような重苦しいものが澱む。
「ああ、いい女じゃねぇか。今度は上手くいくことを祈ってやるよ」
「やかましい」
「また彼女も巻き込むぞ」
「またって言うな」
なんの話・・・。
「手を打つ価値もないことだろう」
「寝ていた獅子を起こされた男の言い分としては弱いぜ」
「恋敵だ。慣れ合ってどうする」
「青島を恨んでいるのか」
「遊びで身を滅ぼすほど愚鈍じゃない」
青島の足はくるりと踵を返した。
適当に走って適当な非常階段から本庁の外へ飛び出した。
雨は本降りとなっていて、瞬く間にコートの色をたちまち変えていく。
室井と恋。なんとも重ならない言葉だった。
色々なことが目まぐるしく渦巻いていく。
青島は街を闇雲に走った。
飛礫が肌を打ち、季節にしてはだいぶ冷めた水滴がネクタイを擦り抜けシャツの中まで貼り付いてくる。
ネクタイが濡れて頬を叩いた。
「・・っ、はぁ・・・っ、は・・ぁッ、は・・ぁ・・・っ」
走り過ぎて破裂しそうな心臓を鷲掴み、膝に手を付いて息を整える。濡れて落ちた前髪を拭うこともせずに、青島は目を瞑った。
室井と青島の関係に眉を潜める風潮は二人が共謀した事件から遥か経った今でも、本庁の方では根強く、陰口の中心であることは知っていた。
政治に生きるキャリア同士の会話が、造られた駆け引きであるともかつて室井が言っていた。
室井が青島に恋人の存在を言わなかったとして、そこに裏切りなどという大層な理由など付くわけもない。
所轄の口の軽さから余計な情報が露見することを避け、青島自身、室井との仲を大袈裟に吹聴することもない。
要は二人は限りなく他人に近い過去の関係だった。
何がショックなのかも定かではない。
こんな雨の中、彷徨う重大な理由が、青島の中に存在していない。
カンカンと音を立てながら歩道橋を登る。
流れ落ちる水滴をコートの袖口で乱暴に拭った。
灰色に濃霧に乱反射する無数の光が雲を怪しげで不思議な色に染めている。
一面鼠色の世界で、霧雨に尻切れとなるテールランプの消失点を青島はぼんやりと目に映した。
――先にセーブしたのは多分青島の方だ。
自分たちはどこまでも曖昧だった。
想像以上に甘美な距離感は、深く激しく永遠に続くとさえ錯覚させる濃密さで、知らず知らずにいつしか戸惑いも焦燥も制御しきれないほどごちゃごちゃになっ
て
閉塞感や絶望感の顔をして、青島を酷く困惑させてくる。
切りがない、そう思った。
だからどこかでケジメをつけなければならないのだ。
この雨だって、いつかは止む。
〝遊びで身を滅ぼすほど〟
そんな風に俺は断ち切らなければならない存在だったんだろうか。
そんな風に先に切ったのは自分だったくせに、身勝手にも室井を詰ってる。
〝また〟と言った。つまりはこれは室井の二度目の恋で、相手は青島の知っている人間ということか。
そんなの、数が知れている。
あんな言い方しなくたっていいじゃんか。
あんな風に言われて、運命みたいな腐れ縁で途切れない絆みたいなものが存在していると勝手に思っていた馬鹿な心を叩かれた。
違う人を好きになっただけでこんなに遠くなるなんて。
新緑に映える木々も風景も、重い色調で茂みを覆い尽くし、世界が薄暗かった。
「青島!」
不意に声を掛けられ、青島の身体がビクンと竦む。
まだ現実と虚構の間にいるような漫然とした瞳で頭を上げれば、室井が歩道橋を駆け上がってくるのが見えた。
瞬間、駄目だ、と思った。
まだ室井には会えない。
明確だった距離感が喪失していて、この胸のもやもやする答えを掴むまで、会ってはいけない気がした。
室井を待たず、青島は欄干から飛び下りる。
モスグリーンのコートが雨に泳ぎ、輪を打つ水たまりをエンジニアブーツが派手に弾いた。
隠して忘れて仕舞い込んだ何かが、破裂する気がした。
自分が傷つくことには慣れているけれど、大事なひとを傷つけて平気なフリ出来る程、俺は人間が出来ていない。
それは必死に逃げてきた過去との対峙だ。
逃げた?俺が?
どこから間違えた?
どこから狂っていた?
――コワイ
歩道橋を駆け降り、路地裏へと逃げ込んでいく。
今のこの雨音は、心のざわつきに呼応しているようだった。
二人の間の約束を願い、弔い、護ることが青島の支えだった。
どうして突然こんなことになってしまったのか。
一番大事なひとで、一番遠いひとだった。
追手を撒くために入り込んだ界隈で、不意に脇道から足音が鳴り、途端に、影が飛び出してきた。
たたらを踏んでもたついた足は絡まって、バランスを崩しかける。
「なん・・っ、どしてここに・・・っ」
「行くな・・!」
掴まれた腕が知らしめる罰のようで、青島の動揺を加速させた。覚束なく腕を振り室井の拘束から逃れようと踠く。
室井の手が強引さを持って青島を引き寄せる。
「ゃ、だめです・・・!放・・・!」
暴れることで飛沫が飛び散り、取っ組み合いとなる。
足には自信があったのに地の利を活かした追跡なんて反則だ。
優しくすんな。触るな。見つめないで。近付かないで。今は。ぜんぶ、重い。
「待ってくれ、」
「はな、せ・・ッ」
乱暴に振り払おうと上げた腕を捩じられ、そのまま室井が青島を力任せに引き寄せる。
抱き竦められて、室井の熱が身体中を包み込んだ瞬間、叫ぶ文句も、塞がれた口唇に閉ざされた。
「・・!!」
何が起こっているのか、良く分からなかった。
雨脚が強まる国道の脇道で、このひとが何を考えているのか。
今、室井に何をされているのか。
謹厳な室井の漆黒も伏せられ、長い睫毛が雨に艶めいている。
そこだけ灼けるような熱を持つ薄い男の口唇が唾液で濡れたようにぬめって、塞がれるだけのキスは甘さの欠片もない。
駄々を捏ねる身体は熱い熱に封じ込められ、室井の両手が、しかと青島の頬を掴んだ。
少し背の低い位置からぴったりと重ね合わされた男の口唇が、青島の息を殺す。
余りの急転直下に青島は深く口唇を塞がれたまま、焦点がぼやけるほどの視界で室井が顔を傾け自分の口を吸うのをただ見つめた。
「君が、走っていく姿が廊下から見えて」
ゆっくりとキスを解かれ、その余韻に思わず青島は弛緩する。
瞼を持ち上げて、室井の宇宙のように黒々とした瞳が青島を取り込んだ。
必死に追いかけてきたくせに、息一つ荒げていない男の玲瓏な鼻筋に雨が流れ落ちる。
「車で来ていただろうに、そのまま飛び出していくから」
あれ、そういや車どうしたっけなと青島はぼんやり思う。
抵抗する気も反論する気力も吸い取られ、硬い胸板に抱き竦められたまま、雨に滴る男の顔をただ焼き付けるように見つめ返した。
まんまるな目が雨に濡れる。
「政治に携わる身で立ち話は失態だな。・・・聞いていたんだろう?私と一倉の話を」
「!」
青島が目に走らせた一瞬の動揺で室井は確信を得る。
「何故、逃げた?」
「あんたには・・・関係ない」
「なら質問を変えよう」
少しだけ躊躇うように室井の薄い口唇が開いて、閉じた。
目は見据えたまま。
焦点さえぼやける距離で、放そうとはしない掴まれた二の腕の指先に力が入った。
雨が塀を屋根を雨樋を、音を立てて地面に流れ落ちる。
「俺を――好きか」
「!」
何故、今、それを糺すのか。
「好き、じゃ、ない」
映り込んだ青島の瞳が雨のシャワーに艶めく。
室井が僅か、目を見開き、苦渋を呑み込んだ。
「ッたく・・・ッ」
刹那、空気が弾けた。
掴んでいた二の腕を室井が引き寄せ、男の力で青島を抱き締める。
肩を引き寄せ、後頭部を掻き混ぜ、食いしばった室井の口端から噛み殺しきれない吐息が、青島の肩に途切れ落ちた。
「もう駄目だ青島。誤魔化してやれない」
「言ってる意味が・・・」
抱き締めてくる男の、あまりに強い力に咽返り、密着した身体は雨に流れ、薄い布の上からお互いの素肌を暴いた。
薄緑の夜霧に紛れ、ぐっしょりと雨を吸った身体が重い。
「何も言わず、一生一人で抱え込むつもりだったのか」
垂れる前髪の間から青島は目を見開いた。
それが引き金となり、青島が室井を突き放すように身を捩る。
それを室井が力で押さえ付ける。
「結婚、すんでしょ・・っ」
「・・・ああ」
肯定とも否定とも取れないその言葉に、青島の最後の何かが崩壊する。
それは寒さで竦んでいた青島の身体を骨まで凍えさせた。
そのまま極まった咆哮が胸で騒めき青島の息まで殺させた。
「放してください・・・」
二人寄り添って笑っていられれば、それだけで良かったんだ。
そんな子供みたいなものに室井を突き合わせる筋合もなかったのに。
「放して・・・てばっ」
室井の肩の向こうに、赤いテールランプが幾重にも輪になって雨に滲んでいた。
「俺っ、あんたに何したんですか、あんたに何の――!」
「言うほどのことじゃないんだ」
「まだ隠すの・・っ」
「・・・もう何年も昔の話だ」
「言えよ・・っ」
痛みも苦しみも切なさも哀しみもごちゃまぜにして青島を骨から軋ませる。
離れない手に身体に震え身動ぐが、室井は五指を髪に差し込み自分にしっかりと押し付け、逃してくれない。
その熱が、あんまりにも熱くて、強くて、青島は泣きたくなった。
「室井さんッ」
「聞け。君と出会った頃、俺は婚約をしていた。それが美幌に左遷となって破談になったことがある。それだけの、昔話だ」
「・・・、ぁ、あの時、の」
「見合いだった」
「お見合い?俺の知っている人なんじゃないの?」
「――ああ、いや」
冷静な口調は苛立ち一つ感じさせない滑らかさで、室井が僅かに身体を放した。
眉間を寄せた険しい表情で青島を覗き込んでくる。
「俺・・・あんたを傷つけるしかしてないんですね・・・」
「本当にそう思うか」
通り過ぎた時間と二人の記憶だけが雨粒になって冷たく地面に叩きつけられる。
憤怒なのか憎悪なのか。もうよく分からなくなった名も付かない激しい感情が青島の中で渦巻き
その全てが室井に向かっていた。
「俺のせいなんでしょ・・・」
「縁がなかっただけだ」
「・・・あんたに、言わせることも、出来なかった・・・」
「隠した訳じゃない。言う必要のないことだと思っただけだ」
室井の人生を変えてしまったことならば、容易く流せる話ではなかった。
自分の意志と決断とは別の要因を与えた罪に、償い方が分からなくて、青島の瞳が痛ましく雨の中に漂う。
傍に在ることが恐くなる。
きっと近付き過ぎたから。
張り裂けそうな胸の内に怯えた顔を見せた青島に、室井が小さく苦笑した。
「そんな顔、すると思った」
柔らかく、ちょんっと指先で額を小突かれる。
室井らしからぬ砕けた物言いと、初めて見せた柔らかい笑みに、彼の冷静さが感じ取れ、思ったより怒っていない男に、それだけが青島を泣きたくさせる。
きっと青島が何か仕出かしてしまう度に、室井はそうやって懐深く受け止めてしまうのかもしれない。
「・・・俺、かっこわるい・・・」
「そうでもないんじゃないか?」
そう言って、室井が年上の余裕を持たせた目で青島を覗き込む。
雨に打たれた男の髪も崩れ、垂れた前髪を避けもせず大人の男の穏やかで柔らかい物言いをされ、青島は子供みたいになんだか泣きたいほど切なくなった。
「周りが煩いから、先日もまた見合いをした。どうやら経歴に傷のある男に良縁など虫の良い話はない」
「・・・だったら、良かった、のかな・・・」
「分かっているようでおまえは何も分かっていないんだな。言っておくが、失うものの怖さを知っているのは俺の方だぞ」
言わんとしたかつての悲劇のことをぼんやりと思い起こし、青島の瞳が僅かに揺らいだ。
「・・・恋敵って・・?」
「君とはライバルだろう?違うのか?負けたくないと思って何が悪い。君に先に結婚されたら嫌だなと思っただけだ」
「張り合うとこ違ってません?」
「あの時の見合いも今度の見合いも、上の顔を立てるための借りだと言ったら?」
青島の中で答えの出せなかったもののうちの一つがようやく分かる。
恋をしたぐらいで、この気持ちも繋がりも終わってしまうと室井に思われていたと思ったことが、悲しかった。
こんなに深い所まで知りあってしまいながら、まるで邪魔だなんて断ち切らなければならないような、そんな関係だったのか。
共犯者にもしてもらえない、相棒ですらなかった。
そう感じたことが、悲しかったんだ。
「だって、あんた、手を打つ価値もないって・・・いうから」
「――ああ。俺にも君を護るだけの甲斐性を持たせてくれ。・・・今の君のように」
どんな意図を持って発信したか。相手にどういう狙いを想起させるか。
選ぶ言葉のそのセンスが、キャリアの品位と資質を問う。
だよな、と思って青島も強張らせていた身体を、切なく気怠げに和らげた。泣き笑いのその顔に、室井もやんわりと目尻に皺を寄せる。
大人は、表面だけ受け取って信じてしまう程子供ではないし、浅い付き合いでもない。
しかもあそこは本庁だった。
早合点にもほどがある。やっぱり室井は室井だった。
「まだ質問はあるか」
「ないですよ、もぉ。すいませんデシタ・・」
どこか拗ねた声音に、室井も小さく肩を落とす。
往来で傘も差さずに追いかけさせてしまった。
抱き合うように立ち尽くしている不自然さに思い至り、青島が一歩後退った。
それを拒むように室井が一歩詰め、もう一度腕を取られる。
どきんと青島の心臓が高鳴る。
強めの風が鬱蒼と茂る木々を恐々な音を上げ世界を壊していく。
「え・・・・っと・・・」
戸惑い、言葉も捜せなくなった青島に、室井が劣情を隠しもしない親指でそっと下唇をなぞり、今しがたされた行為を思い起こさせる。
逃げる隙も奪われ、青島は食い入るように室井を見つめ返した。
知らなかった。こんな風にあからさまに力の差を歴然と見せ付け押さえ込もうとするような男だったことも
何もかも投げ打っても構わないというように横暴に奪い取る危険さと独占欲を持つ男だということも。
「俺は、そんなに鈍感に見えるか?」
室井が問おうとしていることを無意識のうちに避け、青島は頭に浮かぶまま、思慮深げに眉を寄せる。
なんでキスしたの?
竦んだ心は、躊躇うままに大粒の雨にも流しきれず、青島が困ったように眉尻を下げる。
「これって恋なの?」
「どうしたい」
このギャンブルから降りることは赦さないとでもいうように、室井の視線が雨に遮られながらそれでも揺るぎない意志を伝えて
それでいて、青島の選択権があるような狡い大人の言い方をする。
ズルイ。だから青島は質問に質問で返す。
「恋に――するの?」
「そこを突きつめるには情報が足りないと思わないか。・・・お互いに」
室井の清廉な指先が淫靡な色を乗せ、つつ、と青島の顎を捕らえた。
何をされるか、理解した青島の身体に緊張が走る。
こんなひとだったっけ?そこは、知らない。
余りに情が過ぎた室井の仕草に、青島は呑まれた視線を意識して外した。
青島の濡れてうねった髪から幾つも雨雫が垂れていく。
「ぃ、今まで何も言って来なかったじゃんか・・・そんな素振りだってなくって・・・」
「男同士で、そこそこ歳も重ねていて、いきなり言うほど不粋じゃない」
「だったらどうして急に」
キスなんて。
「その答えは――」
静かに室井が呟いて、青島の顎を上向かせた。
犯される立場を思い知らされ、高潔な気配を纏いながら、欲望を孕んだ瞳を向けるその指先が淫靡に動き、逆らえない命令に変えていく。
「目を瞑れ」
「瞑ったら・・どうなんの」
フッと室井が見たこともない男の笑みを滲ませた。
上目遣いでどうしようと伺う青島に、室井は少しだけ成熟した瞳を沈潜する。
「ちぇ、いつもこうだよ・・・」
なんか狡い。思惟する青島には、一歩も二歩も先を行く室井の背中が遠い。
それは焦燥感だったり敗北感だったりする。
室井が逃がす隙も与えないように顔を近付ける。
吐く息が重なり、お互いの息を甘く熟させた。
上向かされている態勢が照れ臭くて、青島がこつんと額を合わせて口端を引き上げた。
強い人だと思った。
自分も強くなりたい。このひとと肩を並べられる強さが欲しい。
「肝心の言葉を聞いてませんけど」
「――、俺も聞いてないな」
焦れたような焔を宿す危険な領域に青島は降参する。
「俺だけのものになってくれるんなら告げてやっても・・・いい、ですけど?」
憎まれ口が深い口付けで塞がれて。
雨は、止まない。
Happy end

恋の始まり。青島くんが逃げたから室井さんに気付かれてしまったというお話でした。
恋愛生物学5題のうちのひとつでした。(初出:純愛アポトーシス)
20170514