ショートショート~present
踊るで冬の恋人三大イベント連続投下!全6作!/みなさまもなにか送り付けてみませんか
それぞれの話につながりはありません。冬のいちゃらぶ室青。










01.初雪

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side-A
「あ、雪だ」

日が暮れて、ぐんと気温が下がった。
待ち合わせて、二人で歩く帰り道。
冷たい両手に、ほぉっと息を吹きかけながら空を見上げていたら、室井さんが手袋を片方貸してくれた。
俺は右手に、室井さんは左手に、片手ずつの手袋。

「初雪ですね」
「積もらないといいが」
「お年寄りとか足元心配だし、電車は動かなくなりますしね。でも、一冬に一度は積もらないと、物足りないかなぁ」
「そうか?冷え込むだけだろう」
「綺麗じゃないですか。積もった雪が朝日でキラキラしてて……いつもの景色が別の場所に見えて……」
「ああ、朝だけな。東京の雪は昼にはドロドロだ」
「……あのねぇ」

駅から離れると、人影はほとんどなくなった。
空を見上げて歩いていたから、酔ってもないのに危なっかしく千鳥足になってたんだと思う。
急に室井さんの手が俺を引っ張った。
驚いて引っこめようとした俺の手を強く引きかえし、繋いだままコートのポケットに一緒に突っ込まれる。

「室井さんっ!」
「堂々としていろ」

掠れ声で窘めるが、横の室井さんは毅然として顔色一つ変わらない。
……ヤバい、この人ほんと、カッコいい。
俺、あと4年経ったら、こんな余裕あるイイオトコになれんのかな……

痺れるほど冷え切っていた俺の手が、室井さんのポケットの中で感覚を取り戻す。
俺の手が体温を奪っても、室井さんの手は温かいままだ。

繋いだ手を、強く握られる。
嬉しくて、ギュ、と握り返したら、眉間のシワが深くなった。

その力強くて端正な横顔に、ちょっとだけ甘えたくなった。
スッと体を寄せて、内緒話をするように、一瞬だけ頬を寄せた。
首筋から、室井さんの匂いがする。
あ、しまった……このまま抱きついちゃいそう。

慌てて体を離す。
その肩に、雪が乗っては溶けて消える。

「室井さんの手、あったかいや」

並んで歩く。
手を繋ぐ。
何気ない会話。
室井さんとの日々が、俺の中に降り積もる。
まるで、この人の故郷の雪のように。
春になれば溶けて消える、雪のように。

早く帰ろう。
手だけじゃ、足りないや……


*:*:*:*:*

side-M
やめておけばよかった。

嬉しそうに空を見上げて、フワフワ歩いている青島が可愛くて、我慢できなくなって手を繋いでしまった。
所有権を見せ付けるように、青島の手ごとポケットに仕舞いこむ。
照れたような表情で俺の顔を覗き込んでいた青島が、スッと体を寄せたかと思ったら、軽く頬に唇で触れて逃げた。
青島の匂いを含んだ柔らかな髪が、頬をくすぐり、一瞬の甘えた仕草の後、すぐに体が離れる。

どうしてそういうことをする……
めごすぎで困るんだ!
「室井さんの手、あったかい」だと?
手汗だ、手汗!

抱きしめたい。
抱きしめたい。
抱きしめたい。
今すぐ抱きしめたい。

理性が飛びそうだ。
こいつの余裕が恨めしい。
勝手に近づいてきて、勝手に離れて行く。
掴んだと思えば、指先からするりと逃げて行く。
まるで、肩に乗っては溶けて消える、この初雪のように。

今夜の雪は積もるだろうか。
朝日に光る景色を、こいつと見たくなった。
目に、心に、しっかりと焼き付けよう。
東京の雪はすぐに溶けてしまうから。

家までの道が、果てしなく遠く感じる。
早く、早く……
消えないように抱きしめたい。手だけじゃ、足りなくなった。









2.1213
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「あ、お帰りなさい。さっきまで室井さん来てたんですよ~」

聞き込みから戻ってすぐの、真下からの報告。

「課長たちが“運転手さん”のこと探してましたけど、ちょっと前に帰っちゃいました」

そっか、残念がってるだろうな。
ずいぶん会ってない。
会いたい会いたいって電話で言ってたけど、仕方ないじゃない、年末だもの、こっちは大忙しなんだよね。
しかも今日は誕生日だってのに、夜勤だし!

「そうそう、これ、先輩に渡してくれって」
「室井さんが?俺に?」
「ええ。缶コーヒー買おうとして間違えたらしいです。先輩なら飲みそうだって思ったんじゃないすか?」

ホットいちごミルク………まじかぁ、どしたら間違えんの?間違えるか普通?
で、なんでそれを俺に……

さほど温くなっていない缶を受け取る。
まだ帰ったばっかりか。もう少し早く戻っていればな…

それにしても、いちごミルクって。
甘いよね、絶対甘いよね、これ。
お子様用だよね?
俺、また子供扱いされてるよね?
それとも、このあいだ、“疲れてる時には甘いもの〜”って言って、目の下にクマ作ってた室井さんの口に大福突っ込んだ時の仕返し?

半ば不貞腐れながらも、缶を開け、ゆっくり口に含む。
激甘ッ!

「・・・・」

忙しさで気付かないふりしてたけど、かなり疲れが溜まってるのは自分でもわかってた。
淡いピンクの液体を一気に飲み干す。
体に、心に、その甘さが、あのひとの優しさが染み込んでいく。
結局、あの人にはお見通しってことかぁ。

元気よく投げた空き缶はゴミ箱でカラカラと回った。
そこに人差し指を向ける。

「誕生日プレゼント、どーも!」

俺は頑張れるよ。 
誕生日に夜勤でも、愛しい恋人に会えなくても。
いつだってあんたが、いちごミルクの甘さで、俺を包んでくれているのを知ってっからね。

「さてと。お仕事、お仕事!」









3.1224
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「綺麗ですねぇ……」

信号待ちで止まった交差点。
歩道を見れば、通りを彩るイルミネーション、見上げながらゆっくり歩く人たち。
室井さんを本庁に送る、キラッキラの光の中、2人きりのドライブ。

「ああ……今日は24日か」

室井さんの声はいつもより穏やかだ。
クリスマスって人を優しい気分にさせるよね。

「君は、今夜はデートか?」
「えっ……あー、残念ながら、そんな相手はいません」
「そうか……女性に人気がありそうなのにな」
「そう見えます?ま、否定はしないでおきます」

俺にはもう、恋人と過ごすクリスマスは来ない。

恋は、してる。
叶える気はない、そもそも叶うこともないだろう。
告げるつもりもない恋。
でも諦めることもできない恋。
この恋心は生涯胸に秘め、ただ想うだけで、それでいいんだ。
だって仕事の理念の上では相思相愛なんだもん。

だから今日、たまたま一緒にイルミネーションを見られたことは、俺にとっては極上の幸せ。
毎日頑張ってる俺への、サンタさんからのご褒美かなぁ。

信号が青に変わる。

「室井さんこそ、デートの予定入ってるんじゃないですか?」
「…………」
「スミマセン」
「…………君と」
「ん?」
「今、君とドライブデートしている」
「……え…………」

…………どういう、意味?
揶揄われたの?
窓の外を眺め続けている室井さんはもう何も言わず、俺は返す言葉を見つけられず、車は静かに目的地に到着した。

「今度、飲みに行かないか」
「……え…はい、あの」
「正式なデートの誘いだ。改めてまた連絡する」

そう言うと、室井さんは流れるような動作で車から降りた。
ドアを閉める間際、急に車内に上半身だけ戻ってくる。

「君は、案外臆病だからな……逃げるなよ」

そのまま、固まった俺に何かを言わせる間も与えずに、ドアを閉めて去って行った。

「ぇえええぇぇぇーーー…………」

なになになに、わかんない、わかんない、わかんない、なにこれ、なにこれ…………
デートってなんだよ。
俺が臆病ってなんだよ。

けど。
今だけ許して。今だけ見逃して。
胸がほんのり温かいことを。
心が嬉しいと思ってしまったことを。
今夜は、クリスマスイブだから。

俺の恋の覚悟なんてこんなもの?
喉の奥から、締め付けられたような苦い笑いが漏れた。
滲んだ視界が、ギアを入れようとする手を躊躇わせる。
運転なんかできない。

「……サンタさん、プレゼントでかすぎ」









4.0103
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所用で訪れた湾岸署で、廊下を走っている青島が見えた。

「あっ、室井さん!」

そのまま駆け寄ってきた。
着崩れて肩から落ちそうな、いつものコート。この寒いのにうっすらと汗ばんだ顔。
刑事課の中からは青島を呼ぶ声が聞こえてくる。
年明け早々忙しそうだ。

「ふぅ……室井さんっ、おめでとうございますっ」

息を切らした青島に、かしこまった表情で敬礼された。
フワフワした前髪の奥から見つめてくる柔らかな瞳の色に、とっくに自覚している気持ちを再認識させられる。

「……ありがとう」
「は?」
「今、“おめでとう”と」
「はい、あけましておめでとうございます」

あ………

「……失礼した、本年もよろしくお願いいたします」
「はい、お願いいたします…?………あ、お送りしますか?」
「いや、大丈夫だ」

不思議そうに、首を傾げて青島が覗き込んでくる。
誤魔化すように顔を背け、刑事課の方をあごで指す。

「行かなくていいのか?さっきから呼ばれているようだが」
「あっ、ほんとだっ」

青島を呼ぶ声は、もはや怒鳴り声となっている。
自分で促しておきながら、一礼してすぐに立ち去ろうとする青島の姿に突然寂しさがこみ上げ、すれ違いざまに思わず二の腕を掴んだ。

「えっ?なん――?」

振り返った彼の耳元に顔を寄せて、小さく囁いた。
吐息多めで。

「青島。私の誕生日くらい覚えておけ」


……その顔、誕生日プレゼントとして頂いておく。









5.0214
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「今年もずいぶんたくさんもらったんだな」
「数だけはね。室井さんの方は今年も高そうなチョコばっか」

2月14日、お互いに持ち帰ったチョコレートをテーブルに広げて、毎年恒例の報告会が室井宅で開かれる。
その数に、青島だけがご満悦だ。

「毎年思うが、眺めて嬉しいものではないな」
「そうですか?」
「恋人が、他の人間から告白されてるんだぞ」
「自分の恋人がモテモテって嬉しくありません?」
「…………」
「イイオトコの証ですよ」

何故かご機嫌な恋人は、積み上げた色とりどりの戦利品の天辺に、コンビニの袋をぽんっと乗せた。

「で、これは俺から。今年もやっぱり恥ずかしくて、ちゃんとしたのは買えませんでした」

袋から出したアーモンドの入ったチョコレートの箱を、青島は照れくさそうに振ってみせた。

「こんなにたくさんあるんだから、お前まで買わなくても」
「いーの!室井さん、はいっ」

箱から一粒、室井の顔の前にまあるいカカオが差し出される。

「ん。口開けてください」
「…………」
「ほら、あーん」
「…………」

摘んだチョコで、フニフニと室井の唇をつついてくる。
それでも室井の口は頑なに閉じたままだ。
怒っているわけではない。こういうことに慣れていないのだ。

「そんな仏頂面しなくてもいいじゃない」
「…………」
「シワ、すごいですよ」

青島が室井の眉間を人差し指で軽くつついた。

「…………」
「……すみません、ちょーし乗りすぎました」

青島は諦めて手を引き、ちょっと寂しそうに笑うと、そのままそのチョコを自分の口に放り込もうとした……
すかさず室井はその手を掴む。

「!」

じっと見つめた後、室井は掴んだその手をゆっくりと引き寄せ、よくやく意を決した口に、コロン…とチョコを入れさせる。
驚いたままの青島の頭をワシワシと撫でてやると、その顔がふわりと緩んだ。

「俺にも、ください」
「ああ」

チョコレートをひとつ摘もうとした室井の指が、だが直前に箱から引いた。
その手は、ん?と首を傾げた青島を引き寄せ、柔らかなキスを与える。
甘くて、蕩ける。チョコレート味の唇は、しばらく青島のそれを啄んで楽しんだ後、口の中に残っていたアーモンドをグイッと押し込んだ。

「種だけぇ?」
「……これは、種とは言わないんじゃないか?」

そう言いながら、今度はちゃんとチョコレートを摘み、自分の口に入れると、もう一度ゆっくり青島の口を塞いでやる。
溶け始めている甘い塊が室井の舌と一緒に青島の口腔内に落ちて交じり合った。

コンビニのアーモンドチョコであっても、精一杯の青島の気持ちで、あーんって食べさせたかったのだろう、残念がる青島の様子が可愛くて、愛おしくて
室井は柔らかなキスを少しずつ深めていく。
この唇の味は誰にも渡せない。
たったチョコ一粒でこちらの心を鷲掴みにしてくる。バレンタインも悪くないもんだ。

甘ったるい2人の熱で、チョコレートがすべて溶ける頃、長いキスは少しだけ外された。
青島がお返しとばかりにアーモンドを押し込んできたが、室井はそのまま舌で押し戻す。

「アーモンド、苦手ですか?」
「…………お前の中に“種”を入れてやるのは、俺の役目だからな」
「ん?」

室井の中指が、青島の唇をなぞる。
柔らかな唇を、愛おしげに優しく。
そのまま、指先をほんの少しだけ、口の中へ……

「あ……」

室井の仕草に何かを連想した青島の顔がみるみる赤くなり、室井の顔は愉快そうに緩む。

「こ…の、エロオヤジ!!!」










6.0314
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コホン……コホン…………
青島の、小さな咳がふたつ。

本店の静かな廊下の端と端。
こんなに離れていても、過保護な恋人はほんの小さな咳を聞き逃してはくれない。
一方の青島だって、こんなに離れていても、その恋人の眉間の皺が深くなったのがわかってしまう。
他人が見れば不機嫌にしか見えない、この表情の中に“心配”の感情を見つけられるのは青島だけだろう。
それに――

「風邪か?」
「少しだけ、喉の調子が悪くて」
「……熱は?」

室井の手が額に伸びてくる。

「ちょ、ちょっと!………ぅん?」
「熱くはないな」
「……あ…………ええ」
「今晩、看病に行く」
「はぁ?」

話しながらポケットを探っていた室井の手が差し出される。
指先から青島の手に乗せられたのは、のど飴。

「珍しいですね、飴なんか持ち歩いてるなんて」
「たまたまだ」
「チョコのお返し?」
「…今日はホワイトデーか」
「のど飴か〜。色気ないですねぇ」

本当に今晩来るの?と青島が聞こうと思った矢先、スッと室井は青島の横をすり抜けた。

「………悪化させるなよ」

足早に去って行く。
その背中に、青島がつぶやく。

「…………あんたも、だよね?」

貰ったのど飴を口に入れる。
額に当てられた室井の手は、ひどく熱かった。

遠ざかる室井が廊下の角を曲がった直後。
コン、コホン。
かすかに聞こえた、室井の小さな咳が、ふたつ。










作:カラシさま
20200322

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贈答品5。感謝を込めて
踊るで冬の恋愛パックに挑戦してくれました!かわいいお話をありがとうございます!