ショートショート~present
メルフォから可愛いお話を送ってくださいました!/みなさまも何か送り付けてみませんか。










真 下正義お見合い大作戦
line
「すみれさん、調子どお?」

ノックとともに引き戸が無音でスライドし青島と真下が病室に入ってきた。
個室なので気にすることなく声をかけてくる。

「うん、レントゲンと検査漬け。今回の傷も古傷もいろいろあるから」
「だあね。あ、真下、ほら」
「はいはい、これね、雪乃おすすめの和菓子です。お見舞い沢山だろうからチョット毛色の違うほうがいいんじゃないかって」
「あー!これ季節限定の!んもう、さすがね雪乃さん」

雪乃がすみれの好みを外すわけがないと青島は納得の笑みを浮かべている。
すみれが菓子をそっとサイドテーブルに置いたそのとき、もう一度ノックの音がして一拍おいて「失礼する」と落ち着いた声が響いた。
驚く皆を他所に「なあに労災?」とすみれの先制攻撃が飛ぶ。
しかし慣れたものでこれくらいでは彼の眉間の皺も深くはならない。

「なんすか室井さん、オレんときは来てくんなかったのに」
「いつの話でいつまで拗ねてんのよ」
「いーえ、大事なコトなのよ、こういうのはさ」

青島とすみれの馴染みの掛け合いにため息をひとつ、それで二人を制した室井が見舞いの品を差し出した。
途端すみれの目が輝く。

「超高級マスクメロン!お花はないみたいだけど許してあげるわね」
「…食べごろは3~4日後だそうだ」

喜ぶすみれを横目に、青島は「なんだかんだ、室井さんってすみれさんのことよくわかってるよね~」とひとりごちた。

「ねえ、このお菓子いただいちゃおう。メロンは食べごろまで大事に熟成させるから。ここにね…よいしょっと」

そう言ってメロンのかわりに後ろの棚から茶葉を取り出したすみれは。

「青島くん、これでおいしーいお茶淹れてきて。四人分。ね?お願い」

遠慮もなく青島を給湯室へ差し向ける。
一瞬なんでオレが…と不満げに口を尖らせた青島も、そう言えば今ここにいるのは警視監殿と署長殿だったと思い至り「りょーかい!」と告げて部屋を出て行っ た。
それを見届け、すみれの顔が瞬時引き締まる。

「ねえ、私この間のお見合いのこと青島くんに話してないからね。変なこと言わないでよ?」

青島の姿が消えたと同時にそう念押しをしたすみれと、同意を示して頷く室井に、真下が呆れ顔を向けた。

「お二人して断ってくれちゃったんだからもう笑い話でいいじゃないですか」
「ダメ!なんて言われるかわからないもの」

すみれの即答にもう一度室井が頷いた。
気が合うというよりは悪事に加担するような徒党に、真下が更に脱力する。
「室井さんとすみれさんってこういうところ見ててもぴったりと思うんですけどね」という真下の呟きに
合いの手の如く「青島のためにこんな無茶をする女をなぜ貰える」と室井が唸り
「年甲斐もなく凝りもせずに青島くんとならまた暴走する官僚なんて」とすみれが噛みついた。
だからそういうことなのに、と思う真下の意思は二人掛かりの剣幕に押され、やりこめられる。
どうやらこの頑固な二人には真下の努力は実らないらしい。

放置された真下を残し、すみれがワイルドキャットの瞳を煌めかせれば、室井が顎を上げて不遜な色を乗せる。

「暴走とはなんだ」
「あ~ら、何か間違ってたかしら?」
「君こそ青島のために結局ここに残っちゃってるじゃないか」
「なによ、そっちのほうこそ、二人で仲良く駆け落ちに査問会に総監賞に裁判沙汰に不祥事に、ついでにでっちあげられて辞職勧告なくせに」
「査問会は君も一緒だったろう」
「室井さんのおかげでね!」
「……」
「もう!なんでそこで固まるのよっ。おかげで私も青島君も減俸で済んだってわかってるわよ!ありがとうございますぅ!」

室井さんってこんなにしゃべるんだーとふたりの『単なる言い合い』をニヤニヤと眺めていた真下を、すみれがキッと睨みつけた。

「なななんですか、怖いな、まったく」
「むかつくー。何笑ってんのよ!それにね室井さん!査問会は真下くんのせいよ!」

すみれは突如真下を指さした。驚き真下が両手を手前に出す。

「査問会って・・!今回のことはまだそうなるかわからないですけど。勇気のことはほんとに感謝してますって。お三人方には一生頭上がりません。ほんと、す みません」

恭しく頭を下げる真下に降り注ぐすみれの目線は冷たい。

「それはそれ。まあ、これで真下くんは一生私たちの下僕だろうけど、今回のことは言ってない」
「ゲボク・・、――えっ、じゃあ?」
「昔の査問会のことよ!減俸よ?生活かかってたんだから!あの時真下くんが彼女を逃がさなかったらこんなことにはならなかったのよ!」
「えぇ?でも」
「逃がしたのは真下くん!私の言うこと間違ってる?!室井さん!」
「いや、間違ってない」
「でっしょー!それに室井さんのときの査問会だって、言っちゃえば真下くんのせいよ。撃たれなきゃ良かったんだから」
「そんな昔の・・」
「真下くんが撃たれなきゃ青島くんは発砲なんかしなかったし、だから監察なんてつかなかったし、室井さんも青島くんと駆け落ちせずに済んだから当然査問会 もないわよ。
そう思うでしょ?室井さん」
「まあ、言ってみれば(そうなんだが、あれがあって今の私があるからな・・どうなんだろう・・)」

真下を助け損ねた室井を無視してすみれのマシンガントークは更に追い打ちをかけた。

「だから、青島くんって真下くんのせいで査問会二回ってことね、うわーかわいそー。そんな真下くんが私たちにお見合いなんて」
「ふ、二人でそんなに言わなくたって…」

いじけかけた真下に、いや私は相槌を打っただけだが…と応えたい室井であったが口に出す度胸はない。
ただ鋼鉄の顔を強張らせるだけで直立し、それが真下を更に追い詰める。
困惑したまま目の前で自分を見る室井とすみれからは好意的な気遣いは感じ取れず、むしろ責められているような気さえして――
あれ、なんで僕怒られてんだろう。
そんなに駄目だった?ワルイコトした?結婚っていいじゃん。お見合いって普通じゃん。いいじゃんか別に。そんな怒んなくったって。
喜んでくれると思ったのに。

そこまで考えた真下はあることに閃いた。

「あー!そうか!そうだ!そういうことか!青島くん、青島くん、青島、青島…!口を開けば二人とも!同じ名前ばっかり!」

ショートした真下の頭にあるものは一つだ。

「わかりましたよ!お見合いさせたのが悪かったんじゃなくて、そこに青島先輩を呼ばなかったのが悪かったんですね!」

不思議な方向にキレた真下を、すみれと室井が可哀そうな人間を見るような、四つの瞳で見返した。が。真下はひるまなかった。

「ですよね!大好きな青島先輩をのけ者にしちゃってね!ハイハイ、僕が悪かったです!」
「「…」」
「そんっなに好きですか!センパイが!…じゃあ青島さんと三人で暮らせばいいじゃないですか!重婚でもなんでも!法律が許さなくてももお僕が許します!」

そう叫んだ真下が勢いのまま部屋を出ていこうと振り向くと、既に病室の入り口は開けられていた。
四人分の緑茶を大事そうにお盆に乗せて運んできた青島がきょとんとした顔で立っていて、真下の脳味噌が急速に冷凍となる。
その背後で、室井がそれに気づいているのかいないのか、真顔でつぶやく。

「それもありか・・」
「そうね・・・」

すみれもぼんやりと返す。
なぜか法律違反を諾とする官僚のことはさておき、珍しく意見の一致を見た二人が、真下を通り越し一点を向いた。

「どうする青島」
「重婚しちゃう?青島くん。あ、その前にとりあえずお茶。突っ立ってないで入ってきて」

何故か急に良く分からない決断を迫られた青島は、営業マンらしく、愛想笑いですみれの言葉に従った。

***

しっかりと糖分を取り、その後味を青島の淹れたお茶で整えた満足顔のすみれは、最後に優雅に微笑んだ。

「署長、新婚旅行の有給、青島君と私の二人分頼んだわよ」

真下は飲んでいたお茶を吹き出す手前でなんとか止める。
聞こえなかったことにしたいのはヤマヤマであったが、真下は確かに先刻口走っていた。僕が許しますと。
それでなくともどうせ審議官命令に拒否権はなかった。
真下は死んだ眼をして「はい」と答えた。
20190906 






★おまけ。後日談~重婚を許しちゃったその日の真下家

「雪乃さぁん…」
「なぁに、パパ。どうしたの」
「それがさぁ?」
「なにやったの」
「やらかしちゃったの」

しかし事の次第を聞き出した雪乃は真下の予想外の反応を示した。

「お手柄よ。お手柄」
「え?雪乃、何言ってるの」
「あの長年の三すくみが終わるなんて、お手柄以外の何物でもないわ」
「三すくみって、えっ?ママ何知ってるの?えっ?えっ?」
「すみれさんは言うまでもないじゃない。背中を預けられるのは青島さんだけ」
「う、うん」
「でも、青島さんと室井さんの結びつきを一番近くで見てきてたから」
「うんうん」
「室井さんは…あなたが撃たれたときの青島さんとの一連がまるで伝説だけど」
「僕重体だったからさ」
「私だってずっとあなたに付いてたからアレだけど。室井さんって青島さんを信じてるっていうか」
「それなら僕だって信じてる」
「そうなの、普通は信じてるで済むんだけど、室井さんのは違うの。青島さん自身が室井さんの信念っていうか」

確かに室井の青島への度が過ぎた執着は長年公然の秘密だった。
室井と青島の繋がりを危険視してきた上層部の暗部も、今回の事件によって明るみに出たことで、最早室井が何を欲しているかなど明白なのも頷ける。

「それでも青島さんとすみれさんの兄妹みたいな恋人同士みたいな仲の良さを見せつけられててね」
「おんなじだったのか」
「そう、そうなの!さすがパパ。青島さんが絡むと同じ場所の同じネジが緩むどころか、同じ方向に飛んでっちゃう二人だから」
「じゃあ、お手柄だ」
「そうよ。お手柄だから、本庁昇進も近いかも。頑張ってね」
「えー、僕湾岸署好きなんだけど」
「ダメよ、栄転してくれたら私が復帰するんだから」
「だから喜んでたの?」
「悪い?」
「…」

やっぱり湾岸署の元メンバーは強いというか転んでもただで起きないというか、ちゃっかりしてるなと改めて認識した真下正義であった。









原案・作:碧子さま/一部加筆修正:みんと
20191007

index 
贈答品3。感謝を込めて
素敵作品をありがとうございます。