ショートショート~present
捧げてもらっちゃった!/////この青島くんめっちゃかわいい!くっそかわいい!ほんっとかわいい!こういう青島くんを描きたいのだ。道のりは遠
い。
あまりに有名なあの室青王道サイト管理人・桜石日月さまより捧げてもらいました。一定期間が経過しましたので拙宅にも掲載させていただきます。(本部にあ
るものと同じものを掲載させていただいております)
Fake!

「何がいけなかったんだ……」
俺は、テーブルを挟んで向かいに座る男にちらりと視線を走らせ、黙ってビールをあおった。そんなに頭を抱え込むほどのことじゃない
だろう、たかが女に振られたぐらいで。
世界の終わりを目の当たりにしたような顔の男と酒を飲んでいても楽しいはずはないのだが、相手が室井さんとくれば話は別だった。
「今度は何したんですか。まさか前の女のときみたいに、仕事中に無駄な携帯を鳴らすなって怒鳴った?」
「彼女はそんな無分別な女じゃなかった」
「じゃあ、何? 前の彼女の誕生日と間違えてプレゼント贈った? 心づくしの料理を口に合わないって言って辞退した? 愛の交換日記
に誤字脱字が多すぎるからって赤ペンで添削して突っ返した?」
「……過去の出来事をいちいち並べ立てるのはやめてくれないか。今回は本当に何もしていない」
「何もしてないなら、振られるはずないでしょう? ……あ、それとも本当に“何もしなかった”とか」
「?」
室井さんは、きょとんとした顔で首を傾げる。おいおいおい。いくつだ、あんたは!
室井さんは自分が俺の言葉を聞き違えたのだと思ったのだろう、ご丁寧に言い直してくれた。
「彼女の嫌がるようなことは何もしなかった、はずだ、と言ったんだが」
くぅ~、天然か! 真面目な顔でそういうこと言っちゃう?
「俺は、手は出さなかったのかって訊いてるんです。彼女は先に進みたがっていた、でも彼は何もしてくれない、ああ私に性的魅力がない
せいなのかしらそれとも私の他にも誰かいい人が? 私じゃその気にならないの?」
「…………」
室井さんは、ジロリと非難を浴びせるような瞳で俺を見た。
「何?」
「……。君にはデリカシーってもんがないのか」
「デリカ――。……ぷっ」
俺は――室井さんに悪いかなと思いつつも、大爆笑していた。
「……」
俺が笑い続けている間、室井さんは不機嫌そうに黙り込んだままだった。
いやはや。
だって。
あんたがデリカシーって言った?
毎度毎度、振られるたびに「慰めてくれ」って俺のところに来る、あんたが? 俺にデリカシーを求めるのか?
俺が、毎回毎回、どんな思いであんたの女の話を聞いていると思ってるんだ。
きっとあんたは気づきもしないだろう。
いや、気づこうともしないんだ。
俺が男で、あなたも男だから。
それだけで対象外。
俺は、いつだって、あんたを振った最低女、以下の存在で。
それでも、あんたはヌケヌケと口にするんだ。
「慰めてくれ」。
大笑いだ――。
「ひどい奴だな!」
俺の笑いの発作が収まると、室井さんはそう言い捨てて、ぷいと横を向いた。
「君みたいな奴に私の気持ちがわかってたまるか」
それはこっちのセリフだよ、室井さん。
ちくりと心に針が刺さったが、そんな小さな痛みは取るに足らない。いつものことだ。もう慣れた。
俺は完璧なポーカーフェイスを装って尋ね返す。
「へぇ、俺みたいな奴って?」
「口が達者で女性の扱いが巧くて、振られたことなど一度もない奴のことだ!」
「……それはどうも。高い評価をいただいて」
「嫌味で言ってるんだ!」
「そうなの?」
ぐっ、と室井さんが言葉に詰まった。
「室井さん、俺のこと、そんなふうに思ってたんだ」
さも傷ついた口調で哀愁たっぷりにつぶやくと効果は覿面。
「……別に、そんなつもりで言ったんじゃない」
室井さんは小さくなった声で不明瞭に言い訳した。
「君があんまり笑うから……」
「だって、おかしいよ」
あんたを振る女がいるなんて。
俺が女なら絶対、離さないよ。
「どうせ、君にとっては笑い話だ」
「俺はいい男だと思いますけどね、室井さんのこと。あんたの魅力がわからないなんて、そんな女、さっさと忘れろ。それがいい」
「……そう簡単に忘れられると思うか?」
「忘れるよ。人間なんて単純なんだから。次の恋をしたらすぐに忘れられる」
「それは君の経験上?」
今度は俺が言葉に詰まる番だった。
忘れられない。簡単に割り切れるわけがない。
だって、ずっと好きなんだ。
友達のふりしても、あんたの恋愛相談に乗らなくちゃならないとしても。
それでも、側にいられれば、それでよかった。
あなたが俺を信頼してくれて、外では誰にも見せないような顔を俺だけに見せて。
拗ねたり甘えたり、「慰めてくれ」なんて言われた日には。
俺はもう、冒険するつもりはないんだ、室井さん。
あなたを愛してる。
セックスなんかしなくても、あんたが好きだ。
いつか、あんたがどの女かと結婚しても、俺は笑って祝える自信があるよ。何千回も練習したんだ。
あんたが結婚したら、俺もそうしよう。
友達でいい。親友がいい。
一生、あなたの隣に立てるなら。
「ええ。俺の経験上、恋愛ってのはね――」
室井さんは神妙な顔をして俺の恋愛論に聞き入っている。
馬鹿だな、室井さん。こんなのはクソの役にも立たないよ。もっとも、あんたの色恋が上手くいかないほうが俺にとっては嬉しいんだけ
どね。
何も知らずに室井さんは微笑む。
俺のジョークで笑ってくれるようになったら、失恋から浮上し始めた証拠。
ざまあみろ、と心の中で“過去”になった女に舌を出す。
室井さんは俺といる。一緒になって笑っている。
今回も、俺の勝ちだ。
いつかは負ける日が来るとしても。
――勝利はいつも、薬物のように甘苦い。
paradox

「その言い訳は、いつまで通用するんだ?」
同期の仲で職場では唯一の友人は、そう言ってせせら笑う。
「言い訳?」
彼の言葉は、時々よくわからない。頭のいい男なんだろうと思う。だが、頭の回転が速すぎて、私のような凡人には付いていけない。
「だって、そうだろ」
一倉は呆れたふうにつぶやいた。
今晩、飲みに行こうという彼の誘いを断ったので、気を悪くしたのだろうか。
今日は先約があると伝えたら、彼は軽く頷いて、「青島か」。じゃあ仕方ないなと凝った首を回した。
「誘ってくれたのに、すまない」
私が謝罪の言葉を述べると、そう、彼は嘲笑ったのだ。
――その言い訳は、いつまで通用するんだ?
「なんせ、お前の『慰めてくれ』は三回に一回は振られたんじゃなくて振ったのが事実だし、他の女だって寄せ付けるだけ寄せ付けて、
まったく長続きしそうな気配がない」
「……別れを切り出したのは彼女たちからだ」
「そう仕向けたのはお前のほうじゃないか。玉の輿狙いの彼女たちにもプライドはある」
「仕向けた? 俺がか? どうせお前、俺が面白味のない男だって言いたいんだろう」
「ま、確かに女に対して淡泊……、いや、冷淡だな」
「これでも、できるかぎりの礼は尽くしている」
「礼を尽くす? ベッドの中でか? 冗談だろ」
一倉は呵々と笑った。
「……」
何が言いたいんだ、一倉は。
仕方ないだろう、これが性分なんだから。
私だって、できるだけ彼女たちに合わせて行動するよう心がけている。だが、仕事上、どうしても融通の利かないこともあるんだ。
もっとも、同じような職場環境で立派に結婚した一倉に言ったって、もっと笑われるだけだろうが。
「……それだけ笑えば、もう気が済んだだろう」
「同じ慰めてやろうってのに、青島と俺とどう違うんだ?」
「青島は俺を笑いものにしない」
「そうか? それだけにしちゃあ、依存しすぎてないか?」
最後に一倉は人の悪い顔で笑うと、俺の肩を叩いて去っていった。“悪友”という言葉はあいつを表現するために存在する言葉だ、まっ
たく。
「……」
依存だなんて、厭なことを言う。
私だって、毎回毎回、青島に申し訳ないと思っている。だが……。
いつの間にか、そういう図式が成り立ってしまっていたのだ。
私が振られる。
青島が慰める。
とんでもなく格好悪いのは私だが、青島が優しすぎるのもいけない。
『いいんですよ、室井さん。俺でよければ、いつでも相談に乗りますから。万が一、振られたときは、責任持って俺が慰めてあげます』
その言葉についフラフラと足が向いて。以後ずっと甘えっぱなしだ。
青島は他人をくつろがせるのが上手い。
からかいや軽い悪態を巧みに織り交ぜて、こちらの遠慮をどんどん奪ってしまう。気が付けばいつも青島のペースで、お互い十年来の親
友のような口をきいている。驚くほど近しい。仕事中には考えられない軽口をたたき合って、悦に入っている。
空気が軽い。暖かくて、優しい。
こんなことを言うと青島にも一倉にも呆れられそうだが、気心の知れた友人と過ごす時間は、恋人と称される女性と一緒にいる時間よりも、はるかに居心地が
いい。……私が女性に対して冷淡だという一倉の指摘は、的を射ている。セックスに関して言えば、それなりの快感は得られるが、のめり込むことはない。技巧
はともかく、情熱が伴わない。相手の女性さえ満足していれば、自分から進んでどうこうしようという気にはなれなかった。
とにかく、女性は難しい。
こっちが思ったままのことを言えば腹を立てるし、かといって、彼女たちの望みどおりに動いていても、それはそれで物足りないらし
い。
いったいどうしろというんだ。
『まだまだ修行が足りませんね、室井さん。誠意ですよ。俺なんか好き嫌いあんまりないから、……』
青島がヌケヌケと口にするのを聞いて、ムッとしたのを覚えている。
彼が女性受けする事実は私だって知っている。
だが、それを自慢することはないだろう。
青島は「好き嫌いがあんまりない」と告白したのと同じ口で、私にだって言ったのだ。
『どちらかが女だったら、ベストカップル。そう思いません?』
他愛のない笑顔で。
現実にはありえない話だから。
調子のいいことを。
――本当は、俺じゃなくてもいいんだろう?
少しだけ胸が痛んだが、くだらない感傷だ。
確か私は「馬鹿にするな」と答えたはずだ。
からかわれたときの不機嫌な顔を用意して。
青島は聞き取れない小さな声で何か謝ったはずだ。もう覚えていない。
だが、実際、青島は私に対しても――おそらく恋人と変わりなく――誠実だった。
多分、彼は誰に対しても公平で誠実な男なのだ。
私は彼と友人でいられることが誇らしかった。
そして私は、青島に受け入れられていると知った上で、その立場を利用している。
「慰めてくれ」
『――また振られたんですか!』
「そうはっきり言われると傷つくんだが……」
何だかんだ言いながらも、青島は結局、私を家に招き入れることになる。
『昨夜は眠れましたか? ショックなのはわかりますけど、ご飯はちゃんと食べなきゃダメですからね』
いたわりの言葉が胸にしみこんできて、私は失恋前よりももっと幸福な気分になる。
情けなく振られた男のくせに、青島との会話のやりとりを心の底では楽しんでいる。
――振られたから慰めてほしいのか、慰めてほしいから振られるのか。
そんな逆説的な考えすら頭を過ぎりはじめ、私は深い自己嫌悪に陥る。
きっと私は同じことを繰り返す。
次も、その次も――。
RESULT.

「室井さん、俺を口説いてみてくださいよ」
ある夜、戯れのように青島が言った。
「そんなに振られるなんて。どこが悪いかチェックしてあげるから、俺を女だと思って、デートのときみたいに」
時間は深夜で、青島の部屋で、二人とも酔っていた。
私はよほど驚いた顔をしていたのだろう。青島は、ムッとした表情を浮かべ、軽く唇をとがらせる。
「……嫌ならいいですけど。友達だと思うから言ってるだけだし」
怒らせてしまったようだ。
「いや、少し、驚いただけだ」
「でも、次に振られたとき、俺だって暇じゃないかもしれないし、そうなったら室井さん、泣いちゃうかもしれないし……」
青島は調子よく言い訳を並べ立てる。
「うちに捜査本部が立って携帯つながらなかったら、湾岸署まで会いに来ちゃうかもしれないし、でも俺だって捜査中かもしれない
し……」
「泣かないし、会いに行かないし、次も振られる前提で話を進めるな!」
「どうだか」
青島はわざとらしく溜め息をつく。そして、ちらりと上目づかいで私を見て、困ったように「冗談ですよ」と頬笑んだ。
「ごめん。変なこと言った」
「……」
理屈はわからないが、私は酷く苛立ちを感じた。
それが何であれ、青島の言う“変なこと”を簡単に切り捨ててほしくなかった。
「隣に座っていいか?」
「え? どうぞ」
私はテーブルの向かいから青島の隣の席へ移動した。
「どうしたんですか、室井さん」
「口説くから、付き合え。――いや、口説く練習をするから、それに付き合ってくれ」
「……え……?」
最初は自分から言い出したことなのに、何故か青島は硬直している。
「――今日はお仕事帰りですか?」
意識して、相手に興味を抱いているような口調と声を出す
「いつもこんなに遅くまで?」
「……」
「返事しろ、青島」
「え? えっと、そうですね……?」
「どんなお仕事をなさってるんですか?」
「……公務員です」
「それは偶然ですね。私も公務員なんです。実は同じ職場だったりして」
「いや、多分違う……」
室井は口角をわずかに上げる。
「そうだったらいいなと思っただけです」
「はあ」
「青島、やる気出せ。――公務員は私益や省益ではなく常に国益を優先する行動様式が求められます。あなたも日々、高い倫理意識と使命
感でお仕事をされていると思いますが……」
「それ有効なのキャリア相手のときだけですから、室井さん」
「そうか。……では、仕事は、楽しいですか?」
「もう仕事から離れましょうよ」
「……ご趣味は?」
「見合いの席じゃないんですから」
「じゃあ、君がやってみせてくれ!」
「……」
青島はテーブルの向こうをじっと見つめ、しばらく何かを考えたあと、私に向き直った。
「――ここに来るのは、初めて?」
私と視線を合わせようとして顔をのぞき込む。青島の豹変ぶりにどぎまぎしていると、目が合った途端、ニッコリと相好を崩した。
「急に声かけてゴメン。実はずっと気になってて、一人みたいだったから、思い切って声かけちゃった」
「……」
「どうしよう、すごい俺のタイプ。勇気出してよかった。ねえ、もし嫌じゃなかったら、この後、二人で飲まない? どうかな?」
そう言って青島はテーブルに片肘をつき、瞳の奥には男の欲望をちらつかせながら、私に向かって艶然と微笑んでみせた。
「……」
その色香に飲まれ、彼を見つめたまま何も言えないでいると、私の手をつつっと彼の人差し指が辿った。
「ねえ、起きてる? 室井さん?」
「!――」
我に返り、慌てて手を引く。ウブな少女のような反応が我ながら恥ずかしかった。
「君はいつもあんな……」
「あんな?」
「どこで覚えたんだ……」
「相手を好きだって思えば、自然に出てくるでしょ」
「好き……」
「多分、室井さんはそれが足りない」
青島は夢から覚めたように頭を振った。もう私ばかりを見つめてくれない。それが嫌でたまらなく、私はテーブルに放置された彼の右手
を握った。
「室井さん?」
「――君が好きだ」
「うーん、唐突すぎて引かれますって」
「誰にでも優しい君が好きだ。いつも女に振られる情けない私を慰めてくれる。迷惑だろうに、いつも嫌な顔ひとつしないで、私を迎えてくれる。君と居ると本
当に安心する。友達というだけではなく、いつも一緒に居たいと思っている。誰と居るより、君と居たい。どうしたら君も私のことをそんなふうに思ってくれる
ようになるだろうか、青島」
「――!」
今度は青島のほうが真っ赤になって自分の手をひったくった。
「女……、女に言うんだろ、そういうことは!」
「君に言ったんだ。本当のことだ。他の相手に“好き”が足りないのだとしたら、君のことが一番好きだからだ」
「っ、俺が今までどんな気持ちでいたのか知らないくせに――」
「知らない。だけど、知りたいと思っては駄目か?」
青島はまだ疑うように私を見ている。いつも飄々として自信に溢れていると思っていた男が戸惑い、急にそわそわと目を泳がせる。
「……今、俺、変なこと言いましたよね……」
「変じゃない。今までどんな気持ちでいたのか聞きたい」
「ちょっと待って、なんで告白する流れになってんすか!」
「私が告白したからだろう」
青島はグシャグシャと頭をかいて項垂れた。
「……そういうところが、鈍くて、デリカシーないって言われるんですよ」
「誰に?」
「俺に」
「……振られたのか?」
「まだ振ってません!」
青島は顔を上げ、私を睨むと、キスをして、笑った。
「それどころか、絶対、逃がすか」
私は自分の理性の箍が外れるのを自覚した。
これまで女性に抱いていた淡泊な性欲とは比べものにならない、相手の全てを自分の物にしたいという性的欲求は酷く原始的で野蛮なも
のだった。
「お互い、気が合ってよかった」
一瞬の見つめ合いのあと、青島が顔を歪めて私に手を伸ばした。
今度のキスはむさぼるようで、まぎれもなく情熱をぶつけ合うセックスの始まりだった。
answer

我ながら酔っていたんだと思う。
室井さんが振られたのはいつものことだとしても、今回はあまり落ちこんだ様子がなくて、慰めるというよりも、どちらかといえばヤケ
酒に付き合ったぐらいの感覚だった。
終電を逃した時点で、室井さんは缶ビールを空けるピッチが速くなった。明日は日曜だし、泊まる気まんまんだ。
室井さんは男友達の家に泊まることに対して何の意図も下心もあるわけがなかったが、俺は毎回、室井さんの寝顔を勝手に見るのを楽し
みにしていた。朝に眠たそうに目を眇めながら、のっそり起き出すところも好きだった。
こんなにプライベートな付き合いまでしていても、男の俺は決して恋人にはなれないのだから、人生は不公平だとしみじみ感じる。
「……そうだ。室井さん、俺を口説いてみてくださいよ」
どこが悪いかチェックしてあげるから。
そんな理屈をつけて、室井をけしかけてみた。
――俺を口説く、室井さん。
いいね。考えただけで興奮する。俺にだって、せめてそのくらいの役得はあったっていいじゃないか。
軽い気持ちで言ったのに室井さんは固まった。それを見て俺も固まった。すぐに後悔した。酔って調子に乗っていた。
冗談でも、男を口説いてみろなんて、言ってはいけなかった。
俺はあわてて言い訳を並べ立て、どうにかその場を切り抜けた、つもりでいたのに――。
どういう心境の変化か、室井さんのほうから「口説くから、付き合え」と言うのを聞いた瞬間、心臓が止まりそうになった。
勿論、室井さんはそんなつもりで言ったんじゃない。ただの、練習だ。
――あんなことを言うんじゃなかった。
さっきとは違う理由で後悔した。
室井さんが女を思い浮かべて口説く姿なんて目の前で見たくなかった。自分以外の誰かを誘うための練習相手に立候補するなんて、自虐
的にもほどがある。
室井さんはこっちの気持ちなんてお構いなし――というか、想像もしていないだろう。一方的に俺を口説きだした。
「……」
俺は適当に相づちを返していたけれど、室井さんのデートがうまくいかない理由はよくわかった。むしろ、今までこんな面白くないトー
クに付き合っていた女がいたことのほうが驚きだった。
一時的にとはいえ恋人関係が成立するのは、室井さんがエリート官僚だからに違いない。
うんざりしていたのを見抜かれて、やる気を出せと言われたので、率直に悪いところ(つまり全部だ)を指摘し続けると室井さんがキレ
た。
「じゃあ、君がやってみせてくれ!」
――ああ、もう、勘弁してくれよ。
どうして、好きって言うのを必死になって我慢している俺が、あんたを口説かなきゃいけないんだ。どんな拷問なんだ。
だけど、心の中でそう嘆くのと同時に、これを逃したら、嘘だろうが冗談だろうが、室井さんを口説ける機会なんて一生ないかも知れな
いと、計算高く考えてもいた。
どうせやるなら、持てる力を全て出し切って、本当には言えない気持ちを嘘の言葉に込めるだけ込めて、室井さんに語りかけた。
――ずっと気になってた。思い切って声をかけた。俺のタイプ。勇気を出してよかった。この後も二人で居たい。
全部お芝居だけど、全部、本気だった。
室井さんの“才能ナシ”なお誘いより、だいぶマシだと思っていたんだけど、肝心の室井さんが俺を見つめたまま動かない。呆気にとら
れた様子だ。
嫌悪感はなさそうだったので、他愛ない気持ちで悪戯をした。
指で室井さんの手を撫でるだけという、ささやかな戯れだったのに、室井さんはあっという間に現実に帰った。
――きっと、相手が俺だったことを思い出したんだ。
遊びの時間は終わった。また俺は自分の役どころを思い出さなきゃならない。恋愛関係には絶対にならない、同性の友人に。
室井さんは俺の感傷などわかりもせずに、俺に触発されたのか、口説き文句にボディタッチを組み込むスキルを覚えた。
いきなり右手を握られたが、女性相手にこれをやったら下手をすれば一発退場の大技である。
「――君が好きだ」
ああ、くそ。さっきも騙されたにもかかわらず、また心臓が跳ねた。嘘だとわかっていても心が痛む。
「唐突すぎて引かれますって」
どうにか平静を装ってそう答えたのに、室井さんから返ってきたのは怒濤のような愛の告白もどきだった。わかっているのに、顔に血が
上る。くやしい、くやしい、くやしい。
挙げ句の果てには、「君のことが一番好きだからだ」ときた。
――嘘ばっかりだ。一番好き? 今まで、俺のことなんか、そんな目で見たことなかったくせに。
「俺が今までどんな気持ちでいたのか知らないくせに――」
思わず漏れ出た言葉を室井さんは聞き逃さなかった。
「知らない。だけど、知りたいと思っては駄目か?」
俺は反応を間違えた。生涯にわたって室井さんの親友を続けるつもりでいるなら、こんな言葉を告げてはいけなかった。
そもそも、室井さんの好きは、俺の好きと本当に同じなのか?
「今までどんな気持ちでいたのか聞きたい」
――今まで、室井さんをどんな目で見ていたか?
そんなことを話せるはずがなかった。きっと軽蔑される。長年、友人面をして騙していたのかと怒らせるだけだ。嫌悪の瞳で遠ざけられ
たら堪えられそうもない。
「ちょっと待って、なんで告白する流れになってんすか!」
「私が告白したからだろう」
俺の混乱など知りもしないで、室井さんは大上段に振りかざす。
「……そういうところが、鈍くて、デリカシーないって言われるんですよ」
「誰に?」
「俺に」
「……振られたのか?」
「まだ振ってません!」
そして、前々から気づいてて黙ってたけど、あんたは諦めるのが早すぎるんだよ、室井さん。だから、振られるんだ。
本気で好きなら、すがりつくしかない、みっともなくたって。
――友達でいい? 親友がいい? 一生、あなたの隣に立てるなら?
そんなもの、全部、きれいごとだ。
俺は室井さんを睨みつけ、キスをして、笑った。
俺の一生モノの覚悟なんて、たった一つのキスで、あっさり吹き飛んだ。
「それどころか、絶対、逃がすか」
「お互い、気が合ってよかった」
挑発すれば、乗ってきた。やってみれば馬鹿みたいに簡単なことだった。二人の関係を変えるのは。
室井さんは、欲情を隠しもしない男の顔で俺を見た。
――あんたのその顔を見た女は、過去に何人いる?
あんたが本当に本気なら、この先は二度と譲らない。
女には、やらない。男も俺だけにしてくれ。
二度と『振られたから慰めてくれ』なんて言わせない。
「……」
もう一度、室井さんを引き寄せてキスをした。
それは俺の降伏宣言で、なおかつ勝利の証でもあった。
明日は日曜だし、室井さんは泊まる予定だし、俺たちには、今までやり損ねていたことがたくさんあった。
青島くんが仕掛けて、室井さんが乗っかる。基本。わかる!
同時に、実際室井さんの方も強かに青島くんを観察・査定をしているんですよね。口に出さないだけで。
そこには同等の相関関係があって、好きです。攻めているようで一歩引いている一線がある青島くんも好き。
ハッピィエンドですが、二人の気持ちに、主に青島くんが室井さんの気持ちを推し量り兼ねているという点で、まだ温度差が残るラストで
それはこのあとベッドの中で証明される(逆転)のかと思うと、私もコーフンします////
贈答品1。記念に掲載。感謝を込めて