第三者からみた室井青島。擦れ違いらぶ。女の子バージョン。沖田さんとすみれさん。






トライアングルⅡ






「なにそれ、キスでもしてたの?」
「!・・ぅ、わ、わかんないわよ・・!暗くて、遠かったし。でもそこまではしないでしょ・・?いくらなんでも」
「二人の仲について聞かされたことは?」
「直接は・・!そりゃ一緒に飲んだり泊まりあったりとかあったとは・・・青島くんも言ってたけど」

あらまあと沖田が目を丸くすればすみれは更に縮こまった。

すみれが見た遠望で、夜と同じ暮色の影は寄り添うように立っていて、やがて手前にあった影が覆うように重なった。
何をしていたのかははっきりと見て取れなかったが、それを計算に入れているのだろうという計画性と、不自然なほど近い距離感が示すものは
そう多くはなかった。

「ごめんなさい、沖田さんの前でこんな話・・・」
「いいのよ。室井さんからは似たようなこと散々聞かされてるから」
「そ、そうなの?」

室井でもそんな話をするのか。
すみれは日常冷冽とした官僚然を崩さない室井の姿を思い浮かべ、薄っすら赤面する。
一緒に酒を呑んだ時、彼に触れ、彼を知り、彼の奥に潜む熱情を見た、気がした。
でも、現実的にキャリアという立場が、彼を動かさない。
そう思っていたのに。
あの朴訥とした男がどうやって青島を口説いたのだろう。どうやって落としたの?高貴なオーラが艶冶な性を宿す姿を想像ができない。
大体、いつの間に。

「冗談だよね?最初っから青島くんしか見えてなさそうな室井さんはともかく、あの青島くんよ?女の子のナマ足みてテンション上げる単細胞よ?!」

そんな無類のフェミニストがどうやったら男と色めく仲に堕ちるのか。
青島だって、室井への特別な想いはあるのだろうと思えた。でもそれは、こんな邪なものじゃなくて。
あれだけ懐いた姿を見せられてきたのに、室井の執着も気付いていたのに。
室井はどんな手を使ったというのだろう。
俄かには信じ難かった。自分の目で見てしまった現実さえも疑いたくなる。

すると沖田は抱えていた資料を片手に持ち直し、物柔らかな表情を湛えた。

「そうね。彼、可愛いわよね、そういうとこ。年上に甘やかされるタイプだと思わない?」
「う、うん、それは同感。弟が兄貴分を見つけたってところじゃないかなって・・」
「信頼が親愛に変わることは珍しくないわ」
「挨拶みたいなキス、ってこと?」
「キスをするような大人の男が泊まり合って何もないと思う?」
「!!」

パッと、花が咲いたようにすみれの頬が明らかに染まった。
狼狽えたその視線を反らし、沖田の言葉の意味を噛み締める。

室井のあの世間ずれしながらも年功を経た用意周到な知謀は、狙った獲物をいつまでも泳がせておく程、温室育ちでも呑気でもないだろう。
仮にもキャリアで、そのトップを目指そうという男だ。
今になって知る。
すみれには青島の性的な部分は想像できない。でも、室井が青島を組み敷き確実に我が物と手に入れている姿は安易に想像できた。

「イレギュラーな恋は受け入れられない?」

ゆったりと、沖田の静かな達観した質問に、すみれは小さく微笑んで俯いた。耳から流れるショートの黒髪がその陰りを同調させる。
自分が随分と子供に思えた。
恋を怖がり、未来に脅え、人の心も見えていない。

「そんな素振り、全然見えなかった・・」
「こっちはキャリアですからね。あまり見せられないわね」
「・・その、青島くんの方も」

そして室井は一度手に入れた偉勲を決して手放しはしないだろう。
何故なら必要としていたのはきっと、すみれであり、室井だと思えたから。

「沖田さんは知ってたの?」
「随分と前にね。聞かされるのも面倒で、問い詰めたことがあるの」
「室井さんが・・言ったの?」
「はっきりとはね・・。それに、」
「受け入れられた?」
「そうねぇ、女として負けるのは悔しかったけど。でも相手があの子じゃ仕方ないって思えたわ」
「強い、なぁ・・・、あたしは、だめ」
「男同士だから?」
「違うの。何も言えなかったくせにあたし、あたしたちの間に他に誰も入り込めないだろうなって思ってた。・・・あたしの方が、好きな自信、あったから」

後ろ手に指を組んで俯くすみれの黒髪はひと気の失せた廊下で艶々と揺れ、同じ色の無暗に動かす足元の爪先が軽くタイルを鳴らす。

「告白しなかったの?」
「うん・・、言えなかった」

過去を引き摺り過去に囚われ臆病になっていくうちに、大切なものを大切だと言える強さも失っていた。
あの向日葵みたいな彼にはあたしは不相応だって遠慮しながら、心のどこかで彼を独り占めしていた。

傍にいて同類項だと思っていたのに。
踏み出せないのは同じだと思っていたのに。
青島はいつの間にかこんなにも遠くへと行ってしまった。連れていかれた。

「びっくりしたな・・・あたしの気持ちも知ってて受け入れてくれてるんだって思ってたから」

表情を読み取らせないように俯くすみれの足元に、透明の滴がひたひたと染みを作る。
甘えた台詞は恋の代わりの精一杯の本音だ。

「言わなきゃ、伝わらないのにね。・・ばかだ、あたし」
「自分の気持ちにも、でしょう?」
「気持ちの強さは誰にも負けないって・・思ったのに、な」

ただの暇つぶしや冗談の域ではなく、青島は室井を選んだという事実が、負けたとか盗られたというよりは置いてきぼりにされた心細さをすみれに遺す。
室井の狂騒が一方通行であると侮っていた。
だけど青島がすみれには何も告げてこないことが、何より二人だけの世界観を見せ付けてくる。
あたしは、告げてももらえなかった。

「もぉ、戻ってこないよね・・・あた、あたし、より、むろい、さんのほう、が」
「そういうことではないと思うわ」
「あたしより、ずっと・・・すごく、親密な間柄になっちゃってた。置いて、行かれたんだなって思ったら・・もう」
「大人の男よ。触れたい欲望は誰でも持っているわ。だけど、それとたくさんの愛情をごっちゃにしちゃ駄目」

沖田は優しく微笑んで落ちる光を隠すようにすみれの頭を引き寄せた。
すみれもされるがままに沖田の胸に顔を埋める。

「くやしいぃぃ・・・っ」
「そうね」
「あたしも、欲しかった・・・っ」
「・・・・そうね」

どうしてもっと早く言わなかったの。
同じ言葉が同じ痛みを抱える女の胸で遠音していた。








Happy endにはほど遠い

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沖田さんとすみれさんは片思い同士。

20180502