室 井さんと青島くんとすみれさんの三角関係のお話
「室→すみ←青」という拙宅にしては珍しい設定の第四弾。
時間軸は未定。登場人物は室井さんと青島くん。紅一点のすみれさん。友達以上恋人未満で一人の女を巡る男の戦い。






ラブ・チャンス!Ⅳ





1.
「「あ」」

角を曲がったところで同時に足が止まり、同時にふたつの発声が重なった。
続けて、併せて視線が手元の似たような紙の小箱に落とされる。

「・・なにしてんすか、ここで」
「考えたことは同じだろう」
「まあ、そうなんでしょうけど」

はあっとわざとらしく溜息を残す青島の白い息が、この時期の気温を示唆していた。
横目でアパート二階、小脇の窓灯りを確認し、青島がもう一度室井に視線を戻す。

「まさか予約済みとか言いませんよね」
「面白い冗談だ」
「――」
「そんな暇があるか。偶然だ」
「そりゃコワイ」

こんなところで言い合っていても目的地は同じであることは明白だ。
ついでに言えば目的も同じである。
どうせお互い魂胆まで同じなのだからここで嘘を吐いても青島に見抜く情報源はないのに
正直に答えた室井も室井であった。

「サプライズ狙ってみたんですよね」
「――」
「アンタ、外したらどうするつもりだったんですか?ネクタイまでキメちゃって」
「外すという計画はない」
「まんがいち」
「新城あたりにでも押し付ける」
「あの人、甘いもん食うんですか?」
「知らん。だが独り者の男にあげるよりは有効活用してくれそうだろう」

そういって室井が掲げた黒い小箱は高級ブランドのロゴが印字されていた。
いつも生地の整った黒無地だのレジメタルだのハードモードなのに、少し色味があるネクタイが華を添える。

「あ~やだやだ、エリート気取っちゃうオトコって!分かってないなぁ、女を釣る餌の出しどころ」
「私の観察上、彼女は高級志向だ」
「どうせこっちは無名の菓子メーカーですけどね」

そうはいっても、青島も一歩も引かない瞳をきらりとさせる。
同時に同じ方向に歩き出し、揺れる青島の手元にあるのは、だが最近駅前に出来て口コミを中心に話題となっている洋菓子店のロゴだ。
無論、室井はこの地域のことをそこまで知らない。
地元ならではの戦略は、その分、普段の距離感が物を言う。

「安易に誤魔化せる相手ではない」

フフンと鼻を鳴らし勝ち誇った顔をする室井の珍しさに、青島も片眉を上げた。

「あんたこそ、すみれさんの目敏さ舐めてますよ」

値段だけじゃない肥えた舌を唸らせるには、興味と話題性、本物志向である。

「いいだろう、どっちが正しいか判断してもらおう」
「乗りましょう」
「後で泣きを見るな」
「勝負好きですよね」
「そんなことを言われたのは初めてだ」
「自覚無し?」
「おまえは私をどういう目で見ているんだ」
「勝負所に賭けるオトコ♪」

室井の目がギラリと灯る。

「賭け事、好きだろう?」
「エリートならそうこなくっちゃ」

褒めたつもりですけど?と小首を傾げる青島に、室井も口端を滲ませる。
巨大組織に挑もうとタッグを組むからには、手応えのある相手でなければ意味がない。
それは、お互いの目を見れば伝わっていた。
同じ灯が行く末を照らしていた。
スターターは眼差しの一瞬だ。

と、そこで意気込みをぶち壊すように、二人の横の扉が突然開いた。

「「あ」」

また同時に振り返った男二人の前で、生足短パンにオーバーサイズのスウェットというラフな格好で現れた女――この家の住人である恩田すみれが
腰に両手を当てて大きく睨みつける。

「あのね、いつまで人の家の前でイチャついてるわけ?ご近所迷惑よ」
「あ、ごめん」
「これは何の集まり?あたしに用があるわけじゃなくて、あたしの部屋の前で戦う会なの?」
「ちがうよ!すみれさんの誕生祝をしにきたんだよ!」
「ふたりで?」
「「えっ」」

またしても反応が揃う男二人に、すみれの馴染んだ、重たい溜息が重なる。

「そんなわけあるか・・」

ようやくここで口を開いた唐変木な男に、青島とすみれの視線が集中すると、さすがに室井もバツが悪そうな顔をした。
そっぽを向いて視線を反らすズルさに、青島も半眼となる。
逃げるなと意思表示の小突く肘にも、室井は知らんふりを貫いた。
すみれがその二人の様子に呆れた顔で腕を組んで、細い背を扉に寄せる。

「聞き慣れた声がずっとしていて、空耳かしらとも思ったんだけど、それにしちゃリアルだし、なのに一向に入ってくる気配はないし」
「すまない、青島に足止めを食らってしまった」

堂々と言い訳を他人のせいにした室井に、青島もぐりんと振り仰ぐ。

「また俺のせいにして!一人イイカッコしないでくださいよ!」

そんな青島をまたしても堂々と視界から消し、室井はすみれに向かって恭しく手土産を差し出した。

「クリスマスを祝えなかったので、これを用意した。誕生日と聞いた。受け取ってもらえないか」

サプライズは、言ったもん勝ちである。
新鮮味が薄れてしまう二番手に勝手に回された青島が室井の肩を押し退け、慌てて室井とすみれの間に割り入った。
片手でまるでコンビニの袋を渡すかのように小箱をすみれにアピールしながら、視線は室井だ。

「なんでナチュラルに自分だけの世界作っちゃってんの!ってゆーか、さりげなく物凄いアピール要素詰め込みましたね今!」
「必要なことを端的に述べただけにすぎない」
「うーわー無口男が!」

あちゃあ、と青島が片手で額を覆って天を仰いだ。
そんな二人のやりとりに、手土産を貰う隙も礼を言う隙も与えて貰えないすみれは、目の前の小箱をオアズケにされた挙句むしろこの会の主役って誰だっけ?な顔で
そもそも魂胆など最初から見え透いているのにサプライズ感を演出したがる男に気が萎える。
大きく息を吸い、すっかりふたりの視界から弾かれている気にさせられたすみれの一喝が飛んだ。

「あのね!あたしの部屋の前で漫才するのやめてくれる。入るの入らないの」
「いいの?」「すまない」

バツの悪そうな青島の横で、室井も今更のように付け加えた。

「いきなり女性の部屋に入るのは失礼かと思った」
「じゃ、あんたは遠慮してください」

その合いの手に反論したのは青島だ。
室井の肩眉が吊り上がる。

「君だって今、遠慮したろう」
「だからそれはポーズでしょ、入りますよ俺わ」
「それストーカーの手口だ」
「同僚のよしみですぅ」
「高校生の女の子を訪ねてきたのとは訳が違うんだぞ」
「今自分、高校生の方が積極的だと思いますけど」

またしても夫婦漫才が始まった二人の間に、すみれの生足が扉を蹴った。

「どうぞ!貴方がたが沢山時間つぶしをしてくれたお陰で三日も帰れなかった部屋も綺麗に片付いてしまいましたので」
「「・・・」」

いい加減、この季節薄着で玄関前って寒いんだけどな。
あんたたちはコート着てますけど。







2.
「まさか女性の・・君の部屋に入れてもらえるとは思わなかった。改めて、感謝する。突然押し掛けてすまない」

まだ自分とすみれの二人きり設定を続ける室井に、青島は横目で呆れる。
丸いベージュのテーブルを指差し、すみれはキッチンに下がっていく。

「男を招いたわけじゃなくて、俺たち二人だから入れて貰えたわけでしょ、すっごいカンチガイ男ですよね、室井さんって」
「君を早々に退散させる予定だからだ」
「ちょっと!ってゆーか、あんた下心だらけじゃん!アポなしでの長居は遠慮してください」
「下心の無い君は帰るといい」
「!!」

茶を淹れ、もてなしの盆を持って現れたすみれに、ふたりの軽口もぴたりと止まった。

「うちには玉露もフォートナム&メイソンもございませんので」
「結構だ。手間を取らせた」「すみれさんの淹れてくれたものなら何でもうれしいよ!」

この二人の声はいつも揃うな。内容は対照的だけど。

「お座りください、おふたりとも」

コートを丁寧に滑らせ、きちんとコートを畳む室井を見て、慌てて青島もコートを脱ぎ始める。
室井が上座に腰を下ろすのを見届け、青島が室井の畳んだ黒コートを隅に寄せ
自分の分は丸めて隣に投げる。
モスグリーンの大きなマリモみたいだ。
すみれが淹れてきた紅茶の前に、男二人が並んでちょこんと座った。正座だ。
その拍子に転がった紙袋を見て、思い出したように、青島が手に取った。

「すみれさん、これ!ほら、駅前に出来たあの店のやつ!予約しないと買えないって言ってたでしょ、買ってみたよ!」
「うそ!ほんとに?あの雑誌に載ってたところの?うわ、よく予約できたわね」
「それがさ、予約も先着順なのよ!こないだ夜勤の時張ってみました。あれはかなりの人気店になると見たよ」
「そっかぁ、ありがとう!楽しみ!」

夜勤はどうしたの小言もなく、受け取った袋を開けて中身に目を輝かせるすみれに嬉しそうに青島も目を細め
同時に室井を肘で小突く。

「誕生日、おめでと、すみれさん」
「それも、ありがと。あ、室井さんもね。この歳になっても祝われるとこそばゆいものね」
「大丈夫、おばあちゃんになっても祝ってあげるよ」
「それは・・嬉しいのかしら?」
「しわくちゃになっても、すみれさんは、まあ、可愛いんじゃない?」

流れるような優男台詞の連発に、横で室井も目を剥いて口を挟めずにいる。
その突拍子もない台詞も青島が言うとさらりと流れるから不思議だ。
このワザは室井にはないだろう。
あったとしても、もう少しシチュエーションを選ぶようなスキルの筈だ。
勝ち誇ったような、してやったりの顔をする青島に、室井は複雑そうな顔を向けた。
すみれは思わず吹き出して、青島と目配せをする。

「さっそくお茶請けにしてもいい?」
「どうぞどうぞ」
「三人分のお皿持ってくる」

先に室井から受け取った紙包みのロゴを、目を丸くして青島に見せ、そうなんだよと青島が頷くアイコンタクトを残し
すみれはその箱も大事そうにテーブルに乗せた。
奥手に引っ込み、皿を取り出す音がする。
間髪入れず、室井が青島を見れば、青島も室井と視線を交わす。

「勝敗はどっちだ」
「五分じゃないすか?」
「やはり地元アピールは強いな」
「でしょー?高校生に人気みたいだから、味は大人向けではないかもですね」
「そんなに人気なのか?」
「いっつも行列」
「コワイな」
「俺も滅多に食えないあんた選抜のブランドに舌が付いて行けるかコワいです」








3.
「そういえば室井さん、今日はおしゃれね。少し若く見えるわ」
「ああ、ネクタイだろ?男の見せどころではあるよね」
「スーツもよ、たぶん」
「一割増ってとこかな」
「青島くんは仕事帰り?ってかんじね」
「そんな片手間に来ましたみたいに言わないでよ、これでも時間調整して徹夜明けで昨日からわくわくしてたんだから」

青島とすみれだけの声が白いカーテンに添えられる。
どうしてこうも口説いている雰囲気を出さず人を和ませる術を青島が持っているのか、それはどこで鍛錬してきたものなのか
青島の容姿からその苦労は伺わせることはなく、すみれは不思議な安堵感と共に甘い舌鼓に目を閉じる。
周りを納得させてしまう魔法に、三人の和もまた解けていく。

「最近あんまスペア持ってなくって」
「あたしんときも、やぁよって言ったよね」

あたしん時?と室井の眉が上がった。
モクモクとケーキを食べているだけの中年風情のくせに、目敏く聞き逃さない室井に、同じく目敏く反応に気付く青島が
フォークを舐めながら自慢する。

「今度キャビア行くんすよ」
「今度、じゃなくて、いつか。まだ日程も決めてないわ」
「じゃあ今決める?」

今月またしても金欠であることをお互いに知っているすみれの台詞に青島とすみれの視線が絡み、一瞬止まった。
ふふっと笑うすみれの口に、青島の笑みも重なって、ふたつのケーキがリズミカルに消えていく。

「なかなか給料貯まらなくって」
「代わりに私と行こう。良い店を知っている」

ケーキを先に食べ終わった室井がようやく会話に加わった最初がこの台詞だ。
どんな省エネだよと、青島が頬を膨らませ、肩肘を吐く。

「どさくさに紛れて何ぶっこんでんすか」

勿論そんな青島を室井は無視だ。

「来週、どうだ?」
「室井さんに連れてっていってもらえるようなお店だと、今度はあたしに手持ちの服がないわ」
「それもプレゼントしよう。誕生日プレゼントでどうだ」
「・・もう貰ったわ、ケーキ」
「それはお祝い品だ。プレゼントはまだだ」

軽口もすっこんでしまったすみれが、お行儀悪くフォークを咥えたまま固まる。
ふーんと小首を傾げて室井をしげしげと眺めまわす真っすぐな眼に、室井が少しだけたじろいだ。

「室井さんって下手な女に捕まると破産しちゃいそうね」
「見張る人が必要だよね」
「それは青島くんでよさそう」
「けちってこと?」

俺が?と自分を指差す青島に、すみれはそうじゃなくて、と口を開こうとしたその時、思いついたように室井が飲んでいたカップをテーブルに置いた。

「恩田くん、今日は完全オフか?」
「そうだけど」

意図を先に察した青島が慌てて室井を小突く。
勘の良さは天性なのか。すみれがまだ事情が読み切れない尻目に青島が室井を制す。

「待ってっっ、俺をまた忘れてるデショ」
「おまえ、もうそろそろ帰っていいぞ。用は済んだろう?」
「厄介払い、ここでか!――そおじゃなくて!」
「なんだ」
「あんたのセンスで選んじゃ、すみれさん、断るにしても断れないでしょ!」
「清楚と硬派の何が悪い」
「ソレ喜ぶの室井さんだけじゃん」
「いいじゃないか」
「女を上げてこそ、オトコの価値です!ま、俺は今みたいな生足も大歓迎ですけど」

青島くんっっ!と泣きそうな声で叫ぶすみれに青島はうししと笑う。
やだもう、眼中に入れられないと思ったら、見るとこ見てんだから。
今度は室井が青島を小突いた。

「そういう目で女性を見るな、だが大体君も男二人の前でその格好はどうなんだ」
「あ~室井さんって家でも着る服指定するタイプ?じゃ俺がいないと」
「そこまでするか、こっちはどてらだ」
「マジっすか」

「ああもぉ、じゃあ三人で行く?」

また長い漫談、もとい、イチャイチャが始まりそうだったのを察し、すみれが天井を仰いだ。







4.
「じゃあブランドは俺が指定させてもらいますからね。女の子の服なら任せてください」
「わかった。ならば色やデザインは私に選ばせろ」
「いいでしょう」

すみれをそっちのけで、前を歩く二人が着々と話しを進めていく。
その直前まで、化粧するのも髪を巻くのも全部この男二人に見られていたすみれにとって、もう何でもござれな心境ではある。
嫌だとか見ないでとか言ったのに青島くん聞いてくれないし。
こういう時こそ気遣って欲しいのに無頓着だし。
でもそもそも夜勤の時は崩れた化粧と寝不足の顔見られているわけだし。
出掛ける服まで青島くんにそれがいいだの、こんなのないのだの聞かれて合わせさせられて
室井さんもそれを興味深そうに聞いちゃってて、今更こちらの好みなど聞いてくれそうにないことは早々に悟っていた。
なんだかんだ、青島くんのチョイスってそこそこ可愛いあたしになってるし。
やんなっちゃうな。

「青島くん、前みたいなギャル系はいやよ」
「分かってるって。こないだは悪ノリしてごめん。今回はちゃんと年相応で選ぶから」
「年相応って失礼ねぇ!」


***

にこやかな笑顔を貼りつけた店員さんすら近づけない。
そりゃそうだろう、そこそこ高いブランド店。高級ブランドではないものの、気軽に手を出せるクラスではない。
そこに中年の男ふたりに付き添われた女ひとり。

「これなんかどう?」
「ねぇ青島くん、ここ、少し高すぎない?」
「でもキャビア行くならもっと高くつくと思うけど」
「・・青島くんは、あたしが室井さんと行っても、いいの?」

我ながらズルイ聞き方だったが、青島はけろりとしてこてんと首を傾ける。

「俺とのキャビアでしょ?」
「待って。青島くんとのデートのために室井さんがあたしの服を買うって図式になっちゃうわよ」
「あれ?まあいいじゃん?」

いいの?!
あなたたちの感覚はあたしには良く解からないわ。

するっと音も立てずに服を見るふりをしてすみれは青島から離れた。
デパートに入っているようなブランド店にしか行ったことないすみれには、この空間さえむずむずしてしまう。
青島こそ、最初は共に怖じ気づいていたくせに、入ってしまえば堂々と溶け込んでいるから不思議な男だ。
少し離れたところから見れば、コートがヨレヨレである以外は、スラリとした身長、均整の取れた小さめの横顔、長い手足と、整った姿態は
彼のポテンシャルを思わせ、素材の豊かさを見せ付ける。
ずるいなぁ。
こういう時、やっぱりどこか青島くんも室井さんも、遠い人だ。

「恩田くん、幾つか見繕って来た」

不意に後ろから声をかけられて、すみれに現実に戻る。
室井の手にはセットアップされた服が幾つかあった。

「さっき青島が言っていたものの中から私が色味やデザインから選りすぐってみた。嫌なら言ってくれ」
「さすが青島くんね。どれも素敵ね。ちょっと大人っぽすぎないかな」
「キャビアならフレンチレストランとなる。このくらい着飾った方が逆に浮かない。肌の露出もある程度は考えてある・・悔しいが青島の見立ては悪くない」

そうなんだ。
小声で付け加えられた最後の一言に、すみれは室井を覗き込んだ。
先日のデートでも確かに室井のセンスは古風で堅すぎた。
きっとそのことを気にしているのだ。

「あ~、嫉妬してるカオ~」
「そんなことはない」
「うそ」
「悪いか」
「どっちに?」
「・・・男を揶揄うのはこれを着てからだ」
「はぁい」

照明のせいで良く見えないが少し不貞腐れたような頬の室井が瞼を落とし、持っていた服を無造作に突き出してくる。
それを背後にいた店員さんが受け取り、試着室に案内を促した。
なんか、こういうのハリウッドで見たような気がするわ。

「うん!かわいいかわいい!すみれさん、すっごく似合ってるよ!!」

ベタ褒めの青島の声と視線がツライ。
しかもボディラインがそこそこ見える仕立てなので、それを見つめる男の視線もイタイ。
気を遣って小声で会話してくれるけれど、こういうの、どうにも慣れない。
だが、今回は真面目に選ぶと宣言した通り、青島の選択は悪くなく、とても華奢で可愛らしいラインだ。
室井が納得するのも頷ける。
すみれの白い肌を惜しみなく見せる箇所の抜擢、可憐なレースをあしらう上品さ、それでいて少女趣味でもない大人っぽさ。
ぜっったいあたしじゃ選べないわ。
どうかな?と室井にも上目遣いで問えば、室井は口元を手で覆い、視線を反らしてしまった。

「・・なんか、言えば?」

青島のジト目にも耐えられない顔をする室井の眉間は険しい。
洋服を選んでいるんだか、報告書を読んでいるんだか。
青島に肘で小突かれ、ようやく洩れたぼそりとした低い声。

「とても綺麗だ」
「ねっ、ほら、すみれさん、いつもパンツスーツだから、そういうラインのスカートもいいよ!」
「それは青島くんの趣味でしょ」
「そおだけど~」
「その日しか着られないよ」
「じゃ、一応パンツのセットアップであるけど、そっちがい~い?」

どうしようかな。
多分、この男二人がマーメイドラインの、スリットの入るこのスカートを望んでいることは、ひしひし伝わる。
サービスしてやるか。

「キャビアのために折れるわ」
「キャビアのためかよ」

すかさずツッコミを入れて笑ってくれる青島に、ふっとすみれも破顔した。
救われる。
多分、すみれが恥ずかしがっているのも、青島にはお見通しなのだ。

「色は黒しかないの?」
「黒の方がエロイよ」「黒の方が私とのバランスも良い」
「自分基準かよ」

室井へのツッコミも怠らない青島に、すみれは思わず微笑んだ。
すみれの問い掛けに同時に反応するところといい、息が合っているというべきか、対抗し合っているというべきか。
何気に室井のセンスも少し成長しているのも青島効果か。
結局相性がいいんだよね、つまりは。

「青島くん、あたし黒、似合ってる?」
「――、その手の露出タイプはまず黒なんかの無難な色で馴染んでから他の色を試すと挑戦しやすいんじゃない?」
「・・・」
「すみれさん、白のコート持っていたでしょ、ウールの。モノトーンコーデなら単純にハイソ感」
「お手軽ね」
「瞳も髪も黒だから、変に浮いたりしないし、着回し効くと思う」
「そっか」

すみれの“似合ってる?”の一言に含ませたあらゆる覚悟を全て汲み取って、無難な結論にまとめた青島の返事に、すみれは泣きたくなった。
多分、他にも色んな答えは用意している男だ。
だけど今のすみれにすとんと堕ちる言葉を選んでくれる。
一体幾つの青島の言葉に、救われてきたんだろう。そして掬い上げられてもらえたんだろう。

「じゃ、これにする」

ぼそっと下を向いてそれだけを言った。

「うん、決まりね!」「ありがとう、とても素敵だ」

だからなんで、この二人は揃うんだろう。
漆黒の眼差しを持つ室井の高貴さと、澄んだ栗色の輝きを持つ青島の純潔さは、何者をも寄せ着けない圧倒的な信頼感を見せ付け
融合し、溶け込むままに進化する。
水と油、太陽と月、相反する色彩を持ちながらそれは、唯一無二の相棒を得ていて、澱ませない。
お似合いとか、名コンビとか、運命の二人とか、そういうのってこういう二人のことを言うんだろう。
そんな二人に並んで逆光の中、まっすぐ見つめられたら、言葉なんか出せない。
魅入って、それからすみれは慌てて、着替えるからとカーテンを閉ざした。

ちょっと、手が震えている。
ブラウスのボタンを留める仕草ももどかしく、下着姿となって、その全身が鏡に映し出される。
小ぶりな胸も、ヒップラインも、若い頃とは違うけど、女なのだ、あたしも。
指先で、そっと首から胸元にかけ、なぞり下りる。
ゆっくりと、ラインを辿って、腰を過ぎ、ショーツまで。

少し時間をかけて着替え直して外に出ると、もう会計が終わっていた。
がっくりとした気持ちは、やっぱりという納得感に近い。
慌ててヒールのかかとを引き上げつつ、すみれはさっさとカード払いを告げてしまった室井の背中を追う。

「室井さん!お会計くらい自分で出すわ!」
「誕生日プレゼントと言っただろう。男に花を持たせろ」

そして店員さんに向かって一言。

「プレゼント用にラッピングもお願いしたい」

店員さんが素敵ですねなんて微笑むものだから、尚更言い出しにくくなる。
青島も横から肩を寄せ、甘えときなってすみれの耳に囁いた。

「あ、ありがとう・・」

こちょばゆい耳に余韻が消えない。
女扱いされたのなんて、何年振りかな。
小声で礼を言うのが精一杯だった。


******


ラッピングを待つ間、アクセサリーコーナーを眺める。
なんとなく背後で二人の会話がすみれの耳に入ってくる。

「服、いつもどこで選んでいるんです?」
「通販だと言ったろう?」

なんの会話をしてるんだろ。

「ブランド、どこです?」
「決めてはいないが・・だいだい・・」

青島くんって人の懐に入るの巧いな、やっぱり。
あの室井さんに懐けるの、あたしぐらいだと思ってた。

「あー、これなんか室井さんに似合いそうですよね」
「君が選んだにしては悪くないな。それなら君はこれはどうだ?さっき探していた時見つけた」
「どれです?お!良いですねぇ。室井さんにしてはオジサンくさくない」
「失礼だな君は」
「素材も良さそうだし。ここのカッティング、かっこいいな。買っちゃいますか?俺らも」
「そうだな・・滅多にこんな時間は取れないしな」
「ね?買お!いいでしょ?!」
「よし、ついでだ。買ってやる。君も確か先月誕生日だろう?」
「えっ、あ、そういう意味で言ったんじゃなくて!」
「気にするな。ついでだ」
「・・じゃあ、そっち、俺が奢るってのはどお?あんたも今月誕生日でしょ」

知っていたのかと室井が片眉を上げる。
ただじっと判定を待つ青島に、室井もややして頷いた。
それを背後で見つめていたすみれは、ただ立ち尽くす。

だから、ね?
なにをやってるのかな?
さっきまでヒロイン気分だったのに、どうしてこうも簡単にぶち壊すかなっ?この二人は!
なんで室井さん、青島くんの誕生日まで知っているの?
キャリアだからとして、じゃあなんで青島くんまで、室井さんの誕生日マークしてるのよ?
そしてどうして主役のあたしが放置されているのかなっ!?
(照れ臭くて逃げたことはさておき)

なんとも複雑な心境となったすみれの顔が不細工に歪む。

「どうした?」
「ホントに二人結婚しなよ・・」

一瞬考えてしまったというように二人が同時に視線を合わせる。
変な間が出来たことで、余計気まずい空気がそこに流れた。

「・・・」
「・・・」
「・・・」

考えるんだ・・

「お待たせしましたぁ。こちらがご要望のものになります。いかがでしょうか?」
「・・・」
「・・・」
「あ、ありがとう。希望通りだ」
「当店より本日スカーフもプレゼントさせて頂きますね」

なんか先日から色んな副産物も手に入るわ。
まだ固まっている中年二人を残し、すみれは恭しくショッピングバックを受け取り、店を後にする。
慌てた二つの足音は揃って聞こえてきた。






5.
すっかりと日が暮れた頃、この奇妙なトリプルデートはお開きとなった。
夕暮れだった。
長い影がみっつ並ぶ。
冬の日の入りは早い。

買い物の後、軽くお茶するところまで流れるようにセッティングした青島の機転で、三人でまたおしゃべりをした。
主にしていたのは、あたしと青島くんだけど。
それだけの、誕生日。
でも、トクベツな誕生日。

すみれがコンビニから戻ると、二人の男は改札口から少し離れた柱の横で並んで立っていた。
夕陽に染まる薄紫の大気に溶け込む二つのシルエットは、やはり絵になっていて、目立つ。
すみれの前では子供みたいに衝突するのに今は和やかに何かを話している姿からは、柔らかで悠揚とした空気だけが取り巻いていた。

この空間に、自分がいることに感じるこの感情は優越感、なんだろうか。それとも異物感?
この二人は出会う場所が違ったら、或いは同じ時代に生まれていたら、もっと別の、生涯続くような、トクベツな間柄を築けた属性なんだろう。
でも出会ったのは警察だった。
その分、繋がれた絆は熱く深く、魂を揺さぶるような共鳴に震えている。
それを間近で見られるのだから、やはり優越感で合っているのだろう。
少ししょっぱい味のする、ご褒美だ。

「お待たせ。帰ろ?」
「そうだね」
「また二人でうちまで付いてくるの?」
「言い方!」
「だって、今日は未だ夕暮れだし、大丈夫よ」
「大丈夫と言っても男に送らせてよ」

んもぉ、と笑ってすみれが一歩下がる。
ふわりと揺れたコートの裾に、まだ凍えた風が一つ、吹き抜けた。

「すみれさん、はいこれ。あげる」
「!」

それはさっきの店の後、一緒にモールを歩いていた時に話題にしていたキーホルダーだ。
金色のチェーンが付いたリング型で、繊細な作りだから、日常遣いにしたら壊すと思って止めた。

「さっき見てたでしょ。欲しいのかなって」
「・・うん、かわいい」
「実は俺もお揃いにしちゃった」

色違いだよと笑って青島が指先を回す。
夕陽を浴びてキラリ目に沁みた。

「今日の記念になるね」
「あたしが欲しかったの、わかったの?」
「わかるよ」

でもふたりとも、失くすか壊すかしそうなのに。
大事にすると、すみれが胸が詰まったその時。

「ズルいぞ」
「へ?」

すみれがありがとうと素直な言葉を出し惜しむ隙に、突如会話に入ってきた室井の眉間は深い。
意図を察している癖に青島もまた、とぼけた問いを返す。

「何がです?」
「・・・」
「じゃあんたも買って来れば自腹で」

ニヤリと笑み、売っていたお店を青島が指差すと――

「・・・・・・・・買う」
「買うんだ・・」
「だめなのか」
「あっ、じゃあ、案内しますよ」

すみれを残し、二人で並んで先の店に戻っていく。

「行っちゃうんだ・・」

なんなの。なにそれ。
負けず嫌いなのか、ペアリング(?)が羨ましかったのか。
それをあっさり案内しちゃう青島くんもなんなの。
ほらもぉ、またあたし置いてきぼり。

「すみれさーん!」
「~~!!んもぉぉ~わかったわよ!行くわよ、行けばいいんでしょ!」

遅れて追いかけるすみれを並んで振り返る男二人の向こう側、夕陽が赤くて燃えるようで、なんか切なくて。
男二人が揃いのショップバックを持っているのがなんか可笑しくて。
あ、そこはあたしもだわ。
前回のショッピングデートとはまた一味違った一日を演出されて、それがなんか胸に沁みて、沁みて。
今回の誕生祝で奇しくも、あたしたち三人は同じリングのキーホルダーを持つこととなった。

「ごめん、すみれさん、呼び出し来た」
「あら大変」
「今日は室井さんに送ってもらって?」

ぐるんと青島が室井を振り仰ぐ。

「送りオオカミなんて、今どき流行りませんからね!」
「流行りものに興味はない」
「うわ、手を出さないって言わない辺りが姑息」
「好カードを逃したな、青島」
「ゲームはこれからなんですよっ」
「馬鹿、恋に抜け駆けは常套手段だろう」

牽制したつもりが言い負かされて、青島があんぐり口を開けて固まる横顔に、すみれは流石におかしくなってしまう。

「いいから早く行きなさいよ。刑事課のみんな待たせちゃ駄目でしょ」
「じゃあ行くよ、すみれさん、今日はあんがと。それと、誕生日、おめでと!」
「ありがと。こっちこそ色々楽しかった」
「今度はそれでキャビア行こうね!」
「お給料出たら?」
「そ!」

二人して額を突合せ肩を竦める。
その間に室井が立った。

「勝手に話を進めるな青島」
「あれ?恋に抜け駆けは常套手段だって言いませんでした?」
「いい度胸だ」

いーだと青島がおちょくれば、室井もにんまりと片眉を上げる。
近づぎる距離感。
一瞬にして共鳴するシンパシー。
室井と青島から一瞬にして溢れ出す魂の呼応。

だから何故その光景をあたしが見せ付けられるのか。
もう何度目かもわからない馴染んできた光景に、感じるのは羨望と嫉妬で合わさって、それでもすみれは、今だけはと何かを願った。
胸の奥がじんわりとする、この幼稚で古風な空間に。
三人の目がそれぞれ合って、青島が片手を上げて。
モスグリーンのコートを揺らす後ろ姿を見送れば、すっかりと日は落ちていた。


****


「室井さん、青島くんといると、子供みたいね」
「そう見えるか?」
「うん、感情が剥き出しになってるかんじ」

二人きりになって歩く夜道はコツコツと足音が並ぶ。
どこからか夕飯の匂いが流れてくる。

「あいつが子供みたいなので引き摺られる」
「そんなかんじ」
「駄目か?」
「可愛がっているんでしょ?」
「不思議か?」
「んん、そういうとこ、もっと見えた方がいい」

無暗に敵を作り、鉄壁の防御力を磨くことだけが、出世ではない筈だ。
味方を作る手段を、でもこの男は選ばない。
そんな男がようやく懐を見せる相手を見つけた。
背筋を伸ばし前だけを向いて歩く室井の一歩後ろをいつも追いかける青島の真似をして、すみれもまた一歩控えて歩いていく。

「青島くんに出会って、変わったよね」
「変えたつもりはない。やるべきことが出来ただけだ」
「そっちでは苦労してそうね?」
「・・多少だ」
「ふーん?」

意地を張っているのか、認めたくない男のプライドが透けていて、肩より少し上の室井の横顔が険しい。

「あら、ご不満のようね?」
「話題を変えていい」
「ふふ。仕事の話は女では不満?」
「青島の話題が不満だ」
「つまりは、青島くんに引き摺られることが悔しいの?それとも上手く立ち回れない不器用なとこ?」
「容赦ないな」

律義に構ってくれる室井の生真面目さと、そのくせそれ以外の話題を提供できない不器用さが綯交ぜとなって
すみれには振りたくない話題もあるのだろうと予感させてしまう。
青島とはどんな話をするのだろう。
そんな風に相手に思わせてしまう不躾さを、この男は思いもしないのだろうけど。

「今日、楽しかった。久しぶりに女の子モードになれた」
「女の子モード・・」
「ちゃんと、女扱いしてくれたわ」
「君が、望んでくれるなら幾らでも相手しよう」
「大サービスね」

ふぅと、少し重ための長い息が室井の口から漏れ、低めの声が雑談を変えた。

「君こそ、逆に言いたいことも言わないな」
「・・そおかな?」

思っていたようなことを逆に問われ、思わずすみれの息遣いの乱れる。
見透かされたような漆黒に、心臓が一瞬、軋んだ。

「もっと、言ってくれていい。青島もそれを望んでいることくらい、分かっているんだろう?」

一歩引かれているのは、きっとお互い様なのに。
室井が何を指摘しているのか、分からない振りで分かったようにすみれは首を振る。

「一度引き金引いちゃうとね」
「私にも、無理か」
「・・室井さんには~・・・そうね、逆に意地悪言っちゃうかな」

薄らと頭上で笑ったようだった。
その吐息が妙に男臭く感じられて、不自然に止まった会話の隙に、室井こそ容赦ない。
待って。この話題は嫌。

「一人でいい。誰か言える相手がいればいい。それが私だったらいい。それだけの話だ」
「言ったところで何も変わらないでしょ」
「変えて見せようか」
「え?」

室井が先に足を止めた。
釣られ、すみれも足を止めてしまう。
ヒールの矛先、靴底が縫い付けられたように重くなる。

しまった、と何に対してかもぼんやりと分からぬまま、鼓動が、また、逸った。
薄闇に向き合う男の影が電灯を背負い、一歩だけ、すみれに向き合うように動く。
室井の腕がゆるりとすみれに伸びる。
白いパンプスが闇に呑まれ、むろいさん?と音を発せぬまま、すみれの朱い口唇が呻いた。

逃げる隙は与えて貰えていたのだと思う。
そう思った時には腕を引かれ、影に囚われ、冷えた柔らかいもので口唇を塞がれていた。
覆った闇色の世界に、反射的に目を閉じてしまって、すみれは息を止める。
ゆるりと引かれた腕の力は思いの外強く、逃さぬように掴まれたまま、だが無理な圧力はなく
それが逆に女の、すみれの拒絶を拒んでいて、ずるい、と思った時にはもう接触を深く許していた。
顔を斜めに傾けた室井の影に隠れ、柔らかく吸われるように肉の弾力を何度も味わわせてしまう。

「・・ン、・・」

やだ、キス、巧いんだ。

貪るように擦り合わせる癖に、一切の激情も欲望も見せない。
煽られ、染められ、こちらの胸が詰まって、歳を重ねた男の手際に朦朧となる。
普段淡泊な顔をして、さっきまで無害な保護者を演じていて、いきなり男の顔になるなんてずるい。
でも、あたしも狡い。
手を握り返すだけの勇気もない癖に、突き飛ばす理由もわからなくて、そっと自分を襲う男の腕を掴めば、それを柔らかく握られた。
上向かされて、更に深く注ぎ込まれるものに、酸素が薄くなる。

ようやく解放された時には少し息が上がっていて、紅潮した頬を見られたくなくてすみれは顔を反らした。
ただ重ねるだけの口接ではない。
場数も相手もこなした男のそれは、今のすみれには刺激が強かった。

「な、にするの・・」
「こうでもしないと青島と君の視界には踊り出ないだろう?」

結局青島くんなんじゃない。
だけど濡れた口唇がじんじんと熱を持っている。
あてどもなく磨き上げた女の武器を味わわせてしまった胸の軋みが、なんで?とすみれに問い掛けていた。
何故あたし、逃げなかった?
突き放すことだって、出来たよね?

「道端で・・こんな、こと、するひとなんだ・・」

若干、やっかみを含めた苦情さえ、子供の駄々のように零れ、俯いた頬に乱れた髪を指で梳かすように、顔を上げた。

「青島には送り狼にはなるなと忠告された矢先なのにな」
「・・誰かに見られてたらどうするのよ?」

冬の大気で冷えてきた顔を、室井に向け、上目遣いで問えば、目の前の男は、ただ、男で、やんわりと笑んだだけだった。
そんな顔もするの。

「外堀から埋められる」
「やっぱり、あたしが置き去りじゃない」
「やっぱり?」
「今日だってずっと、貴方と青島くんの仲を見せ付けられたわ」

室井か片眉を上げ、そんなことを気にする女を宥めるように、そっと頬に手を添えてくる。
そして、親指で濡れた下唇を拭われた。
ぶわっと胸が張り裂ける。
クイッと持ち上げられた羞恥にまた目尻が朱をはたいたのが分かった。

「今夜はここで帰る。このまま一緒に居たら本当に喰ってしまう。家はこの先のブロックだったな。気を付けて帰れ」
「そんな台詞、室井さんでもいうのね」
「少しは視界に入れたか?」
「大っ嫌いよ」

室井の手が名残惜し気に離れていく。
そうかと目を眇めた姿はもう、正統で高貴な官僚の室井ではなく、すみれの瞳が濡れたように瞬いた。
自分がどれだけ女の顔をさせられていたか、すみれが気付くのはもう少し後、自宅の鏡を見た時だ。










happy end?

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仲良すぎてすみれさんに揶揄われてしまう、二人でお土産持ってくる、というまたまた可愛いネタをほぼ強引に頂きましたので、書いてみました。
ひなたさま、ありがとうございました。萌えました。かわいい。

このシリーズは、仲良しな三人を描きたいだけのお話です
そろそろ決着を付けねばと、一歩進ませました。青すみエンドか室すみエンドか長い間迷っておりましたが、両方エンド(2バージョン)にしようかなと思って おります。

20250512