室 井さんと青島くんとすみれさんの三角関係のお話です。
「室→すみ←青」という拙宅にしては珍しい設定の第三弾。
時間軸は未定。登場人物は室井さんと青島くん。紅一点のすみれさん。友達以上恋人未満で一人の女を巡る男の戦い。






ラブ・チャンス!Ⅲ





1.
「右。右だ」
「なに言ってんすか!すみれさんなら絶対左です!」
「彼女の雰囲気が出ているだろう。右のがいい」
「似合うかどうかってんなら、断然左でしょ。何カレシ面してんすか」
「君こそ彼女の何を見ているんだ」
「あーんたよりはずっと近くで見てますぅ」
「・・俺より付き合いは短い」
「傍にいる時間の合算なんですよ」

ねっ、すみれさんv、と満面の笑みで振り向いた青島に、あんたこそ、どのくらいあたしの傍にいるつもりなのよと、すみれは心の中でツッコミを入れる。
敢えて口には出さず、すみれはにっこりと微笑むだけで全てを流した。
そう、全て。

「じゃ、この二つ止めて、最初に着たのにします」
「「・・・」」

店員さんが笑顔で対応してくれるままレジに向かい、言葉も失くした男二人を置き去りにしていく。
どっちがいい?なんて聞いたあたしが馬鹿だったわ。

ってゆーかさぁ、この二人はなんで張り合っちゃうかなぁ。

「それではこちら、サイズやお色はお間違いないですか?」
「ええ、それでお願い」
「只今ノベルティも付いておりますので入れておきますね」
「あら、ありがと」

手際よく本日購入したスーツ以外の私服(上下セット)が袋に入れられていく奥で、場違いな男二人が内緒話を続けている。

「ところでこれって何の服なんです?すみれさんにしては高めというか、結構思い切った気が」
「おまえ、そんなことも知らないで付いてきたのか?」
「今日付いてきたのはあんたの方だった気が」
「そうだったか?」

トンチが利いているのかいないのか、実にもならない男二人の会話が聞こえてくる。
すみれは溜息を落としながら苦笑する店員さんにカード支払いを行った。

「お待たせ」

この度、怪我した娘を心配した母が上京すると言い出した。でもそんなのは建前。本音は娘の身辺調査に来る定期面談。
流石にくたびれたスーツは不味いと思い、たまたま休憩室で遭遇した室井に服の相談をした。
洋服なんてここ数年(スーツ以外)買ってない。
室井さんに女のセンスは期待してないけど、年配受けや淑女のツボは心得ていそうだったから
参考までの好みを聞いていたら、そこにたまたま来た青島くんも会話に乗り、俺が連れてってあげるよと言い出し
週末三人でショッピングデートに行くことになってしまった。

なんとも強烈なこの面子。すんごい統一感のなさ。

実際、三人の主張はバラバラで、見事に空中分解した。
室井さんのセンスは案の定、堅苦しく古風過ぎて、母ウケはいいかもしれないが、女が枯れていて
お見合い写真を手土産にされる良い口実になってしまいそうだった。
対して青島くんのセンスは、流行のものを意識したチョイスで色の取り入れ方も品が良く、読モかよってレベルなんだけど
男が女に着てほしい服路線で、あたしの趣味とはちょーっとズレてるんだよね。
今選んだのだって、膝上スカートよ?足出せっての?!あたしに!
ボディラインも出過ぎ!

「お疲れさん。じゃあ、お茶でもしましょっか」

青島くんが屈託なく誘ってくる。
ポケットに手を入れて、にっこにっこと無警戒な顔は、何だかどうでもよい気分にさせられる。
こういうとこ、上手いなぁ。
付き合ってくれたお礼に、もう少しだけ一緒にいてやるか。

「どこかあるかな?」
「確か来る途中でお洒落なカフェ、あったじゃない、テラス席のある・・、結構可愛いケーキとか見えたんだけど。どう?」
「行く」

さっすが青島くん。こういうエスコートはスマートだわ。
中年男性にしておくのは惜しい。
よく見てるし、記憶力も申し分ない。それが仕事に活かされればいいのにねぇ。
タイミングも逃すわ、男を立てろの室井さんとは真逆だわ。
仏頂面で背後で立ち尽くす室井に視線を送ったそこで、すみれは吹き出してしまった。

「なに、そのかお」
「まるで場違いだね」

青島とすみれの指摘に、室井は益々硬くなる。
店内を明るく飾るマネキンたちに囲まれて、黒づくめの仏頂面が会話にも入らず、入り口で所在なく仁王立ちしていた。
入店しようとする女性たちが一瞬ビビる。逃げる。(恐らく仕事と思われた)
でもそこで、付き添いのエリート感を崩さないのが、室井さんだ。
一歩間違えば通報されそうだけど。
となると、この不機嫌な顔は、会話に入れないのが不満なのか、青島くんのリードが不服なのか。
どっちだっていいじゃない。もぉ。

「ほら、行くわよ」

青島が右。すみれが左。
申し合わせたように二人で室井を挟み、その腕を取って三人で歩き出す。
何とも言えない顔に変わった室井が口唇を尖らせて、それでも引き摺られるように(連行?)歩き出した。

「お母さん、来るんだって?来週」
「そう。東京なんて滅多に来ないからはしゃいでる」
「それで来週の有休かぁ」
「うん、そう」

以前はこんな風に気安く触れられる相手ではなかった。支店と本店ではどちらも公的な差が重すぎて。
青島がいると、距離を見誤る。

「お土産を用意しなければ」

室井が突然口を挟めば、すみれが笑う。

「向こうからはいっぱい持ってくると思うわ」
「大分名物?ソウルフード?」
「ちがう。お見合い写真」

「「・・・!!」」

あっけらかんと落とされた爆弾に、男二人が固まった。
この意味深の沈黙に、しまったと思ったが、時は既に遅い。
助け舟もなく、信号も赤に変わってしまった。

「ま、干物とかも多いと思うけどね」
「では、代わりに果物などを調達しよう」

室井の発言に青島が反対側から耳ざとく突っ込んできた。

「貰うこと前提なの?室井さん用なんてないでしょ」

だが室井はそれも無視をする。
硬派な顔ですみれを見た。

「良かったら、その、東京観光、私がナビゲートしようか?」

すみれと青島が目を丸くして室井を同時に振り仰いだ。
飄々とした室井が、なんだ?と顎を反らす。

「ものっすごい爆弾落としてきましたね、あんた。この際、親公認になろうとしてます?」

室井にツッコミを入れる青島が、店を見つけて指差した。
三人でそちらに足を向けながら、すみれがトドメを刺す。

「ありがとう、指示書だけでいいわ」
「・・・」

室井を黙らせたことに満足した青島が、自分を指差してアピールしてきた。

「あ、じゃあ俺が・・」
「青島くんが来るとトラブルが起きるからいい」
「・・・」

それも空かさず撃沈させておいて、すみれは店に着いた足を止めた。
テラス席に午後の陽射しが綺麗に降り注ぎ、植物がふんだんに配置されている外観は、確かにインスタ映えを視野に入れている作りだ。
これを意識できる青島のアンテナは鋭い。
青島がガラス戸を開けてくれるので、軽く小首を傾げて入店する。

「それに、母はミーハーだから、もう予定はいっぱいだと思う」
「いっぱい?」
「気が若くて、元気。あたしより行動的。一緒になんていたらそれこそ多分、母の惚気と父の愚痴を延々と聞かされるわ」
「それなら俺の方が得意じゃん!ねっ」

青島くん、めげないわね・・。

「君こそ何を売り込もうとしているんだ。事はそんな簡単じゃない」
「あんたこそ、どの目線なの?」

というか、二人とも、まずあたしのカレシじゃないですよね?

「いいか。母親というものは侮ってはいかん。一目見ただけで娘の交遊関係を見破るぞ」
「刑事より審美眼あるってことですか」
「比じゃない。こちらは所詮他人だ。しかもそれは結婚後も続く」
「嫁姑問題ですか・・難易度マックスですね・・」

青島くん、誰のところに嫁ぐつもりよ。

「ここで失敗すると後々修正も困難となる。出だしが肝心だ」
「確かに。離婚原因に良く上げられてます」

離婚以前に、このひとたち、どこまであたしの人生に付いてくるつもりなのかしら。
話が飛躍しすぎて。

「旦那側の協力次第ですね」

う~んと二人して唸り腕を組むまま怖い顔をしている男を置いて、すみれは店員に案内された席へ先に向かう。
狼狽えるウェイターさんにはにっこり笑って、放っておいてあげてと付け足した。

五分ほどしてから、室井が気付く。

「おい、恩田くんがいないぞ」
「あれ?すみれさん?・・・あっ、もう座ってるっ、俺も選ぶっっ」

きょろきょろと店内を見回し、小走りにすみれの元へ戻ってきた青島が、すみれの左隣の席を取る。
続けて室井が右隣に座った。
ここは丸いテーブル席なので、どちらが前とか横とかない。

「もうっ、行くなら声かけてよ、すみれさんっ」
「とても重要な案件をお二人で討論しているようだったので」
「そうだよ!すみれさんの家族の話じゃない、大事だよ!」

なんともまた軟派な台詞を吐く青島に、すみれも顔を近づけた。
よくそんな歯の浮いた台詞を堂々と言えるわね。

「ありがとう、気持ちだけ、もらっとく」
「すみれさん、おねだりするなら今だよ」
「青島く~ん、あたし、ケーキじゃなくてパフェ食べようかな?」
「あ、いいね、いちご?」

話を反らせば青島は大概すみれの方に乗ってくれる。
ちょろいなぁと思いつつ、そこが青島の優しいところだ。
メニュー表の上から室井を盗み見れば、同じことを思ったらしい室井が軽く肩を竦めた。
呆れたような、手のかかる子供をあやすような、共通の眼差しに、室井の中の青島を見る。
あ~、このひとってやっぱり・・。

「フルーツパフェ、おすすめだって!」
「いいわね、あたしもそれにする」
「ふたつ?エリートキャリアがそんなの掻き込みます?」

話題を振られた室井がムッとしたように表情を変え、メニュー表を放り出した。

「同じでいい」
「へぇ、じゃあ、食後に珈琲で?」
「いいだろう」
「――だって!すみれさん!」

室井を挑発したことに、何がそんなに嬉しいんだか、満面のニコニコ顔に、いっそ戦意も失われる。
平和的な雰囲気にしてくれたご褒美に、すみれも大きく頷いてあげた。
青島くんが店員に注文する様子に、それでもやっぱり吹いてしまう。

「フルーツパフェみっつね!あと食後にホットコーヒーみっつ!」

ほら、店員さんだってちょっと目がきょどってるじゃない。
でも青島が言うと違和感ないから不思議である。
適当に店員さんとも和やかな会話をして、青島が肘を付いて室井を拝んだ。

「そのスーツでその顔でフルーツパフェ。店員さんもびっくりだ」
「待って。青島くんもだからね?」
「え?なんで?」

なんでって、青島くん・・。

「普通にパフェ食べない?」
「食べない」
「だって昔、袴田課長も経費で食べたじゃん?」

「君達はなにをやっているんだ」
「あ、今の聞かなかったことで。それに時効だし」
「そういう問題ではなく」
「そう、その問題ではなく今はすみれさんの観光計画です」
「確かにそうだ」

息合ってるわねぇ。

「まずはどこから攻めます?」
「まずはリサーチだ」
「この日は俺がお供しますんで」
「君はそんなに長く休めないだろう」
「何日付き合うつもりでいるんすか、あんた?」
「滞在する間、全部に決まっている」

重ッッ。

同時に引いた青島とすみれに、室井はさも当然という顔をする。
男たるもの、途中で投げ出すなどご法度だ。
武士のような思想を持つ室井に、今度は逆に挑発された青島が、長さじゃないと返す。

「そもそも、あんた、どう自己紹介するつもりです?すみれさん、所轄なのに」
「普通に友人じゃ変なのか・・?」
「普通に警戒されますよ」

全く真逆のふたりなのに、考えることも感じることも違って、歳を経て、年月をかけてこういう距離感を生み出していく。
それは不思議と、楽しい友人という枠よりも太く強いもののような気がした。
いいなぁ、あたしにはそういう相手、いたかしら。
努力とか、誠意だけで作り出せるものではなくて、出会いの先の、相性の問題は運に近い。
それはむしろ、結婚相手を選ぶより大変なことかもしれない。

「警戒という意味なら、同僚という立場は一番避けたいだろう」
「なんで!日頃の付き合いがあるんだなって安心感ない?」
「ただでさえ危険な仕事をさせていることに良い顔をする女親は少ない。今回の切欠が怪我だとするなら尚更だ。その上、薄給だ」
「かっ、金っ!?金かー!けっ、怪我も・・・しちゃったかー!」
「君が気にしなくても向こうが気にする。その点、私は肩書がある」

生活ステータスのクオリティを鼻にかける室井に、青島が負け惜しみを残す。
室井さんには負けたくないのね。

「その分、身分違いだの、浮気だの、余計な尾ひれも付いてきますけどねっ」
「その分、結果を出す」
「家庭に恋に仕事持ち込まれて悦ぶ女がいるかっての。ついでに激務で家にもいなくて」
「寂しいか?」
「寂しいよ!」
「ツライ思いをさせないよう、努力しよう」
「努力義務って口先だけじゃん、いっつもそれ!」

なんか新婚夫婦の会話になってますけど。

「しょうがないだろう、その代わり空く時は大型連休になるから」
「こっちはそんなに合わせられませんよ」
「共働きだと事前に色々話し合っておかないと難しいな」
「ええ、事件起きたらそれこそ」

結局この二人はやっぱりどこか似ているのだ。
性格や立場は真逆でも、見えている者が同じなのかもしれない。

「ねぇ・・もぉ、二人付き合っちゃえば?」
むしろ、結婚しちゃえば?

すみれが投げやりに口を挟んだ。
室井が青島を見て、青島も室井を見る。
会話が止まる。
やだ、一瞬考えたわね、このひとたち。

「仕事にも理解あるふたり。お互いに」

リアクションが変よ既に。

「な、何言って・・、ねぇ?」

室井に笑いかける青島の笑みがぎこちなく、この場の助けを求めるようにすみれを見た。
あたしに降ってこないで。

「あの、冗談だからね?」
「とととととぉぜんだよ!ねぇ!」

なに狼狽えてんの青島くん。

「お待たせいたしましたぁ。フルーツパフェ、みっつ、ですね!」

「・・・」
「・・・」
「・・・」

「おあと、食後に珈琲になります、ごゆっくりどうぞ~」

「・・・」
「・・・」
「・・・」

華やかな声に破られて、フリーズした二人の男を交互に見て、それからすみれはパフェを見た。
売りにしているだけあって、ホント、大きい。
そのパフェ越しに、今度はそれぞれの目の前に置かれた大きなパフェに視線を一点集中、色んな意味で無言になっている男二人。

やがて、青島の目線が室井に向いた。
室井は未だパフェをガン見していた。

「えーっと、だから!室井さん?あんたも何か言ってくださいよ」
「このパフェはどこから食べるんだ」
「知らねーよ!」
「この突き刺さった周りの果物が、大きすぎる」
「だからそれはぁ!」

グラスの中に、アイスクリームや生クリーム、フルーツやスポンジケーキなどが彩りよく盛り付けられたパフェだ。
パフェって、どうやって食べるんだと問い掛ける中年男性。
なんともシュールな画ヅラとなった。

「パフェは食べにくさに挑むデザートなんですよっ」

そうなんだ。青島くんらしい発想だわ。
盛り盛りの果物がグラスから落ちそうになっていて、果肉には皮も種もついていて食べにくいのは確か。
いっただきまぁすと小さな声で言ったけど、多分二人には聞こえてなくて。

「おまえこそ、掻き混ぜて食べたりするなよ、せっかくのグラデーションが台無しになる」
「え~じゃあ、このへんのクリームどうするんすか」
「フルーツは先に食べないと酸味に返り討ちにあう」
「あ~わかるわかる」
「手づかみだと手が汚れるな」
「もぉ、男ならかぶりつけよっ」

だからもう、デート中のカレカノかよって会話がゲロ甘なんですけど。
パフェをたしなむ中年ってどうなの。
投げやりになった青島くんの苦労に、室井さんって変な所が律義だわなんて、ぼんやりと思う。

その漆黒がふと、すみれを見た。
薄らと柔らかみの色が漂う。
え、なに?と思うそのまま、今度は、室井が青島に視線で何か伝える。
青島もそれに気付き、室井からすみれに視線を戻し。

スッと手が近づいたと思った時にはもう、室井の冷たい指先に口唇を拭われていた。
仰天して言葉もないすみれを視界に捕らえ、室井が大人びた端正な顔で笑んでくる。
あろうことか、狼狽えた心にはしっかりと気付いた顔で、静かな漆黒はすみれの奥まで入り込んでいた。
え、今なにされたの?
あたしが嫉妬していたこと、見透かした?
これ、もしかして全部計算なの?

見つめ合う室井とすみれの、その時間がひどく長く感じる中、青島が室井の手首を掴み、その指を舐めとった。
すみれの目の前で。

「そこはお手拭きでもいいだろう」

室井に窘められ、青島が役得と笑っている。
子供みたいな扱いをされたのか、カレシ面されたのか、室井の行為に動揺した心臓が今更ながらに主張を始めていた。
赤らむ頬を見られたくなかったから、ちょっとだけ救われた。かも。

「室井さん・・、やってくれましたね、俺の目の前で」
「なんだ、妬いたのか」
「妬くわ、ふつうに!」
「さっきの。仕返しだ」

もしかして青島くん、あたしを助けてくれた?

「俺わね、こんなところで女の子を公然と辱める男にはなりたくないの」
「男に舐め取られたことも充分辱めだが」
「キモチワルイ言い方しないでくださいよっ」

その前に青島くん、室井さんの指、舐めちゃうの、抵抗ないんだ。

「すみれさんの口元を譲るわけないでしょっ、それに取り方もちがうっ」
「取り方ってなんだ」
「知らない?ああ、これだから非モテは」
「いいから教えろ」
「だーかーらー、口元に付いたものは、こうやって・・・」

青島が両手で室井の顔前で、その頬を包み込むような動作を見せ、そこに顔を大きく傾け、舌で舐めとる仕草をする。
赤い舌が動くのが見えて、なんか、直視できずにすみれは視線を下げた。
というか、この二人、何の会話をしてるの。

「おまえ、エロイな」

うししと破顔して、青島が室井を指差し指導する。
室井もまっすぐ青島を見つめていて、喧嘩しているようでこれはこの二人の会話なのだと周りを納得させてしまう何かがある。
気が合うってこういうことを言うのかな。
青島くんも、署にいるより居心地良さそう。子供みたいで。
室井さんはさすがに表情には出さないけど、あたしといるより口数多いし。

そんなことをぼんやりと思っていたら、室井と青島のまっすぐな目が一緒に、林檎みたいなすみれを見つめていた。
すみれの顔を見て、二人してほくそ笑む。

「男を揶揄うからだ」

ね?と示し合わせて、目だけで承諾する男二人は結託してすみれを揶揄ったのだと知った。
いつ二人で仕組んだの?
目だけでお互いの意図読み取っちゃったの?
大人の男って、こんな感じなの?

ポッとすみれの焦れた視線が朱に染まった。
露骨な反応しか出来なくて、隠すことも奪われる。
大した動揺もなく、室井と青島はまたパフェの食べ方について言い合っている。
なによ、なによ。
なまじ、二人ともそこそこイケメンだからこそ、妙にサマになっちゃって。
そんなとこまで揃っちゃって。

店内を見渡してみれば、休日なだけにカップルが多いけど、この二人よりイケメンは早々お目にかかることはなくて。
仄かな優越感がすみれの背筋を伸ばした。
誇らしい気持ちになるのは、彼らがここをあたしの居場所としてくれているからだ。

いつかはどっちかを選ばなきゃならない日が来るとして。
それまではこの曖昧な関係に浸っていたい。
優しくて、温かくて、心地好くて、誇らしくて、少しだけくすぐったくて。

何様だよと責める声が身勝手に内なるところから聞こえてる。
図々しいのは百も承知で、でも、譲らない。
だったら、あたしからこのふたりを奪えるのなら奪ってみろという気分だった。

まあ多少、あたしそっちのけで、二人の世界入っちゃう男たちだけど。

手放したくない。
だから、神様、もう少しだけ。







2.
「あのさあ・・室井さん・・」
「何か言いたそうだな?」

そりゃね、と青島が小さく頷く。
言っていい、と室井が真黒い視線を流した。

「すみれさんを落としたいんだよね?」
「そう言った」
「あんときの気持ち、変わってないんだよね?」
「君もだろう?」
「そろそろ・・って、思ってます?」
「・・ああ」

壮絶な流し目のような室井の漆黒に、怯むままに青島は確信する。
こういうとき、覚悟を決めた男は他者を気配で圧倒させる。

少しだけ室井とすみれの雰囲気が違っていたこと。
多分、二人だけの時間も、増えてきているんだってこと。

「長引かせるつもりは最初からなかった」
「同感」

二人で送る帰り道は、たぶん、お互い、一人で通る帰り道だ。

「君にはいろいろとバレてしまうな」
「タイミング図ってたこと?」
「それもだが、私が恩田くんを・・、欲しがる理由もだ」

その言い方はずるいと軽く視線を投げれば、それも狙っていたようで、室井が小さく笑った。
その理由も、たぶん、俺はもう気付いている。
小賢しい男の小技は、恋のライバルとしてこれまで数多く向けられたことのある馴染みのものだ。
それを室井からも向けられることに、少しだけ青島の内なる部分に優越感が疼く。

「今日のさ、アレ、ワザとでしょ。俺に警戒させたんですよね?それともマウントですか・・」
「彼女が一人、寂しそうにしていたからな」
「だからって驚かせちゃだめでしょ」
「君はそういうところ、優しいな」

奇妙な評価を頂き、青島も言葉に詰まる。
このひと、意地悪だし策士だけど、時々天然な発言をするから、掴めない。
掴ませないのがキャリアとしての罠だとして、そんなの、俺には通用させませんけど。

室井とすみれが二人が紡いできた時間を青島は知ることはできない。
でも、孤高の中で戦ってきた男は、一人で食いしばり一人で泣こうとする女に、シンパシーを見るのだろう。
室井が本当に救いたいのは、過去の自分なのかもしれない。

「おだてたって帳消しにはさせませんよ」
「拗ねやがって」

けど、今日のすみれさんの反応は見過ごせるものではないと、青島の本能が警告している。
室井がすみれの中の女の部分を引き出しているのは事実だ。

「先手、譲ってもいいですよ」
「余裕だな」
「だけど、彼女を譲るつもりはないですよ」
「譲らせるわけないだろう?私の一人勝ちだ」
「俺に勝算ないって思ってます?」
「君も同時に落として見せよう」
「はいぃ?」

だからさぁ・・・。

パチンと指を弾いて、室井にしてはワイルドな仕草で青島の胸を押す。
思わず足を止めてしまった青島に、意味深に口端を持ち上げて、そのまま室井はスタスタと先に改札口に入っていってしまった。

「あっ、ちょ、待ってくださいよ!」

ぱたぱたと足音を立てて追いつけば、遅いと睨まれた。
とりあえず早足の室井の背中に付いて、青島は首を傾げる。

意味わっかんねぇ~~~。
え?なに?俺も落とされちゃうの?え?身持ち硬くしとけって忠告?
でもすみれさんも盗られるんなら、俺の負け?
あいっかわらずブキミなひとだわ~。






happy end?

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仲良すぎてついにはすみれさんに揶揄われてしまう、というまたまた可愛いネタを頂きましたので、書いてみました。
ひなたさま、ありがとうございます。萌えました。

このシリーズは、仲良しな三人を描きたいだけのお話です

20240207