登場人物は和久さんと室井さん。室青の絡まないお話。室青ベース。






嘘も方便





1.
久しぶりに見た青島は多くの仲間に囲まれて楽しそうに笑っていた。
彼の周りには自然と人が集まる。
多分それは、彼の人懐こさと人柄と、ほんの一握りの閃光の成せる技なのだろうと室井は考察する。
自分とは正反対のタイプだ。

湾岸署刑事課の入り口付近で足を止め、何となく見遣っていると、ふと青島の横に座っていた和久刑事と目が合ってしまった。
一瞬頬を強張らせ、目を泳がせる。が、そのままもう一度視線を戻し、目礼をして立ち去った。
老齢の、全てを達観したような明哲の眼差しは、鋭さが削ぎ落されているのに心の襞まで見透かされそうな奥妙さがある。


「お車を回してきます。ここでお待ちを」

硝子扉のエントランスを越えた所で夕闇に暮れる空を仰ぎながら、室井は書類で嵩張った黒の鞄を握り直した。
本日の太陽が西に沈んでいく。

俄かに背後が騒がしくなり、そんな閑静さは一瞬にして消え去った。
古びたシャツに汚れた上着を着た浮浪者風情の老人の肩を叩きながら、和久が送り出している。
ここは相変わらずだなと思う。もう来るなよだの、奥さん心配してたぞだの、親しげな言葉を交わしているのが、風伝いにここまで届いた。
老人は深々とお辞儀を何度も繰り返して去っていく。
アットホームな所轄の日常を、何となく室井も見送った。


「アイツはよ、また来るんだ。何度言っても治らねぇ。・・・ビョーキだな」

視線は寄越さないが、室井の意識がこちらに向いていることに気付いていた和久が出来の悪い生徒を扱うような口調で語りかけてきた。

「・・・・彼は」
「この街の地縛霊さ。いつだったか息子がよ、手術ってなった時にアイツ荒れてね。・・・その最中離婚もされちまって。もうどこにも行く所がねぇんだ」
「・・・・・」
「何度か職を紹介もしてんだけど、転々としやがって。でもアイツの盗み癖だけはなぁ・・・」

室井は何と答えて良いか分からず、頬を強張らせた。

ホームレスは自治体が強制撤去してもまた蔵替えをしてコンタミを形成する。
行く場所がないのだ。当然の成り行きかもしれない。
擁護する気はないが、人を犯罪に走らせる悪循環がふとした闇に生じるのもまた事実で、それを一括りに否定するのはあまりに乱暴であった。
これも一つの社会悪には違いない。
が、警察官は社会ルールを真っ当することを貴ぶ職業である。同情する訳にはいかない、でも、同情することが所轄では仕事になる。

同じ職業に就きながら、対極的なこの構図を前に、この世界の奥行きをしみじみと室井は胸に焼き付けた。

脈々と受け継がれている地元との癒着が濃い所轄は、自分の卓上とはあまりに違った。だが、これが何かと聞かれれば、これもまた警察の仕事だった。
そうすることで警察という偶像が深みを増し、健全な均等を取れているのだというならば。
こんなことは、キャリアのレール上では然したる問題ではなく、青島と出会わなければ意識することもなかっただろう。
キャリアとして、それが良いことなのかは分からない。だが、知ることは今は必要なことのように思えた。


室井が自分の思惑に耽っていると、和久が振り返った。

「ところで室井さんよ、青島待ちかい?」
「・・・、いえ」
「逢っていかねぇのかい」

静かに頭を下げることで返事とする。
特に用はないだけで、やましいことはなかったのだが、探るような尊老の視線に、室井は何となく居心地の悪さを感じ、瞼を伏せた。
逢いたくない訳ではない。だが、逢ってどうしたいのかも、分からない。
元々交友関係が幅広くない室井にとって、人間関係に於いて、こんなにも前提条件が必要な相手は初めてだった。


車が来るまで付き合うつもりなのだろうか。和久が真横に立ち、夕闇に染まる藍と茜の空を見上げる。
促されるように室井も視線を上げれば、黒々としたカラスが電柱に止まり、二人の男の背中が手前に長い影を二つ作った。


「一度・・・聞いておきてぇと思っていたんだが・・よ」

顔を向けず、さり気ない雑談を装って和久が言葉を選びながら問い掛ける。
自分に話があるのだと察した。

「そのぅ、室井さんはよ、青島とどうなりたいんだ?」
「・・・どう、とは」
「あぁ、そんな警戒しなさんな・・・老いぼれのお節介だよ。一度な、こうして・・・直に確かめる機会を持ちてぇと思ってたんだ」

ゆっくりと、温和で小さめでありながら鋭さを持った瞳が室井を正確に捉える。
物腰は柔らかいのに、蜘蛛の糸に捕らわれたように室井の身が竦んだ。
不自然なほど、先程まで辺りを賑わしていた人影がない。

「お前さんは・・・・青島を連れていくつもりだろうが、そのことを青島も理解してるんかい?」
「・・・・分かってくれているとは」
「口にしたことは」
「・・・いえ」


ふぅ、と、肩を落とすように鼻から息が吐かれ、寒い日は腰が痛むんだよ、と両手で腰を擦りながら、和久の瞳に陰りが走る。
張りつめていた糸を解すように和久は冬空に息を投げた。
僅かな沈黙が、室井の肌を栗立たせる。


「室井さんよぅ、あいつを諦めてくんねぇかな?」

ゾクリとした悪寒が室井の背筋を這い上がった。
ややして、他愛ない戯言の気配を纏わせて告げられたその言葉は、しかし、何の抑揚も持たせずか細いものでありながら、凛と澄みきった重さで、室井の奥を貫 く。
和久の意図が読み取れない。
だが、冷たい拒絶と、自分の意にそぐわぬ命令を下されるのだということは、本能的に察した。

背後の陰影の濃い夕闇が、顔を陰らせ、恐ろしい程の壮絶感を強調させる。


「あいつはな、刑事人生が始まったばかりで、目新しいものに目移りしちまって・・・なのに、肝心な所が備わっていない雛だ」
「・・・・・」
「驚くことに、一端の社会を知った男のくせに、どこかまだ擦れていねぇ所がある。まっさらで・・・今、ここから、あいつの全てが始まっていくんだよ」

言葉を挟むつもりはない。
淡々と流れる言葉を、ただ、耳に入れる。

「分かるか、室井さん。まだ染まってない無垢なまま出会ったのが、お前さんなんだ。シンパシーを受けたのはお互いさまかもしれないが、ここから先はアンタ が染め上げていくことになる」


この世界にどっぷりと浸かり、世界を自由意思で吟味する余裕が生まれた上で選択した道なら、後悔も打算も選べただろう。
しかし、まだ何も得ていない内に、青島は警察社会の中枢へ飛びこむはめになってしまった。

和久の言わんとすることが分かって、室井はようやく口を開いた。

「しかし青島くんには強い信念と理念があります。彼なら道を誤ることもないでしょう」
「アンタなら・・・見てきているだろう、そうやって何人もの刑事が闇に足元を取られ、潰れていったのを。彼らは弱かったのか?違うだろう?」
「――・・・」
「俺たちの仕事は人の性に直接触れる。だからこそ、外だけじゃない、内からの脅威は尚更――弱点を突く」

和久は拳で攻撃の急所、みぞおち辺りをぽんと叩いた。

「アンタが青島の毒になんだよ」


真っ赤に染まるコンクリートに立つ室井の黒いコートを、北風が音を立ててバサバサと靡かせた。
湾岸沿いの北風は塩気を含み、肌を悪戯に傷つける。
剥き出しの首筋がピリピリと走った。


「彼の信念の強さには目を見張るものがありました。彼なら戦えると期待しています。我々に対抗できる稀有な存在ではないでしょうか」
「・・・だからだよ」
「――」
「お前さんは、それを利用するのかい?」
「・・ッ!」
「それを自覚しているってんなら・・・俺ぁ、お前さんを確信犯と見るぞ」


この世間話の方向性がようやく見えて、室井は息を呑んだ。
やるなら一人でやれば良いと和久は言っているのだ。それが男の道だろう。
約束を兼ねたからと言って、この卑陋な争いに彼を巻き込むことはないのだ。

夕凪が、急に気温を下げた気がした。

それが出来たなら、室井だって敬愛の奉納に徹していられた。
だが、出会ってしまったからには、狂暴な引力で惹きつけられる。


「私に青島から手を引けと」
「お前さんが青島を大切に想っているのは知ってるさ。お前さんだって必要なんだろう?あのじゃじゃ馬が」
「・・・・・」
「俺ぁ、そこまで言えねぇよ、止めたって必要とあらばあいつはお前さんに向かっていっちまう。だからこそ警告してぇんだ。青島の存在を利用するだけなら、 手を引いてく れ」
「!」
「これ以上、青島の素質を利用するつもりなら、・・・・俺ぁ渡さない。・・・お前さんの方から手を切ってくれ」


和久の静かなる制圧は、低く厳かに響いた。
柔らかな物腰の奥から鋭い眼光を光らせ、室井を睨みつけるその光は、強靭で、守護に徹し、室井を冷徹に糾弾していた。
苛辣な弾圧と拒絶の意思が痛みさえ齎す。
その迫力に、室井は身を固くする。

これは、キャリアが持つ利権をのさばる視線ではない、真実を追求する刑事の視線だ。
和久はその半生を刑事という職務に捧げた。
その間、出会い別れてきた刑事の数は星の数ほどいて、様々な刑事を見送ってきたからこその、進言なのだ。
正論だけでは崩れない、経験だけでは語れない、積み上げた傷痕が物を言う世界だ。

その選別に、室井は受け入れられていない。
青島の隣に立つ人物として、青島を手に入れる人物として、相応しくないと批難されていることが分かった。


凍えた指先を気付かぬふりをして、室井はただ強く鞄を握る。
儼乎たる瞳の謹厳さに、顔色を失い、二の句を告げられない。


「俺には、ここに居る奴らの、ここから始まる刑事人生を、真っ当に導く義務と・・・愛情があんだよ、分かってくれ」

威圧に呑まれた室井を察した和久が、まるで赤子の首を捻るように、最後の拒絶を述べる。
ゆったりとした動きで皺が刻まれた頬を撫ぜた。
しかし、和久の眼は、今まで観た中で一番真剣だった。

「あいつは悪いこともするが、まだ胸の中にある一本の法律が曲がっていない。それを曇らせるようなことがあったら、俺ぁお前さんを許せなくなっちまうか ら」
「――」


胸の奥が、ミシミシと軋んだ。

室井にとって、青島はキャリアの室井という男を形成するための、基本材料であった。
忘れ掛けていた熱い何かを思い起こさせ、室井を再び表舞台で戦える男へと、放り投げてくれたのだ。
足を引っ張り合い、腹を探り合うだけのキャリアの世界とは、まるで違う新風は
消えない爪痕を残し室井の深部を駆け抜けていった。
その息苦しいまでの疾風は、焦がれにも似て、室井に足りない物を嘲笑うかのように知らしめてくる。

それを、この尊老は、正確に見抜いている。
いや、もしかしたら、もっと深く、誘われるままに相手の波長を受け容れてしまう、上に立つ男としての才能の平凡さまで指摘されているのかもしれない。
キャリアの体質を拭いきれなかった事実を責め、その分、青島を切らざるを得なかった結末を、評価されていないのだ。


「私と・・・青島くんが共にあることに異議がおあり・・・だと・・・」
「俺だって・・・お前さんとあいつは名コンビだと思うよ、だが、それだけで登っていける山じゃねぇことはお前さんの方が知っているだろう・・・」
「しかし、その」
「酷なこと言ってるのは申し訳ないと思ってるさ。だが、こっちも手を緩めるわけにはいかねぇ、青島の未来が掛かってる」

長い人生を映してきた色素の薄い瞳が室井を見定める。

「諦めてくれ」
「・・・ッ!」


取り付く島がない。
平静を装っていた室井の顔が苦痛を示し歪んだ。
動揺は、強く握られている拳に汗となって表れる。

曲げる訳にはいかなかった有事の決断が、結果的に、いざとなったら保身に走るのだろうと糾弾されても、致し方なかった。
自分の歩いてきた時間を捨てるわけにはいかなかった。約束のためにも。
それは、室井にとっては青島と目指す決意にも、言えることなのだ。

だが。
息苦しくなって、室井は殺した息を継いだ。


「確かに危険に曝してしまったことは――」
「そんな一つ二つの小っちぇー事言ってんじゃねぇんだよ、室井さんよ」

現場には現場のルールがある。
その枠を越えて飛びこませる彼と、キャリアのレールの上でしか動けない自分では、勝負にならない。

「私では、役不足だと」
「悪ぃな」


目線を落とし、心持ち小さくなった室井の声が喉から絞り出されるように零れ出た。
悔しかった。腹もたった。だが、何の反論も持てない。歯痒く、苦しかった。
ぼんやりと輪郭を映すだけの自分の原始的な意思が、上手く言葉にならず、もどかしさが焦燥を生む。

眉間を苦しげに寄せた室井の顔は苦悶に歪み、奥歯を噛んで息を殺した。
それを横目で黙視した和久の視線は、一つ溜息を落とし、空に向けられたまま何処か遠くを見るものに変わる。


「聞いていると思うが、その昔、俺も吉田と共に走った時代があってね。今のお前さんたちのように」
「理想を共有していたと・・・」
「へへ、そんな御大層なもんじゃねぇがね。この世界に居たら、誰もがその視点を一度は芽生えさせる。その後、捨てる奴と秘める奴に分かれる・・・」
「・・・・・」
「行動に移す奴は稀だ。変わりもん扱いだ・・・。で、その違いは・・・・どこにあると思う」

和久がゆっくりと室井に視線を戻した。

「・・・聞かせてくれ。お前さんの本心を。誰にも言わねぇ。墓場まで持っていくことを誓う」


その時の和久の瞳は荘厳で、一分の隙も見逃してくれそうにはなかった。
和久の背後から立ち昇る偉大な気配にたじろぎ、立ち竦む。
指一つ、触れられていなくとも、胸倉を鷲掴み、喉元に光る刃を突き立てられているようだった。
室井の鞄を握る拳が汗ばみ、音がするほど握り締められる。

いっそ、その奥に潜む室井の廃れた欲望まで白日の元に晒された気がして、室井の身体から嫌な汗が噴き出した。

この視線に怖気づく。
だが、引いたら最後、きっと、本当に自分は青島を失うのだ。


「私は――青島くんを悪戯に悲しませるようなことをするつもりはありません」
「護り抜くとでもいう気か?」
「そうし合えたらと、思っています」
「そんな甘っちょろい覚悟でこの社会を渡っていけると、本気でお前さん、思っているのかい。アンタの覚悟とはそんなもんか い」
「・・ッ、しかしッ、青島くんも私を認めてくれていますッ、いずれ私達は――」
「いずれなんて不確かなものに現場は動かない。・・・・お前さんは何も分かってない」

ゆっくりと和久が顔を反らす。
それはまるで、全てを見放した証のように思えた。

「同じように、あいつは、おまえさんの畑で一緒に戦おうとしているんだ。身体は現場に居ても、意識はそっちにある。何の防御もないままにだ・・!それをど う護るって言うんだ」
「・・・・私達は立場の違いこそが、違う目線を持てる重要な要素になると」
「その立場の違いに青島が潰されてもか」
「ッ!!」

身勝手な理想論ばかり押し付けていたことを指摘され、室井は思わず息を呑んだ。
和久が顔を至近距離まで寄せ、重く声を滾らせる。
鋭い刃が切り裂き、正確に室井の深部を抉った。

「俺たちゃぁ遊びで現場に出ている訳じゃあねぇんだよ・・・ッ。キャリアに護られ机に座ってるだけのお前さんたちには分からないことだろうが」

現場のルールは集団でこそ価値を出す。
室井と共にあることで結果的に青島を孤立させる行動を取らせることは、所詮レールの上で動いていた室井には、狡猾だと思われても仕方がなかった。
いざとなれば、室井にはキャリアというシールドが身の保全を保証する。
護ると口では言ったって、立場の違いの負荷は全て生身の青島に降りかかる。


「そんなことを甘っちょろいこと言っているようじゃ、青島は返して貰うよ」
「!」
「俺の見立てじゃぁ、手を放したら潰れんのはお前さんだ」
「・・ッ」
「身を引け。・・・俺ぁ言ったぞ」


和久が踵を返し、背を向けた。

返す言葉もなかった。
二人の理想を馬鹿にされたことは何度もあった。
それは端から理想を信じない、悲観論者が述べる定説だった。
だが、同じ理想を共有する故山の人間に、真っ向から否定されたことが、何より室井を打ちのめす。


「ま、待ってください・・ッ」
「指を咥えて時が満ちるのを待ってりゃいい。いずれ横から誰かに掻っ攫われていくさ」
「だったら私はどうすればッ」
「そんなことくらい、男なら自分で考えな。・・・・青島はな、真理を見極める千里眼がある。風向きが変わろうとする流れを嗅ぎ取れる勘がある。
 その才能は、己でなく、選んだ誰かの資質を開花させる。・・・・それはもう天命だよ。
 俺は、その素材を誰が手に入れるか、導き、見届ける義務があると思ってんだ。みすみす潰されるような相手に渡すつもりはない」
「・・・ッ」
「お前さんが手に入れようとしているのは、そういう男なんだよ」

分かっていたことだった。だが改めて指摘されて、どれほどのものを自分が欲しがっていたかを思い知り、慙愧する。

「今のお前さんじゃ、無理だ」


壮絶な太陽が西の空に沈み、辺りが薄蒼の空気に変化していた。
冥暗の中に迸る和久の挑発的な本音が室井に突き刺さる。


「どうした?ますます欲しくなったか・・・・なら、どうする?」

室井の眼が熱く迸り、鋭い野性的な焔が漆黒の中央に宿った。

「・・・・良い眼、するじゃねぇか」


和久が、精強で澄み渡った、男の視線を向けた。
その瞬間、これは乗せられたのだと理解する。
だが、もう、そんなことはどうでも良かった。


「男なら、そこまで来たら、決めてこい」
「いいんですか」
「駄目だと思うなら、止めておけ」
「・・・・・」

じっと強い視線で睨み合う。

「しゃあないことだ、俺ぁ、まだアンタを認めた訳じゃねぇよ?・・・ただ、青島がなぁ・・・お前さんがイイって言うからよ」
「・・・・・」
「二人でしっかり話し合うことだな。お前らにはまだ話し合いってやつが足りねぇ。俺も吉田とは良く揉めたさ」
「・・・・・・気付かれていたので?」
「年寄りを甘く見ちゃいけねぇよぉ、あいつは気付いていないがね」

室井がここにきて初めて、口元を少し滲ませた。
それを認めた和久が、同じように口角を上げて見せる。

「・・・・必ず」
「いいってことよ。言うつもりはなかったんだがね、ただ、最近のお前さんたちを見てたらね、ちょっと・・・危険な気がしたから」

深々と頭を下げる室井に、和久が朗らかに笑って手を振って見せた。
室井はしっかりとその垂訓を瞼に焼き付ける。
導かれる長の温もりと、広がる未来。何かが始まっていく確かな予感。
何も答えなど導き出せていないままだ。だが、微温湯で安穏と構えているだけじゃ駄目だ。例え強がりでも、熱い渦が室井の身体を漲らせた。


「手、離すんじゃねぇぞ・・・!」

低くドスの効いた声と共にドスンと背中を叩かれ、室井の下腹に力が入る。

怖気づいている場合ではない。躊躇っている暇もない。
本気で掴みたいなら、本気でかかれ。
自分が自分であるために必要な物を取り零すほど愚かな生き方では、世界を動かす男にすらなれないだろう。

絶対逃がさない。











index

和久さんはそう簡単に青島くんを渡さないと思います。所轄一筋で生き、キャリアに対して一定の厳しい目と現実を見てきているので。
OD2のあの病室シーンは室井さんに青島くんを和久さんが渡した(許した)証な気がします。
20160328