09.夜気と微熱
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室井がゆっくりと男根を埋めると、青島の内股は刺激に淫猥に震えた。
その両脚を肘に抱えたまま、室井は熱い吐息をひとつ落とし視線を上げる。

きつく閉じられた朱に染まる眦から光るものが浮いていた。両手が広げられシーツを幾重にも波打たせる。
引き締まる筋肉が美しさを湛える上半身が、陋劣な衝撃に打ち震えた。
室井は脚を外して覆い被さると、表れた濡れた神秘的な瞳を見つめながら慰めるように口付ける。

「つらいか」
「んん・・・」
「また、泣かせているな」

緩く、青島が首を振る。

「もうしばらくこのままでいよう・・・」

どうせ問い詰めても答えやしないと、追い詰めるだけの会話の虚無さに、長い付き合いだからこそ分かる室井はただ抱き締め直しキスを繰り返した。
青島が崇敬な眼差しを歪め、室井に抱きついてくる。
その手を外し、指を絡めて握り直した。

「おまえがつらいと、俺もつらい」
「ちがう・・・、あんたが・・・、ときどき、むろいさんのくれる愛情が重すぎて・・・なんか、いっぱいで・・・俺には持ち切れなくて・・・」
「今夜は・・・止めておくか・・・?」
「ちが・・っ、そうじゃない・・」

奪って欲しかったと掠れて白状する声に、口先だけな自分が情けなくなる。
同意の上の行為だった。
好意を通わせての交わりだった。

「こ・・していることが幸せ過ぎて、どうしていいか、わかんなく、なった・・・」
「俺こそ、おまえがこうさせてくれることが、未だに信じられない」

耳元に低く囁き口唇を押し当てたら、青島が小さく呻いた。煽情的な声色に室井の背筋がゾクリと栗立つ。
埋め込んだ雄がドクリと脈打ったのを息を殺して耐えた。
汗ばむままに見下ろした瞳に夜の帳が下りて深く深く澄んだ。

「あんたが・・・すきだよ」

それはあまりに無垢で純潔だった。泣きたくなって室井は強く握り締めていた指先に力を込める。

「俺も。・・・俺もおまえが好きだ。誰よりも好きだ。どこにも、行かないでくれ」

目を見つめ、ゆっくりと噛み締めるように告げれば青島が息を震わせた。合わせて室井の男根を包む媚肉が浅ましく収縮を繰り返す。
その淫らな挑発に室井は片眉を歪めた。
汗がたらりと青島の肌へと落ち、淫猥な衝撃を意思を強めてやり過ごす。

「ごめん・・動いて?オトコだから俺もわかる・・・辛いのは室井さんもでしょ、動いて、いい・・・」
「男なら。おまえも分かるだろう・・・こんな時間で男の満足感が得られるんだ」
「でもオンナみたいに簡単に抱けるわけじゃないし・・・面倒くさいことさせたし・・・そろそろ・・・」
「君は。そんなに簡単に俺と腰を振るだけのセックスでいいのか?」
「・・ぇ・・」

柔らかく唾液で濡れた青島の紅い口唇に酔いながら、室井は薄い口唇を目尻から頬へと滑らせた。

「労わって、睦み合って、気遣いあって。恋仲だろ、俺にもそのくらいのことさせろ」

衣擦れの音が耳をざわめかせる。甘い呼吸と吐息が重なり、度重なる悦楽への期待で、室井のブロンズの肌は汗ばんでいた。
辛さは、だが、愛情の重さを理解させる。
自分は青島をこんなにも愛していたのかと、独り善がりの満足に浸れる。

躯がぴたりと密着する。埋め込んだままの室井の男根は質量を増してその存在をナカで主張した。
舌を甘く噛みあげれば、青島の指先がきゅっと室井の手の平を握る。

「は、ぁ・・・、イイ男なんだ室井さん」
「おまえがそう思うなら本望だ」
「一人占め・・・してちゃ、だめ、じゃん、おれ・・・」

室井は顔を上げる。勝手に追い込まれ尻込みする男に腹が立つ。

「なんでそうなる」
「いつまで・・・こんな風にあんたの腕の中にいられるのかな・・・」
「こんな時に無粋なこと言うな。はっきり言っておく。俺はおまえを手放す気も二股掛ける気もない」
「でも、ワルイコト、してる・・」
「まだ分からないのか」

息を呑んだ青島の目を真上から見つめ、室井は顔を近づけた。

「キスをしてくれ」

静かに強請ると、青島がゆっくりと顔を傾け瞼を落とした。黒い睫毛が濡れて光り、そっとそのふくよかな膨らみが重ねられる。
舌を絡ませ、水音を立てて懸命な様子に室井が知れず口端を滲ませると、青島が薄っすらと薄目を開いた。

「俺のキスとそっくりだ・・・。真似するとか、おまえどんだけ可愛いんだか」
「・・っ」
「分かっただろう?俺から逃げてもこれからおまえは誰かにキスする度、誰かとベッドを共にする度、俺を思い出す。もう俺の印を思い起こす」
「ぅ、嘘だろ・・・っえ、えっと・・」

急に腕の中で狼狽えた青島に、歳の差を見る。

「俺の方が経験値高いって思ってたのに・・・っ」
「甘かったな。おまえの躯にはもう俺が染み付いている」

真っ赤な顔をする青島の口唇を今度こそ淫戯の意味で覆った。
無意識の行動だろう。強請るように青島の腰がうねる。

全く、これではどちらが主導権を握っているのか分からない。
目が合うだけで限りなく共鳴していた室井は、こうして身体を繋げることで、また一つ、境目を失っていくのだ。
青島を手放せなくなっていく恐怖と、青島にも自分を刻み付けたい一心で
室井は青島を快楽の底に堕とし、室井を教えこませていく。

「ん・・、は・・っ」

覚えさせたキスで青島が室井の舌を撫ぜれば、室井は青島の舌の裏までじっくりと嬲ってやる。
男の指で快楽を玩んだ躯は従順に熱り、そこは少し熱を持ち腫れ上がっていた。青島の秘肉もまた、室井の刺激を強請っている。
自分だけが与えられる贅沢に、室井は胸が溢れて満たされて止まらなくなった。

「少し馴染ませるぞ」

顎を辿り、首筋を舐め、皮膚に触れながら喋れば、震える僅かな振動も甘い疼きとなって室井の神経を震わせた。
少しの律動も過敏すぎる刺激となっているのだろう。青島の肋骨が溺れた者が喘ぐように浮き上がる。
紅く反り立つ筋をなぞるようにして指先を這わすと青島が切ない声を上げた。

「・・ぁ・・・ぁ・・・ッ、すきっ、だよ・・っ、すき・・、ですっ」

水音を立て、室井が腰を妖艶にグラインドすれば、青島は貫かれる羞恥を愛の儀式に変える言葉を繰り返した。
恍惚とした熱に、室井の視界がくらりとする。
性に淡泊だった筈の自分が見せる狂態も、衰えない情欲も、こうして触れる度に引き摺りだされる。
狂わされる。

室井の下で青島が切なげに顔を歪ませ、目尻を染める。
室井によって昂ぶらされた青島が、全身で室井を昂らせてしまう。
気を抜けば主導権すら奪われるギリギリのセックスに、本気で欲しいのなら、生半可ではこの男は手に入らないことを室井は覚悟した。

強すぎる刺激にズレ上がった身体を室井は両手で引き摺り戻した。
グッと喉に力を入れ、合わせ、舌で辿り着いた鎖骨に室井が軽く歯を立てた。

「乱暴にされたくなかったら、大人しく俺に抱かれろ」

命令すれば、青島は、来てくださいと、強請った。
浮かされた掠れ声に劣情しない男はいないだろう。
室井は望み通り遠慮なく律動を開始した。






happy end

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20180502