04. 偽りの赤い糸
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1.
見 知った顔ばかりの集団に囲まれ、室井は内心うんざりとしながら当座凌ぎの応答をしていた。
北風が荒ぶ中、どこからか飛んできた枯葉が足元を寂し気に掬う。

11月に入って最近めっきりと冷え込んできた都心は、ダウンジャケットやロングコートを羽織る者が目立ちだし、本格的な冬の装いを見せつつあった。
陽も落ちる時間が足早となり、まだ夜も浅い時間ではあったがあたりはとっぷりと暮れている。

何となく集団の一番後ろで様子を伺っている青島に視線を向けた。
気付いた青島もちらっと向けるが、すぐに避けられた。
まあ、そうだろう。退屈な反応に室井も視線を戻す。

今宵、料亭を出たところで、この面子と鉢合わせた。
どうやら湾岸署の幹部三人の恒例宴会に送迎係として青島も連行されているらしい。
これからそれぞれを送り届けるといったところか。

上役共の無内容な雑談を口も挟まず、青島は遠慮がちに背後に立ち、半眼で何かの我慢大会のように耐えている。
もしかしたら何らかの交渉条件として承諾せざるを得なかったのかもしれない。

それでも室井の目には、湾岸署独特の風通しの良い上下関係が見受けられた。
羨むことはないが、自分の周りの察するに余りある老獪な本庁体質を思えば、こうして気にかけ認知し合え、関わり合う仲は
久しく縁のなくなった世界だ。
金の影を残す食事会、権力を隠しもしない懇親会。屈辱を強いられる酒の席。・・・室井の周りには今そんなものしかない。
自分で望んだ世界だから不満を唱えることはないが、遠くなってしまった人間社会の営みに少しの哀愁と苦みを味わう。
こうして実際目の当たりにすることで、言葉以上に彼らの住む世界との違いを室井は承服する。

そういう隔たりを青島も感じているのか、ふたりでいる時に彼が室井の職域に水を差すことはあまりなかった。
かつての営業マン時代の英雄譚、今日出会った事件の概要。
青島から聞こえるのはそんな前だけを向くヒロイックファンタジーだ。

とはいえ、現状に於きてのみ室井に居心地の悪さを感じさせるものはなかった。
こっちは女連れだ。

「それにしても美人さんで・・!」
「ですねぇ!きっと跡継ぎも天使のようですよ」
「気が早いよ君」
「でしたね」

背後で青島が視線を落とし、地面を無暗に蹴り上げるのが見える。

「式には我々も呼んで頂けるんでしょうかね・・?」
「その時は君、あれやったらいいよ、アレ。なんだっけ、阿波踊りだっけ?」
「署長、披露宴で盆踊りはないんじゃないかと」
「じゃあなんだっけ」
「あれですよあれ。えーと、年取ると言葉が出てこなくなりましたなぁ」
「いやまったく」

音もなく青島が身を屈め、袴田課長の耳に「今どき民謡は飽きられますよ」と囁く声が届く。

「そうなの?」
「だったら君、何がいいと思う?」
「はやりの歌なんかが盛り上がるんじゃないですか署長」
「知らないんだよね・・・なんかある?」

「もうマツケンサンバでいいんじゃないですか」と、青島がまた面倒そうに耳打ちした。

少し低く艶のある、その声とはまた違う音域を室井は知っている。

「まだ正式なものは何も決まってませんので」
「そういうのは早い方が良いと思うよ」

後ろ暗く瀆神行為な熱を今は一欠片も浮かべず、室井は険しい顔で続く雑談に終止符を投げるが
空かさず急かす中年の忠告に、室井の連れの女性も頬を染め微笑みを返した。
恐らくこの女も身内から箱詰めの生き方を伝授されている。
息苦しい生き方しか出来ない同志が睦み合うことで生まれるものは、一体どんなものなのか。
不透明な未来を嘆くことは、ない。

室井は黙礼するに留め、身体を開くことで女性を後方に促すと、退席をアピールした。
室井のエスコートに女は亜麻色の髪を揺らし、一礼し、ハイヒールをコツ・・と鳴らし歩き出す。

「失礼」
「――いや、うん、引き留めて悪かったね」
「そうですよ、デート中ですよ」

勝手な閑談が尾ひれを引く中、室井は一度だけ振り仰ぎ、最後尾にいる青島に視線を向けた。
青島も室井を見ていた。
秘める心中は何も読み取らせない透明の瞳が夜を映していて、吸い込まれるように室井の視線を誑かす。
意志の力でそれを振り解き、室井は踵を返した。

これ見よがしに女の肩に並べる姿は、ある種の意地だったかもしれない。
詮ずる所、その視線に晒され続ければ、きっとじわりと灼き切れてしまうのは室井の方だからだ。


数歩、歩いてから室井は小さく振り返った。
まだレストラン近くの信号で彼らは塊となっていた。
風伝いに青島の不満げな声が届く。

俺たちはふたりぼっちなのだと思う。
同じ夢想を掲げ、同じ罪を背負い、同じ痛みに苛まれながら、それでも捨てきれない未来を子供みたいに渇望する。
それが同じものなのかは分からないが、飢えた乾きは似たようなものなのだと、その瞳が訴えた。
幾ら重ね合わせても混じらない体温を恨むように、どこか確かなものを相手に探して
我欲のままに埋まらない溝を自覚していく。
こんなことをしていたって、とうにタイムリミットは過ぎていることさえ承知の上で。

「タクシーを拾いますの?」
「歩きたいですか」
「ええ、酔い覚ましに、少し」
「ではそうしましょう」

仕方がない。
いずれ室井は結婚をし、所帯を持つことを迫られる。
そうすることが強固な地盤固めと権力補強になり、避ける選択肢は用意されていなく、そこに異論は持たない。
そのことはつらつらと世間話のついでにしてきたし、青島に反論させるだけの状況証拠も持たなかった。
所詮同性同士の色恋沙汰に明日はない。

ふたりぼっちだ。
どうしたって引き返せない秘密を抱えてしまった時から、この先も重すぎる罪の甘味に冒されながら、穢れた身を億尾にも出さずに歩いていくだけだ。
それを赦されただけ、自分は幸せなのだと言い聞かせて。

今夜はこの女を抱く。
それが宛がわれた室井の使命であり役目だ。

そのことに意識を戻し、室井は目的のホテルへと意識を切り替えた。











2.
「・・ぁっ、あっ、あっ、ぁああ・・んっ、ゃそこ、・・はぁ・・ん・・っ、」

必要以上に媚びた卑しい声がホテルの部屋に反響する。
妙に乾いていく。
薄暗く照明を落とした部屋が妙にムーディに浮かび、女の豊満な肉体の影を揺り動かし、ゴージャスなベッドを軋ませた。
絡み合う女の蜜の匂いがシンプルな獣欲を男の下半身へとダイレクトに伝える。
眼前でゆさゆさと揺れる肉のふくらみに吸い付きながら、室井は腰を深く押し込んだ。

「・・ぃああっ、そんなぁ、・・はげしぃ・・・っ」

室井は女の内股を両手で裂けるほど押し広げると、卑猥な体位を視姦しながら、腰を振る。
生理的に身体が火照る分だけ、心は冷めた。
解離した不完全な意識を留めたくなくて、室井は無心で女の肉体を辱める。

「ぁっ、・・あんっ、ひっ、あ・・んっ」
「・・くっ、・・、・・は・・っ」
「はぁん・・っ、すてきよ、・・逞しいわ」

室井の律動に合わせ、卑猥な水音と、匂い、女の荒い息遣いが艶めかしく上がる。

刑事である以上、情事の最中にも気は抜けなかった。
集中しきれない状況にも心境にも苛立ちだけが室井に押し寄せる。
その感情すら、コントロールすることがキャリアに求められる性なのだ。

「ゃああん・・っ、すごぉ・・っ、そこ・・っ、いいわ、もっと、あぁん・・っ」

女の陶酔しきった舌足らずの歔欷が甘ったるく室内に蕩け、女は快楽に身を焼かれる躰を弓なりにしならせた。
仰け反る背中がベッドから薄く浮き、小刻みに痙攣する。
細い指先が室井の怒張した筋肉を味わうように這い回り、然程汗も掻いていない素肌を淫戯すれば
自分が雄であることを嫌でも意識させられる。
上品なマニキュアがやけに下品に見えた。
組み敷いた肉体が不自然に戦慄き、うねる内壁が室井の男根を締め付けてくるが、それにも厭わず、室井は律動を更に深くした。

「はあ・・ぁん・・っ、すきぃ・・っ、ぁ、ぁあ・・っ」

達するまで、室井は一言も喋らなかった。










3.
室井の部屋の扉にモスグリーンの丸いものが背を凭れさせている。

「・・・・」
「・・・・」

つかつかと近づく。

「俺がこの時間に帰るとは限らないだろう・・・通報されたいか」
「・・・会えたんだからいいんじゃないですか?」
「偶然を期待するほどここの人間は甘くないぞ」
「ちぇっ・・、すいませんね・・、デモ、嬉しそうな顔をするのがマナーじゃないの」

青島が背を預けていた扉から身を起こし室井に譲った。
その目を見ることをせず、室井は胸ポケットから鍵を探る。

「俺だって暇じゃないんですよぅ~だ」
「だったら何故ここにいる」
「けどあんた帰って来ねぇし・・・ちょっとカッコ悪ぃし・・・俺だって、帰ろうかと思うよ」

つべこべと、この期に及んで下手な言い訳をしようとする青島を無視し、室井は鍵を開けた。
入るんだろ?と視線を送れば、青島が上目遣いでいいの?と問うてくる。
今夜は敢えてつれない素振りでだんまりを決め込んでやれば、青島は視線を彷徨わせた後、俯いてしまった。


数時間前に鉢合わせたのだから、今夜の室井がどう行動するかは読めていた筈だった。
それを分かって待ち伏せしていたからには青島にも室井がそこそこの時間で帰宅することは読まれていたと見える。
室井が連れの女とホテルに朝まで過ごすか確かめに来た可能性だってある。
実際ホテルで義務を果たし、泊まりもせずに室井もまた、帰宅を選んだ。

来る・来ない・・などと少女染みた花占いなどではなく、来ないならば青島にとって室井はそれだけの仲だったということになる。
そして皮肉にもそれだけの仲ではないということだ。

・・・違うか。
自分が本当に怖がっているのは、青島が来てくれた事実を、来ないことにしたくなかったからだ。
例え訪問がない事実を知ることになっても、それだけの仲だと思いたくなかったし、一縷の望みを室井から断ち切りたくなかった。
室井は内心自嘲する。

「どうするんだ」
「・・・・入る」

頃合いを見計らって意地悪な質問をしてやれば、青島はようやく観念して応えた。

先に部屋へと背中から押し込み、続けて辺りの気配を伺って誰もいないことを確かめた後、室井も身体を滑り込ませる。
バタンと扉が閉ざされた。
暗闇が支配する閉鎖空間は、見慣れて馴染んだ空気の筈なのに、どこかしっくりとこない緊張感を炙り出す。
暗闇の中で背中合わせに息遣いだけが聞こえるのを、耳を塞ぎたい心境で室井は鞄を置くと電気のスイッチを探った。

「何しに来た」
「セックスしに来た」
「夜這いか」

思わずツッこめば素直にうん、と返される。

「合鍵でもありゃあんたの寝込み襲ったって良かったよ」
「こんな時間からか」

合鍵も、痕跡も残したくないと言った当人が勝手な口車を乗せて、扉に凭れかかった。

「朝っぱらから盛るつもりはないですけど。それとも散々ヌいてきたから勃たないわけ」
「だったらどうする」
「へぇ、オンナの抱き心地、ワルクなかったんだ?」

室井は電気のスイッチを探るのを中断し、そろそろ夜目にも慣れてきた視界に浮かぶ耽美なラインを持つ顎をくいっと掴んだ。
扉に背を預け、ぶかぶかのミリタリーコートの裾から覗く丸い指先をだらんと垂らしたまま青島は子猫のような瞳で室井を試してくる。

約束や信念などという健全なものばかりではない繋がりを弾みで持ってしまってから、ふたりの間にはもう一つの秘密が共有された。
何の確約も保証もない、正体不明の動物染みた情欲に支配された支配欲だ。
コントロールしきれない情動を持て余し、全身を甘い疼きに浸らせながら、他人同士の二人が縺れ合って、絡み合って、夜に溶けて混じって堕ちていく。
それだけの背徳的な感覚は、まるで麻薬のようだった。
幾夜も重ねた熱はまだ足りないと、猥らな渇望だけを残し朝を嫉んだ。

「誘い文句にしては可愛げがない。減らない口を塞いでほしけりゃそう言え」

どこからか漏れる翡翠色の灯りに浮かび上がり、瞳を瑠璃色に映り込ませる青島は、この上なく蠱惑的で淫売だ。
シャツをだらしなく開け、ネクタイを緩ませる喉元から誘う小麦色に焼けた肌が婀娜っぽく香り立ち
室井は目尻を多情に細めた。

「ふぅん?比べてんの」

今夜は来ると思っていた。
こうして触れられる未来を夢想し、室井は女を抱いた。
比べられたのは女の方だが、室井はそれは口にしない。

素直じゃない青島でも、あのような決定的なシーンを目の当たりにしたのは初めての筈だ。
尤も、割り切られたら室井の方が穏やかでいられないんだろう。
それほどまでに、不自然に、逸脱したまま、俺たちは色濃く繋がってしまった。

室井の長い指先が青島の頤を持ち上げ、親指の腹で下唇のふくらみを押せば、濡れたように紅づく口唇が薄っすらと開く。

むしろ青島はその他のことなら飄々と出来る男だった。
事件に於ける青島の瞬発性と決断力は室井も一目置いているし、時に政治判断すら及ばないと思うことすらあった。
だからといって室井との関係までシビアに踏破出来る男なら、きっと最初から抱かれていない。
青島は優しくて、人に甘い部分がある。
特に室井に関しては、ビジネスライクに徹せない部分が随所に感じ取れ、青島自身思い迷っていることを匂わせた。

それが恋などという胡散臭くも人間染みた都合の良い言い訳に落としこめるのであれば、何の不都合もなかったのだろう。

そこまで参っていてくれれば、こっちも気分がいいのだが。
そこまで惚れ込んでいるのは恐らく室井の方なのだろう。
変な独占欲だなぁと室井自身しみじみ思う。

「・・じゃ、黙らせてよ・・」

今夜は優しくなんか、出来そうもない。









4.
バスルームの壁に青島を押し付け、背後から室井が菊座を戯弄する。

「・・っ、・・ふ・・、・・ッ・・・」

突き出た丸い桃尻がシャワーに打たれ艶々ととろみを増す中、排水溝に渦となって水が流れ落ちていく。
括れたラインに沿って軽く肌を撫で上げれば媚肉は蕩けるようにうねった。

抱かれに来たというだけあって、そこは既に丁寧に解されていた。
そのままベッドに押し倒しても良かったが、今夜は虐めてしまいたい衝動が堪えきれず、室井は情欲を一切匂わさない。
「知らない女の匂いがついたままで抱かれたいか」
案の定、青島は煌めく深い瞳に怒りを熱らせ、睨み上げた。

感情を剥き出しにする直前の、言葉は使わないくせに饒舌な瞳の色が見たくて、室井はいつだって青島を限界まで執拗に責めてしまう。
嫉妬で屈服しない躰を乱暴に開く瞬間の欲得ずくの男の煩悩に慢心しながら
室井はバスルームへと青島を押し込んだ。

止まらないシャワーの音が、室井の理性も意識も中断させる。

「どろどろになってる・・・。いつからこんなにしてたんだ」
「・・っ、・・・」

敢えて指摘してやれば、青島のそこはまた不規則に濡れる。
室井の背中にも幾筋もの水が打たれ落ち、黒々とした前髪を連なりに慣らしたシャワーの音がバスルームから漏れた。
引き締まった腰から男らしい尻にかけ滝のような熱水が弾け、ふたりの身体を苛立つままに昂らせる。
青島の片手がバスルームのタイルを掻く。
肩に愛撫の口唇を這わせた後、室井はもう片方の手でその端正なラインを辿り、胸の尖りをピンっと弾いた。

「・・ッ、・・ン・・っ」

胸なんかオトコは感じないと青島が突っぱねていたのも、最初の頃だ。
青島は抱くたびに感度を上げ、濡れた声を上げて善がり、今も紅く腫れあがらせる。
全身が性感帯になったかのように熟れる甘い躰は室井がその都度、性格の如く、きめ細かく、丹念に、基礎から仕上げてきた成果だ。
普段の暴れ草のやんちゃぶりとは豹変し、青島はベッドでは淫女宛らに男を狂わせるようになった。
その誘う色香に、今夜も室井は煽られる。

「声を出せ」
「・・ん・・っ、は・・、ゃ、・・っ」

女の豊満な胸は確かに男にとっては未知の領域で、手触りを憶えれば揉みしだきたくもなるが
男の平たい胸に欲情するのも、悪くない。
さっきまでは女の服を剥ぐのも面倒だったのに、全裸にしてもまだ青島には飽き足らなかった。

乳首だけを執拗に嬲られ、感じる度に引き締まる青島の筋肉の造形が、いやらしくヒクつく美しさに、室井は視線を男染みて眇めると
腫れあがって媚びる姿態を眺めながら、今度はボディラインを辿った。
くねる曲線美の肉を舐め、引き締まった腰の括れを辿れば、そこには古い傷痕がある。
室井が一番そそられるパーツだ。

手触りの違うそれは、室井だけが青島に付けられた、唯一の刻印である。
そして、室井と青島がこういう関係になった切欠でもある。あの時から室井は、青島を独り占めしてきた。
情痕も名残も心も、合鍵さえ受け入れない青島の、目に見える唯一の確かな印だ。
情事の最中、それは仄かに色付き、なやましく浮かびあがる。

味わうように舐めるように、室井の淫奔な指先がそこを繰り返し繰り返し遊玩する。

「・・そこ・・っ、も、さわ・・んな・・っ」

他よりの皮膚が敏感なそこは、感度も高いらしく、痺れるような物狂おしさを青島に植え付けるらしい。
声を擦り切らせ、青島が腰を左右に淫乱に揺さぶり、室井の腕から逃げようとする。

「ここ、敏感だな、相変わらず」
「は・・っ、ぅん・・っ、も・・ぉ・・っ」

室井の嫌味なほどの慇懃な淫戯に、青島の下半身は小刻みに戦慄き、その媚肉は小刻みな憂いを帯びていた。
柔らかく室井の指に吸い付いてくる。

「・・ァ・・ッ、は、・・・く・・っ」
「男を欲しがってる・・。言え。誰のがいい・・?」

今夜は何故か喘ぎを殺したがる青島に、何らかの拒絶と反発を感じ、室井は菊座を遊玩していた指を引き抜き、茂みに手を這わせた。
シャワーのせいではない透明のねっとりとした蜜が滑りを良くし、室井は敢えて熱根から手を反らし、双玉を揉むように刺激する。
桃色に染まっている青島の内股が卑猥に痙攣し、青島が何度か膝から崩れていく。

「ハッ、く・・ッ、ぅ・・はぁ・・・、ああ、それ・・ッ、んんッ、・・っ」
「しっかり立て」

耳の中に舌を割り込ませ、ねっとりと室井が命じれば、青島が額を壁に付けるようにして息を殺した。
その苦悶の表情がたまらない。
わざとらしく喘いでいた先程の女の声よりも、押し殺した青島の切なげな吐息が室井の雄を淫乱に怒張させた。
こんなにも身体は正直だ。・・・自分も。

性に遊ばれることは軽蔑していた筈だった。
だが今はのめり込む心地好さすら、抗えない。

喘ぐように酸素を欲して開いた青島の口に指を押し込み、舌を摘まんで内壁を弄ぶと、青島は苦しそうに眉を寄せて上擦った。
力を入れ仰け反る喉仏が、美麗な筋を浮き立てる。
室井はそこに、歯を立てる。
壁に着いた指先は白いほど力んでいて、快楽の逃げ場を失っていることを伺わせた。
噛み締めた吐息が熱を孕ませ、青島は紅く色付き濡れた口唇で何度も啜り啼いた。

「抱いてほしいんだろう」
「・・余裕、なさすぎ、かよ・・」

再び胸の尖りを嬲りながら室井が青島の背中に幾つも華を散らす。

「ひんっ、・・くぅ・・っ、ふ、・・っ」

知り尽くした性感帯をひとつひとつ吸い上げていけば、青島は生々しく喘ぎ
その美しい背筋が反り返り、一切触れない熱根に熱いシャワーが降りかかる。

「ひ、とでなし・・っ」

口唇をぎゅっと噛んで、声が漏れないようにしているのが煽情的でたまらない。
すっかりと蕩けて自分の体重を支えるのもやっとだった青島の膝が、ついに折れるようにかくっと揺れた。

「もうギブアップか・・?まだ挿れてもいないのに?」
「・・・っ、むろぃさん・・・、やらし過ぎ・・・ッ」

睨みつけるような勝ち気な瞳が肩越しに振り返り、引き出すことに成功したことを知る。
どんなに凌辱しても屈しない純潔にゾクリとして室井が口端を歪めた。

「会って早々盛るとか、淫乱なのはどっちだ」

快楽に紅く染まった耳元に告げてやれば青島は小さく喘いで、ピクッと震えた。
膝が崩れた青島の、胸の先端に指を這わせ、クリクリと優しく捏ねるように触ると、ピクン、と跳ねて可愛らしい。

「・・ゃ・・っ、・・ゃめろ・・っ、はぁ・・っ」
「正直になればいい」
「あ、んた、に、言えるのか・・、よッ」
「君よりは」
「よく・・いう・・っ」

その柔らかい髪に、シャワーの熱い水滴がしとどに濡れ落ち、頭を振るたび光る水飛沫が散っていた。
室井は卑猥に反り立つ下半身を、青島の頬に押し付けた。
竿を持ち、青島に擦り合わせながら、おまえにこれだけ煽られたんだということを知らしめる。

素直じゃない言葉と、従順な瞳が相反して生み出す調和に、室井はグッと青島の顎を上向かせた。
意地っ張りな紅い口が荒げた息を繰り返すだけで、望む言葉は乗せてこない。
見つめ合う至近距離の宝石に恍惚となる一方、飢餓がまた加速する。

焦らしているつもりが、これではどちらが焦らされているのが分からない。

「咥えろ」

低く命じ、室井は青島の顎の両脇を指でグッと抑え、軽く開かせると、そこに自身を押し込んだ。

「んん・・っ、んぅ、ふぅ・・っ」

口腔を圧迫する圧倒的な肉に、青島が苦しそうに眉を寄せる。
ゆらりと腰を入れて、室井は更にモノを青島の喉奥へと押し込んだ。
その奥を突く様に、室井が腰を前後に揺らす。

「ん・・っ、んぅ・・っ、うん・・っ」

必死に室井の肉竿をしゃぶり、奉仕する青島の顔が苦しそうに歪み、その顔は室井に最高の満足感を与えた。
シャワーよりも熱くねっとりとした唾液が、室井の腰の奥から疼かせる。
教え込んだ通りに、青島も舌を丁寧に室井の肉竿に這わせ、快感を与えてくれた。
室井の手が、青島の髪を鷲掴みにする。

「もっと舌を使え」
「んふぅ・・っ、ふぅ・・っ」

力で抑え付ければ、青島が潤んだ瞳を薄っすらと開けた。
眦が朱に染まり、何とも言えない瞳の色に室井がゾクリとする。
見つめ合ったまま、室井は腰を振る速度を上げ、その意図を青島も敏感に察し、同じ目的に向かって息を合わせる。

「ク・・ッ」

室井が小さく呻くと、青島の口から自身を引き抜き、吐き出した欲望を青島の顔にぶちまけた。
大人しくされるがままになっていく青島の顔が精液に塗れ、髪を伝い、顎から鎖骨へ。
そのなんとも卑猥でそそる姿に、室井が息を呑む傍で、それをシャワーがしとどに流していく。

「今夜、何故来た」

顎を取り、こちらを向かせる。

「妬いたのか」
「妬かせたいの・・」

室井は既に降参した心境で、柔らかく青島の腕を掴むと、立ち上がらせ、鏡に手を付かせた。
淫乱に蕩けている青島の顔と、浅ましい自分の貌が映り込む。
焦らす速度で再び痙攣している花襞の奥に指を這わせれば、そこはひくひくと別のものを欲しがった。
菊座にぬるりと指を三本咥えさせ、くちゅくちゅと猥らな音を立てて辱めると、青島は壁に熱い躰を凭れさせ、歯を食いしばる。
慈しむように陰毛ごと双玉を揉みしだき、舌で青島を昂らせながら、強がる態度に内心溜息を落とした。
壁に縋る青島の指先が微かに震えて白ばむ。

「・・ぁ、も・・・っ、ろぃ、さん・・っ」

焦れて啼き叫ぶような青島の躰が身悶えて室井の腕を取り、室井の焦燥を煽る淫靡さで先を強請った。

「どうしてほしい」
「・・はや、く・・・っ」
「はっきり言わないと分からない」
「・・っ、・・、」

うねって仄かに熱る肌に張り付き、細いうなじを室井の眼前に晒してくる。
強請るように差し出されたそこに吸い寄せられ、室井は長い舌を這わせながら、囁いた。

「どうされたいか、言ってみろ」
「ゃ、ぁあ・・、・・ふぅっ、ありえ、ねぇ・・・っ」
「だったらちゃんと言うんだ」

クイと室井が咥え込ませていた指先をナカで曲げる。
欲しがっていることを承知で放置し、躰だけを昂らせると、青島は健気に震えた。
目の間に映る自分の淫らな顔も正視できないらしく、青島は左右に視線を彷徨わせる。
隙の無い雄の動きはキャリアの狡知な手練れでもあり、青島に抗う隙を与えない。

「・・ぁ・・っ、は・・っ」
「何がほしい」
「・・身柄を寄越せ」

フッと息だけで笑みを零し、室井は指先を大きく回した。
鏡に痙攣する青島の全裸が映る。

「・・くあ・っ、ふ・・ぅ・・っ」
「本気で奪われたくないのは君の方だろう・・・無駄口は身を滅ぼすぞ」
「分かって、ん、なら・・、聞くなよ・・・ッ」

戯弄される肉体に青島は喘ぎを隠せない。
涙目となって青島が室井を振り仰ぐ。

「そうやって・・・意地を張るほど男を煽っていること、まだ分からないか」
「俺、の、ほうが・・、よっぽど・・・・・こいぃもん・・・」
「で?おまえが嫉妬に狂うか?」
「性質悪ぃ・・」
「今まで散々知らないふりをしてやっただろうが」

そうだ。お互いにだ。
決定的なものを誤魔化して都合の良い関係だけに逃げているのは、きっとお互い様で
このままじゃ駄目だと分かっているのも、きっと同じだった。
青島のためならこの身を捧げたって厭わないほどの兇悪な執着心が、壊してしまえと脳髄で囁く。

それでも、もし青島が本気で望んでくれたら、俺はどうするんだろう。

熱いシャワーに打たれている筈の室井の肌にmぞわりとした悪寒に近い昂奮と痺れが室井の下肢へと走った。一気に鳥肌が立つ。
途端、その余りの甘蜜と扇動に尻込みしたのは室井の方だった。

観念したかのような青島の甘い口唇が、濡れて、震えて、薄く開く。

「・・慎次、さん・・・」
「ッ」
「あんた、の・・・、ンンッ」

室井は慌てて片手で青島の口許を覆った。

「・・・いい、おまえは何も言わなくていい。・・・悪かった。少し、苛めすぎたな」
「ん、・・んん・・っ」
「おまえがそんなことを口にすることはない」

猥らな要求も、卑陋な言葉も、醜陋な未来も。
俺が、独りでその責を負う。
そのくらいの甲斐性を持たせてほしかった。

背負うのは、自分だけで充分だ。
いや、青島にこれ以上の罪を背負わせるのが嫌なのだ。
他に何も与えてやれない。奪うばかりで傷つけるばかりで。いつも応えてすらやれなくて。

だからその代わり、綺麗なままで、ずっと俺の傍でずっと俺を導いていてほしい。
未来永劫、この限りない幻想を。どうか。

青島の見えない角度で室井は目を瞑り、眉間を寄せる。
それから青島の口許を片手で塞いだまま、室井は突き出た桃尻に再び痛いほど反り返っていた自身を宛がう。
そのまま了解も得ず室井は欲望を一気に埋め込んだ。
同時に、青島の口許だけを少し解放する。

「ぃ・・あぁあッ!」

ようやく聴けた甘い喘ぎに室井はそのまま腰をゆるりと回す。
ねちょりと絡みつく蜜液に、室井の怒張した淫棒ははしたなく悦んだ。

「今日は、すごく・・熱い」

散々焦らし、待たせたせいか、そこはじっとりと熟れて室井を咥え込み、ヒクヒクと不規則に痙攣する。
敏感な入り口は赤々と充血し、媚びるままに室井を誘い込んでいるのが見える。
ようやく欲しがるものを挿れられたそこは、歓喜に咽ぶように室井に吸い付き、先を強請っていた。
灼けるように熱く、一気に持っていかれそうだ。

室井は眉間を深く寄せて力を込め、垂れた前髪の奥から眼光を光らせると、腰を卑猥に揺らめかせてみる。
その甘い刺激に青島が鏡に両手を突き、必死に受け入れてくれる。

たまらず室井は耳朶を柔らかく咬んで、キモチイイかと囁いた。

こくこくと、言葉も出せずただ頷き返す青島を、室井を背後から手を重ねた。
愛欲に逃げた室井はその労いの意味も込め、耳元に猥らに舌を差し込みながら、姦淫する花襞を捲るように腰を回していく。

「・・は・・っ、ァッ、ん・・、くふ・・・ッ」

ゆるゆると滑りを確認するかのように室井が腰を振れば、合わせて青島も細腰を揺すりたてて行く。
涙目のくせに、艶やかな輝きを持って、青島が室井を肩越しに振り返る。
室井が被せていた手を青島は握り直し、そこにちゅっとキスを落とした。

「・・っ、ろぃ、さん・・っ、の、アツイ・・ナカ、もっと、あんたの・・・ペニス、挿れて・・・ください・・・」
「ッ」
「い・・、ぃちばん、おく、まで・・・あんたで、犯して・・・・・」

青島が真っ赤に充血した菊座を突き出し、潤んだ瞳でたどたどしく訴える。

室井にだけ背負わせるつもりはないと健気にも必死にも訴えるその瞳に、降参する。
生末を憂慮する室井をいつも乗り越え、こうして青島は哀歓を共にしたいと純粋な目を向ける。
虚勢を張っているのは、室井の方だと敗北感と寂寞感を植え付けるのだ。

「・・ァ・・ッ、ぁあ・・っ、んあぁッ、」

無言で室井は腰を打ち付けた。
望み通り、最奥まで貫き、媚肉を玩弄する。
ねちゃりという音が水音に混じり、肌を打つ音がシャワーに混じった。
逃げ場のない責め立てに、青島が鏡に頬と胸を押し当て喚く。

「くぁ・・っ、あ゛ッ、アッ、ぁあ゛っ」

律動に合わせ、青島の濡れた髪が揺れた。
上手に腰を合わせる動きは卑猥で、生殖行為にすらならない肉の交接をただひたすら追っていく。
この瞬間だけが、室井の理性も矜持も、下らないものはみな沈黙させてくれる。
こうして顔を合わせてしまえば、言葉少なに躰を貪り重ねてしまう内に、分かった気になるのは何故だろう。
もっと節度のある関係にも出来たのに、室井が弄ぶようにして仕掛けたも同然だった。
後ろめたいのと、彼を手に入れた歓びが綯交ぜになる。

続けたその先にある取り返しがつかないほど傷つく未来を、俺は望んでいるのだろうか。

「・・んっ、クッ、ぁ、・・むろ・・さ・・、」
「ん?」
「・・んっ・・・」

振り返り、後頭部に手を回され、キスをされる。
また、こんなかわいいことをして。

啄んでやれば、青島は片手で室井に抱き付こうと背を寄せてきた。
泣きたいような崩れそうな渦は室井の胸をさざ波立たせ、室井は奥歯を噛み殺し、腰を回す。
そのまま、グラインドする腰に仰け反りそうになる躰を、荒々しく引き寄せた。

「・・ッ、ハ、・・ゥ・・ッ、・・ッ」
「は・・っ、あっ!ンあ゛ッ!・・ァ・・ッ!・・ンあぁ・・っ!」

荒い息遣いがシャワールームに反響し、室井の耳から脳髄まで滴らせて冒してくる。
迷いなく、青島がいつも強い反応を返す啼き処を責め立て続けると、丸い臀部がぶるぶると震えているのが目に入る。
もう限界が近いことが見て取れた。

「お、願い・・・ちょ、待って・・っ、待っ!やっ、・・・んあっ!」
「青島、鳴いてくれ」
「・・で、きるか・・ッ」
「その顔もだめだ、可愛すぎる」
「そ、そんなこと言われても・・っ、」

兇悪な熱を持つ激しい動きに崩れた躰を浴室の鏡に押し付け、室井は獣欲のままに腰を叩きつけた。

「・・っ、・・、っっ、~~ッ!」

声も出せずに青島が咽ぶ息を断続的に上げ、そのまま深く串刺しにすれば、あっけなく青島は白濁液を鏡に撒き散らす。

「ぁあっ!・・あ・・・ぁあ・・・、はぁ・・・ッ、・・ぁ、あ、まだ、だめ・・・っ」
「鳴けばいい」

弓なりに反った躰が弛緩し、ずるずると膝を崩す青島の尻だけを持ち上げ、室井は間を置かず挿送を深くする。
青島の丸い桃尻が室井に突き出され、酷く淫乱な姿で青島が室井の怒張した淫棒を咥え込む。
達っている最中に激しく挿送されるのは辛いだろう。それを分かっていて室井は執拗に熟れきっている肉を責めた。
こんな時ぐらいしか、いや、こんな形でしか、この野放図で風のような男の全てを凌駕することなんて出来やしないのだ。

「は・・っ、あっ、ァッ、・・ぁあ、」

丸い桃尻を室井に突き出す様にして、それでも室井の戯弄に堪える青島が、浅い息を吐いて室井の動きに合わせてくる。
その上にシャワーがしとどに降りかかる。
水を弾く若い肌はそれだけで滴り、爛熟を告げていた。

室井は飢餓を押し殺すままに、その肌理の細かい水を弾く肌の弾力を、その甘い肉体の味を、指で舌で愉しんだ。
二つの羽のような肩甲骨、すらりと窪む艶麗な背筋も、垢抜けた長い脚、きゅっと引き締まった丸い桃尻。
焦らすだけ焦らした従順な躰はこんなにも室井のものだ。
この淫靡な身体に仕立て上げたのは、室井だ。

「ふあッ!ア、あぁっ、ああッ!むろ・・っ、ひぁッ、ぁ、ダメ・・ッッ!」

突かれる度にびりびりと痺れたように、きゅうと無意識に青島は室井を締め付けた。
欲しがられていると、傲慢な錯覚を生む。
青島の指先が痛いほど壁を鷲掴み、必死に断続的に埋め込まれる愉悦に耐え忍ぶ。
甘く濡れそぼった喚き声に恍惚となって、室井の身体中が快感に侵され、こっちの気が狂いそうになる。
こんな快感知らなかった。青島に会うまでは。

「も、ぃい・・ッ、待っ、かんべん・・ッッ」
「もういい、じゃない、もっと、だろう・・ッ?」
「ぁあッ!ぁ、あ・・・ハッ、んぁ・・っ、あ゛・・ッ」
「今どんな顔してるか分かってるか?」
「・・ッあぁ・・!あ゛ッ、ぁっ、あ!きもちィッ・・、も・・ッ、だめッ、・・んぅン!」

再び青島の媚肉が痙攣したように収縮したところを狙って、室井は欲望を吐き出した。
欲望のままに押し込んでいたそこからは泡立った白濁液がドクドクと溢れ出し、シャワーの流れに任せて排水溝へと消えていく。

自分の赤黒く怒張した太いものが、質量を誇り艶めかしい粘液で光りながら青島の恥部に埋め込まれていた。
引き締まった括れを作る曲線美と、その横に紋章のように浮かぶ桜色の傷痕。
その痴態にめまいがするほどの衝動を感じ、室井はゴクリと生唾を飲み込み、また、腰が疼く。
まだ息も整わず沈み込んだ青島の体内に自身を埋めたまま、室井は再び腰を回した。

「ンッ・・、・・ァッ、はぁ、まだ・・・ヤんの・・・」
「っ、はぁ・・、おまえが誘った。・・おまえのナカ、最高だ・・・」
「・・ぁあっ、・・・くっそ・・ッ」

仰け反る嬌態は美しく、しなる。

「どんだけ溜まってんだよ・・っ」

言いながらも青島もまた腰を突き出し、四つん這いになって深く室井を受け入れようとしてくる。
いじらしく卑猥な動作に室井は目尻を染めあげ、両手でそれを支えた。

――シャワーは出しっぱなしだ。

肌を打つ音、爛れた水音、光る水飛沫。
余計な外界を阻害し、狭く蒸した室内は二人だけの排他的な時間と空間を作り出してくる。

「君が可愛いことをしたからだ」

女連れの現場を目撃されたのは初めてだが、その夜にこうしてあからさまに青島が抱かれに来た事実も初めてだった。
妙な対抗心なのか、それとも恐怖心だったのか。

たった一度、果てて置いてきた女の扱いは、最低だった。
室井は興味ないことには、とことん無関心となる。
罪悪感は薄っぺらい愛の調べにすり替わる。

「俺は最低な男だ・・」
「・・ぁ、あんたが、オンナをどう抱いたか、なんて、興味ないっての・・・」

一体なんだってこんなにコイツには余裕がなくなるのだろう。

「来い」

室井は一度、交わりを解くと、青島を湯船へと連れ込んだ。
向き合わせて浸かり、浮力にぷりっと浮かぶ尻を両手で掴む。
グッと竿を押し込めば、青島は室井の肩に手を付き、綺麗に仰け反った。

「ああ・・・っ」

甘い蕩けた声は愉悦に染まり、腫れた乳首が突き出される。

熱り、シャワーに打たれ熟したように高揚したその妖艶な姿は、この上なく幼く、一方で純潔に見えた。
尤も泥臭い交わりの奥に沈む無垢な本音が、熱に浮かされる瞳に影がかる。
日常は陽気で清潔な印象の強い青島だが、こうして室井の手によって染められる時、男を惑わせ狂わせるほどの艶美さを放つと、室井は思う。

女のそれにただ生物的な欲望を覚えたそれとは違う、もっと青島を善がらせ、泣かせたい雄の支配欲が溢れ
室井は青島の腰を掴むと、揺さぶりながら、乳首を舌で嬲った。
ぴちゃぴちゃと仰け反りながら、青島が天井に熱い吐息に喘ぐ。

二人に息だけが耳に残って、合わさって、同じリズムで肉を味わう。

「・・ねぇ・・どこまでが、ほんと・・・?」

比べられていることが、伝わったのだろうか。
マナー違反を責めない男に、室井はキスを贈った。

先程までの狂気に染まった情事とは異なり、緩やかな動きで室井は腰を左右にグラインドさせ、青島の息が整うのを待った。
後頭部をしっかり固定し青島の口腔内を犯す。
とろりとした唾液が滴り、滑らかな柔肉が舌に心地良く絡まった。
室井は舌の裏まで丁寧に舐めあげる。

慈しむ柔らかなキスに、ほぅ・・・と上がる甘く蕩ける吐息がくらりと室井に酩酊感を齎し、焦点の結びきれない彷徨う視線を強引に捕らえた。
湯気に濡れる青島の瞳に、同じ熱と飢餓を認め合う。

「おまえに吐く嘘は、生涯ひとつだけと決めている」
「なんだ?それ・・・」
「・・分からなくていい・・」

呆れたのか、興味が失せたのか、青島がふいっとそっぽを向いて顔を反らしてしまった。
くちゅ、と卑猥な音がして、室井の太く怒張した淫棒が何度も青島を貫いていく。
胸元を弄りながら、室井はそのうなじに舌を這わし、擦り過ぎて紅く腫れあがる媚肉の猥らさを自身で感じ取る。

「・・はっ、ぁ・・んっ、・・ァ・・ッ・・・」

時折、啼き処を掠めるように突き上げてやると、敏感になっている青島の躰はびくりと反応を返し悦んだ。

「・・む・・ぃ、さん・・っ」
「イイ、か・・・?・・・ココ、感じるか・・・?」

こくこくと、既に理性を手放しかけている青島が息も告げず頷いてくれる。

「・・っ、ぁあ・・・、は、・・もっと・・・、つ、よく・・いいよ・・・」
「ああ・・・」

室井は筋肉質の腕を回して青島を抱き寄せ、耳に頬にうなじに、そしてこめかみに気怠い口付けを降らせた。

「ねぇ・・、おれが・・・ほしぃ・・・?」

室井の瞼が一度、硬く閉ざされ、青島の濡れた後ろ髪を指に絡めた。

「好き、か・・?」
「ん・・・、だいっ・・・きらい・・、かな」

蕩けきるには足りなさすぎる余裕を奪うため、室井は容赦なく腰を突き立て、胸元を舌で嬲る。
連れてってとも切り捨ててとも言えない優しく残酷な男の情愛を、今だけは無慈悲に切り捨てたい。

「休暇でも、とるか」
「どこ、行く・・・」
「どこへでも。・・・おまえの望むところへ」
「・・・自由だ・・・」

ふと、思いついたように室井が熱心に吸い付いていた青島の乳首から顔を上げる。
室井は近くにあったボディタオルで青島の両手首を縛り上げ、自由を奪った。

「ゃ、なに、す・・っ」
「痛くはしない」
「・・ァ、悪趣味ィ・・ッ」

再び、律動を開始すれば、青島は拘束された手首を室井の首に回し、室井の耳を咬んだ。
可愛い逆襲に、舌を甘噛みして返す。
束縛し抗うことも赦さず、執拗に何度も胸の突起を揉み込まれ、どうしようもなく息が上がり悶える青島の躰は
激しすぎる律動に無意識に逃げようと腰を振る。
それを歴然とした力で押さえ込み、室井は激しさを持たない律動で、だが容赦ない愛撫を施した。

「それとも、痛いのがいいのなら、期待に応えてやるが?」
「ば・・っ、・・ぁっ・・ぁあっ」

仰け反る背中に指を這わせ、躰の奥の奥まで、まるで愛咬の痕を残す様に、室井の感触を奥底に憶えさせていく。

約束という健全で崇高な繋がりの他に、秘密を共有していることを決して忘れさせない。
欲しがるより先に与えて堕として、穢して憎しみさえ刻み、誰よりも大切で唯一の片割れを、染めていく。

「もっとって、・・・言ってみろ」
「室・・ッ、さ・・っ」

何を、なのか。
主語を抜いた言葉は実に浅はかで無責任だ。

「んっ、もっ・・と・・っ」
「いい子だ」
「は・・っ、あっ、もっと・・っ」

指先が絡まり、ここだけは離れまいと強く掴んで。

「ねぇ・・ぃ、い、・・つまで、一緒に・・・ッ」
「・・ッ」

濃密に交わる官能が言わせたのか、或いは雰囲気に酔った脳味噌が勘違いをしたのか
透明な瞳に映り込む光を見て、室井は我知らず息を詰めた。

「朝まで、だろ?」
「朝・・・きたら・・・?」
「・・・仕事だ」

ふたりぼっちだ。

止められない運命に、虚しさだけが募る。

何故今夜青島が抱かれにきたのかだとか、何故今夜だったのかだとか。
今は遠く霞む。
でも、焦点のぼやけた深い栗色の瞳にはきっと、すべてを見透かされている。

「・・ぃ、いつ、までも・・・みていたか・・・った、けど」
「・・俺を、繋ぎとめてみるか?」

強すぎる刺激に目尻から溢れた水滴を、殊の外優しく室井は舌で舐めとった。

愚かな行為に溺れ、そこに答えと安住を求める弱さを隠し、有り触れた睦言に酔い痴れて
促されるままに躰を開いてくれた青島に抱かれながら、喪失の予感も糾弾も今は都合良く忘れていく。

「その覚悟もないくせに・・・」
「そうだな・・」

ほんの少しの後ろめたさと痛恨の念を胸に、空言を言い合った。
いずれ、自分は結婚する。
だけどどうか、その審判が訪れるのが、もう少しだけ、先になればいい。

「――でもね」
「ん?」
「うれしいです、・・・・・・・それでも、おれ、嬉しい・・っ」
「ッ」

間を置かず、加減のない動きで室井は青島の躰を強かに壁に縫い付けた。
諫めたままの手首を壁に拘束し、衝撃に呻いた口唇を凶暴な激しさで塞ぐ。
優しさも余裕も欠片も失った口付けに青島が軋んで鈍い悲鳴を上げた。

浮力を借りて思うままに突き上げれば、ふくよかな口唇が紅色に染まり、戦慄いた。
噛み締める口を口付けで解き、戦慄く躰を蹂躙する。

「はぁ・・っ、ぁ・・っ、あっ、ぁあ゛ッ」

勃然と湧き上がってきた欲望は驚くほど野蛮で、切ないほどの情の籠もった腕で室井は青島を強く引き付けた。
深く強く擦り上げ、熱を持って爛れた内壁が男を媚びてうねるから、また煽られる。
胸元を舌で弄られ、されるがままに苦痛の伴った息が上がり、青島が顎を突き上げて悲鳴を上げた。

「・・ッ、・・ァア゛・・ッ・・・!」

始まりは子供の喧嘩だった。
何度も衝突して、馬鹿みたいに感情剥き出しで渇望している奥底をこれでもかと引き出されて。
純粋に理想の上司と部下を模索していた筈だった。
でもそれはいつしか、もっと奥深い部分まで侵食するに及んだ。

重ねた身体の火照る熱が同じだと実を結んだとき、どこか奇妙に歪んだ執着も芽吹いていた。

そのことに気付いた時にはもう何もかもが手遅れで。
戸惑いも不安も自制さえも凌駕する勢いで、彼を欲しがっている自分に歯止めが利かない。

「ぁっ、あっ、ああ・・っ、」
「・・青島・・ッ」
「室・・・さ・・ッ、」

青島の潤んで霞む目に映る自分は今、どんな猛獣の貌をしているのだろう。

「・・んはっ・・んあっ・・んあっ!」
「クッ・・ウッ・・、ッ・・ハッ・・ハッ」
「ぃ、あッ・・ぁあっ、も、ァッ、あ゛ッ」
「・・・もっと脚、広げろッ・・・・もっと見せるんだ・・ッ」

情欲の嵐に翻弄される。

「あっ、あ、・・ぃやッ、ぁあ、・・すげ・・っ、ろぃさ・・、・・すっげ・・ッ」

顔を横に倒した青島の睫毛にまでかかるくしゃくしゃに濡れた髪がその視界を覆い
無自覚のまま零れ落ちた吐息が快楽を深さを自白する。

「い、・・っしょ、に、おねが・・っ」
「!」

心奪われる人間が、自分の下で、自分の股間によって、激しく喘ぐ。善がって、乱れる。
誰にも見せたことのない貌で。
ひとときだけの、極上の快楽だ。

シャワーと湯気に紛れ、室井の視界まで白く混濁する。
彼と共になら、何でも出来る気がした。
無敵になって、さぞ幸せで充実した、実りを成し遂げる危険な夢を見た。
崩落の香りのする、爛れた誘惑だった。

「ぁあ・・、ぁ、ぁあっ、」
「欲しい、か・・?」
「・・ァ・・ッ、ほし・・っ、もっと・・・、・・・ぜんぶ・・・っ、」

こんな自分を途切れなく慕ってくれる愛しさと、どこまでも許容する慈悲深さえ、濃密に交わる官能が凌駕する。

「いいんだな・・ッ」
「・・・もっと・・・ッ、・・ぜんぶ、」
「ああ」
「善すぎて・・ッ、・・ぁッ、・・おく・・っ、たんない・・・っ」

室井の女のことも、儘ならぬ立場であることも。
支える力を失った躰を腰で支え、肉は猥らに轟き、室井の醜悪な本音を剥き出しにする。
その肉に直接室井を刻み付け、奥深くに印を遺す。

「ああ・・俺もだ」

そうだ。足りない。
圧倒的な飢餓感が、飢えるままに貪り尽くせと原始的な命令をしてくる。
君に捨てられたら、俺は一人で生きていけない。

「アッ、はげしッ、・・だめ、でちゃう、あっ、あぁっ、やぁっ、でちゃうぅっ・・!」
「出せ・・ッ!」
全部。何もかも。爛れた肉も。心の内までも。

爛熟した身体が、熱い。
同じリズムを刻む腰が肉と体温を交錯し、距離感を喪失させていた。

「ゃあ、あ゛、・・室ッ、・・・さん・・ッ」

仰け反り、過ぎるほどの責め苦に堪えながら青島が、差し出すままに無防備に内股を開く。
仄かに桃色に染まり、濡れそぼる肌はヒクヒクと小刻みに戦慄き、縛り上げられた手首が布で擦れ、少し赤らんでいた。
強すぎる刺激に限界を訴えているが、卑猥な態勢に純潔なものが堕ちる瞬間の妖艶さと婀娜を見て、室井はゴクリと喉を鳴らす。

交じり合い重なっていく体温が、こんなにも愛おしく思えるなんて。

「・・くぅ・・ッ、ふ、」
「あ゛ッ、ぁああっ、、・・おれをッ、・・めちゃめちゃに、・・こわして・・ッもぉッ」
「ああッ」
「こ・・んな、おれっ・・いらない・・っ、ぜんぶ、いらないから・・・っ」
「・・ああッ」

もう、なんにもいらない。
室井の額から汗なのか水滴なのか、水滴が幾筋も垂れ下がり、その熱る躰を濡らした。
躰の裡から砕け落ちるように感じさせられている。
青島が何に脅え、何を求め、何に泣いているのか、痛すぎるほど、知っていた。

言わせた言葉と、のぼせるような陶然とする肉の反応に、これほどまでに自分は青島に飢えているのかと、いっそ滑稽にすら思え
追い詰められるままに室井は理性を捨て、また腰を入れた。
仰け反り、激しく上下する胸元に主張するふたつの尖りも、紅く腫れてピンと立つ。

「ァッ、やだっ、っ・・いっしょ、がいぃ・・っ、いっしょに、してッ、こんど、は一緒・・っ」
「っく、くっそ、煽んな・・!」

掠れた声でそれでも強請る青島の腰を両手で掴んで深く引き寄せ、穿つ動きを幾分強めた。
両手を束縛されたまま、青島のほっそりとした背中が何度も弓なりに反りかえる。

「あっ、あ゛ぁっ、んっ、だめ、またイく、イっちゃうっ・・、から・・っ!・・ろぃ、さん・・っっ」
「ああッ、大丈夫だッ、今度は俺も達くッ」

一緒、だから。

吐息だけでそう室井が囁くと、青島の脚がピンと伸び、桃尻が持ち上がり、ガクガクと躰が震える。
艶美でいやらしい躰に室井の淫棒が腫れあがり、極上の絶頂を内から迫り上げ、痛撃した。

「あ、ぁあ゛、あ゛ッ、・・ッッ!!」
「っく、はぁっ・・・!」

青島の望み通り、ほぼ同時にふたりで極め、荒い息が重なった。










4.
そのまま意識を飛ばした青島をバスルームから寝室へと運ぶと、室井はその美しい裸体をベッドに横たえ
自分はシャツだけを羽織った。
室井より少し背の高い青島は手足の曲線美が際立ち、筋肉質の室井と違って甘ったるい造形美を持つ。
電気を落とした深い夜に、白い媚態が紺碧に縁どられる。

そのベッド脇に室井は静かに腰掛けた。

秋の夜は急速に冷え込む。
つい数時間前まであった温もりと安堵を奪い去られ、心細さと寂しさと、少しばかりの怒りを込めて室井はその手を引き寄せた。
こうして眠りについた青島は、ひどく純潔で清潔だ。室井の初めて意識した第一印象そのままだ。

羞恥も矜持も脱ぎ捨てたような爛れた情事に溺れさせても、青島は綺麗なままだった。
だからこそ憧れ、心が求めてやまないのだろう。
誰もが憧れ欲しがり、奪う。
こんなにも美しく貴重で高貴なものを自らの手に染められる奇跡と尊さに、室井は言葉もなくし膝をつく。

“いつまで一緒に――”

青島の小さな願いが秋の終わりの哀愁の中へと溶けた。
冷え込む大気が心の隙間にも荒びこむ。

「そばに・・・・いてくれて、ありがとな・・・」

厳粛な面持ちで室井はその手首に紅く残る擦傷痕に祈りのキスを捧げた。
意識がないまま青島の指先がきゅっと小さく握り返してくる。
指先を力なく絡ませるその仕草に、室井の目頭が熱くなった。

これを俺のものだと言い切れる世界であったなら。
これを独占して良い人生であったなら。


適者生存を心に刻み、室井はその手をそっと握り返した。






happy end?

index

浴室立ちバック。このあと青島くんは室井さんの婚約者にバレて「この泥棒猫!」って叩かれるとか、妄想。
でも青島くんは言い訳しないのね。女の子が大事だから。で、ようやく身を引く決心が出来て、それで追い込まれた室井さんがけじめをつけて、ハピエンってと こか。
そんな不倫話。
20171130