10.
愛の真似事

1.Side-A
心許なくなって手を伸ばすと、その手を掴まれ指先を口に含まれた。
室井のしっとりと濡れた肩に手を置き、“室井さん”の愛を受け止める。
「はぁ・・・っ、あっ、っ、んっん・・・・っ」
「ウッ、く・・っ、はっ、はぁ・・・っ」
薄暗い部屋に淫らに響く二つの声。動く度にテーブルが立てるギシギシした軋み音。
お互いの衣類の擦れ合う音が耳をくすぐり、視界に入る退廃的な空気にまた青島の躰が熱を持つ。
室井の官舎にこうして連れ込まれるようになってから、もうどのくらい経つだろう。
誰かに見られたらどうすんだと口唇を尖らせても、室井はにこりともせず、ホテルの方が足が付くと、一言だけ、言い放った。
「ァッ、・・ふ・・っ」
烈しい律動に、微かに瞼を上げる。
室井の肩に引っ掛けられた自分の右足が、室井の動きに合わせ上下し
腕に抱えられているもう片方の足首には、脱がされたままのスラックスがトランクスごと揺れていた。
しなる高貴な背中の背後には黒で統一された食器棚。
その向こうにパソコンルームと事件書籍。
キッチンの木目調のテーブルに座らされ、ただひとつだけ点けられたシンクの上の白色灯の下で、露わに晒される。
スーツもろくに脱ぎもしない格好で、二人して盛っている。
向かい合いながら腰を振っていると、ぐちゅぐちゅと湿った音が結合部から聞こえて青島の耳を犯した。
クッと室井が圧し掛かるように腰を深く入れるのに合わせ、持ち上げられた青島の足が痙攣する。
「・・っく、・・くそっ、」
快楽を勝手に翻弄されるのはどうしたって心が追い付かないところがある。
なんとかイーブンに分かち合いたいと、青島も必死で腰を振るが、その姿が健気な奉仕に見えたのか、室井は舐めるような目を眇めた。
「・・・あんま・・っ、見ンな・・ッ」
それには応えてもらえず、腰骨を掴まれて、ぐいと抱えられると、室井は腰を浮かせて下から突き上げてきた。
善いポイントだってバレバレだ。
鋭く走る快感に、青島の内股が猥らに広げられる。
だけど堪えて、俺は室井さんを強気に睨みつける。
一方的なんて、割に合わない。
代償って意味でも。
そう、ここにある“愛”なんて。
「がっつきすぎなんだよ・・ッ・・」
汗で滑る片手で室井の後頭部を引き寄せ、乱暴に口を塞いで、舌先で誘いをかければ、室井に強引に呑み込まれた。
肉ごと圧迫するような、腫れあがる口付けに視界が滲んでくる。
狂おしく敏感な部分を擦る動きに、蕩けさせれて、緩く首を振るが、解放はされない。
室井の神経質そうな手が青島の乳首を両方弄り、時折捏ねるように潰されて、青島は仰け反った。
「・・ア・・ッ」
口付けがようやく解かれ、また電気が走るように身体中が痺れていく。
くそ、声を上げさせられるのは、それこそ悔しい。
汗で張り付いた前髪から、また滴が落ちた。
潤んだ視界に、精悍な顔つきで自分を貪る男の快楽に歪んだ顔が見える。
指の腹で弄られていた胸の突起はいつの間にか室井に咥えられていて、音を立てて吸い上げられた。
その気持ちよさに、下半身の熱が昂っていく。
「―――・・・ふぁ、はっ、もっ・・・アッ、あぁ、・・あ・・ッ・・」
「まだだ」
「・・・ゃ、ァッ、ああっ・・、」
大きくグラインドされて、後ろ手に付いていた掌が汗で滑った。
強すぎる快楽から逃れたくても、昂った躰は室井に囚われる。
ガクリと崩れる躰を引き寄せられ、室井が荒い息遣いを耳元に落とし、腰を振る。
片足を裂くほど開かされ、ぐずぐずに蕩けていく躰は、最早浅ましい欲望を隠しもせず、抗う術さえ忘れていた。
あとは巨大な肉根の存在に喘ぐだけ。
善いか、という問いにきちんと答えるまで、その責めは一切緩められることはなかった。
2.Side-M
「普通さ、えらくなったらさ、下のことなんか考えないでしょ」
室井さんのそこがいいんだ。
ついでのように吐き出した青島の呟きは、紫煙と共に天井へと消えた。
どうしてこいつは無自覚に、でもちゃんとそういうことを言えるんだろう。
セックスの後の淫らさを少しも見せない顔で、そんなことを言う。
室井と違って、素直で、真っすぐだ。
顔を向け、室井がじっと青島を見つめ返せば、青島もそっぽを向いていた視線を一度だけ、向けた。
少しうねった前髪は、先程までの烈しい情事を告げている。
己の浅ましさを見せつけられ、全然余裕のない自分を恥じて室井は視線を反らした。
「ん」
青島が室井に吸いかけの煙草を向けていた。
キッチンテーブルの端に紅く華を散らした身体にシャツだけが肩にかかる。
少し考えてから、室井はそれを受け取り、外国製煙草の味に伏目となる。
煙草は出世の妨げになると言われて止めた。
今も一切吸わない。
こうして、青島との情事の後にだけ青島の名残を惜しむように、一口だけ、味わわせてもらう。
ふぅと上に向けて吐き出し、テーブルの反対側に室井も行儀悪く寄りかかった。
尤も、先程まではこのテーブルでもっといやらしいことをしていた。
背中合わせで感じる息遣いは、既に既知ものとなっていて、室井の身体の一部のように馴染み込む。
それはまるで夕暮れの曖昧な景色と同じで、善悪も罪も正義も、境界線を失わせ、室井を惑わせた。
悔しさからなのか、反発か、やけに乾いた喉を無理矢理動かし、室井は囁いた。
「戦場で、夢でも見たのか」
「そっちこそ。そんなんだから誰も下に付いてこないんだろ」
「それでも信頼してくれる人間も出てくる」
ふっと青島が笑みだけを滲ませたのが伝わる。
それだけなのに、仄かな照明の中、色付き撓う微苦笑の囁きは、やけに色っぽく男くささを芳せ、室井の心臓を鷲掴みした。
「信頼ねぇ?東大派閥の集団的自衛権行使に理想を見い出したって」
なんなんだ。傍に居てくれとでも言わせたいのか。君がいる、とでも言えばいいのか?
そんなこと室井の立場では口が裂けたって言えない、国家的裏切りだ。
苦笑を浮かべたまま否定の言葉を残すその紅い口唇が憎くて、室井は瞼を伏せた。
拳を強く握り、込み上げるドロドロとした何かを抑え込む。
それは例えていうなら苛立ちだ。
煙草を揉み消すことで気分を変えたが、理知な瞼に青島の瞳が一瞬痛みを乗せたことは、視線を塞いだ室井は気付かなかった。
「兵隊がいなきゃなぁんも出来ないって認めているのとおんなじですよ」
「孤軍奮闘だというならお門違いだったな」
「あれ、違いました?そりゃ意外」
「チームワークが成立してなきゃ、組織は崩壊する」
「チームワークって」
「君が、望むならな」
これが自己保身だとしても、室井は青島を壊したくない。穢したくない。
そうすることで護られるものもあることを、大人になれば知っていくだろう。
「ずるいですよ・・・室井さんが真面目な分、ずるいです」
何がどう狡いのかは分からなかったが、その口調があまりに心細そうで、思わず室井は背後の青島を見た。
青島は俯いていて、テーブルからだらんと投げ出した長い足先で散らかしたスーツを蹴飛ばしている。
「あんたの言葉は、そこに嘘はないんだ。最後にそうやって黙り込む。だからこっちは何も言えなくなる。・・やっぱり、ずるいや」
「どう言えば、満足だ」
「嘘だって誤魔化しだって、使えんだろ。けど、俺には・・肝心な時には使わないんですもん」
換気扇の回る音だけが聞こえていた。
灰色の錆びた世界で、室井が吸い付きすぎた口唇はあれほど紅く腫れあがっていたのに、今は冷淡で孤独とも言える色で閉ざされる。
脆いガラスのような儚さを残し、先にそんな顔をするのは青島こそ狡いと思った。
「おまえに俺の気持ちがわかってたまるか」
それは同時に、始まりの夜の青島の言葉と顔を室井の脳裏に蘇らせ、息を詰まらせる。
「あんた、俺に構って欲しい時だけ呼ぶじゃんか」
そりゃそうだ。青島には見透かされるからだ。仕事であった粗など、簡単に糾弾される。
憤慨のまま室井は振り返った。
その衣擦れの動きに、青島もハッとして顔を上げる。
それ以上特にリアクションをしなかったことで、青島は慌てたように髪をぐしゃぐしゃと混ぜた。
「ごめ・・、今の失言だったわ。忘れて」
リビングの方へ立ち上がり、ここから去っていく青島を少しだけ目で追った。
半歩遅れて室井も立ち上がった。
大股で近づき、その腕を引く。
驚く青島の内股に片足を絡ませ、大外刈りをかけると、ソファに押し倒した。
青島の肩にかけたままだったシャツがはらりとカーテンコールのように舞う。
「・・っ、そんな元気がよく、あンな・・」
可愛くない言葉は今更のことで、室井は構わずに青島の首筋に舌を這わせた。
小さく呻いた青島の敏感な躰が、ぴくんと跳ね、歯を食いしばったまま、それでも魔性にうなじを晒す。
瞼を伏せ、肉の弾力を味わうが如く押し当て舐めて下ると、青島が眉尻を下げて、拒んだ。
いつもの鋭い光を弱め、こちらに向かってそっと柔らかく歪められる。
本日はっきりと目が合った気がする青島に、見つめ返してくる密やかな眼差しはやはり無垢で、心地好く男の支配欲を刺激する。
「・・・・」
黙ったまま、室井は指を下肢に這わせた。
先程まで室井自身を咥えていたそこは、濡らしてもいないのに中指を飲み込もうと健気に収縮する。
さほど強い拘束ではない。
逃げれるだろうに、青島は室井に犯される躰を晒し、目尻を赤らめる。
青島の右手は声を堪えるために甲を押し当てていて、左手は汗ばむ室井の厚い胸板を押し退けているように見え、その実、全く力が入ってこない。
添えているだけで何の抗いもなさず、室井の下から逃れようと足でソファを掻いた。
その隙に足の間に身体を割り込ませ、室井は青島に体重ごと圧し掛かる。
抗う手を頭上に押さえ付けると、室井は埋め込んだ指を三本まで増やした。
「・・っ、・・・ぅ・・・」
無意識なのだろうが、青島がいやいやとするように首を振る。
そのたびに、赤く染まった頬や汗でしっとりとした項、むき出しになった額と長い睫毛が視界に入る。
熟した肌に匂いたつように柔髪がうねった。
声を漏らすまいとするその強気がいつも室井を煽ることを青島は知らない。
「・・ぅ・・ッ、ふ・・ッ、・・ッ」
青島は狡いと言った。
確かにその意味で、狡いのはこちらの方だと言えるだろう。
どんなに努力しても実らない現実も、青島の前では何の価値もないことだ。
その手を拒まれるのを見たくなくて、ありきたりな友情に埋もれた思考に従うくせに、正直な自分を知って欲しいと願っている。
室井だけを見ていて欲しいと、身体の裡が叫んでいる。
「・・んぅ・・っ、く、・・・ぅ」
ぐちゅぐちゅになっている内壁を擦りながら、より深くまで侵入すると、青島の先走りで黒々とした陰毛が光った。
濡れ咥え込んだ指を締め付け青島が腰を震わせる。
擦り立てながら名を囁けば、青島も瞳を揺らして室井に甘く懇願した。
コンドームも付けず、室井は青島の両膝を抱えあげ、脚を裂けるほど開かせる。
言葉もなく、そこに涎を零している自身を埋め込んでいく。
深く腰を埋めれば浮く背を留めるように抱き、躰をくねらせる青島の仰け反る喉に熱い舌を這わせた。
「・・・んあぁ・・・っ」
力んで浮き上がる肋骨が美しい造形を描く。
長い首筋から描くラインが、室井を淫らに扇情する。
赤く腫れあがった胸の突起が室井の眼前に強請るように晒され、張りのある肌が雄に媚びる色で臈長ける。
そのすぐ下にも、赤い刻印がある。
かなり昔、二人の連携が取れずに犯人にナイフを突き立てられた痕だ。
紅潮した肌のせいで桃色に炙りあがる。
左腰には、あの深い傷跡もある。
あの頃から、青島は室井を慕い、身を捧げてきた。
最初から、青島は室井だけを見つめていた。
気位の高い男には決して乗り越えられない矜持がそこにはあって、凝り固まった視野が大切なものを取り零し、それにすら、気付けなかった。
訴えるその過激な欲望は、どこか切なささえ滲ませている。
必要なのだ、この男が。
凄まじい能力と信念を持つ、花も実もあるこの男が欲しい。
こうして身を埋めていると、強くはっきりと意識する。
「欲しがっているのはおまえの方にみえる」
冷淡な言葉には、そうであってほしい願いが込められる。
それを確かめたくて、こうして何度も抱いた。どこまで赦されるのか、どこまで晒してもらえるのか。
知りたいのなんて、根は単純なことだ。
じっくりと躰を視姦したあと、視線を上げれば男を挑発する嬌笑で、青島が室井を映し込んでいた。
雄の肉を灼くような艶冶さに、ゾッと室井の背筋を走らせる。
・・・近くて吸い込まれそうだ。
その色香には、触れてはいけないと、男に思わせるほどの純潔と黎明さがある。
何の前触れもなく、気後れもなく、素直にコイツが欲しかったんだという実感は、室井の中に核心となって満ち溢れ出た。
それは嫌に恐いほど強烈で鮮烈で、いっそ室井を更に気後れさせる。
どくんと脈打つ肉塊に、青島の媚肉もひくんと収縮する。
青島が嬌笑を歪め、困ったように、弱々と睨み返してきた。
男の意地で、埋め込んだ自身をグイっと奥まで挿し込む。
「・・ィ・・ッ!」
喘ぎ、口を大きく広げ、のけ反る体を支えて、その舌を絡め取る。それに青島が必死に応えてくる。
そこがギュッと締まって室井を圧迫してくる。
思わずニヤリとしてしまい、室井の強面の目尻が少しだ細められた。
自分に感じてくれていることが嬉しい。そして、こういう時はもう青島の限界が近い。
「イイ貌だ」
「俺をこうさせたの・・・、あんただ・・・」
「だろうな」
「夜が明けたら消えちゃうくせに・・っ」
「そうだな」
拗ねたような文句で、横を向いたまま息を荒げる青島に、こっそり口付ける。
片手で青島の頭を抱き込むように胸元に押し当てると、室井は瞼を閉じた。
愛しさは、言葉でなんか、伝えられない。
愛しさなんか伝えたところで、意味がない。
気付いた気持ちも膨大過ぎて、溢れるままに、途方に暮れさせる。
室井は本能のままにただ腰を突き動かした。
身体で伝えたいものをぶつけた。
「そこ・・っ、やめ、ろ・・っ・・・てッ」
突き上げるだけの動きだったさっきとは違い、殊更、青島の快楽だけを引き出していく。
淫奔でありながら余裕のある動きに、貫かれた青島の躰が室井の腕の中で不規則に痙攣した。
ますます愛おしくなって、室井は動きを速めた。
「はっ・・・あぁっ・・室井さん・・・むろいさん・・っ・・」
名を叫ばれ、室井は締め付けられるまま深いキスを仕掛けた。青島の顔を両手で覆い、貪るように口腔から犯す。
反り返る青島の中心を握り込むと、青島は涙を流して頑是なく首を振った。
一度達した躰は感じやすく、青島は痙攣したように快楽の余韻に打ち震える。
「ほら、ココはもうグズグズだ」
「いやっ、あっ、あっ・・・ああ゛ッ、くぅ、・・・あぁ・・・ッ」
前をしごきながら深く穿つと、くし刺しにされた青島が快楽の逃げ場を失い、真っ赤な顔をして室井の下で喘ぐ。
ぐしゃぐしゃになった忘我の顔はいやらしく、半開きの口から溢れる嬌声は室井の目からも耳からも狂わせてくる。
「キモチイイか」
「きもちぃ、きもちぃ・・ッ」
「達きたいか」
こくこくと、素直に快楽を白状してくる。
片手で青島のモノを巧みにしごき、達しそうになると、根元を抑え込み、青島の快感を翻弄した。
引き締まった肉体から繰り出される官能的な室井の動きは、しなるままに青島を追い詰めていく。
もう何を言わされているか分かっていないだろう。
「っ、ィッ、ア・・ッ、っ・・・、ソコっ、だめ、だ・・ッ、そこッ、アッ、アッ、・・・んぁッ」
「何が駄目だ・・?こんなにココをいじられて、ひくついて。やらしい躰だ・・・」
揺すって鳴かせて染まる肌に舌を這わす。
逃げるように逸らす首筋に噛み付き、赤く尖った胸に歯を立てる。
その度に上がる高い声を愉しみながら深く深く肉を抉る。
「アッ・・・・アッ・・・・・アッ・・・・っ」
青島はもう、喘ぎ声しか口から出していなかった。
どうして、と室井を探るような目も、やがて快楽に堕ちた色に変わっている。
涙を零しながら室井に縋るようにしがみつき、自ら脚を裂けるほど広げて雄を咥え込み
もう成すがままの身体は、兇悪的な悦楽に翻弄されていて、強請るように、青島は全てを室井に明け渡していた。
無防備に、室井だけを信頼し、室井にだけ、拓かれる。
青島の小作りな白皙の顔は、今は情欲に紅潮し、眉を切なげに歪め、室井だけを見つめて賢明な態で、絶頂を怺える。
「ああ・・・っ」
「下の、口で・・・ぜんぶ、飲み干せ」
美しく、艶やかに身悶えて、青島は何度ものぼりつめた。
のめりこむことでそこが揺らぐことを恐れ、一歩も踏み出せなかった。
基盤を失うことは自分の居所を見失うことだった。
Side-A
数限りなく淫らな真似をされ、はしたない言葉を吐かされ、我を忘れて自ら脚を開く。
埋め込まれた男のモノは、堅く、灼けるようで、青島の内壁を圧迫し息さえ覚束なくさせながら、容赦なく奪っていた。
「はぁ・・、あ・・ん・・っ」
蕩けたような自分のものじゃない声が雄に媚びて、熟れた身体を晒す。
シャツの前を全て肌蹴け、胸の尖りを揉むように撫でながら、室井がすっかりずり下がり露わになっている肩甲骨へまたひとつ痕を残す。
刺激に震え、青島の骨が天使の羽のように浮き上がった。
なんなんだ。こんなに処女のような初心な反応させられて。
俺じゃない、こんなの。こんなのって。
聞くに堪えない甘ったるい声も、しとどに蜜を垂らし続ける俺自身も、いつになく艶然なこのひとに、魅入られる俺も。
全部、嘘だろ。
「ヒッ、・・ヒィ・・、あんっ、・・あぁ・・っ」
始まりの夜だって、甘い睦言なんか何もなかった。
好きとか愛とか口にしてない。
けど、俺が、本気であんたの慰みと憐れみに同情してるとでも思ってんの。
そんくらいの嘘、見抜いてくれれば良かったのに。
「俺に火を点けられるのはおまえだけだ。おまえがいないと俺はまたトチ狂う」
そこに、他者を圧倒するほどの男性的な色香の中に漂う、育ちの良さからくる一種の鷹揚さが少しだけ垣間見れた気がした。
happy end?

好きって言えない腰抜け室井さん。
20201022