20
周年お祝いシリーズ
王道・室青。お祝い作品なので2017年のふたりっていうリアルタイム・イメージで書いたの
はこれが初だったりします。室青のとある一日。
踊るは室井さんの、青島くんと出会って運命を掴んでいくどっきゅんらぶドラマだったと思っている。
01.
この熱は消えぬまま

1.
窓から入る陽射しが高い。
室井はぼやけた視界に入った青島の眠る顔を倦怠感の残る瞼で映した。
2017年1月7日。
正月の名残りを感じる空気はまだ冷たさを内包する。
目を瞑っていると童顔がより際立ち、長い睫毛とふっくらとした頬が愛らしい青島は
今でも4つ以上の差を感じさせ、甘い声も併せて室井の目には何もかもが完璧だ。
若さのままに、健気で直向きで、一生懸命な彼の愛らしさは多くの人を惹きつけ、また室井を虜にして放さない。
くりくりっとした胡桃色の瞳、弾けるような笑顔が、彼の幼さや陽気さを湛えるのは勿論
閉ざされた今はファッション誌にでも載っていそうなクールな
美しさが際立った。
寝乱れた造形美。淡く柔らかい青島の細髪を触れることを許されるまで、よくこれを手に入れられたものだと室井は自分で嘆息する。
・・・もう10年以上も前になる。
かなり頑張って口説き落としたその夜は今も胸に熱い。
そして、獣のような激情を半ば強引に受け止めさせた、初めての夜。
あの頃と同じ、丸みを帯びた小麦色の熟れた肌が美しく、朝陽の白さのせいか、雪の様な透明感できめ細かい肌に見える。
その肩にそっとキスを落とした。
「・・ん・・・」
青島が何か小さく寝惚けた声を出した。
可愛さに思わず幸せが湧き、室井は口元を握った拳で抑えた。
微かに漏れる吐息、今はも幸せのそれでしかない。
「・・?・・・寝てんの、見んなよ・・・」
ふわぁあと大きく欠伸をして青島が応えてくる。
すり寄るように室井の腕の中に顔を埋めてきた。
奥から温かく満ち足りる、嫉妬も邪念も綺麗に消えていく瞬間だ。
「・・はよ、ございます・・」
そのまま布団にまで沈み込み、その目元を隠してしまう。
室井の指先が無意識に伸び、うねった髪を愛撫するように梳いてあやすと、ふるふると嫌がる素振りも堪らない。
「多分、もう昼近い」
「うへぇ。・・・起きる?」
室井が頷き軽く同意すると、嫌だなぁという顔がブランケットの奥からちらっとのぞく。
青島が、よっしゃ!と言って気合いを入れる声。
うつ伏せ気味に抱き込まれていた身体を両手で起こす。――刹那、軽く呻いて痛みを乗せた顔を歪ませたのが髪の隙間から見えた。
だがすぐに何でも無いように腰掛け、ベッド下に無造作に投げ出されていた昨日のシャツを羽織る。
「つらいか」
「・・いぃえ?」
背中を向けたままだから表情は窺えない。
昨日の情痕が散る背中は深い曲線を描き、綺麗な肩甲骨と腰の括れが晒され、朝日の清浄な光を浴びて白く光っていた。
下着も何も付けない素肌に透けるような白のシャツがさらりと羽織られ、青島はベッド脇に腰掛けた状態で垂れた髪を掻き上げる。
その仕草が妙に男っぽい。
今日は何します~?なんて
軽口も、白い朝に室井をドキリとさせた。
意地を張るのは虚勢であっても室井への心配も気苦労もかけまいという青島なりの厚情と知りつつも
二十年経っても何処か他人行儀な振る舞いに、物足りなさを、そして無難な付き合いに白々しさを残す。
朝陽に透けていきそうな男の二の腕を室井は後ろから強く引き寄せた。
「ぅわぁ・・っ、危な・・・っ」
力で踏ん張れない身体は脆く、細髪が朝の粒子に舞って、寝起きの温もりの残る細身の躯がバランスを失い室井の腕の中に落ちてくる。
それをシーツに沈ませると、室井は身体を入れ替えた。驚き仰いだ口唇を塞ぐ。
自分ばかりが丹精している気がしている予感を払拭するように確かめる。
「んぅ・・っ、・・っ」
その身体に緊張が走ったのは一瞬で、腰を抱き留めれば青島の両腕が室井の首に回った。
ふわりと綿菓子のように擦り寄ってくる甘い身体を更に抱き締める。
淫靡な熱を青島に仕込んだのは室井だ。
夜毎、抱いて辱め、淫戯に落としめても、青島は肌を染め顔を歪ませ、獣欲と快楽の歓喜に喚き、ただ室井を身の奥まで受け入れてくれる。
それは、決して手に入らない宝玉であると無言の主張をして嘲笑っているかのようだった。
いや、だからこそこの神聖な魂を欲して飽き足らぬ情が走り、彼の全てを求めるのだ。
腐敗していく己の浄化を請い賜りたくて。或いは、混じれない社会の確かな証として。
「ん・・・、ふ・・・っ・・・」
ぴったりと密着させた口唇の奥から青島の甘い声が、切なげに漏れる。
酔狂にも、渇望した何かが満たされていく。
どんなに儚くても、青島がこうして室井と一つベッドで眠ってくれることがどれほど室井を喜ばせているか、青島は知っているんだろうか。
羽毛布団がベッドからずり落ち、一糸まとわぬ二人の男の裸体が、白く光るシーツの上で折り重なった。
ん・・っという濡れた吐息が漏れて、室井の首に回った両手の力無い指先が愛おしそうに室井の短髪を掴む。
正気になど返したくなくて、室井は噛みつくように深く塞いでしまう。
可愛くて、愛おしくて、自分を選んでくれたことが幸せで、苦しそうに歪む眉も、室井の劣情を煽るだけだった。
「・・ふわ、ぁ、も・・・苦、し・・っ」
「まだだ」
頤を指先で抑え、嫌がるように奥へと逃げ込んだ舌を強引に引き出した。
胸の尖りを摘まみ親指と人差し指で玩べば、組み敷いた青島の脚が小刻みに痙攣する。
そうしながら、引き上げた舌をちゅっと強く吸い上げると、ぴくりと青島の身体が跳ねた。
「・・・ん・・ッ、ハ、ァッ・・・や・・・ぁっ」
「胸だけでそんな可愛い声あげて・・・・やらしい躯になったもんだ、おまえ」
「・・ふぅ・・ッ、ぁ、しつこ・・・っ・・・んんッ」
寝起きだからか、或いは室井を本気にさせたくないからか、積極的に応えて来ない舌を吸い上げ何度も甘噛みする。
唾液が伝って、朝陽にきらりと光る。。
余りに執拗に吸い付いてしまったせいで、くたりと力の抜けた青島が緩く首を振った。それを暴いて抱き締める。
・・・・と、その時。
ベッドサイドに置いていた室井のスマホが甘ったるい空気を裂くように震動音を発した。
瞬間、気を取られた青島に、理不尽にも怒りが湧いて、室井はその首筋にきつく噛みついた。・・・そこだとシャツでも隠れないことは承知の上だ。
「ンッ、でん、わ・・ッ」
「・・・・」
潤んだ目で見上げられ、淫奔な時間の終幕を理解する。
眉間の皺を深め、室井は鼻から大きく息を吐くと、渋々枕元のスマホに手を伸ばした。
「・・・・分かった。今から戻る」
憮然とした表情で室井は電話を終えた。
重たい溜息が口から未練のままに漏れる。
理不尽な雑用を言いつけられていた昔とは異なり、警視監という階級を応諾している自分が呼びだされる事態と言うのは、今はかなり切迫しているということを
示す。
判断を直接仰ぎたいという暗黙の強制に
他ならない。
「戻らなきゃならない」
青島の上から身を起こし、室井はベッドから降り立つ。
一糸まとわぬ臀部がキリッと引き締まる。
「折角休日を合わせられたのに、すまない」
「・・・んん、仕事優先でどうぞ」
行儀の良い理解ある言葉の向こう側で、青島の声色が寂しいと訴える。――願望が見せる幻覚かもしれない。
室井は片手で青島の頭をガシッと引き寄せ、裸の胸に強く押し当てた。
小さな短い逢瀬で、膨大に溢れる熱を伝えるにはあまりにも泡沫だ。
時間だけは無常に二十年が過ぎ、変化を警告してくる。
変わっていく。どこかで決断を迫られる。
こんなにも確かなものがない絆で永久に青島を繋ぎ止められるんだろうか。
室井の肌にはどこにも昨夜の爛れた姦淫を思わせる痕跡は何も残されてはいない。
それが青島の愛し方だからだ。
心を鬼にして顔を上げると、青島も見上げてくる。その首筋には鬱血の痕が滲んでいて、シーツの白に鮮やかに浮かぶ。
室井はそこにそっと人差し指を這わせた。
手戯のような仕草に青島が少し、震える。
きっと、これからまた数週間は会えないだろう。下手をしたら、一ヶ月以上。
「また連絡する。必ずおまえのところへ帰る」
俺を忘れるなとも、待っていろとも告げられず、室井は奥歯を噛み締めた。
小さく触れるだけのキスを落とす。
シャツを羽織ってベッドから立ち上がる。
もう振り返らない。男の背中を見せるために。
青島に必要とされる男になりたい。
室井は瞼を閉じ、自らの臨む戦場へと戻った。
2.
室井が本庁に到着すると、既に何人かの幹部が呼びだされていて事態の説明を受けていた。
その列の最後尾に混じり、渡された資料に目を通す。
説明を適当に耳に治め、室井は形の良い顎を指でなぞった。
事情を理解すると、連立って会議室を後にする。
年が明けたばかりの本庁はまだ正月の名残りを残していた。
暖房の効いていない廊下は冷気が沈殿している。
ふと気配を感じて視線を上げる。
そこに、何故か一倉がいた。
「よぉ、あけましておめでとう」
「・・・・おめでとう」
「呼び出しか?」
「ああ。お前は」
「こっちは別件。部下の後始末でね」
室井が労いの意味で頷くと、何やら一倉が意味深な笑みを浮かべた。
「で、青島ンとこからか?」
「・・・・」
「邪魔されたんだろ、正月早々残念だったなぁ」
「そんなことはない」
「ふふん、成程。官舎に連れ込んだか」
「だったら何だ」
付き合い始めてすぐの頃だったか。
同期で長い付き合いの一倉には関係を言い当てられた。
口が堅い男であるのは勿論、同じキャリアとして情報リークの意味を知らぬ若輩ではない。
だから否定をしないことで室井は一倉には白状した。
一倉もまた、揄い半分挑発半分で静観してくれている。
偏に、現時点で二人の交際がバレていないのは、室井の苦節というより青島の努力の賜物だった。
そもそも経歴に繋がりのない二人を幾ら調べてもここには辿り着かない。
当時を知る者が少なくなるほどに、それは噂話から単なる法螺話へと変化していく。
「蜜月がいつまで続くんだよお前ら」
しみじみと一倉に余情を乗せて言われ、室井も肩を竦める。
「・・・どうしても離しちゃいけないものが俺にはあるというだけのことだ。向こうはどうか知らん」
「お前がじゃじゃ馬好きだってことは警察学校時代から分かっていたよ」
「――」
そんなつもりはなかったが、性癖の好みを言い当てられ、室井が口を噤んだ。
苦虫を潰したような変な顔になる。
してやったりという顔で一倉が嫌味な笑みを寄越した。
「しっかしなぁ・・・、まさかお前が男を選ぶとは。そこまでは流石に思わなかった」
「俺だって相手がアイツでなかったら」
「なかったら。殴ってでも目を醒まさせていたさ」
「・・・・」
言葉尻を奪われ、一倉に斟酌ある態度を見せられた室井は少し真意を推し量るように目線を一倉に戻した。
マイノリティな性愛に、警察官だからそれなりに免疫があるとはいえ、それを理解し受用するのは難しいことだっただろうと室井は思う。
ましてや自分たちは、模範となるキャリア官僚だ。
それでも踏み出せたのは。
「あーんなに懐かれて、あーんな全身で慕われれば、俺だって落ちるぜ。しかも見た目も特上とくる」
しみじみと空を仰ぐ一倉の声が少し羨望の色に変わる。
逆に、室井の眼差しは半眼に変わった。
「なんだよ、お前だってそう思ってんだろ。ベッドで愉しむには見た目と色気も大事だぜ」
「・・・何の話をしている」
「しかも勝ち気な性格は男の嗜虐を煽る。俺も喰ったら燃えて無体する」
「おい」
「お前も気持ち良く嵌めさせてもらってんだろうがよ」
「・・・一倉」
「お前もそこそこ綺麗な方だし、お前らのベッドシーンって売れそう」
「一倉ッッ!ここをどこだと思っているんだッ、言葉を慎んでくれ・・!」
からからと渇いた笑いで天を仰ぐ一倉に邪気はまるでないから陋質だ。
「何を今更。お前が奴にご執心なのは最初からだろ。・・・だったが、まさか青島までとはなぁ・・・」
泳がせた視線を室井が一倉に戻すと、意外なほど一倉は穏やかな笑みを湛えて室井を見ていた。
「護ってやれよ」
「!」
「あのじゃじゃ馬はお前のためなら何をしでかすか分からん」
「・・・・」
「自分がお前の足枷になると気付かせるな。あいつを護れるのはお前だけだ。失敗したら・・・跡形もなく消え去るぞ・・!」
室井は力強く拳を握り締めた。
分かってくれる味方がいる。それは室井にとって暗夜の灯のように思えた。
二十年経っても支えられ理解される環境があるなら、それもまた間違ってはいないのだろう。
昨夜あれだけ、散々触れたのに、もう足りなくなった。
いつかと同じように室井は否定をしないことで肯定とする。
そんな室井に一倉は微かに口端を滲ませ、それから胸ポケットから何やら取り出した。
「そんなお前さんに、俺から餞別だ」
首を傾げつつ視線は外さずに手を伸ばし、それに触れる。
受け取ってから一瞥し、室井は目を剥いた。
空かさず一倉が身を寄せこっそりと室井に耳打ちする。
「某王手サイトの評価は5点満点らしいぞ」
「・・おいッ、お前こそこれを何処でッッ//////」
今度こそ動揺を隠せなくなった室井に、一倉は無情にも背を向け手を挙げた。
「しっかり繋ぎ止めておけよ~」
「一倉ッ!」
3.
『今何処に居る?』
『まだむろいさんち~』
『帰らなかったのか』
『どうせ休みだし俺も呼びだされるならどこでも同じだなと思って』
『そうか・・』
『そっちは?どうでした?』
『ああ、大事にならずに済んだ。早く帰れそうだ』
『そう、お疲れ様です』
耳元に労いの言葉がかかり、室井は思わず目を閉じた。
『青島』
『うん?』
『出来るなら、まだそこに居て欲しい』
『・・・・』
『もう帰れそうだから』
『・・・、仕事早くなりましたね~』
『嫌味か』
『まぁね』
少しノイズの掛かった奥から聞こえる青島の高めの声は、まるで途切れて消えてしまいそうな錯覚を呼び
室井はスマホを耳に強く押し当てた。
息遣いまで聞き漏らしたくはない。
室井から電話しなければ恐らく絶対掛けてはこない男の残渣は、直接聞くより淫靡な感じで頼りなくもあった。
この細い繋がりはまるで自分たちの二十年そのものだ。
『じゃ、待ってます』
囁くような声が耳を擽り、瞬時に熱く疼く若い躯を室井は持て余すように肌で知った。
自分を慕い、待っていてくれる人がいる。
待っていて欲しい人が待っていてくれるそこは、確かにホームなのだ。
ああ・・・と不器用な応答を返すのが精いっぱいだった。
『必要なものがあれば買って帰る』
『えっとぉ・・・、室井さん・・・メシは?ちゃんと喰えました?』
『ああ、・・・そうだな、作るのは面倒だ、冷蔵庫の中身も少なかったろ』
『今日は七草がゆの日ですよ』
『・・そうか、そうだな。作ってみるか』
『腹は膨れなさそう』
『じゃあ・・・何か適当に買って帰る。他には』
『昨日あんたが使い果たしたコンドーム?』
『・・・・』
くすっと電話口の向こうで苦笑を漏らす甘い息遣いにぞくりとなった。
電話線を通す声はノイズが入って酷く、遠い。
一倉の言う通りだ。
きっとしっかりと掴んでいなければ青島は消えてしまう。
ひとたび室井の部屋から出て、そのまま帰って来ないなんてことは、当然のようにあるのだ。
そして、刑事だからこそ、ある日突然命すら。
失ったら歩くことさえままならない室井と違って、青島は何処までも飛んでいけるのが、悔しくも切なくもあって
ひとりぼっちにされたように、胸が痛かった。
『・・・段ボールで買ってあるから大丈夫だ』
『初耳』
『少し前にネットでな。・・・凸凹突起付きを今夜使ってみたい』
『ヘンタイ絶倫野郎』
会議の提案のように口にした室井の卑猥な言葉は、切られた通話に、虚しく夜風に消えた。
もっともっと夢中になってくれたらいいのに。
ベッドの上で室井の腕の中で見せる嬌態のように、室井に縋り、過ぎる快楽を怖がるみたいに。
暴いて、本能だけにして、本物の青島を手に入れたい。
いつか誰かに持っていかれるとヤバイという危機感は、飢餓感に似ている。
切れたスマホが真黒になって、まるで青島を失った自分の世界のように見えた。
早く、帰ろう。俺の居場所へ。
早く、触れたい。
触れて、安心したい。
還り付くその場所で、室井もまた室井になって、また歩き出せる。
***
「ただいま」
「おかえんなさーい。何買ってきた?」
「いいな、こんな風に迎えて貰える関係っていうのは」
「何寝言言ってんすか。俺、はらぺこ」
happy end

青島くんといると毎日が飽きない室井さん。ドラマティックなことがなくても毎日がドラッグみたい。20年経っても相変わらずなふたりでした。
ちなみに一倉さんがあげたのはえっちなジェルです。
20170113