ここはストーリーになっていない小話の詰め合わせです。
                三行半のワンシーン。ぶっちゃけ何でもアリです。
                萌え詰め込み








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二人の差3
・二人の違いってこういうところに出る


「ではそのように」
「はい、これで手続きは終了になります。この後、お引き受け、廃車という流れになります」
「わかった。青島、荷物はもう――」

事務手続きを終えた室井が横を見ると、大粒の涙を流して号泣している青島の姿があって、室井は思わず口が止まった。
ぐしゃぐしゃになった顔で、室井と業者の背後で控えるひっそりとエンジンを唸らす愛車にご執心だ。
こうしてエンジンを吹かすのもこれが最後だろう。

「――・・・」

室井が固まると、見納めが来たのかと青島はついに感極まる。

「あっ、ありっ、ありがとねぇぇ・・!いっぱい思い出作ったねぇ・・!楽しかったねぇ・・!えぐえぐえぐ」
「・・・」

二人が付き合い始めた時に買った中古車だった。
あれから22年になる。
色んな所へ行った。各地を回った。近所を気軽にデート出来ないからこそ遠出もしたし、セックスもした。
確かに道ならぬ恋路に寄り添ってくれたもう一人の相棒と言えるだろうが、車は車だ。
よくそこまで泣けるもんだなと思う。

「おれっ、おれっっ、忘れないからね・・っ」

室井の定年に合わせ、本日廃車となる。
多少の汚れキズは勲章だと、青島は誇らしげに洗車にも精を出した。
車内にマウントするような行為は出来ないからと、室井の個人所有の形になっているが
この車には見る者が見れば、至る所に青島の気配が残る。
だからといって。

「次、新車、買うか?」
「今そういうデリカシーのないこと言わないでくださいっ」

怒られた。
ここに一つ、金属がスクラップになるだけだ。
要らなくなったものを処分しただけだ。
金を出して購入、用途通りに使用、古くなったから処分。
社会生活の基本だ。靴だってスーツだってスマホだってそうだ。
デリカシー?一体そこに何の感情があるっていうんだか、室井には分からない。
20240122







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二人の差4
・もしふたりが初キスを仕組んでみたら


★室井編
付き合い始めて一週間が過ぎた。そろそろあのぷるぷるした口唇に重ねてみたい。
こういうのは年上から、或いはリードする側が先手を取らなければ。
触れたらもっとと欲張りになって、歯止めも効かなそうだ。

室井は考えた。
他の予定とか翌日とかに響かない日を選び、この部屋であの甘そうな口唇を奪う。
できたなら、もっと、先まで。他の部分まで味わわせてくれるように、慎重に事を運ぶ。

指で舌で、欲望で、啼いて染めあがる彼が見たい。その隅々まで貪らせてくれるだろうか。
組み敷き、肉を堪能する雄の享楽が、室井の脳を茹だらせ、心臓を逸らせ、思わず口元を覆った。

青島の勤務シフトを確認し、自身の仕事を調整し、ようやく日取りも決まった。
コンドームもジェルも用意した。
あと五分で彼は来る。
落ち着け。まずは自慢の手料理と地酒で彼を油断、もとい、尊敬させ和ませるのだ。

「こんちわー!」
「よく来た。待っていた」
「おじゃましますっ、あ、割とキレイ。他に誰か上げたことあるんですか?」
「恋人では君は最初だ」
「へへ、うん、これ、おみやげ!後で一緒に食べましょ?」

手土産に感動しガッツポーズを取る室井。
先に部屋へ入った青島が立ち止まり、振り返った。

「あと、これも!忘れてた!」

ぶっちゅ~~~。

室井の後頭部を引き寄せ、青島が口唇を押し当てた。
視界を覆う耽美な動きについ魅入って、先程までの自分の低俗な妄想とナマの華麗な差に、室井の視界が固まる。
微笑む彼の睫毛が柔らかく揺れる視界がぼやけ、全身が硬直する中、煙草の味がちゅっという水音と共に離れていった。
あまりに、あまりに、壮絶な生々しさ・・!
なんって柔らかい肉感!!

「怒る?」
「お、お、おこる、とかそうじゃなくて――お、おまえッ!」
俺の計画、全部台無しにしやがって!!

至近距離で目を丸くする室井に、青島がしてやったりと舌を出す。
ようやく事態の意味に頭が追い付いた室井が真黒い目を剥き、勝手に喜ぶ頬を赤くした。
青島の澄んだ瞳が室井を映していて、室井の顔色を見て、艶美に瞼を落とし――
一度だけセッティングしたテーブルに視線を向けた青島は、にんまりと悪戯な顔に変える。

「ざまあみろ」



★青島編
付き合い始めて一週間が過ぎた。そろそろキスのひとつもしてみたい、けど。
あの高潔官僚に触れるだなんて、考えただけで腰が引ける。やっべぇなぁ、いいのかなぁ。

青島は考えた。
おんなのこだったら、幾らでもリードできるんだよね。
デートのどこで手を握ればいいとか、肩を抱いたり、ハグしたり。そういうの、じゃれあいの中で手を出せる。
けどなぁ。あのオッサン、そういうこと、してきてなさそう。目だけは俺に触りたいって言ってんのに手出してこない。
そういうこと、下品に表には出さないんだ。
じゃあ、どうやって女落として来たんだっていえば、そりゃモチロン、金と権力絡む駆け引きっしょ。

誰にも知られない筈の心を盗まれて、どうやら恋人というものになっちゃって。
あんときは感情がぐちゃぐちゃだった。
そういう庶民的な恋なんて考えてない人だって諦めた。
収まるところには収まったけど、だったら進展というやつはとんでもなく厄介だ。
とりあえずこの湾岸署休憩コーナーが目下、俺たちの逢引、もとい、交流場所だ。

「すまない、遅れた」
「俺も今来たとこです。署長の用事、終わりました?」
「ああ。この後また接待に出なくてはならないが」
「そ」

そんなことは俺らにとっちゃ日常茶飯事。こうして会えて話せただけ今日はマシな方で
室井さんが自分の投入した自販機から、いつもの珈琲を奢ってくれる。
それだけで笑っちゃうくらい満足しちゃう自分は随分とお手軽だ。

「大変そうデスネ」
「くたびれた官僚ってどうだ?」
「それはヤですね」

ひそひそと額を擦り合わせるように話す言葉がくすくすという含みに変わり、目を見合わせるだけで、室井の表情が柔らかくなっていくのを知る。
見ていると、オトコなんだなと思う。
胸板も厚くて、肩幅も細身で引き締まってて、成熟してて。ちゃんと、普通の・・////やべ、かっこいいなぁ。
こんなひとが俺を好きなんて言ったんだぜ?言うか?言ったな。
ふと、その顔が近づいた。
荒い中年の肌がドアップに迫り、逃げる隙を失った。焦点さえ危ういまま、乾いた口唇に塞がれる。
やがて熱がゆっくりと離れて、冷たさに何をされたかを知った。
至近距離で目を丸くする青島に、室井がしてやったりと舌を出す。

「隙だらけだ」
20240122







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