ここはストーリーになっていない小話の詰め合わせです。
オチもなければ三行半のただのワンシーンです。
私の萌えキス詰め4点

キスお題1
★室井さんは他人に取られてから焦るタイプ。油断しすぎ
「ん・・・っ・・・・ァ・・・・」
奪い尽くすような猛攻に息継ぎのリズムが掴めず、青島が身を固めると、更に強くそれは押し付けられた。
突如奪われた口唇を、どうすることも出来ないまま、空いた手が室井の肩へと縋る。
まるで欲しがってるみたいだ。
肉感を確かめるように挟み込まれ、思わす目を瞑った。
いきなりの室井の変貌に、付いていけない。
どうして――!
***
湾岸署の屋上で、生活安全課の女の子に告白されたのは、三ヶ月程前のことだ。
その時も、丁重にお断りをした。
職場恋愛は趣味じゃない。前の会社に居た頃から、そのポリシーだけは護ってきた。
でも、ここ湾岸署では事情が少し異なった。
「他に好きな人がいるんですか?」
「まさか、そうじゃないよ」
「恩田さん?」
「え?・・・えっと――」
うろたえる俺に、その子はクスリと笑う。
「その顔。恩田刑事とは、まだそうじゃないって思ってました。――なら」
一拍置いて、見透かすような丸い瞳をくるりと回して、その子はある名前を告げた。
予想もしなかったその指摘に、完全に反応が遅れ、俺の動きが止まる。
そんなベタな俺のリアクションは、その子にとっては確信を得るものだったらしく。
「やっぱりそうなんですね」
俯いた俺の前髪を、湾岸の海風が通り過ぎる。
表情は隠れて見えなかったとは思うけど
そのやり取りを、真後ろで本人が聞いていたなんて、大誤算だった。
目が合った時、本当に世界が、一瞬、飛んだ。
それからも、室井さんは態度を大きく変えることはなく、元々滅多に逢う人でもないので、俺たちの仲が格別悪くなったとか、ぎこちなくなるとか
そういうことはなかった。
紳士的な対応に感謝をし、俺はこの件を忘れるつもりだった。
その後、外の仕事でたまたま遭遇した室井さんと他の官僚さんたちと一緒に食事をしたこと
その席で、社交辞令的に二人での酒呑みに初めて誘われたこと
そんな流れの、何気ない日常の中で、どこにも不自然さはないことに、ホッとした。
だから今夜、二次会と称して初めて自宅に招かれたことも、何の違和感も感じていなかった。
のに。
「・・ァ・・・ッ・・・・」
下唇を薄く噛まれ、自分の吐息が震えることに驚愕している隙に、室井の舌が奥へと割入った。
分厚い、男の舌が、這い回る。
こんなことされるなんて。
ここまでされるなんて。
初めて割り込まれた熱い舌の感触が、口内を圧迫する。
勢いに押された身体が、少し後ろに傾ぎ、そのまま腰を強く抱かれたことで、背中が弓なりに反った。
どうしてだ?何で?何でこんなことしてくるんだ?
時々掛かる熱い息と、貪るように口内を蹂躙し制圧していく熱い塊に、息と思考を奪われる。
この想いは一生を掛けて消すつもりだった。
決して表に出してはいけない筈だった。
こんなキスをされたら、心が噴出する。なにもかもを台無しにして。
「・・ァ・・、も・・・っ、ゃめ・・・っ」
顔を左右に緩慢に振り、拒絶の意思を示すと、後頭部を押さえ付けられ、角度を変えて更に奥深くへと舌が押し込まれた。
「んぅ・・・・っ」
熱い。
逃がさないという意思を滲ませた腕は逞しく、往生際の悪さを窘められる淫戯に、ぬるりと堕とされていく毒の蜜に、逆らえない。
同調するように急激に込み上げる胸の軋みは、溺れるように青島の身体を震わせていく。
室井が少しだけ解放する。
熱く乱れ、濡れた息が、二人の口唇にかかった。
至近距離で、言葉よりも遥かに雄弁に物語る漆黒の宇宙が、青島を真っ直ぐに捕り込んだ。
痺れたように、その瞳に魅入られたまま。
艶めく瞳は、青島の身体の抵抗をも奪い去り、再び引き寄せられ、口接がまた始まった。
20150505

キ
スお題2
★室井さんは腹を決めたら一直線
扉を開けた途端、室井は青島の腕を掴んだ。逃げられると思ったからだ。
「んなっ、なにしに、あんた・・っ」
室井の手を振りほどこうと青島が捻った腕を逃がさず、狭い玄関の壁に押し付ける。
「悪いが、こちとらこういうシチュエーション慣れているんだ。これでもキャリアだ」
室井はそのまま身を寄せ、何も発せず身体ごと青島の抵抗を奪い、その赤い口唇を奪った。
「・・っ・・」
手を取られたまま硬直した青島の目が驚きに見開かれ、水晶に室井が映り込んだ映像に陶然となっている様子にゾクリとする。
薄っすらと伏せた青島の睫毛が間近に合って、カッとその頬を火照らせた青島は、膝を震わせた。
キスを解いた室井の瞳の力強さに、青島はただ鮮やかな瞳で睨んでいた。
その瞳を反らさずに室井も黙ったまま見つめ返す。
まだ手は解放させない。
「どうしてここが?」
「こっちも刑事だ」
「・・・」
「君が、もし逃げるようなことがあれば、それは、」
「言うなっ」
やはりそうか。
確信した室井の前で、青島が下を向いた。
初対面の人間にも物怖じせず、距離を縮め、正しいと思ったことは言葉に出来、キャリアにすら堂々と渡れる男が
目元を歪めて苦し気に息を殺す。
その愛らしくも婀娜な変化に魅せられるまま、室井は再び顔を寄せた。
微かに嫌がるように顔を反らされるが、それを下から掬い上げるようにして口唇を貰う。
「むろい、さん・・・っ」
泣き出しそうな声で、青島が制止を求めてくる。
だが避けられないキスに、心が透けている。
欲しかったのは、自分だけじゃない。その確信が、室井を傲慢な男にする。
「んぅ・・っ」
深く口付け、想いを注ぎ込んだ。
甘く、蕩けるように、青島が目を閉じ、その口付けに震え、目尻を濡らす。
こんなにも俺が好きだったのか。
心臓がバクバクと脈打っている。
囁くように吐息だけで遮る青島が、まるで愛の調べの如く室井を上擦らせ、そんな室井の狂気を稚気に弄んだ。
このままむしゃぶりつくしてしまいそうだった。
芳しい匂いにそそられるままに、それでも必死に自制し、室井の指先が青島の顎を固定した。
「かかってこい、青島」
「出来るか・・・っ、あんたに・・!」
誘導尋問に、青島がしまったというように口を噤んだ。
二人揃って恋に落ちた。
そこから逃亡という真逆の方向に突っ走るのが青島であり、いつだって室井の逆を突くのがこの男だ。
ゆっくりと青島の額が室井の肩に乗せられた。
「あんたが大事だよ。誰よりも幸せになってほしいんだよ。俺にはそれが、できない」
青島に肩を貸しながら室井は眉間を寄せ、背筋を伸ばしたまま凛とした気配を崩さなかった。
「俺が、潰しちまう」
「・・・・」
「俺がいることで、あんたを汚して、傷つけて。・・・そんなことしかできないんなら、せめて、護らせてください」
ぎゅっと固く眉間を深めた室井はそのまま目を閉ざした。
傍にいる意味ねぇよ、と噛み殺した青島の息が室井の肌を撫ぜて震わせる。
余りある愛の告白は足掻く男を無情に牽制する。歳を重ねるほど恋は簡単じゃない。
傍に居ることだけで幸せだった幻想は名前を付けた途端、零れ落ちる。それでも。
「なんで・・・なんで俺・・?なんで・・・気付かせたんだよ・・・」
「許せ」
「もうここに皺よるの、見たくない」
「闘わせてもくれないのか、俺を」
「キャリア潰す気ですか」
「潰さない。おまえも潰さない」
「はは、かっけ・・・」
泣き笑いとなった青島の手を握り、ゆっくりと持ち上げると、室井は左の薬指に恭しくキスをした。
20150521

キスお題3
★力技の差
室井の指が青島の鎖骨辺りをゆっくりと撫でる。
まるで、機嫌を取るようなその素振りに、青島は指一つ動かさないまま顔を顰めた。
腕を掴まれ、顔ごと背けながら、振り払おうと腕を捻るが、途端、室井に両手で強く引き寄せられる。
「・・んだよ・・・っ、・・ァッ」
引き寄せた反作用を利用し、室井に後ろに押し込まれ、青島の重心が傾き、たたらを踏む。
室井の左足が青島の足に艶かしく絡まった、と思った次の瞬間
右足を蹴るように払われ、そのまま身体が宙に浮いた。
「・・へ・・・っ?」
背中から床に崩され、青島は呆然と天井と室井を見上げる。
無駄のない、型に沿った美しいと言える動作で、間合いなどを全く察知させず、いきなり踏み込まれた。
言葉もないままの仕草に反抗的な光を乗せた瞳で威嚇するが、室井は眉ひとつ動かさない。
短めの前髪が、少しだけ崩れ、室井の額に垂れ落ちる。
「甘いな。重心を崩す技を使うまでもなかった」
「・・・っ、い、いきなり何すんですかっ、放せよ・・・っ」
慌てて起き上がろうとするが、既に押さえ込まれた状況では効果は薄く、襟首を起点に組み敷かれた格好で脚をバタつかせる。
そのまま寝技にさえ入れそうな室井は、性質の悪い笑みを口の端に乗せ、締め上げた襟首を持ち上げるように引き寄せた。
「この程度では現場の刑事なんて務まらないぞ」
「毎日走ってばっかで練習する暇なんてないんですよ・・・っ」
「そんな言い訳が通用するか」
「ってゆうか・・・っ、何こんな時に大外刈り掛けてんですかっ」
「こんな時?」
吐息のかかる距離で、熱く濡れる瞳が絡み合う。
その瞳が、甘い怒りを問い掛けている。
このひとに告白された時、受け入れる気は全くなかった。
白黒付けられないことは世の中には五万とあるのだ。
それが、このひとは気に喰わないらしい。
俺にもカッコつけさせろっての。
「納得いかないのなら・・・・」
室井が青島の脚を制したまま、身体の稜線に沿うように右手を滑らし、頭の下まで差し入れると、横四方で抑えに入る。
「ちょ、ちょ、分かっ、分かりました!分かりましたよ・・・っ」
「こんなのも抜け出せないのか」
「ぃ・・っ・・てぇ、も・・っ、こんなの抜け出せる人がいたら、俺、お目に掛かりたいですねっ・・・」
口端にほんの僅かな笑みを滲ませることで気配を少しだけ緩め、室井が青島の髪を掻き上げる。
そのままやや強引に、横に逸らしていた顔をくいっと上げさせられた。
口唇が触れる程の至近距離で、焦らすような時間が熱を持つ、
「おまえが好きなのは俺だろう」
「命令しないでください」
憎まれ口なのに、何処か甘い睦言のような響きを乗せ、熱い吐息が青島の口唇に掛かる。
室井はやや強引に押し付けるように口唇を塞いだ。
外気で冷えていた口唇は直ぐに互いの温度で温まり、緩やかなキスは徐々に速度を上げていく。
擦り合わせる口唇の柔らかさが後を引き、室井から向けられる情熱の深さに、その指先に、青島の身体がまた、震撼した。
「・・・ッ・・・」
胸を締めつける想いに圧迫され、空気が足りなくて潤んできた視界で、精一杯睨みつける。
室井が僅かに目を眇め、その様子に目だけで笑った。
キスだけで膝が笑っている自分が情けない。
少しだけ吐息が乱れる僅かな喘ぎを見逃さず、室井は一度だけの息継ぎを許し、覆い被さると
今度は青島の脚に自分の脚を絡ませ、青島の全身を繋ぎ止めに掛かる。
「・・っはぁ、くそッ、やめ、」
そのまま、顎を持ち上げられ空気を求めて空いた口に室井が舌を押し入れた。
「んー・・っ!・・・んっ・・・」
熱い舌で歯列を割られ、奥歯の裏から室井の舌先が這ってくる。
力でこじ開けられた口腔に、分厚い舌が塞ぎ、濡れた粘性の卑猥な水音を立てて、絡みつく。
鋭く、焔を宿した瞳で、両手を掴まれ、痛いほど顔の横に縫い付けられた。
抵抗する力も、室井を誘う仕草にしかならない。
こんなにキス、上手いんだ。
「・・・ぁ・・・・は・・っ、室・・・ぃさ・・ん・・・っ」
ようやく与えられた酸素に、青島はキツく眉を寄せ、息を切らしながら汗ばみ始めた身体を差し出し、懇願するように名を呼べば
室井は雄の瞳を灯らせた。
「随 分な荒業使ってくるんですね」
「仕方がない。惚れた弱味だ」
「――。惚れた弱みって、こういう時に使うんでしたっけ?」
室井の手が、口調や瞳とは裏腹に、穏やかに青島の髪を梳き上げる。
それを見上げながら、見つめる瞳に自分しか映っていない男へ、青島はそっと触れるだけのキスを送った。
「・・・俺、あんたが好きなんだよ・・・」
「知っている」
蜜やかに、室井が瞳だけで笑んだ。
「俺が・・・・一度手に入れたものをそう易々と手放すと思うのか?」
「・・・・・」
「おまえの覚悟はこの程度か。俺の手を取る気なら、もっと本気で掴め。この程度で人生捨てる程、俺は道楽者じゃない」
「ッ」
逃げるなら、本気で。歯向かうなら、本気で。奪うなら、全てを。
精魂尽きるまで全力で向かい合える――合わなくては、こちらが潰される。
忘れていた。室井とは、そういう間柄だった。初めから。
「もっと本気で掛かって来い・・・ッ」
使い古された煽り文句は、容易く青島にも点火し、情熱に火が灯る。
引き摺られるように、感情のリズムが呼応する。
ああ、この感覚は、知っている。
青島は室井の短い髪に指を差し入れ、口唇に触れるギリギリまで、力任せに引き寄せた。
「だったら余所見させる隙なんか与えんなよ・・・っ」
喉を唸らす音と同時に、室井の手が青島の後ろ髪を鷲掴みにし、下へと乱暴に引き下げられた。
2015525

キスお題4
★むりやりちゅー。室井さんは青島くんといたらどこかで理性飛ぶ
ドンと胸を戻され、室井が押し留まった。
哀傷の色を浮かべた青島が、ソファに半ば押し倒された状態で、ネクタイを解かれ、鎖骨を覗かせ、乱れた姿で見上げている。
ハッとした。
つい、理性を飛ばしてしまった。
室井が、しまった、とゆっくりと瞼を伏せた。
「なんで・・・ッ、こんな・・・・」
手の甲で口元を覆い、青島が顔を背ければ、まだ少し乱れた前髪が流れ目元に影を作った。
濡れた目尻が艶冶に光る。
男の本能がずくんと叫ぶ。
半ば乱れた白シャツが彼の長い首筋を晒させ、第二ボタンまで外された胸元が普段は見えない胸板までを室井の瞼に焼き付け
香り立つような芳しさで室井を五感から狂わせていた。
絡み合った足の熱さまで、室井は酩酊した。
「青島、その、」
「・・ッ」
知り合って、青島の正義や、眩しい瞳の強さに室井は圧倒された。
魅せられて、どうしようもなくなって、狂おしい感情のままに想いを告げた。
だが青島はうんとは言わなかった。
なんとか友情を信じてもらい、再びプライベートを共有させてくれた、そんな夜だった。のに。
「サイテー」
自己を律することに慣れた身体でも、同じ空間で青島が柔らかく微笑んでくれるその愛しさは、豊潤な怡楽だった。
逃げ場のない陶酔はいっそ麻薬に近く、抱き締めて、自分のものにしてしまいたくて
気付いた時にはもう室井は青島に口付けていた。
「聞いてくれ――」
キャリアの中では、この程度の裏切り、言い訳、逃げ口上は、日常だ。
すまないと口にしつつ、頭は次の手を考える。
そんなつもりで青島に接していた室井は、青島の対応に、酷く戸惑った。
キャリアに混じれない自分を恥じていたのに、一番軽蔑するキャリアの傲慢に、自分はいつの間にか染まっている。
「その、」
室井の頭も真っ白で、だが、何か言い訳めいたことを口にしなくてはと、たどたどしい言葉が零れるが
言葉にはならなかった。
息を詰めた青島の眼差しはもう室井を映すことはなく、眉を寄せて閉ざされる。
何も言われたくないという拒絶を示すように、青島が身を起こしながら室井を片腕で乱暴に退かし、立ち上がった。
「青島ッ」
帰る気だと分かり、室井は慌てて後ろからくしゃりと二の腕を掴んだ。
たたらを踏む青島の、キャリアにはない柔らかさが、室井の指を疼かせる。
だが、もう、振り向かせるだけの勇気は、ない。
強く乱暴に引き寄せたにも関わらず、青島は振り向かなかった。
俯く頼りない背中に絶望と批難が滲んでいるのが分かり、室井も奥歯を噛み締めた。
「・・・離してください」
「・・・・」
「離せ」
そんなつもりでこの部屋へ呼んだわけじゃなかった。
でもあわよくばと期待した下心も嘘じゃないんだろう。
そんな曖昧な態度でいた、自分が悔しかった。青島に見下されたくなかった。
違う、そんな汚れたキャリアの世界にいつの間にか自分も染まっていたことが、惨めだった。
「青島、」
「・・言ったじゃん!友だちだって!もう何にもないって・・・!あんた、誰にでもこんなことすんの!?」
「そんなことはない!」
「だったらこの間のが嘘なんだ?」
「いや、その――」
「なんだよそれ・・・、あんたが何でも無いっていうから俺・・・」
今にも泣きだしそうな震え声だった。
ショックを受けたのは室井もだが、青島もまた傷ついていることを知る。
楽しい酒の筈だった。終始貴重で気の置けない大切な時間だった。
「酒に飲まれたわけじゃない」
シャツの上から室井に肌を撫ぜられ、身じろぐままに追い詰められる青島に扇情させられ、室井の自重は粉々にさせられた。
「青島」
好きなだけなのに、好きな想いが傷つけるしか出来ない。
裏切ったのはこちらなのに、残酷な恋の仕打ちに、今は恨みすらを抱かせる。
すまないと思う。同じくらい欲しいと思う。
それでも相手のせいにするほど幼稚じゃない。
「どうしてこんなことになっちゃったかな・・・」
「・・すまなかった」
「謝まりゃまた俺が懐柔されると思ってる?」
「!」
何度焦らされ、何度突っぱねられたことだろう。
それでも彼の心から消えたくなくて、卑怯な言い方をした。なのに、気の優しく、ガードの緩い青島は、それならと頷いてくれた。
「君を、忘れられないんだ」
「オンナと付き合えよ」
「他の人間なんか、俺はもう、愛せないだろう」
室井の苦渋の声に、背中を向けたままの青島が小さく震えた。
掴んだ腕を振り解く勇気のない指先が強張る。
派手に流れるテレビ以外静まり返った空間は、何も答えを生み出さなかった。
「こういうときの”愛してる”って、信憑性がないよ」
腕を捻るようにして室井の手を解き、青島は荷物を搔き集め玄関口へと向かった。そのまま飛び出して行く。
残された部屋で、室井の胸が潰されそうに痛んだ。
一瞬追いかけようかと思った。だが、室井が追いかければまた青島を悪戯に傷つけるだけだと分かって、足が竦む。
愛しい人間をサディスティックに追い込みたいわけじゃない。
さっきの泣き出しそうな青島の顔が何度も何度も脳裏を過ぎり、室井は頭髪に五指を差し込み、崩れ落ちた。
「・・・・くっそぉ・・・ッ」
鎮まり返った部屋に、一人、額を片手で覆い、室井は込み上げる苦みを必死に飲み干した。
――逃げられた。
やはり駄目なのだ。あの暴れ馬のような壮烈であって透徹した明澄さを持つ玉珠には、かしづいたって届かない。
あんな綺麗で純粋な彼を、この手が穢した。
どちらに今自分は傷ついているというのだろう。
さっきまでの和やかな名残りを残すテーブルと、奔放なテレビの音声の前で、青島を組み敷いた時に因れた絨毯が、より一層冷酷に室井を責め立ててくる。
そんなの、独り善がりだ。青島の清涼な目が身勝手だと責めていた。
心より先に躰が結界を失った。
「すきだ・・・」
私は恋をしている。
恋とは、なんて愚かで美々しく、馬鹿馬鹿しいんだ。
20220111
