old clap~mailform
完成しました!

1.夕焼け
2.誘惑
3.作戦勝ち
4.狂気
5.確信犯
6.ベッドマナー
7.勝負
8.白状
9.悲劇
10.ほだされる





e11夕 焼け
line
「今、黄昏てたでしょ」
「約束の時間に現れない男への文句が選びきれなくてな」
「ね、そこからその下のグレイのビル、見えます?」
「・・ああ」
「俺たちが初めて出会った建物ですよ」

その時の映像は室井の中にはない。それでもそれはあたかも現存しているかのように室井の胸を紅く焦がす。
わざと、時間を作りこの景色を室井に見せたかったのかもしれないと、何となく思った。

「その時出会ってなかったらどうなっていたかな」
「俺は絶対おまえを見つけていた」

いつかの野心的な粗さでも使命的な気負いでもなく、当然の未来として室井は言ってのけた。
そうか、もうここまで来たのだ俺たちは。
青島のびっくりしたような眼差しが夕陽色に染まる。

見つめ合う時空には、他に何もいらなかった。

「もう遅いかとも思ったんだが」

邪気のない幼顔は眼下に繰り出す都会の蛍に混じり、明日の場所さえ隠して、夕焼けに透きとおる。
今、ようやく隠してきたものを、君に告げる。
20190420








e11誘 惑
line
視線だけで縫い留める漆黒の双眼を青島は怫然にも似た気持ちで見つめ返していた。
やがて、瞼を伏せた室井の首がゆっくりと傾けられ、ああキスされるのだと思った。
この男にこんな仕草をさせる相手は、青島だけだ。
しかし、いつまで経っても触れてこなかった男は、雪が溶けるかのような柔らかい接触だけを残し、また消える。

「・・んだよ・・ッ」

苛立つまま、青島はそのネクタイを手前に掴み寄せた。
サファイアのタイピンが飛び、追いかけ自分から口唇を乱暴にぶつける。
逆らわず室井の身体が傾き、この距離で分かる香りに胸がきゅっとなった。

だって、だって、どんだけ放っておかれたと思ってんだよ。

上擦る声でむろいさん、と囁けば、室井は優雅な動きで青島の下唇を含み、侵入しようとする青島の動きを慣れた手練で引き寄せる。
ピクリと震える感触はきっと室井に伝わった。
それを確認した癖に、室井はまたその先を赦さない。
長い指先に顎を上向かされ、一人上がった息が暗い部屋に焦燥だけを漏らした。
悔し紛れに潤んだ瞳は怒りを湛え、強く睨みつけてやったのに、それは何もかも達観した男の瞳に捕らえられる。
ぞくりと粟立つ向こう側で、室井は声もたてずに微笑んだ。
20190629







e11作 戦勝ち
line
「裏では池神と寝ている。地方出身の田舎者、それが演じ所だ」
「・・・狙いは」
「一人ターゲットがいれば、その他の連携がまとまりやすくなる。おまえも見たろう?こちらのメリットは・・・金だ」
「ぇ、マジ、なの・・?あんたが?まさか――」

フッと息だけを落とした室井が、そのままスコッチグラスを置いた。
やけに大人びた玲瓏な指先に青島の目が釘付けとなる。
不味いんじゃないかそれ?それじゃずっと俺ら裏切られてたってこと?

「口留めはどうすればできるんだろうな・・・」

影が溶け込むように室井が膝を寄せてきた。衣擦れの音が無意味に耳障る。

「きゃ、キャリアの癖に、そんなことしてていいんですか・・」
「それを知っている人間は限られている。君が口を割らなければ済む話だ」
「ふっざけんな!こんな脅しで俺が屈するか!」
「そうくるだろうな」
「~ッ、お、俺がバラしたらあんたのクビ、飛ぶわけだ」
「・・キスするぞ」
「――は?」
「ここで奪ってしまってもいい」
「ぇ」

一層の艶を増した高貴な視線に、青島の肌が粟立つ。

「今この場で凌辱し、君にもその罪の一端を背負わせるという手もある」
「ば、ばか言ってん・・っ」
「命令を聞けないのなら、躰に言って聞かせるしかない」

室井の闇色の眼差しがねっとりと青島の肌をねめつけた。
雄の気配にゾクリとした青島は後退る。

「あっあんたら、みんなねっ、揃ってどっかおかしいぞ?!」
「・・知っている」
「き、きすなんかどってことない・・」
「いいんだな?」
「そんなっ、おどしっ」
「怖くないと?・・・いい覚悟だ。なら目を瞑れ」
「い、い、いいのかよ、あ、あんただって、俺なんかと・・・」
「躰を売っているのに?・・・周りがみんなおまえと同じ綺麗であると思うな」

室井に顎を取られ、上向かされた。固定された指は言葉とは裏腹に生々しい温もりがある。
怯んだ青島の視線が彷徨って、それごと奪うように室井が玲瓏な顔を傾けた。

「ァッ、待っ、ごめ――」

それが初めてのキスで、情熱的となったその口付けに青島は腰砕けとなり
その話が最初から仕掛けられていたということに気付くのは
もうちょっと後だ。
20190901









e11狂 気
line
「適わないなぁ・・・室井さんからは教えてもらうことばっかり」
「俺がおまえに?何か勝てたことあったか?」
「大人のキスの仕方?」
「・・・・」
「男の狡さとか打算とか?」
「君こそ、そんな目付きも顔付きも、どこで覚えた」
「・・・むろいさんに教わった気がします」
「教えた覚えはない・・・」
「じゃあもう教えてくれないの?」

仕掛けられたままに、室井が喉を鳴らすような深いキスをする。
息継ぎのために解放してやって喘ぐその隙に、組み敷いた腕の中で熱っぽい吐息を断続的に漏らす青島に、室井はもっとどうにかしたくなる。

「ん、んぁ・・、はぁ・・、室、んん・・っ」
「じっとしてろ・・・」

素肌で重なり愛撫していることもあって、青島の躯が強張ったことを室井は見過ごさない。

「ヤらしい躰だな・・」

耳朶を甘噛みしながらそっと室井が囁く。
彼が嬌声を上げる度に、凶暴な衝動が湧く自分がまるで自分じゃないみたいだ。
それでも時折こうやって触れることに怯える瞬間があるのを、青島こそが知らないのだ。
この獰猛で兇悪な感情を思い知らせてやりたい一方で、知られるのが怖いと思う。
手に入れたら透けて消えてしまいそうな儚さを持ちながら、決して誰の手にも染まらない。
いつだって遠いと思っていたのは室井の方で、いつか自分を置いて行ってしまうつもりの青島に、誇らしさの中に抉られるような苦しみも齎す。
どうしたらいい。どうすればいい。欲しい気持ちが暴走する。

「俺より室井さんの方が大丈夫じゃなさそうだな・・・」

青島の手が伸びてきて、室井の後頭部を乱暴に引き寄せた。
20200209










e11確 信犯
line
「あんた、俺がすきでしょ」

悪戯気な隙の無い瞳が爛と輝いて室井を取り囲んだ。

「・・・何故そう思う」
「気付かれてないとでも思ってたわけ?」

小生意気な肉厚の口唇が三日月型に持ち上がり艶めかしく室井を挑発する。
このまま主導権を握られるのも癪で、室井は物理的な距離は縮めず、だが確実に至近距離を保って見据えた。

「ならば、どう答えてほしい」

切り返してやれば、青島が途端口籠った。

「ぇ、ど、どうって・・・」
「当ててみせようか」
「はいぃ?ぃや、ちょ、待って・・、」
「待っていればいいのか?」

理屈でもなく雰囲気でもなく、室井の中で咆哮する飢餓が警告を発していても、隠し続ける意味すら俺たちの前では無意味なのだと室井が挑発する。

「ずるいよ、いきなりそんな強気になるのは」
「おまえが先に仕掛けた。それに乗ってやったまでだ」

素知らぬ顔を作り上げ、室井はわざとスマホを捜査する。
四つ以上の幼さを感じさせる顔が上目遣いに不貞腐れていた。
こういうところが多くの人を虜にしていることを、本人だけが気付いていない。

「んじゃ、何か、言ってください」

スマホを勿体ぶってからポケットに仕舞うと、室井はスッと切れ長の目線を上げる。
成熟した笑みに滲む目尻を細め、ネクタイを鷲掴むと、掠れた男の声で囁く。

「身柄を俺に寄越せ」

今夜の青島なら、引き下がらないと思った。
勝てると思った。

「俺を、壊してくれるなら――もう、ぜんぶ」

でも、この勝負の本当の敗北を知ったのは室井の方で
そのたった一言に、室井を捕らえる理性や矜持、罪の意識など、消え去った。跡形もなく。
20200527











e11ベッ ドマナー
line
「ん・・っ、んんっ、も、んぅぅ・・っ」

繰り返し塞がれる湿った肉に青島は頑是なく首を打ち振った。
だがその苦情ごと深いキスに呑み込まれていく。
執拗に貪る室井は腕の中に青島の頭部を抱き込み、更に舌を奥深くまで挿し込んできた
。抑え込むまま圧し掛かる男の腕の中で、息苦しさから青島の身体の力が抜けていく。

「嫌がるな・・」

名残惜しむキスを続けながら、生きた熱をもっと感じ取りたくて室井が腰を引き寄せればその腕の中で青島は弛緩した背を反らした。

「い、やがって、なんか・・っ、ぁっ、も・・っ、ちょ・・っ、待っ」

また奥深くまで自分を蹂躙しようとした男の手を留め、青島は荒げた息で室井の口唇に歯を立てる。囁かな抵抗だ。

「こら」
「だ、だって・・・っ、室井さん、いっつもこーやってキスだけで俺んことイかせようとすんじゃん・・っ」
「だから?」
「俺はもっと・・っ、ながーくっ、室井さんとキスしてたいの・・っ」

汗ばんだ肌を擦り合わせ、青島に夢中だった手が弄るのを止めた。

「すまない。そこまでは気が回らなかった」
「おっ、俺だって触りたいし脱がせたいし・・っ、感じたカオみたい・・っ」
 
ほんの少し反らされる視線が男の本能を煽る。
珍しくセックス前に苦情を言ってきた青島に、室井は息一つ吐き、目許を綻ばせながら自分を退かそうとする青島の手を取り、直接自分の勃起した熱塊に添え た。
青島といると、欲情するということの本当の意味を知る。
いつの間にかこんなに惚れ込まされていた。

腰を淫乱に揺らしつつ室井が達かせてくれと囁けば、怯むことなく口唇が合わさった。
20200808










e11勝 負
line
「後悔してる?」
「当たり前だ!一生の不覚だ」

青島が朗らかに笑う。その笑みが嬉しそうでまた腹が立つ。

「最初から俺を罠にかけるつもりだったんだろう!」
「人聞きの悪い」

長い足が会議室の硬い椅子から綺麗に伸びて曲がり青島が優雅に肘を掛けた。

「あの程度のカマかけで引っ掛かるなんてキャリアだいじょーぶ?って言いたいですね」
「君相手じゃなかったらもっとちゃんとしていた!」
「へえ?そんなにイシキしてもらえて」
「罵ったんだッ」

こういう男だとは分かっていたつもりだった。気付けばいつも知らない自分まで曝け出される。
こんな、ひた隠しにしてきた、こんな奥まで見透かされて、こっちはまだその気持ちさえ収集つけられずにいたというのに。
とんだ赤っ恥だ。

「どうするつもりだ」
「どうって?」

まだ幸せそうに笑う青島の隣で、室井は正面を見据えたまま最後の審判を覚悟した。

「い、嫌じゃなかったのか」

返事がないので思わず顔を向けると青島もこちらを見ていた。
――やられた。
睨みつけ、見つめ合うまま、外せなくなった視線と沈黙と青島の瞳の艶に
追い詰められているのにそれを上回る倒錯的な背徳が室井を支配する。
また間違いそうだ。

強面の室井の顔が近づく。
もう勘違いでも構うものか。

「サイアクの相棒だな」
「俺がクズなのは知ってるでしょ・・」
「・・そうでもない・・」

睦言の甘やかさで綴る室井の声に、青島が眉尻を下げる。
室井はじっとその瞳の奥を探り、そして名付けることの出来ない曖昧で烈しい感情の求めるまま、罪の意識を口唇から青島に植え付けた。
20201026








e11白 状
line
Side-M
錆び付いた扉が音を立てて閉じたところで室井は腰で小さくガッツポーズをした。
かなり粘ったつもりだった。卑怯な手口で強引に口を割らせた。警察官の最も得意とするところだ。

「あんたを、」

震えた青島の声を思い出し、室井は扉に背を預けると口許を覆う。
あの青島の怺えた本音に、室井は心の中でジタバタと悶える羽目になる。

「同じ答えを、私も持っていないと思ったか」

確信したからこそ室井は強引に言わせた。
そっと触れた指先も、腕に伝わる震える肩も、本当は幻で今夜だけのような儚さだ。
怖くてこわごわと抱き寄せれば、息を殺した青島の指先が室井の背中にしがみ付いた。

「俺ら、ひでぇ男だ」
「そうだな」

これで、一度だけなんて、本当に割り切れるのだろうか。
ここから始まる愚かな恋をどうか許してくれ。



Side-A
錆び付いた扉が音を立てて閉まったところで、青島はその場に座り込んだ。
信じられない。かなり粘られた。追い込まれて白状させられた。警察官が押し負けてどうすんの。キャリアはやっぱりノンキャリとは違う。

「おまえ――・・」

しまったと思う先で、室井の口も止まった。
確信させてしまったからこそ、突然迫られた顛末に青島の背筋が震える。

「同じ答えを、私も持っていないと思ったか」

くっそ。んなこと分かっていたさ。視線に潜む微熱とか時折見せる柔らかい表情だとか。独り占めしたって意味がないことも。

「もう一度、言え」

一人で抱え込める重さでもなかった。最初で最後、せめて今夜だけと追い込まれた心が咆哮する。

「あんたを、」

思わぬところで聞かせられた、冷静沈着な室井の情熱的な告白に、硬く目を閉ざす。
一度だけだなんて、本当に割り切れるのだろうか。
ここで変わってしまった未来が、それでも、どうかこのひとに幸せが残りますように。
20210124








e11悲 劇
line
回廊の向こう黒スーツの集団で、先陣を切る男に青島は口を引き結んだ。
角で曲がることなく室井も一旦足を止める。
大気を震撼させるような鋭い緊迫に、誰もが口を憚った。

「また知らんぷりですか?」
「指揮は私ではない」
「同じことでしょ」

青島が苛立つのは、出来るか出来ないかじゃなくて、やるかやらないかの方だ。
その時。

「んな顔したって室井、お前、青島にベッタ惚れだろうが!」

何とも場違いな声が徒党から響き、一倉の手がドンと室井の背中を押した。
小突き合いを超えた、勢いに室井が足元を崩し――

「!!!」

想定外の攻撃に前へとつんのめる室井の身体は青島へと倒れ込み、雪崩が起きる。
何とか床に手を付くことで彼を潰すことだけは避けられた。
が、青島と至近距離で睨み合っていた体勢が、悲運を生んだ。
正確には、口唇と口唇がぶつかる悲劇を。

「・・・・・・・・・・・」

誰もが声を失っていた。
衆人環視の中、集団の中央で室井と青島が濃厚に口唇を合わせる。

後ろ手に体勢を保ち、室井を庇おうとした青島が室井の下敷きとなり、室井を口唇で受け止める。
ぼやけた視界に黒々としたよく見知った顔。

何が起きてんの?みなさん見てますけど!?こんな漫画みたいなこと起きる!?
ってかなんでこのひと離れないの?!
一倉さん、なんってことしてくれたんだ!

室井も固まり、目を見開いて青島を見つめ、微動だにしなかった。
周りも誰一人、動けない。
ピリピリとした緊迫感に、誰もが首席官の指示を待った。

次の瞬間少しだけ我に返るのが早かった青島がどんっと室井の胸を押し返す。
その顔は真っ赤に染まる。

「む・・む・・・室井さんのばかものォォっっ」

口元をわなわなと拳で抑え、青島はその場を走り去った。
後に残された室井も眉間を寄せ、口を手で覆う。

「一倉、」
「おっまえ、こんな人前で・・」

室井はしばらくその場を動けなかった。
背後にいたキャリアたちはただ固唾を呑んでいきなりのシーンを見届けてしまった罪悪感に、口を開く者は一人もいなかった。
20220129








e11ほだされる
line
ベッドで額を合わせるようにして眠っている相手を見て室井は一気に目が覚めた。
信じられない思いで室井は口許を抑えた。

「寝顔なんか見てんなよ・・」

寝ていると思った青島が寝返りを打ちながら腕で顔を隠す。
青島も全裸だった。室井は背中や肩に散る朱い華に更に叫びそうになる口を覆う。
俺は野獣か。
どれだけがっついたんだ。
キメの細かな肌に鮮やかに浮かぶ刻印に、昨夜の飛んだ記憶が断片的に、破廉恥に蘇り熱くした。
身も心もだ。
昨晩、青島と寝た。一夜限りだからと、身体を暴いた。

「帰ります・・」

ベッドから抜け出る彼の腕を慌てて引き留めた。

「シャワーくらい使え。服は洗濯した。珈琲も淹れる」
「官僚にそんなことさせられっかよ」
「このまま君を帰すなんてのもできない」

青島は振り向かない。

「あんた、きのー、俺に何したって」
「君が好きなんだ」

被せるように言うと青島が息を呑んだ。

「散々聞きました」

貫いた躰は灼けるようで、串刺しにしたまま、浮かされた言葉を何度も繰り返した。
夢中で貪っていた室井に、青島は潤んだ瞳で見上げるだけだった。

「ずっと君に惹かれていた」
「それも、聞いたよ。でも」
「君のことが頭から離れない」

畳みかけるように被せれば、焦りを帯びる声に青島も押し黙る。
振り向きもせず髪を妖艶に掻き揚げる青島の指先が力なく落ちた。

「一度だけって話だろ」
「終わりになんて出来ない」

室井に見透かされていることを感じ取る青島が小さく息を吐いた。
怒っているわけではなさそうだった。なら引き下がらない。
一夜限りの自己満足だが、弾み程度の覚悟で抱いたわけでもない。
触れて知った想いに震えたのはこっちの方だ。
言うつもりもなかったのか。言わせなかったのは。

「傍にいてほしい」
「こうやって絆されちゃうんだよなぁ、俺も」

ふるりと肩を震わせた青島が、今、ゆっくりと振り返る。
20230126





index

2019/04/20~2023/1/26